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カルテNo.1 約四百歳、女性、エルフ、金髪。全身擦過傷、栄養失調
⑥
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「そうか」
その言葉だけで、なにやら悟ったような顔をしている二人を後目に、奈緒は事態に追いつけていない。首を傾げながら悠馬へと問いかける。
「え? 人種って、そんな。エルフって言ってもゲームとかアニメの話でしょ? 耳はたしかにとがってるけど……」
「奈緒。説明は後でな。とりあえずこっちが先だ」
奈緒にぎこちなく微笑んだ悠馬はすぐさまエルフと名乗った女へと身体を向ける。
そして大きく息を吸う。
「君はエルフって言ったね。それは間違いない?」
「……見ればわかるじゃろう?」
「そう。見ればわかるんだ。あっちの世界の人にはね」
「あっちの世界……?」
悠馬の言葉にひっかかりを覚えたのか、エルフは言葉をオウム返ししてしまう。
それもそのはず。あっちだのこっちだの、世界に色々あったのでは困るのだ。そんなにたくさんの世界があるだなんて、それこそ、こっちの世界でもあっちの世界でもあり得ない話なのだから。
だが、悠馬は続けた。さも当然であるかのように。
「結論から先に言わせてもらう。ここは君が住んでいた世界とは別の世界だよ。魔法もないしモンスターだっていない。あっちの世界と比べて科学が非常に発展していて、なによりエルフはいないんだ。この世界には」
「なっ――」
その言葉に驚愕したのはエルフと奈緒。リファエルは鎮痛な面持ちで悠馬の後ろに控えている。
「だから、エルフである君がここにいるという事実は、正直驚くべきことなんだよ。この上なく」
真顔でそう告げる悠馬の顔を見ながら、目を見開くエルフ。だが、すぐに首を振り力強い目つきで悠馬を睨みつけた。
「そんなはずないであろう!? なんじゃ、別の世界とは! そんなものがあるわけなかろう! エルフがいないといったが現に我はここにおる! それに、魔法がないといったな。それならば、なぜお主達には魔力があるのじゃ? お前らの魔力は尋常ではない。我よりも強い魔力を持つものなど世の中にそれほどいるはずがない。それとも何か? 魔法がないこの世界ではそれが常識だとでもいうのか?」
「それは……」
どこか気まずそうに視線を外すリファエル。そんなリファエルを庇うように、悠馬はエルフの質問に応える。
「いや。俺やリファエルは特別だ。だから、君はここに来た。違うかい?」
「それはそうじゃが――」
「見る限り、体の傷は深くはない……けれど、身体中傷だらけで縛られた跡まである。見るからに何かあったのはわかるんだけど……」
そう言いながら、悠馬は立ち上がりエルフへと近づく。そんな悠馬の行動に、びくりと体をこわばらせるエルフ。目の前の怯える女性に微笑みかけながら、悠馬は優しく語りかけた。
「大丈夫。とりあえず治療といこうか」
そういうと、悠馬はエルフへ右手のひらを向け大きく息を吸った。そして、ぐっと歯を食いしばると意識を体の中に集中させた。
唐突に悠馬の体内に熱が帯びる。それは、意識を集中させた右手へと収束していき、やがて光となって現れた。
その光は眩しくも穏やかで、しかし決して電球や蛍光灯では表せない光。そんな現実感のない輝きが、診察室を包み込んだ。
悠馬がだれかを救うために、ひたすらに行使しつつづけた力。それは確かに形となって、この世界で生まれていく。優しい光に照らされたエルフの身体からは傷がゆっくりと消えていった。
これが自分の真骨頂だと言わんばかりに、悠馬は微笑みを崩さない。凡庸な医療だけでない力が自分にはあるのだと、そう示すかのように。
「お主……」
「ちょっと訂正だな……。魔法はないなんていったが、俺は三級の治癒魔法師なんだ。だから魔法も使えるし、治癒魔法師だから君の傷を癒すこともできる。俺達の説明は後にするとして……とりあえず、これで身体のほうは大丈夫か?」
「ああ……」
「ならよかった。ここには君を傷つけるものは誰もいない。だから安心してほしい……もしよければだけど、事情を聞いてもいいかな?」
そんな悠馬の問いかけに、エルフはゆっくりと頷いた。
その言葉だけで、なにやら悟ったような顔をしている二人を後目に、奈緒は事態に追いつけていない。首を傾げながら悠馬へと問いかける。
「え? 人種って、そんな。エルフって言ってもゲームとかアニメの話でしょ? 耳はたしかにとがってるけど……」
「奈緒。説明は後でな。とりあえずこっちが先だ」
奈緒にぎこちなく微笑んだ悠馬はすぐさまエルフと名乗った女へと身体を向ける。
そして大きく息を吸う。
「君はエルフって言ったね。それは間違いない?」
「……見ればわかるじゃろう?」
「そう。見ればわかるんだ。あっちの世界の人にはね」
「あっちの世界……?」
悠馬の言葉にひっかかりを覚えたのか、エルフは言葉をオウム返ししてしまう。
それもそのはず。あっちだのこっちだの、世界に色々あったのでは困るのだ。そんなにたくさんの世界があるだなんて、それこそ、こっちの世界でもあっちの世界でもあり得ない話なのだから。
だが、悠馬は続けた。さも当然であるかのように。
「結論から先に言わせてもらう。ここは君が住んでいた世界とは別の世界だよ。魔法もないしモンスターだっていない。あっちの世界と比べて科学が非常に発展していて、なによりエルフはいないんだ。この世界には」
「なっ――」
その言葉に驚愕したのはエルフと奈緒。リファエルは鎮痛な面持ちで悠馬の後ろに控えている。
「だから、エルフである君がここにいるという事実は、正直驚くべきことなんだよ。この上なく」
真顔でそう告げる悠馬の顔を見ながら、目を見開くエルフ。だが、すぐに首を振り力強い目つきで悠馬を睨みつけた。
「そんなはずないであろう!? なんじゃ、別の世界とは! そんなものがあるわけなかろう! エルフがいないといったが現に我はここにおる! それに、魔法がないといったな。それならば、なぜお主達には魔力があるのじゃ? お前らの魔力は尋常ではない。我よりも強い魔力を持つものなど世の中にそれほどいるはずがない。それとも何か? 魔法がないこの世界ではそれが常識だとでもいうのか?」
「それは……」
どこか気まずそうに視線を外すリファエル。そんなリファエルを庇うように、悠馬はエルフの質問に応える。
「いや。俺やリファエルは特別だ。だから、君はここに来た。違うかい?」
「それはそうじゃが――」
「見る限り、体の傷は深くはない……けれど、身体中傷だらけで縛られた跡まである。見るからに何かあったのはわかるんだけど……」
そう言いながら、悠馬は立ち上がりエルフへと近づく。そんな悠馬の行動に、びくりと体をこわばらせるエルフ。目の前の怯える女性に微笑みかけながら、悠馬は優しく語りかけた。
「大丈夫。とりあえず治療といこうか」
そういうと、悠馬はエルフへ右手のひらを向け大きく息を吸った。そして、ぐっと歯を食いしばると意識を体の中に集中させた。
唐突に悠馬の体内に熱が帯びる。それは、意識を集中させた右手へと収束していき、やがて光となって現れた。
その光は眩しくも穏やかで、しかし決して電球や蛍光灯では表せない光。そんな現実感のない輝きが、診察室を包み込んだ。
悠馬がだれかを救うために、ひたすらに行使しつつづけた力。それは確かに形となって、この世界で生まれていく。優しい光に照らされたエルフの身体からは傷がゆっくりと消えていった。
これが自分の真骨頂だと言わんばかりに、悠馬は微笑みを崩さない。凡庸な医療だけでない力が自分にはあるのだと、そう示すかのように。
「お主……」
「ちょっと訂正だな……。魔法はないなんていったが、俺は三級の治癒魔法師なんだ。だから魔法も使えるし、治癒魔法師だから君の傷を癒すこともできる。俺達の説明は後にするとして……とりあえず、これで身体のほうは大丈夫か?」
「ああ……」
「ならよかった。ここには君を傷つけるものは誰もいない。だから安心してほしい……もしよければだけど、事情を聞いてもいいかな?」
そんな悠馬の問いかけに、エルフはゆっくりと頷いた。
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