上 下
54 / 102
第三章 王都攻防編

公爵領脱出計画④

しおりを挟む
「しかし、よくわかりましたね。まさか、あの業者が利益を水増ししていたとは」
「たまたまよ。ちょっと勉強してたら、やけに高いなって思っただけだから」
 
 プリーニオは感心した様子でカトリーナをほめちぎっていた。
 対するカトリーナはさも当然のように澄ましていた。

「王都に住んでいたころは、王都中のほとんどの紹介の商品の値段を控えていたからね。お金がなかったから、一番安いお店で買いたかったのよ」
「す、すべてのお店ですか?」

 となりに立っていたダシャは、カトリーナの発言に驚いた。
 そんなダシャを後目に、カトリーナは言葉を重ねていく。

「それと同じで、近くの街も調べてもらったの。あ、村の人にね。それでこの街にある登録されている商店のほとんどを知ることができたわ、庶民向けと貴族向けの店があったけどそのすべての商品の値段と比較しても、こちらの商品の値段とは釣り合わなかったから」

 そう言ってにこりと笑みを浮かべるカトリーナは、どこか楽しげであった。

 その後、すぐにプリ―ニオが呼ばれ事態の収拾に動いた。
 調べると、商品を納めていた商家と使用人の一人がぐるになって相場以上の値段で毎日食料を仕入れていたことが分かったのだ。
 早々に商家を入れ替え、そして使用人をやめさせた。
 カトリーナはそのことの顛末を聞いてにやりと笑みを浮かべた。

「それはよかったわ。これで、適正な値段で仕入れができるわね」
「はい。これもカトリーナ様のお陰でございます。……ですが、いつ気が付いたので? 元々あの二人を糾弾するおつもりだったのですか?」

 夕食の席でカトリーナに問いかけるプリ―ニオ。
 その問いかけに、彼女は微笑みで応える。

「そんなわけないじゃない。偶然よ、偶然」
「しかし、街全部の食材を調べていたとは……」
「それは癖みたいなものね。王都の店は住んでいた時から調べていたけど、こっちはまだだったから。それも、村の人に聞いて回ったらすぐ情報が集まったわよ? お金がない人は芋一つにも神経を張り巡らせるものだもの。……私みたいにね」

 そういいながら夕食に手を付けるカトリーナの姿はどこからどうみても貴族令嬢だ。
 外見と中身のギャップに、プリ―ニオもダシャも目を瞬かせた。
 だが、カトリーナからすればこれは当然のことだったのだ。
 前世でも、チラシ一つ一つに目を配り、近隣のスーパーの最安値を把握していた彼女にとって、このくらい造作もないことだった。

「さて。あともうちょっとかな?」

 そんな意味深なセリフを残しながら、カトリーナは食事に舌鼓を打つのだった。

 ◆

 数日後。
 カトリーナは日課になっていた畑仕事を終えると、その足でダシャに声をかける。

「ねぇ、ダシャ」
「はい。カトリーナ様」
「今日はちょっと山のほうにピクニックに行きたいのだけれど大丈夫かしら?」
「ええ。近くに綺麗な沢がありますから、そこでよければですが……」
「いいわね! そしたらできるだけ人手を連れていきましょう? それと、いつも畑を世話してくれている村の人も何人か連れていきたいなぁ。楽しみだわ」

 カトリーナの奇行にすっかり慣れてきたダシャは、当然のようにピクニックの支度を整えた。これくらいであれば、畑に不可思議な恰好で出て行ったり、いつのまにか悪徳商人を糾弾していたことに比べれば普通のこと。ようやく、普通のメイドらしい主人の世話ができると思い、すこしだけダシャは嬉しかった。

(でも、人手を集めるってどういうことだろ?)

 そんなことを考えながらダシャは手を動かしていく。
 そうして訪れた先。人手を集めて沢に行ったところ。想像と違う光景がそこにはあった。

「そうね! その草は薬にもなるから。たくさん集めていいわよ! あ、注意してほしいのは取りつくさないこと。群生地を覚えておけばまた取りにこれるから」
「カトリーナ様! こちらは?」
「それはダメ。神経毒があるから」
「それなら、この怪しげな色の葉は?」
「あ! シソもあったのね! そしたら、それは公爵家の畑に植え替えて育てましょう! とにかくたくさんの量をつくるの!」

 いきなり始まったのは散策という名の収穫だった。
 いくつかの植物を集めさせ、そして土を掘り起こさせ食材を集めさせている。

「な、なな、何をやりはじめてるんですか、カトリーナ様!」
「え? あ、ダシャの足元の草もそれ食べれるわよ」
「そんなの知りません! 食べ物に困っているわけじゃないのに、どうしていきなりこんなものを!」
「え? どうしてって、それはお金を稼ぐためよ。それ以外にないじゃない」

 公爵夫人であるカトリーナのわけのわからない言葉に、ダシャの思考はショート寸前だ。
 思わず頭を抱え、大きく大きく息を吐く。

「お金なんて稼ぐ必要ないでしょう?」
「それがあるのよ。それもこれも、私とバルト様のためなんだから」

 そういって、カトリーナはどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。 
しおりを挟む
感想 121

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

うたた寝している間に運命が変わりました。

gacchi
恋愛
優柔不断な第三王子フレディ様の婚約者として、幼いころから色々と苦労してきたけど、最近はもう呆れてしまって放置気味。そんな中、お義姉様がフレディ様の子を身ごもった?私との婚約は解消?私は学園を卒業したら修道院へ入れられることに。…だったはずなのに、カフェテリアでうたた寝していたら、私の運命は変わってしまったようです。

子ども扱いしないでください! 幼女化しちゃった完璧淑女は、騎士団長に甘やかされる

佐崎咲
恋愛
旧題:完璧すぎる君は一人でも生きていけると婚約破棄されたけど、騎士団長が即日プロポーズに来た上に甘やかしてきます 「君は完璧だ。一人でも生きていける。でも、彼女には私が必要なんだ」 なんだか聞いたことのある台詞だけれど、まさか現実で、しかも貴族社会に生きる人間からそれを聞くことになるとは思ってもいなかった。 彼の言う通り、私ロゼ=リンゼンハイムは『完璧な淑女』などと称されているけれど、それは努力のたまものであって、本質ではない。 私は幼い時に我儘な姉に追い出され、開き直って自然溢れる領地でそれはもうのびのびと、野を駆け山を駆け回っていたのだから。 それが、今度は跡継ぎ教育に嫌気がさした姉が自称病弱設定を作り出し、代わりに私がこの家を継ぐことになったから、王都に移って血反吐を吐くような努力を重ねたのだ。 そして今度は腐れ縁ともいうべき幼馴染みの友人に婚約者を横取りされたわけだけれど、それはまあ別にどうぞ差し上げますよというところなのだが。 ただ。 婚約破棄を告げられたばかりの私をその日訪ねた人が、もう一人いた。 切れ長の紺色の瞳に、長い金髪を一つに束ね、男女問わず目をひく美しい彼は、『微笑みの貴公子』と呼ばれる第二騎士団長のユアン=クラディス様。 彼はいつもとは違う、改まった口調で言った。 「どうか、私と結婚してください」 「お返事は急ぎません。先程リンゼンハイム伯爵には手紙を出させていただきました。許可が得られましたらまた改めさせていただきますが、まずはロゼ嬢に私の気持ちを知っておいていただきたかったのです」 私の戸惑いたるや、婚約破棄を告げられた時の比ではなかった。 彼のことはよく知っている。 彼もまた、私のことをよく知っている。 でも彼は『それ』が私だとは知らない。 まったくの別人に見えているはずなのだから。 なのに、何故私にプロポーズを? しかもやたらと甘やかそうとしてくるんですけど。 どういうこと? ============ 番外編は思いついたら追加していく予定です。 <レジーナ公式サイト番外編> 「番外編 相変わらずな日常」 レジーナ公式サイトにてアンケートに答えていただくと、書き下ろしweb番外編をお読みいただけます。 いつも攻め込まれてばかりのロゼが居眠り中のユアンを見つけ、この機会に……という話です。   ※転載・複写はお断りいたします。

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。