上 下
195 / 228
第九章 俺様、ダンジョンに潜る

3、な、泣く?

しおりを挟む
「ほ、本当にあちらの方角で間違いないのですか?!」
「ああ」
『どうした、ルシア?』

 慌てたように詰め寄るルシアちゃんと、間違い無いと肯定するきのこ。因みに4号だって。
 愕然とするルシアちゃんと冒険者達。確か、昨夜のアミールは影で、向かった先に本体がいるかもって言ってたんだよな?

「……あの方角は……」
「セントゥロの、首都が……」

 おん? あのおっとり国王のいた?
 一大事じゃねぇか!

「いや、セントゥロには来てないよ?」

 ガクッ。
 4号の言葉に一同力が抜ける。
 暗黒破壊神がセントゥロを襲っているかも、って慌ててるルシアちゃん達を横目に、ヤケに落ち着いてると思ったら。
 
「いや、少し考えれば解るでしょ? セントゥロにゃ7号おれがいるんだからさ」

 それもそうか。
 なんだろう、この敗北感。そして苛立ち。取り敢えず殴……ろうとしたら話が進まなくなるからやめてくれってアルベルトに止められた。ちぇ。

「では、暗黒破壊神はどこに?」
「それだよ。俺、聞きたい事があるってルシアちゃんに言ったろ?」

 はい、と頷くルシアちゃん。
 慌てて出発準備をしようとしていたエミーリオ達も佇まいを直して話に聞き入る。

「暗黒破壊神ってのは、つまるところ何なんだい?」
「! そ、それは……」

 およ。以前は人類を滅亡に導く存在だとか何とか言ってたのに、言葉に詰まった?

「以前ノルドで遭遇した時、俺には暗黒破壊神やつは竜に見えた」
「俺には人間の姿だったな」
「昨夜もだったけどね」

 4号の言葉から遭遇した時をそれぞれ思い出したのか、アルベルトやドナート達が口々に見え方を伝えてくる。
 俺もそういや竜に見えたな。

「それだよ。仮に、昨夜の姿は分身体だったからとしよう。だが、手は異形だったし、月明かりで照らされた影も竜だった」
「「「!?」」」

 4号、もといきのこはふざけた外見や言動の割にけっこう物事をちゃんと見ている。あんなパニック状態だったのに、しっかり観察していたようだ。

「王城で、7号が暗黒破壊神に関する書物を読んだ」
「! それは、禁書中の禁書のはず!」
「悪いな、読んじまったよ。その上で、俺の見解を述べるなら……暗黒破壊神ってのは『呪い』そのもの」
「「!?」」

 すまん4号、話が飲み込めない。
 ていうか、暗黒破壊神に関する書物あったのか。滞在期間短くて俺が見つけられなかっただけだったんだな。

「……わ、私も、教えられてきたことと、昨夜実際に対峙し言葉を交わした暗黒破壊神の違いに戸惑っているのです」
「うん、大丈夫だよ。ルシアちゃんを責めているわけじゃない。実際、オットリーノ陛下や教皇とも見識を交わしたが暗黒破壊神の正体についてはルシアちゃんから聞いている以上の事は知らない感じだった」

 7号、いつの間にそんなことを……。
 というか、教会のトップですらおとぎ話レベルなのか。これだけあからさまに神の加護だの祝福だのが顕現している世界だってのに意外。
 さっきから頭がついていけてないが取り敢えず口を挟まず最後まで聞いてみるか。
 見ればアルベルト達もそんな感じだしな。

「話を戻すぞ。結論から言うと暗黒破壊神は、倒される時に呪いを吐く。倒した者が次の暗黒破壊神になるんだ」
『は? ちょっと待て! 俺様は、先代聖竜を見ているぞ!?』

 亡骸なきがらだが。
 暗黒破壊神になったっていうなら、あそこに遺骸はないはずだ。

「ちゃんと聞け、リージェ。暗黒破壊神を者が次の暗黒破壊神になるんだ。先代は倒さずに封印していた。だから暗黒破壊神には堕ちていない」
「た、確かに、私も4代前の勇者様、聖竜様が暗黒破壊神を倒したと聞いております。そして――」
「混ざったんだろ。暗黒破壊神として」

 だから、竜の姿であり、人の姿でもあるんだと4号。

「アミールってのは召喚された勇者の名だってな。で、当時の聖竜もまた暗黒破壊神の力を取り込むことで奴を弱体化させたと記録されている。そう、
「『!』」

 バレてた。やっぱりこいつよく見てやがんな。そか、だからこいつ今回こんな言葉キツめなんか。俺が暗黒破壊神になるのを心配してるんだな。
 うーん、俺としては自我を無くすとかでなければ暗黒破壊神になるのはバッチこいなんだが。
 
「だとすれば、だ。俺達は、アミールのすることを止めるべきなのか?」
『どういうことだ?』
「アミールの言葉を思い出してみろ。諸悪の根源を叩くと言っていた。あいつは、ここで呪いを止める気なんだ」

 は? 何? 突然暗黒破壊神善神説? いやいやいやいや、ないないないない。
 だって、本体やつのあの威圧感見たろ? それに、あいつのせいでモンスター大量発生してるんだぜ?

「女神様が諸悪の根源など、あるはずがありません!」

 ほら、ルシアちゃんだってこう言ってるしー。

「だが、俺達は女神を知らない。そもそも、女神ってのは何者なんだ?」
「女神様は、女神様です!」
「それだよ。教会でも王城でも、暗黒破壊神や異界の勇者に関する書物はあれど、女神に関するものは何一つなかった」
「経典が」
「経典ってのはあくまでも宗教を広めるために人間によって作られたものであり、逆に言えば女神は経典その中でしか存在が記録されていない。そもそも、美化されすぎなんだよ」

 まぁ、確かに地球でも神様って言ったらもっと人間臭くて善悪併せ持ってるもんな。
 あら。ルシアちゃんがわなわなと肩を震わせて黙り込んじゃった。な、泣く?

『もうやめろ、4号。直接行って見極めれば良い。暗黒破壊神も恐らくにいるんだろう?』
「リージェ様……」

 瞳に涙いっぱい浮かべたルシアちゃんが俺を見つめてくる。
 よし、ルシアちゃんの信仰を裏切った女神も一発殴る。ルシアちゃんを泣かせる奴は許さないんだからな!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星河由乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】『飯炊き女』と呼ばれている騎士団の寮母ですが、実は最高位の聖女です

葉桜鹿乃
恋愛
ルーシーが『飯炊き女』と、呼ばれてそろそろ3年が経とうとしている。 王宮内に兵舎がある王立騎士団【鷹の爪】の寮母を担っているルーシー。 孤児院の出で、働き口を探してここに配置された事になっているが、実はこの国の最も高貴な存在とされる『金剛の聖女』である。 王宮という国で一番安全な場所で、更には周囲に常に複数人の騎士が控えている場所に、本人と王族、宰相が話し合って所属することになったものの、存在を秘する為に扱いは『飯炊き女』である。 働くのは苦では無いし、顔を隠すための不細工な丸眼鏡にソバカスと眉を太くする化粧、粗末な服。これを襲いに来るような輩は男所帯の騎士団にも居ないし、聖女の力で存在感を常に薄めるようにしている。 何故このような擬態をしているかというと、隣国から聖女を狙って何者かが間者として侵入していると言われているためだ。 隣国は既に瘴気で汚れた土地が多くなり、作物もまともに育たないと聞いて、ルーシーはしばらく隣国に行ってもいいと思っているのだが、長く冷戦状態にある隣国に行かせるのは命が危ないのでは、と躊躇いを見せる国王たちをルーシーは説得する教養もなく……。 そんな折、ある日の月夜に、明日の雨を予見して変装をせずに水汲みをしている時に「見つけた」と言われて振り向いたそこにいたのは、騎士団の中でもルーシーに優しい一人の騎士だった。 ※感想の取り扱いは近況ボードを参照してください。 ※小説家になろう様でも掲載予定です。

旦那様、どうやら御子がお出来になられたようですのね ~アラフォー妻はヤンデレ夫から逃げられない⁉

Hinaki
ファンタジー
「初めまして、私あなたの旦那様の子供を身籠りました」  華奢で可憐な若い女性が共もつけずに一人で訪れた。  彼女の名はサブリーナ。  エアルドレッド帝国四公の一角でもある由緒正しいプレイステッド公爵夫人ヴィヴィアンは余りの事に瞠目してしまうのと同時に彼女の心の奥底で何時かは……と覚悟をしていたのだ。  そうヴィヴィアンの愛する夫は艶やかな漆黒の髪に皇族だけが持つ緋色の瞳をした帝国内でも上位に入るイケメンである。  然もである。  公爵は28歳で青年と大人の色香を併せ持つ何とも微妙なお年頃。    一方妻のヴィヴィアンは取り立てて美人でもなく寧ろ家庭的でぽっちゃりさんな12歳年上の姉さん女房。  趣味は社交ではなく高位貴族にはあるまじき的なお料理だったりする。  そして十人が十人共に声を大にして言うだろう。 「まだまだ若き公爵に相応しいのは結婚をして早五年ともなるのに子も授からぬ年増な妻よりも、若くて可憐で華奢な、何より公爵の子を身籠っているサブリーナこそが相応しい」と。  ある夜遅くに帰ってきた夫の――――と言うよりも最近の夫婦だからこそわかる彼を纏う空気の変化と首筋にある赤の刻印に気づいた妻は、暫くして決意の上行動を起こすのだった。  拗らせ妻と+ヤンデレストーカー気質の夫とのあるお話です。    

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

聖女にしろなんて誰が言った。もはや我慢の限界!私、逃げます!

猿喰 森繁
ファンタジー
幼いころから我慢を強いられてきた主人公。 異世界に連れてこられても我慢をしてきたが、ついに限界が来てしまった。 数年前から、国から出ていく算段をつけ、ついに国外逃亡。 国の未来と、主人公の未来は、どうなるのか!?

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

処理中です...