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第三章 王都攻防編

王都コンテスト④

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 三日目。

 この日は最も盛り上がるだろうとカトリーナは予測していた。
 冒険者による武闘大会が行われるこの日。街の熱気は最高潮に盛り上がっていた。
 数千人が入る観客席の中央には、石造りの四角いステージのようなものがある。司会の男は闘技場と呼んでいた。

 カトリーナ達は、関係者席と呼んでいる広いが後ろのほうにある場所で予選の様子を眺めていた。
 一緒にいる面々は、ダシャ、プリ―ニオ、リリ、ララ、そしてカトリーナの両親と婆や、エリアナだ。ヘルムートは仕事があるためきっと今もスラムの本部にいるのだろう。
 ダシャらは使用人というくくりのため座ってみているわけではないが、カトリーナ達の横に立ちながら穏やかに試合を眺めている。
 婆やは年のせいもありお客様扱いにさせてもらっていた。

「お父様、お母様。ひさしぶり! 婆やも元気そうでなによりね!」
「全く……。バルト殿を助けに行くと言ってから手紙ばかりで一向に顔をみせないのだから。心配させる天才だよ、お前は」
「本当に。あなたも元気でやっているようね……でも、ちょっとばかり元気すぎじゃないかしら? 王都コンテストとか……すごい発想よね」

 両親は苦笑いを浮かべながら武闘大会の会場を眺めていた。
 婆やはニコニコと笑顔を浮かべてカトリーナを眺めている。

「私までよかったんですかね。こんな立派な席に座らせてもらっちゃって」
「いいのよ! 婆やは、使用人っていうよりずっと一緒に過ごしてきた家族みたいなものだから」
「ふふふ。公爵夫人様は立派なことをおっしゃるねぇ」
「まあ、今日は楽しんでいってね? 食べ物も後でたくさん届くはずだからね!」

 カトリーナ達からやや離れたところには、エリアナが座っている。
 彼女は、じっと会場を眺めていた。
 そんな彼女にカトリーナはそっと声をかける。

「エリアナ様。ご無沙汰しております」
「そうね。本当に久しぶりですね。王都に移ってからどうなることかと思いましたが、どうにかなったようでなによりです」
「どうにか……ですか?」
「ええ。あのままではラフォン家への信頼は失墜していたでしょう。バルトもカトリーナもあなた達なりに現状を変えようと努力していたのですね。その結果がどうなるかは、まだわかりませんが」

 表情を微塵も変えないまま告げるエリアナに、おもわず顔を引きつらせてしまう。

「そ、それは当然です。公爵夫人として、王都の穏健派をまとめようとしているのですよ」
「うまくいきそうでよかったわ。ドラもあなたのことが気に入ったようだし」
「ドラ様をご存じなのですか?」
「幼いころからの付き合いですから。最近は、私が王都から離れてしまったため疎遠ですが……これを機会に顔を出してみるのもいいかもしれません」
「まぁ! 幼馴染ですね! きっとドラ様も喜びますよ!」
「そうね」

 こちらも和やかに雑談を交わす。
 公爵家の親戚ということで、最初は両親もぎこちなかったが、少しずつ会話を重ねるにつれて打ち解けてきたようだ。
 特に母とエリアナは経済などについての話が合うようで、互いに議論を重ねていた。

 そうこうしていると、そろそろ昼食の時間である。
 試合も予選が終わり、午後には本戦が始まる。会場では、司会の男が本戦開始の時間を告げると、皆が座っている席からわらわらと動き始めるのが見えた。
 カトリーナのもとには、主催者の検食という体でたくさんの料理が運ばれ始めているところだった。

「じゃあ、ダシャ。お父様達に料理を配ってくれる? 私はエリアナ様に渡してくるから」

 カトリーナがそう言って運ばれてきた一皿を持って立ち上がる。
 その時。

 唐突に地面がぐらついた。
 あわや、皿の上の料理を落としそうになるくらい。

「きゃっ――」

 同時に、何かが壊れる騒音が聞こえてくる。
 その音の方向――闘技場のほうをみると、そこにはおよそ想像の範囲には収まらないくらいの大きな魔獣がたたずんでいた。
 魔獣とは魔力を持った獣であり、そうそう人間が住んでいる近くには現れるものではない。
 だが、それが今、王都に現れたのだ。

 あまりの出来事にカトリーナの血の気は引いていく。

「な、なにが……」

 さすがのカトリーナも咄嗟には対応できない。
 すると、その大きな魔獣が石で作られた舞台を叩き壊す。
 その破片は方々に散っていくが、そのうちの一部がカトリーナ達のところに飛んできた。

「カトリーナ様!」
「危ない――」

 カトリーナの視界は、闘技場の破片で埋め尽くされていた。
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