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第一章 死神と呼ばれた男
襲来⑪
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カレラは、門の上から飛び降りるルクスをみて絶句した。
ルクスは魔物を殺しつくすといった。そして、強引にカレラを連れて、戦地に立つこととなる。だが、あれだけの大見得を切ったのだから何らかの策があるだろうとも思っていた。しかし、現実は、何の策もない特攻。たかだか一人の人間が、これだけの数の魔物を相手取るなど不可能だ。
カレラは、大声でルクスの名を呼びながら、一緒にいたいと生まれて初めて言ってくれた少年の未来を想像して胸を痛めた。
だが、実際はどうだ。
瞬く間に倒れていく魔物達。ルクスが腕を振るうと、真っ二つになって崩れ落ちる魔物達。
あっという間に尋常ではない数の魔物が殺されていく様をみて、カレラは茫然としていた。それは、周囲の面々も同様だ。わけもわからず、ルクスの蛮勇を見つめている。
そうしてどれくらいたっただろうか。
あれだけ街に迫っていた魔物が、ルクスを囲んで距離をとったかと思うと、騎士団が参入して今では防衛側である人間たちが優勢だ。生き残った魔物は、様子を窺っていたり騎士団に向かっていき命を散らしたり、逃げ出したりしている。奇跡のような所業を成し遂げたルクスを遠目で見ながら、カレラは胸の鼓動のうるささに耳を塞ぎたくなるほどだった。
自分のために魔物の群れに立ち向かったルクス。
一緒にいてくれるとほほ笑んでくれたルクス。
そんなルクスのことを考えるたびに、カレラの胸は締め付けられるように痛んだ。だが、その痛みは不快なものではない。とても暖かく抱きしめたくなるようなその痛みを、カレラはルクスの立ち姿に感じていたのだ。
そんなルクスは、魔物の真ん中で立ちすくんでいた。どこか一仕事を終えたような、そんな気軽さで。
その姿を見たカレラは、なぜだかおかしくなり笑みを零していた。自分の命を犠牲にしなければならなかったはずなのに。それなのに、ルクスは何もなかったかのように立っている。
危機は去ったのだ。
そう感じさせてくれるその姿の後ろに、カレラは信じられないものを見つけてしまった。
赤い獅子。蝙蝠、サソリ。そのすべてを内包した凶悪な魔物がルクスに迫っていたのだ。カレラは思わず叫ぶ。だが、その声が届く距離にはルクスはいない。カレラはその身を投げ出し外にでると、倒れるルクスを見ながら走っていた。
間もなく、ルクスは魔物の尾に突き刺されることになる。倒れるルクスだが、そこまでの距離は遠い。
その後も何度もルクスとマンティコアはぶつかりあったが、ルクスがかろうじてその攻撃を避けているのがわかる。表情は歪み、体の動きも違和感があった。もしかしたら、マンティコアは毒をもっているのかもしれない。満身創痍のルクスが体勢を崩して短剣を構えてるところに、マンティコアが悠然と迫っていくのが見える。
それはまるで花を摘み取るかのように軽く。
子どもの遊びのように無邪気に。
まるで当然のように命に食らいつく、
「ルクスぅーーーー!」
ようやく近くまで来ることができたカレラは、叫びながら魔法を行使した。
神聖魔法のすべてを使えるカレラ。
そんなカレラだったが、今のルクスに必要な魔法が咄嗟に思い浮かばなかった。
傷ついた体を治療してあげたい。だが、治癒魔法も自分の体から直接発動させるしかない。未だ、ルクスに手は届かず、ましてや、その効果はが出るには残された時間は短すぎた。
守護魔法を使い、障壁を張ることも考えたが、自分が守れる範囲にルクスはまだいなかった。
破邪魔法で撃退できる可能性もあるが、これだけ強力な魔物を確実に迎撃できる魔法は、神聖魔法には存在しなかった。
カレラは瞬時に絶望を感じたが、その中で一筋の光りを見つけたのだ。
それは、決して使われないはずだった魔法。すべての魔法を伝授されたカレラでさえ、使ったことのない魔法だ。
カレラはその魔法を使うことを迷わなかった。ただ一人、手を差し伸べてくれた人を助けたい。そんな強い想いが、カレラにその一歩を踏み出させる
カレラが叫んだのと同時に、ルクスの体が光輝く。
直接触れなければ魔法は発動しない。しかし、その魔法は、そんな距離の問題など容易く乗り越えていた。
ルクスは魔物を殺しつくすといった。そして、強引にカレラを連れて、戦地に立つこととなる。だが、あれだけの大見得を切ったのだから何らかの策があるだろうとも思っていた。しかし、現実は、何の策もない特攻。たかだか一人の人間が、これだけの数の魔物を相手取るなど不可能だ。
カレラは、大声でルクスの名を呼びながら、一緒にいたいと生まれて初めて言ってくれた少年の未来を想像して胸を痛めた。
だが、実際はどうだ。
瞬く間に倒れていく魔物達。ルクスが腕を振るうと、真っ二つになって崩れ落ちる魔物達。
あっという間に尋常ではない数の魔物が殺されていく様をみて、カレラは茫然としていた。それは、周囲の面々も同様だ。わけもわからず、ルクスの蛮勇を見つめている。
そうしてどれくらいたっただろうか。
あれだけ街に迫っていた魔物が、ルクスを囲んで距離をとったかと思うと、騎士団が参入して今では防衛側である人間たちが優勢だ。生き残った魔物は、様子を窺っていたり騎士団に向かっていき命を散らしたり、逃げ出したりしている。奇跡のような所業を成し遂げたルクスを遠目で見ながら、カレラは胸の鼓動のうるささに耳を塞ぎたくなるほどだった。
自分のために魔物の群れに立ち向かったルクス。
一緒にいてくれるとほほ笑んでくれたルクス。
そんなルクスのことを考えるたびに、カレラの胸は締め付けられるように痛んだ。だが、その痛みは不快なものではない。とても暖かく抱きしめたくなるようなその痛みを、カレラはルクスの立ち姿に感じていたのだ。
そんなルクスは、魔物の真ん中で立ちすくんでいた。どこか一仕事を終えたような、そんな気軽さで。
その姿を見たカレラは、なぜだかおかしくなり笑みを零していた。自分の命を犠牲にしなければならなかったはずなのに。それなのに、ルクスは何もなかったかのように立っている。
危機は去ったのだ。
そう感じさせてくれるその姿の後ろに、カレラは信じられないものを見つけてしまった。
赤い獅子。蝙蝠、サソリ。そのすべてを内包した凶悪な魔物がルクスに迫っていたのだ。カレラは思わず叫ぶ。だが、その声が届く距離にはルクスはいない。カレラはその身を投げ出し外にでると、倒れるルクスを見ながら走っていた。
間もなく、ルクスは魔物の尾に突き刺されることになる。倒れるルクスだが、そこまでの距離は遠い。
その後も何度もルクスとマンティコアはぶつかりあったが、ルクスがかろうじてその攻撃を避けているのがわかる。表情は歪み、体の動きも違和感があった。もしかしたら、マンティコアは毒をもっているのかもしれない。満身創痍のルクスが体勢を崩して短剣を構えてるところに、マンティコアが悠然と迫っていくのが見える。
それはまるで花を摘み取るかのように軽く。
子どもの遊びのように無邪気に。
まるで当然のように命に食らいつく、
「ルクスぅーーーー!」
ようやく近くまで来ることができたカレラは、叫びながら魔法を行使した。
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そんなカレラだったが、今のルクスに必要な魔法が咄嗟に思い浮かばなかった。
傷ついた体を治療してあげたい。だが、治癒魔法も自分の体から直接発動させるしかない。未だ、ルクスに手は届かず、ましてや、その効果はが出るには残された時間は短すぎた。
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破邪魔法で撃退できる可能性もあるが、これだけ強力な魔物を確実に迎撃できる魔法は、神聖魔法には存在しなかった。
カレラは瞬時に絶望を感じたが、その中で一筋の光りを見つけたのだ。
それは、決して使われないはずだった魔法。すべての魔法を伝授されたカレラでさえ、使ったことのない魔法だ。
カレラはその魔法を使うことを迷わなかった。ただ一人、手を差し伸べてくれた人を助けたい。そんな強い想いが、カレラにその一歩を踏み出させる
カレラが叫んだのと同時に、ルクスの体が光輝く。
直接触れなければ魔法は発動しない。しかし、その魔法は、そんな距離の問題など容易く乗り越えていた。
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