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第七章 俺様、南方へ行く

22、城塞都市

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「見えてきたぞ」
『あれが……でかいな』

 丘を越えなだらかな下り坂の遥か向こうに、遠目からでも巨大な都市が見えた。
 城塞都市とでも言うのだろうか? おとぎ話に出てくるような白亜の宮殿を中心に幾重にも塀や水路があり、その間に所狭しと建物が密集しているように見える。乱雑に入り組んだように見えるのは、簡単に侵攻されないためだろうか。
 これまでの牧歌的だった集落と違い、一気に近代化した感じだ。建物は白を基調に統一されているようで、ここからだと何だかホールケーキのようにも見える。


「首都アスーへ入られるようでしたら、右側の道を通って列に並んでいただけますか」
「わかりました」
「あの、兵隊さん? 父からこれを預かってきたのですが皇帝陛下にお目通り願えませんか?」
「こ、これは……! 少々お待ちください!」

 道が三股に分かれている分岐路で武装した兵士が二人立っていて、声をかけて来た。
 左はアスーに農作物を卸している農村へと向かう道、直進が一般の入都審査口、右が商隊や貴人の入都口となっているそうで、どうやら馬車五台という大所帯の俺達は商隊と思われたようだ。
 ルシアちゃんが声をかけて来た兵士にセントゥロ王家の紋章が入った短剣を見せる。一人はそれがどうしたとポカンとしていたが、もう一人がそんな相方の後頭部をぽかりと叩くと慌てた様子で門へと走っていった。

「さて、ここにいたら邪魔になりそうですし、右側の列に並んでますか」

 御者をしていたエミーリオが馬車を進めると、立派な門の前に並ぶ馬車があった。
 見ていると御者が門衛に身分証のようなものや筒状に巻いた羊皮紙を見せるだけのようで、ゆっくりだがほとんど止まることなく進んでいる。
 しばらく進みながら待っていると、先ほどの兵士が駆け寄ってきた。

「お待たせいたしました! 陛下から城内へお通しするよう申し付かりました。この者がご案内致します」
「私がご案内させていただきます。どうぞ、こちらへ」

 エミーリオに声をかけて来た兵士の隣にいた、馬を連れた背の高い青年がそう宣言するとサッと馬に乗って列を無視して進み始めた。
 そのやり取りをしている間に、前に並んでいた商人達が道の端に寄せられていた。どかされたことに不満顔をしている人がいないのを見るに、どうやら普段から貴人優先ということか。
 一体何者なのだろうかと興味深々の視線が、一見普通の馬車に乗っている俺達を一目見ようと突き刺さる。オーリエンのパレードとはまた違った恥ずかしさに、俺は早く進んでくれとルシアちゃんの膝上で小さくなった。


「わぁ……」

 門を過ぎて少し経った頃、ルシアちゃんから感嘆の声が漏れる。その声に外の様子をそっと窺うと、古代ローマ帝国を思わせる美麗な白い建物が多数並んでいた。
 上から見た時は乱雑にぎっしりと並んでいるように見えたが、中から見るとまるで迷路のようだ。道を覚えられる気がしない。きっと、外観統一のためだけではなく、侵入者が道に迷うようわざと建物を似せているのだろう。

『なんだ、つまらん』
「リージェ様が食べたそうな物がありませんものね」

 し、失礼な! おおおおおお俺は別にそそそそんな、食い意地の塊じゃないぞ! チェーザーレじゃあるまいし!
 そうなのだ。エミーリオに指摘された通り、食べ物の屋台が一軒も見当たらないのだ。食べ物屋台だけではない。これまで大規模な都市で見受けられた露天商なども全く見られなかった。
 商人らしき人も多数並んでいたはずなのだが、彼らはどこで店を広げているというのか。

 今通っている道に並ぶ建物は規模からして貴族の家などではなく、一般庶民の居住区のようだ。所々服や食器のマークの看板が出ているから、店もそれなりにあるのだろう。
 だが、冒険者が多く集まっていたセントゥロのような雑多さはない。道行く人々の中でも武装しているのは皆一様に、今道案内をしている騎馬兵と同じ赤茶色の詰襟姿だ。きっとこれがアスーの兵士の制服なのだろう。
 美しい街並みではあるが、俺からすればそれだけだ。一瞬で飽きる。


 街に入った時から見えていた巨大な城は、近く見えていた割になかなか着かなかった。
 通りを進み、街中に幾重にもあった塀の木戸を守っていた兵士に戸を開けさせることを繰り返すこと暫し。
 俺が完全に飽きて舟をこぎ始めた頃、ようやく城門の前に辿り着いた。ここからだと巨大すぎて全容は見えない。壁面や屋根の上に羽の生えた獣のような像があったり、ところどころ細やかな彫刻がされているのがわかるくらいだ。

「では、私はここで失礼します」
「ここからは、私が案内させていただきます。馬車は私共で手入れを致しますので、ここからは徒歩でお願いします」

 案内してくれた兵士が去ると、いかにもセバスチャンといった風体の淡い水色の燕尾服の老紳士が迎え入れてくれた。黒が禁忌だから水色なのだろうが、違和感半端ない。
 大理石っぽい延々と続く廊下には赤地に金刺繍の絨毯が敷かれており、中も豪奢であった。電気とも炎とも違う柔らかな明りを放つ石が壁に点々と設置してあって、ほんのり温かい。

「陛下は、内密で話したいことがあると仰っています。夕食後にお時間をいただけますか?」
『内密?』

 何だろう。何か嫌な予感。
 でも話を聞かないことには何も進まない。ルシアちゃんが了承すると、夕食の準備が整うまでお休みくださいと言って一人一人に部屋をあてがってくれた。
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