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第一章 死神と呼ばれた男
日常からの離脱③
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アルミンとも語った通り、ルクスは冒険者になろうとしていた。その理由は、自分の魔法適正を知って手のひらを返した面々を見返したかったからだ。いつか、自分の力で成り上がりたい。そんな夢をもっていたが、いとも簡単に崩れ去ったのだ。
ルクスの魔法適正はD。
これは、五段階でいう下から二番目である。そもそも魔法適正とは、一度に放出できる魔力量をもとにランク分けされており、上に行くほど大きな魔法が使える。一番下のEは生活魔法と呼ばれており、使える人間の数は多かった。コップに水を灌いだり、火種を生み出したりと便利なのだが、それ以上の使い道はない。冒険者の中でほとんどを占めるCランクは、殺傷能力のある魔法が使えるものとして認識されていた。人間相手に使えば、簡単にその命を奪える程度の魔法。それが、Cという適正だ。
ルクスのもつDという適正は、生活魔法よりも強く、冒険者になるにはいささか心もとない、といったものだった。
加えて水属性というのがまずかった。
いくら魔力を加えても、生み出せるのは水だけ。おおよそ、飲み水の確保くらいで戦闘には使えない属性として認識されていたのだ。
戦闘に使えるほど込められる魔力は多くなく、鍛えたとしても殺傷能力が乏しい魔法。それがルクスの授かった才能だった。
「よし! もう一年も前のことだからな。気にしても無駄無駄! さっさと練習を終えて街に戻るか」
勢いよく起き上がったルクスだったが、ふとした拍子に昨日の稼ぎを思い出す。というのも、混じっていた木の実を昨日食べることを忘れていたのだ。
「そういえば……ちょうど練習して腹が減ってたんだよな」
そうつぶやきながら、上着のポケットから木の実を取り出した。
見たこともない、異様な木の実。それでも、すぐさま食べないという選択肢を選ぶほど、ルクスは金に余裕もなかった。食べられるものならと、この機会を逃さないように口に放り込もうとするも、もしかしたら毒かも、という懸念も湧き上がってきてその手を止める。
口元にもってきては離すということを何度もやっていたその時――。
突然、目の前の茂みから人が飛び出てきた。
「んなあぁ!」
当然、避けられるわけもなく、ルクスはぶつかり、そしてそれに押されるようにして木の実は口の中に転がっていった。
甘味と苦みと酸味と塩味を同時に感じ、何とも言えない表情を浮かべたルクスだったが、もはや、飲み込む以外には選択肢がないほど喉の奥へと転がっていく木の実。どうせならと、勢いよくごくんと飲み込んだ。
「あー! つい飲み込んじまったじゃないか! どうしてくれんだよ! おい!」
ルクスと絡まるように倒れていた、茂みから出てきた人。
その人にルクスが文句を言っていると、ようやくその人はむくりと体を起こした。そして、その人をみてルクスは絶句する。
目の前の人。
それは、一言でいうのなら異質だ。獣や魔物があふれる森に相応しくない存在――美しい少女がそこにはいたのだ。
真っ白い肌と水色の髪。どちらも日の光にきらめき眩しくすらある。それよりもさらに輝くのは、二つある瞳だ。サファイアと見紛うほどの透き通る青。そこから漏れでる美しさはこの世のものとは思えず、ルクスは思わず見とれてしまっていた。それほどの素材からできている少女は当然のことながら美しく、立っているだけで高貴さがにじみ出てくるような、そんな存在だった。ルクスよりも幾分年下に見えるのだが、それが美しさを邪魔するようなことは決してなかった。
その瞬間、ルクスの中の時間は止まる。
視界にはその少女しか映らずに、全体がキラキラと輝いていた。
胸の鼓動が早鐘のように鳴り響き、その音しか聞こえない。
思考のすべては目の前の少女に集中し、それ以外のことを考えられなくなっていた。
全身を締め付けられるような感覚が襲い、思わず胸元を抑えてしまっていた。
そんな初めての感覚に動揺していたルクスだったが、これが何か、まだルクスの中で答えはでない。永遠とも思える瞬間を通り過ぎたルクスは、感じたことのない多幸感に襲われていた。
ルクスをそんなにさせた美しい少女だったが、その表情はすぐさま険しくなりルクスへと迫ってきた。急に近づいてくる少女に動揺が隠せない。その動揺を隠すかのようにルクスは顔を背けて口を開いた。
「お、おいおい! お前がぶつかってきたんだからな!? そんな顔したって別に俺は――」
「逃げて」
自分に非はないと弁明しようとしていたルクスは、自分の耳に飛び込んできた言葉の意味を咄嗟に理解できなかった。
「は?」
「早く逃げて」
必死の形相でルクスに告げる少女。だが、彼女が現れた茂みがガサリと鳴ると、すさまじい勢いで振り向いた。
「もう来たの……?」
未だに少女と重なっているルクスだったが、その様子をみて同じように茂みに視線を向ける。すると、そこには、いつの間にか五人の仮面の男たちが立っていた。皆、黒ずくめで見るからに怪しい恰好だ。
「なんだよ、これ」
その呟きに応えるものはなく、ルクスは目まぐるしく変わる状況に、ただただ混乱することしかできなかった。
ルクスの魔法適正はD。
これは、五段階でいう下から二番目である。そもそも魔法適正とは、一度に放出できる魔力量をもとにランク分けされており、上に行くほど大きな魔法が使える。一番下のEは生活魔法と呼ばれており、使える人間の数は多かった。コップに水を灌いだり、火種を生み出したりと便利なのだが、それ以上の使い道はない。冒険者の中でほとんどを占めるCランクは、殺傷能力のある魔法が使えるものとして認識されていた。人間相手に使えば、簡単にその命を奪える程度の魔法。それが、Cという適正だ。
ルクスのもつDという適正は、生活魔法よりも強く、冒険者になるにはいささか心もとない、といったものだった。
加えて水属性というのがまずかった。
いくら魔力を加えても、生み出せるのは水だけ。おおよそ、飲み水の確保くらいで戦闘には使えない属性として認識されていたのだ。
戦闘に使えるほど込められる魔力は多くなく、鍛えたとしても殺傷能力が乏しい魔法。それがルクスの授かった才能だった。
「よし! もう一年も前のことだからな。気にしても無駄無駄! さっさと練習を終えて街に戻るか」
勢いよく起き上がったルクスだったが、ふとした拍子に昨日の稼ぎを思い出す。というのも、混じっていた木の実を昨日食べることを忘れていたのだ。
「そういえば……ちょうど練習して腹が減ってたんだよな」
そうつぶやきながら、上着のポケットから木の実を取り出した。
見たこともない、異様な木の実。それでも、すぐさま食べないという選択肢を選ぶほど、ルクスは金に余裕もなかった。食べられるものならと、この機会を逃さないように口に放り込もうとするも、もしかしたら毒かも、という懸念も湧き上がってきてその手を止める。
口元にもってきては離すということを何度もやっていたその時――。
突然、目の前の茂みから人が飛び出てきた。
「んなあぁ!」
当然、避けられるわけもなく、ルクスはぶつかり、そしてそれに押されるようにして木の実は口の中に転がっていった。
甘味と苦みと酸味と塩味を同時に感じ、何とも言えない表情を浮かべたルクスだったが、もはや、飲み込む以外には選択肢がないほど喉の奥へと転がっていく木の実。どうせならと、勢いよくごくんと飲み込んだ。
「あー! つい飲み込んじまったじゃないか! どうしてくれんだよ! おい!」
ルクスと絡まるように倒れていた、茂みから出てきた人。
その人にルクスが文句を言っていると、ようやくその人はむくりと体を起こした。そして、その人をみてルクスは絶句する。
目の前の人。
それは、一言でいうのなら異質だ。獣や魔物があふれる森に相応しくない存在――美しい少女がそこにはいたのだ。
真っ白い肌と水色の髪。どちらも日の光にきらめき眩しくすらある。それよりもさらに輝くのは、二つある瞳だ。サファイアと見紛うほどの透き通る青。そこから漏れでる美しさはこの世のものとは思えず、ルクスは思わず見とれてしまっていた。それほどの素材からできている少女は当然のことながら美しく、立っているだけで高貴さがにじみ出てくるような、そんな存在だった。ルクスよりも幾分年下に見えるのだが、それが美しさを邪魔するようなことは決してなかった。
その瞬間、ルクスの中の時間は止まる。
視界にはその少女しか映らずに、全体がキラキラと輝いていた。
胸の鼓動が早鐘のように鳴り響き、その音しか聞こえない。
思考のすべては目の前の少女に集中し、それ以外のことを考えられなくなっていた。
全身を締め付けられるような感覚が襲い、思わず胸元を抑えてしまっていた。
そんな初めての感覚に動揺していたルクスだったが、これが何か、まだルクスの中で答えはでない。永遠とも思える瞬間を通り過ぎたルクスは、感じたことのない多幸感に襲われていた。
ルクスをそんなにさせた美しい少女だったが、その表情はすぐさま険しくなりルクスへと迫ってきた。急に近づいてくる少女に動揺が隠せない。その動揺を隠すかのようにルクスは顔を背けて口を開いた。
「お、おいおい! お前がぶつかってきたんだからな!? そんな顔したって別に俺は――」
「逃げて」
自分に非はないと弁明しようとしていたルクスは、自分の耳に飛び込んできた言葉の意味を咄嗟に理解できなかった。
「は?」
「早く逃げて」
必死の形相でルクスに告げる少女。だが、彼女が現れた茂みがガサリと鳴ると、すさまじい勢いで振り向いた。
「もう来たの……?」
未だに少女と重なっているルクスだったが、その様子をみて同じように茂みに視線を向ける。すると、そこには、いつの間にか五人の仮面の男たちが立っていた。皆、黒ずくめで見るからに怪しい恰好だ。
「なんだよ、これ」
その呟きに応えるものはなく、ルクスは目まぐるしく変わる状況に、ただただ混乱することしかできなかった。
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