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第九章 俺様、ダンジョンに潜る

5、飽きた……

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 手早く昼食を終えた一行は、日のある内に街道へ出るべく足早に行軍を続けている。
 で、俺はと言うと。

(飽きた……)

 敵が襲ってくるでもなし、平和の一言に尽きる。
 ドナートを筆頭に冒険者達は各自警戒を続けながらなのか、口数が減っている。話しかければちゃんと応じてくれるんだが、そんな状況を察してルシアちゃんも本庄もすっかり黙ってしまった。
 今までだったらルシアちゃんが抱っこしてくれてたから、静かな状況でもそれなりに楽しめたんだが、今は違う。大きくなった俺の体はルシアちゃんの腕の中に収まることができず、仕方なくエヴァの背に一人で座らされているのだ。くすん。

『少し上空から周辺を確認してくる』
「あ、はい。お気をつけて」

 大きくなっても変わらずに心配してくれるルシアちゃんを微笑ましく思いながら、翼を広げ、エヴァを傷つけないよう気を付けながら翼の力だけで飛び上が……れない。
 やっぱり蹴らなきゃダメか? だが、蹴ると俺の膂力でエヴァを殺してしまいかねない。どうしたものか。
 こう、翼をバサバサして風を起こしてその力で浮き上がれないものか。そう、ヘリコプターのように。

『――リージェがスキル《風操作》を獲得しました――』

 おっ。
 しばらくバサバサして、バルトヴィーノから一度地面に降りた方が早いんじゃないか、とツッコミが入った頃。少し体が浮いたと思ったら久々にスキル獲得の声が頭に響いた。
 よっしゃ、これで行ける!

『先に行っていてくれて構わんぞ』
「わかった」

 再び風を起こすと、今度はふわりと簡単に浮き上がった。
 アルベルトに一声かけてから木々の隙間を抜けて上空へ。無理やり通り抜けたから枝が体のあちこちにぶつかるが、体が大きくなって鱗も硬くなったのか痛みはほとんどない。
 森の切れ目が見える辺りまで上がると、地上にいるルシアちゃん達が蟻ほどの大きさに見えた。

『お、見えた。案外近いな』

 森を分断するように、一筋の道が見える。
 位置的に、セントゥロとノルドを繋ぐ街道のはずだ。この位置なら確かに日暮れには街道へ出られるだろう。セントゥロが見えないのは高度が低いからか。
 一方で、森が突如途切れて茶色の荒野が広がって見えるのがノルドだろう。

『! 痛! 何だ?!』

 上から見ても特にモンスターの姿は見当たらず、ルシアちゃん達の所に戻りかけた途端、尻に激痛が走った。
 慌てて体ごと振り向くが、何も見えない。
 何もない空間を睨む俺の顔に痛みと衝撃が来る。

『……羽?』

 痛む顔に手をやり、触れた物を抜き取ると、それは鳥の羽のようだった。
 薄っすら輝くような水色のそれは、角度を変えると黒にも銀にも見える。

『綺麗……とか言うと思ったか! 風よ! 集いて俺様に従え! 我に刃向かう者を撃ち落とせ!』
「キュイッ!」

 攻撃の正体がわかった途端、虚空にキラッと何かが光った気がした。
 それが不可視の羽による追撃だと悟ると同時に、風を集めて前面に放つ。
 小さく渦を巻きながらまっすぐ突き進む風に弾かれ、数枚の羽根が色を水色、黒、銀と次々変えながら舞い落ちていった。
 後から考えてみればブレスを吐いた方が早いんだが、咄嗟だったのだから仕方ない。
 スキルレベル1じゃ突風程度の攻撃だったのだが、どうやら充分だったようだ。
 羽同様風にバランスを崩されたのか、俺に突き刺さっていたのと同じ羽色の巨鳥が突如として姿を現した。

『――リージェのスキル《風操作》が《風よ、集いて俺様に従え》に改名されました――』
『――《風よ、集いて俺様に従え》のレベルが2になりました――』

 よっしゃ! レベル1だとすぐ上がるな!
 さてさてさてぇ? 久々に焼き鳥が食えるかなぁ? にひひ。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
【ネロ・マーティン・ペッカー】

 川辺を生息地とする鳥型モンスター。
 蜥蜴種のモンスターが好物で、特にピエディ・セルペンテが大好物。
 光の反射によって姿を隠し、狩りをすることからミラージュペッカーとも呼ばれる。空腹時には格上の竜を襲うことも。
 姿が見つかると狩り失敗で逃げる事でも知られている。
 暗黒破壊神の欠片を取り込んで凶暴性が増しているようです。気をつけて。

 Lv.43

 HP : 3950/4000
 MP :5400/7000
 ATK:13500
 DEF:1000

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 な、何だと?! こいつ、蛇竜食ってただと!
 ま、まさか、俺を襲ってきたのは……。

『貴様、雑魚の分際でこの俺様を餌扱いしたこと、後悔させてくれるわ! 血飛沫と共に踊れ!』

 目の前の鳥が姿を消す前に、斬撃を叩き込む。
 見つかっているのに逃げないのは、暗黒破壊神の欠片の影響か?
 いや、どうでもいい。獲物の方からやってきてくれたんだ。こいつはここで倒す!

「キュイッ」

 鳥が一鳴きすると同時に、姿が消える。
 だが……丸見えなんだよ!

『大人しく焼き鳥となるが良い! 我が業火に焼かれよ!』

 予想通り、姿は消せても斬撃によって流れ出る血までは消せないらしい。
 空の青の中漂う赤色に向かい、俺はブレスを吐く。
 ここは森の中じゃない。火災の心配はない。仮に引火したって、水魔法で消せばいい。

「ギギュッ」

 潰れたような声が火達磨の中から聞こえる。
 竜種を狩ってたくらいだし、まだ何か隠し球を持っているかもと警戒していたのだが、どうやらステルス攻撃に特化してて他の攻撃手段は持っていなかったようだ。ステータスも一撃必殺に特化って感じだったしな。
 火から逃れることもなく、そのまま美味しそうな匂いを漂わせながら真下へと落ちていった。

『ってやべぇ! 消火、消火! 水よ!』

 引火したら困る、と慌てて追いかけて水の塊を落とした。
 グシャ、という音が響く。あぁ、俺の焼き鳥が……。

『――《リージェ》が《ネロ・マーティン・ペッカー》を倒し、経験値1500を入手しました――』

 ショボっ! 経験値ショボ!
 うーん、まぁ、戦闘もあっさりしてたからなぁ。
 しかし、こんなショボいのの食糧にされてた蛇竜に苦戦した俺って一体……。
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