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第七章 俺様、南方へ行く

(閑話)勇者の修行

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「ったく、俺達は子守をするためについてきたんじゃねぇだぜ」

 モンスターの襲撃を警戒しているとはいえ、市が並ぶ平和な町中を歩きながらバルトヴィーノが愚痴っている。
 リージェが今朝早くにエミーリオ殿とルシア様を連れてモンスター退治に出かけてからずっとこうだ。
 屋台で早めの昼食を買いあさり、口いっぱいに頬張りながらはしゃぎ歩く勇者達の後をつていっている。こうしていると普通の子供と何一つ変わらないな。
 バルトヴィーノの愚痴は小声だが聞こえているのか、さきほどからチラチラとこちらの様子を窺っている勇者がいる。


「なぁ、お前も何とか言えよチェーザーレ!」
「……別に。特に異論はない」

 俺の望みはカナメの料理を食べることだ。あの味を知ってしまってからというもの、何を食べても物足りない。
 あの味を期待して聖女様達についてきたというのに、あれ以来カナメが来ないのだ。俺が嫁に来てくれなんて言ったから、避けられているのだろうか。


「あの、バルトヴィーノさん」
「あん?!」

 俺の態度に完全にふてくされたバルトヴィーノが、恐る恐るといった感じで声をかけて来た勇者――確か、クドウといったか――を睨みつけた。こんな子供相手に大人げない。
 バルトヴィーノの荒げた声に、ミドウとかいう女子が怯えた様子でクドウの陰に隠れる。この子いつもクドウにくっついているな。

「すみません、あの、俺達に修行をつけてくれませんか?」
「はぁ? リージェも1号もお前達に戦うなって言ったの聞いてなかったのか?」

 そもそも何で俺なんだよ、と言うバルトヴィーノを手で制す。一度頭を冷やさせるべきだ。
 だが、クドウはそんなバルトヴィーノの態度にもめげず言葉を紡いだ。

「俺達だって、何も自分から戦いに……命のやり取りをしようとは思いません。ですが、あのドラゴンの言葉を信じるなら、俺達は暗黒破壊神とかいう化け物に狙われるんでしょう? なら、もう少し、せめて自分の身を守れるくらいには戦えるようになっておくべきだって思うんです」
「先日のオルソ戦、私は何もできませんでした。バルトヴィーノさんやルシアさんに守られてばかりで、逆に足を引っ張ってしまって。私、もう足手まといは嫌なんです」

 クドウの言葉に、いつの間にか他の勇者達も戻ってきて俺も私もと声を上げる。
 うむ……オーリエンで式典の最中に襲撃してきたモンスターを撃退したときの戦いっぷりを見るに決して足手まといとか戦えないとか思えないのだが。バルトヴィーノの反応を見るに嘘は言っていないのだろう。
 そういや実際オルソに囲まれた時に動けたのは今眼前で教えを請いている二人だけだったな。

「ヴィー、見てやったらどうだ? この人数だ。確かに俺達で守り切れるとは言い難い。逃げるためにも力は必要だろ?」
「……ちっ、普段無口なくせにこういう時だけよく喋る。わかったよ。ただし、お前らの先生がOKを出したらだ」

 わっ、と歓声があがり、1号の待つ宿へと一目散に駆け出す子供達。


 そして半オーラ後。
 俺達は子供たちを引率して町を出てすぐの丘にいた。少し先には切り株がたくさんある。防衛のために切り出した痕だ。
 森がそこそこ近いから見通しが良いとは決して言えないが、何かあればすぐ町に逃げ込める距離だ。
 いざという時は俺達が町の防衛に駆り出される約束なのであまり遠くには行けないが、この付近ならば大声で呼べば聞こえるだろうということで町長の許可が下りた。

「じゃあ、まずは各自自分のステータスを確認し、魔法系のスキルを持っている奴はドナートの、武器や体術系のスキルを持っている奴は俺のとこに集まってくれ。自分のスキルがわからない、確認する術がないやつはベルナルドに鑑定してもらえ」
「はい!」

 自分のステータスを把握していない子は一人もいなかったためベルナルドもドナートのグループに行った。当然、アルベルトも一緒だ。
 魔法を使うのは女子が3名に男子が2名か。
 で、俺はバルトヴィーノのグループ。こっちは女子が2名の男子が4名だ。

「まずは体力を見る。チェーザーレの立っている所まで全力で駆け抜けろ!」
「はい!」

 速度はなかなか。これならオルソやルーポのような足の速いやつに遭遇しない限り走って逃げれるだろう。
 子供達は自分の足の速さに驚いているようだった。
 その後も持久力、握力、腕力など休憩を挟みながら見ていく。

「今日は武器は持たせない。受け身や構え、体捌きなど基本を叩き込む!」

 バルトヴィーノが最初にそう宣言したからか、合間合間で中々筋が良いとかこうすればもっと良くなるぞとかアドバイスしているからか、子供達から文句が出ることはなかった。
 あいつはなかなか良い教官になれるんじゃないだろうか。


 次の日。すぐ帰ると思っていたリージェ達はまだ戻ってこなかった。
 今日は的と木の武器を用意しての適性チェック。
 オーリエンにいる間に武器を与えられていたようだが、それが本当に合っているのかを確認するべく斧や槍、弓、短剣、長剣、薙刀、大剣、メイスと一通り扱いを教え振らせてみる。
 一人一人見ているせいでそれだけで半日終わってしまったが、何とか各自得意な武器が見つかったようだ。

「良いか、お前達はオーリエンで特殊なレベルアップをしたせいで、ステータスは高いが戦い方がまるでなっていねぇ。まずは基礎を身体に叩き込め。一番大切なのは戦う事じゃない。生き残ることだ。それを忘れるな」
「「はいっ!」」

 やっていることは素振りなのだが、そこは高レベル者。ステータスが高いから軽く振っただけで風圧が飛ぶ。MPを乗せれば飛ぶ斬撃とかできるんじゃなかろうか。本当に、筋が良い。
 俺達が血のにじむような努力をしてやっとたどり着いた技術をこの子達はあっという間に吸収していく。これが勇者か。これが才能か。教えるバルトヴィーノも楽しそうだ。

 と、遠くで爆発音と共に光線が見えた。
 子供たちが怯えるが、あれは見覚えがある。

「決着がついたかな?」
「どうだろうな?」

 あれはリージェが得意とする攻撃技。大体あれで戦闘が終了する。
 きっともうすぐ帰ってくるだろう。

「じゃぁ、今日はここまで! 恐らく今日リージェ達が戻ってくる。明日には出発になるだろうから、各自身体を休めておけ」
「はい……あの、また稽古をつけてもらえますか?」

 バルトヴィーノが解散を命じ町へ戻り始めると、おずおずと俺に声をかけてくる子供がいた。
 どうやら稽古をつけているうちに懐かれたようだ。悪い気はしない。

「ああ。旅の合間にな」

 不安そうな表情が一気に輝く。
 つられて俺の口元も緩んでしまう。1号が過保護になるのもわかるな。
 願わくば、この子達が戦わずに済む日がいつまでも続きますように。
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