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第八章 俺様、勇者と対立する

21、え? 見せ場が来たぜなんて喜んでないよ?

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 傷を負いながらもなお暴れ回る二頭の蛇竜。暗黒破壊神の欠片を取り込んだことで強大化し、そのステータスは本来の凡そ2倍となっていた。
 鑑定に成功した範囲の数値だけ見たら角熊より弱いのに、俺を上回るほどの異常な素早さのせいでなかなか決定打が与えられない。
 俺とルシアちゃんという回復役がいるにも関わらず、前衛を務めるバルトヴィーノとエミーリオはジリジリと消耗していた。こちらの攻撃は当たらず一方的に弄られるのだから胸糞悪い。

「リージェ、あいつらの動きを止めてくれ」

 ベルナルド先生がそんな指示を出して、俺が了承してから長い時間が経ったように感じる。が、まだ先生の詠唱は終わらない。
 レベルMAXの魔法使いが長い時間をかけて練り上げる攻撃魔法。だがどんなに強力な技でも、当たらなければ意味がない。
 動きを止めようにも、やたらとすばしっこくてこちらの攻撃は碌に当たらない。


「我が劫火に焼かれよ!」
「あっ、バカ!」

 業を煮やした俺が、水辺の生き物なら乾燥に弱いんじゃないかってブレスを吐くのと、ドナートが慌てたような声を出したのはほぼ同時だった。
 む、バカとは失礼な。バカと言う奴がバカなのだ。
 イラッ、としてドナートがいる後衛を振り向くと、ベルナルド先生の詠唱が終わったようで空中に無数の鋭利な氷の塊がその先端を蛇竜に向けて浮かんでいるのが視界に入った。氷はパキパキと音を立てて空気を凍らせ、更にその数を増やしていく。

「ギュルゥォォォッ!」

 俺が気を取られて他所を向いた瞬間だった。
 甲高い鳥の声にも似た雄叫びと共に、ゴウ、と風が轟く音がした。

「毒気だ! 吸うな!」

 俺の吐いた炎は二頭の毒のブレスに押し負け、こちらに向かって逆流してきていた。
 しまった、と思った時目の前に透明な壁が出現した。蛇竜の吐いた毒と混じり合い黒くなった俺のブレスの炎は、その見えない壁に阻まれた。そのまま壁を這うように上に下にと広がっていく。

「うまくいって良かったですわ」

 ルシアちゃんがようやく戦闘で役に立てたとにっこり微笑んだ。
 どうやら、短縮詠唱の練習をこっそりとしていたらしい。ふう、危ない。危うくベルナルド先生が長い詠唱で発現させた氷の槍を打ち消してしまうところだった。
 結界はそのまま蛇竜を包み込むように閉じ込める。俺のブレスがその中をぐるぐると駆け周り、オーブンのようになっている。
 蛇竜は暗黒破壊神の欠片を取り込んでいるにも関わらず、結界を抜け出ることができないみたいだ。まるでストッキングを被った芸人のように、グググ、と結界を頭で押している。

『え? これどうなっているんだ?』
「はい。女神様の恩恵を借りることで発動する魔法は、結界を含めて攻撃には使えません。閉じ込めたりするのも攻撃のうちに入るのか、不可能でした」
『だが、実際今……』

 閉じ込めてるよね? と首を傾げると、こっそり結界の使い方を練習し直していたと教えてくれた。
 周囲の空気が竜の毒で汚染されないようお守りくださいと祈りを込めた結果こうなったのだと。俺がエミーリオに土魔法を戦闘に組み込むためのコツを教えていたのを参考にしたらしい。
 流石ルシアちゃん。お利巧さんだなぁ。

「このバカ! あいつは乾燥すると毒素を含んだブレスで身を守るんだよ」

 蛇竜が暫く攻撃してこれない状況だとわかった途端、ドナートに怒鳴られた。
 いや知らんしそんな事。知っていたなら最初から言ってよ。
 蛇竜の毒は麻痺毒らしいのだが、うっかり吸い込んで動けなくなったら一方的に嬲り殺されるところだった。
 それに、ルシアちゃんの結界が無ければ跳ね返された俺のブレスで俺達の誰かがやられていたかもしれないし、ベルナルド先生が時間をかけて発動させた魔法もダメになるところだった。

 ドナートにガミガミと怒られている間にも、蛇竜は無理矢理結界をくぐり抜けようとして今にも出てきそうになっていた。

「ルシア様、今からこの≪氷の槍≫をぶつけるのでタイミングを合わせて結界を解除してくれ」
「は、はいっ」

 ベルナルド先生が術の軌道から避けるよう全員に言い、それにすかさず従う。
 表情を引き締めたルシアちゃんが、タイミングを間違えないようキッと蛇を睨んだ。
 蛇の動きを止めるという俺の役割を完全に取られた形だが、初めて役に立てると喜んでいるから仕方ないか。ちぇ。ちぇー。

「今!」

 槍の勢いをつけるためなのか、ベルナルド先生が腕を上から蛇に向けて振り下ろす。それに合わせて勢いよく飛んでいく幾万もの槍。
 結界を突き抜けようと力んでいた蛇は、ルシアちゃんが突如結界を解除したことで地面に顔面から落ちていった。
 蛇達が起き上がる隙を与えず雨のように降り注ぐ氷の槍。ドドドドドドドドド、と凄まじい轟音が蛇の悲鳴をかき消し、地面を揺らす。砕け散った氷の欠片がキラキラと光を反射しながら霧のように視界を奪っていた。

「やった……のか?」
「リージェ、索敵を」
『応!』

 やっと出番か! MPを使い切ったらしいベルナルド先生が息を切らせながら苦しそうに指示を出す。俺は嬉々として索敵を使った。
 む、まだ生きてやがるな。だが、もう動きがほとんどない。戦意を喪失したのか本当に虫の息なのかはわからんが、その存在感はかなり弱々しい。

『総員、まだ油断するな! ベルナルド先生を安全な場所へ!』
「はい!」

 俺の声に片膝をつくベルナルド先生以外が武器を構える。
 エミーリオがベルナルド先生をお姫様抱っこで畑の方に連れていく。恐らくは4号が幼女達を匿っているシェルターもどきへ行ったのだろう。……だからルシアちゃん、その顔やめなさい。今そんな場合じゃないでしょう?
 轟音が小康状態になるにつれ、パキパキと謎の音が聞こえてくる。一瞬気を取られて緊迫感が弛緩したが、改めて意識を蛇に向けて身構えた。ベルナルド先生が脱落した今、ここは俺が頑張らなければ! え? 見せ場が来たぜなんて喜んでないよ?

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