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第九章 俺様、ダンジョンに潜る

24、考えようによってはそう悪い状況じゃない

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『ここまで来て、速度が落ちるなど!』
「道がわかっているのはどこまでだ?」
「次の階層は最後まで行けるぞ。その次の階層に入る前の広間でやられた」

 憤慨している俺と違い、アルベルトが落ち着いた調子で1号に問いただす。
 あれ? もしかして、焦ったのって俺だけ?
 1号もいつもより少し真面目な調子で答えている。

「敵は?」
「ミノタウロスってわかるか?」
「「!」」

 1号の情報に、レガメのメンバーが息を呑む。
 ミノタウロス。このダンジョンの深層の階層ボスで、レガメにとってはパーティーメンバーを殺した因縁の相手。俺が手助けしてやって、仇はその場で討ったけど。
 あの時大苦戦した相手に今の自分たちがどれだけ戦えるかと闘志を燃やし始めている。

「これまでの敵とは桁違いの強さだ。中層ボスのバジリスクもいたんだが、一瞬で真っ二つにされてた」

 敵同士共闘するってことはないのか。
 バジリスクはオークキングと共闘してたのにな。
 まぁ、モンスターの考えなんて俺にはわからんよ。

「黒モンスターの群れもいて、潰し合っている間にすり抜けようとしたんだが無理だった」

 分体たちは巻き込まれてしまったらしい。
 フィールドを埋め尽くすほどの黒いうねりの中ミノタウロスが大暴れ。
 黒モンスターは黒モンスターで、ミノタウロスを無視して奥へ行くことを優先しているのか他の黒モンスターがやられてる隙をついて駆け抜けていったらしい。

『おぉ、黒モンスターに追いつけそうだな』

 ミノタウロスが多少は足止めになってくれたようだ。
 急げば、ミノタウロスにやられた黒モンスターの結晶も回収できるかもしれん。
 ミノタウロスに倒されたぶんアミールの下にたどり着く黒モンスターの数も減ってるし。考えようによってはそう悪い状況じゃないぞ。

「ミノタウロスはミノタウロスで、進路上にいるやつだけ倒してまっすぐにこっちに向かってきてるように見えた」

 なるほど? ならば、早ければ次の階層に向かう途中で遭遇する可能性もあるか。

「どうする?」

 1号が全員に問う。
 どこかに身を潜めてやり過ごすか、罠を張って迎え撃つか、遭遇したら戦うというこれまでのスタンスを維持して突き進むか。
 アルベルト達は万全を期して戦いたいみたいだが、俺としては倒された黒モンスターの結晶を回収するためにもここはやり過ごして先へ急ぎたいところ。

『決まっておろう。このまま進む』
「だが、ミノタウロスに対する備えは」
『レベルも上がった。装備も新調した。何より一度倒した相手だ』

 待ち伏せるなんて、時間の無駄だ。
 一度戦ったことがあるからミノタウロスが強いのは知っている。
 やっと骨ある奴が出てきたというワクワク感はある。だが。
 あれからだいぶレベルも上がったし、黒結晶も取り込んで強くなった。
 負ける気がしないんだよな。

「まぁ、リージェだしな」
「リージェらしいな」
「さすが、リージェ様ですわ」

 おいこら。
 キラキラした目で俺を見つめてくるルシアちゃんはともかく。その呆れたような笑い顔はなんだ。
 俺が無鉄砲の考えなしとでも言いたいのか。失礼な。

『ともかく、急ぐぞ』

 休憩は終わりだ、とルシアちゃんと1号、ベルナルド先生を担ぐ。
 進みだすと、他のメンバーも慌てて追いかけてきた。

『ルシア、作って欲しいものがある。ベルナルド先生はMP回復のために休んでいろ』
「はい」
「わかった」

 ミノタウロスを軽視するわけじゃないが、アミールと偽女神対策も進めなければならない。
 ルシアちゃんが俺に頼まれたものの作成に集中し始めたのを邪魔しないよう気を付けながら、アルベルト達とミノタウロス戦の作戦会議。
 封印の鈴を使ってガチンコ対決となったら、ミノタウロスと膂力で渡りあえるのは俺くらいだろう。実際のステータスを見てみないとどうとも言えないが。

『ミノタウロスの姿が見えたら、接敵する前にルシアを下ろす。エミーリオとジルベルタは攻撃がルシアに届かないよう守ってやってくれ』
「私だって戦える!」
「悪いが足手まといだ」

 開口一番、指示に異を唱えるジルベルタ。
 はっきりと言い切ったアルベルトの言葉に、気分を害したのが表情の変化でわかる。

「だ「ジルベルタが役に立たないとか、作戦に加わるなと言っているわけじゃないよ」

 反論しようと口を開いたジルベルタの言葉を遮り、ドナートが言う。
 その言葉に、他のメンバーも頷きで返す。

「当時レベル90を超えてた俺たちでさえ、仲間を死なせてしまった相手だ。言い方が悪いのは認めるが、ミノタウロスと戦わせるわけにはいかない」
「それに、君の一番重要な役目はルシアの警護だろう?」
「焦らなくても、お前が頑張ってるってのは俺たちも認めてるよ」

 言い直すアルベルトに、バルトヴィーノとチェーザーレも言葉を重ねる。
 なんか、このやり取りも懐かしいな。
 まだ旅を始めたばかりの頃、戦闘に自分も参加すると言って聞かないルシアちゃんを皆で宥めてた。もっと重要な役目があるだろうって。

「わかりました。ジルベルタ、こっちはこっちで役割を決めよう」
「あ、ああ。わかった」

 何となくだが、ジルベルタが頬を染めている気がする。
 認められてるってわかって嬉しいんだろう。
 俺の指示に異論はないらしいエミーリオに呼ばれると、大人しく俺の後方に回った。

 雑魚敵が来ないから、歩きながらでも作戦会議は問題なく終わる。
 1号が指し示す方向へ進み、地下へと続く洞穴を見つけた時。
 俺の索敵に強烈な殺意の塊が反応した。

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