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第八章 俺様、勇者と対立する

10、次はこちらの番だ

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『次はこちらの番だ』

 とは言ったものの、さてどうするかな?
 天罰やウォーターカッターじゃ当たったらかなりの高確率で殺しちゃうし、ブレスもなぁ……。炎とはこういうものを言うのだ、とブレスを吹いて見せても威力が強すぎるし、血飛沫と共に踊れもうっかり殺しかねない。
 あれ? 俺の技全部殺傷能力高すぎない? 殺したら1号に怒られるどころじゃないんだろうなぁ。オーリエンの勇者達もアスーの勇者達を嫌だと言いつつ殺したいわけじゃないだろうし。
 うーむ……あ、そうだ。

「水よ」

 イメージはとにかくたくさんの水。さっき俺の後ろから飛んできたような水弾。
 でもあんな勢いで当てたらぺちょっと潰れてしまうかもしれないから、ただそこに漂うだけのような勢いのない水。流れない水。

「集いて俺様の命に従え」

 俺に纏わりついていた炎と反応し、ジュッと音を立てて相殺し合う。水蒸気が立ち込め視界を白く染めていく。
 まだだ。まだ足りない。もっと集まれ。
 水弾を使っていた奴のスキルレベルがどれくらいかはわからないが、制御を奪われないようにしなくては。

「集え。増えよ。巡りて俺様に仇為すものを捕えよ」

 俺の有り余るMPを9割捧げてやる! もっと集まれ!
 そう念じた途端、一気に疲労感が押し寄せる。それと同時に、俺の周りに途轍もないほど大きな水球が現れ、俺にまとわりついていた炎をかき消した。

脱出不能な水の牢獄アックァ・カルチェレ!」

 まるで生き物のように分裂し、アスーの勇者達を包み込んでいく。
 驚き固まる勇者達の周囲にスルスルと巻き付き、もがこうとすれば腕を、走ろうとすれば足を、何か声を発しようとすれば口を封じていく。
 全員が必死に抵抗しようとした結果、全身をすっぽりと水の球に呑まれてしまった。

『どうした? 水魔法が使える者もいただろう? 俺様のような雑魚の魔法など、打ち消して見せたらどうだ?』

 俺の言葉に何か反論しようとしたのか、ガボガボと泡が出て慌てて口を押える勇者達。
 ふふん、喋れないだろう。魔法はイメージとMP次第で割とどうとでもなるから、手も足も口も出ないこの状況でも何か仕掛けようと思えばできるはずだが、誰もそれができない。
 ふむ、ここから導き出せる仮説としては全員スキルレベルが俺より低いか、威力や制御は注ぎ込んだMP量によるかだな。俺のMP量は恐らく勇者達より多いし。
 今度レベルやMP量を明かしてくれる奴と魔法の威力実験やってみたいなぁ。誰か協力してくれる奴いないかなぁ。


「お、おい。そろそろ出してやれよ。溺死しちまうぞ!」

 1号の慌てたような声に思考の海から引き戻される。
 見れば全員水の中で苦しそうな顔をしていた。

『ふむ、出してやった所でまだ攻撃してくるようでは面倒だ。貴様らの言葉を借りるなら、強い奴がリーダーなのだろう? 負けを認めて俺様に従うと言うのなら出してやる。まだ俺様を雑魚呼ばわりして従わぬと言うのであればそのままそこで朽ちるが良い』
「おい、リージェ!」

 1号には悪いが、溺死しそうだと言われてはいそうですかと解放するわけにはいかない。
 俺のMPはもう残り少ないし、出した途端襲い掛かってくるようだと応戦できないかもしれない。
 力の差を思い知らせると決めたのだ。ここは徹底的にやらせてもらう。
 そう思って降参を促すが、苦痛に顔を歪ませながらも身動きをほとんどしない勇者達。……あ、そうか。

『頭部だけ動かすことを許可する。従うのであれば首を縦に』

 動けないよう水で押さえつけてたのを忘れてた。頭部の拘束を緩めるために水球を操作し頭を出してやる。
 すると、再度降伏を促し終える前に全員が負けを認めた。

「ゲホッ……ゴホッ……くそっ、何でこんな雑魚に」
『その雑魚に負けた貴様らは何だ? さしずめ雑魚の餌のミジンコか? まだ負けを認めないと言うのであれば今度こそ……』
「やめて!」
「ごめんなさい。もう弱そうだなんて言いません。ちゃんと聖竜様に従います。だから、殺さないで……」

 悔しそうな宮田にまだやるのか、と言おうとしたら女子達が泣きながら命乞いをしてきた。
 まだ不服そうな顔をしているのは谷岡と本田と宮田か。他はもう大丈夫そうだな。
 と、ここで成り行きを見守っていた本庄が近寄ってきてアスーの勇者達に語り掛けた。

「レベルが全てじゃないって、これでわかっただろう? 君達はレベルが低いというだけで雑魚と決めつけていた聖竜に負けた。手も足も出なかった。得意の攻撃は躱され、かすりもしなかったし、魔法は全く利かなかった。いい加減事実を認めなよ」
『補足をすると、俺様はスキルレベルもそれほど高くないぞ? 水魔法スキルはたったの3だしな。だが、竜の特性かMPを始めステータスはここにいる誰よりも高い』
「……そんな……信じられるかよ」

 力無く反論するのは谷岡か。
 ふむ、どうあっても俺には従いたくないようだな。ならば。

『そうか。それでもまだレベルが全てだと言いたいか。ならば、もう一度ここにいる全員を鑑定してみろ。一番レベルが高い者がリーダーであるべきだと言うのであれば、それは間違いなくベルナルドであろう』
「……レベル99?!」

 鑑定スキル持ちの男子が驚きの声を上げ、それにつられてざわめきが起きる。
 注目を浴びたベルナルドは困ったような微笑みを浮かべて言った。

「俺は、リージェに従うから、俺をリーダーと仰ぐならリージェに従ってくれ。そもそも、俺達は仲間だ。誰が命令するとか従うとかそんな関係じゃない。皆で意見を出し合って、お互いを尊重し合っている。その中でも、聖竜であるリージェの意見を優先しているだけだ」
「リージェが間違っていると思えば皆それを伝えるし、その時はリージェも俺達の意見を尊重してくれる。リーダーたり得るのは強さだけじゃダメなんだよ」

 ベルナルド先生の言葉にアルベルトが同調する。
 二人の言葉になんだか背中がむずむずと落ち着かない。そんな風に思ってくれていたなんて照れるじゃないか。

 レベル至上主義だったアスーの勇者達は、自分達より遥かな高みにいる冒険者達の言葉に何かしら感じるところがあったらしい。
 すっかり大人しくなって、これからは俺に従うと言った。
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