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第六章 俺様、東方に行く

29、やっぱり

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「それでは国内の混乱が早急に治まることをお祈りしておりますわ」
「はっ! お任せください!」

 色々あったけれど、五体満足で国外に出る事ができた。
 ルシアちゃんのにっこり笑顔のお願いに、顔を赤らめた護衛の兵士が力いっぱい返事して帰っていったからあとはもう知らん。
 ロリコン王が用意してくれた馬車は御者も用意してくれていたのだが、ドナート達が引き続きついてきてくれることになったので全員帰ってもらった。つまり今は完全に身内だけである。


『ということで、もう出てきて良いぞ、1号』
「いぃぃやっほぉぉぉぉぉおおおう!!」
『やかましい』

 奇声と共に飛び出した1号を叩き落とす。ピクピクとしていたのも一瞬、すぐに復活する。酷いとか文句を垂れているが概ねいつも通りだな。

「モンスター……」
「なっ!? おい、工藤やめろ! 俺だ! 木下だよ!」

 1号の姿を見た勇者のうち、クドウと名乗っていた眼鏡の男子がチャキっと音を立てて剣を抜く。それにつられたように他の勇者達もそれぞれ武器を構え、過剰ともいえる攻撃を繰り出す。
 1号が見事なステップで躱しながら(たまに攻撃を喰らうがすぐに回復している。本当にでたらめな奴だ)説得を試みているが、攻撃を止める気配はない。

『ベルナルド先生、ルシア、彼らを眠らせることはできるか?』
「先ほどと同様に鎮静化というならできますが、眠らせるというのはまだ……」
「できるが……」
「眠らせるのは攻撃とは言わないだろ」

 このままじゃ落ち着いて休憩もできない。何よりどさくさに紛れて俺にまで攻撃してくる奴がいて、微妙にルシアちゃんが殺気立っている。
 とにかくこの場を何とかするには眠らせるのが手っ取り早いだろうと思って聞いてみたのだが、ベルナルド先生が言い淀む。魔法を人間に向けるのが禁じられているからだ。
 すぐにアルベルトが気づき、許可を出す。そこからはもう鮮やかとしか言いようがない。

「ふぅ、ビビったぁ」

 汗なんてかかないくせして顔を拭う仕草で腰を下ろす1号。その前には折り重なるようにして倒れ眠り込む勇者達。
 アルベルト達が一人一人そっと一列に並べ直す横で、俺は取り敢えず一番近かった奴に鑑定を使ってみた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【ステータス】

名前   : チカコ・ミドウ   【状態:隷属】

レベル  : 30

HP   : 300/ 2135
MP   : 90/ 1636

ステータスの取得に失敗しました。ごめんなさい。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 隷属、だと?! やっぱり、何かされてたんだな。
 同じように鑑定を施していたらしいベルナルド先生が皆を集める。

「これを見ろ」

 そう言って、ベルナルド先生が近くにいた男子生徒の腕を持ち上げる。
 そこには、銀色に光るスタイリッシュなデザインのバングルが。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

【隷属の腕輪】

装着した者を支配する効果のある腕輪。
Def+2、MP+3
支配者:ポルコ・デシデーリオ

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー


『ポルコ・デシデーリオの奴隷ってことになっているな』

 誰だ? てっきり、あのロリコン王が何かしたのかと思ってたのだが。
 俺の言葉にドナートが何か思い浮かんだ顔で、まさか、と呟いた。

「えっと、謁見の時に難癖をつけてきた伯爵だよ」
「そいつが何で勇者達の支配者になっているんだ?」
「そんなの俺がわかる訳ないだろうが」

 口論しているドナートとバルトヴィーノは置いておくとして。
 確かにちょっと不自然なんだよな。ドナートはあの豚伯爵には暗黒アクセをばらまいていた黒幕なんじゃないかって言っていたし、謁見の時の絡み方で俺もそう感じた。
 でも、実際にはそいつが勇者達を支配している。どんな命令を受けてるかは知らないが、普段は人形みたいに反応が悪いのにモンスターを見た時だけやたら好戦的になる。
 仮に豚伯爵が襲撃の黒幕なら、支配している勇者を殺そうとするのはおかしい。

「やめやめ、考えていてもわからないことは追求しない。そんなことより、これからどうするかだ」
「この腕輪、壊せないのか?」
「無理矢理壊すと勇者にどうな影響があるかわからんぞ?」
『ルシア、浄化の魔法でこの腕輪の効果だけ打ち消せないか?』

 やってみますわ、と意気込むルシアちゃん。
 が、結果は変わらず。

「でも、少しだけ手応えを感じましたの。もう少し力を籠めれば……或いはスキルレベルが上がればもしかしたら……」

 MPの続く限り試させてくれというのでそちらはルシアちゃんに任せる。
 ルシアちゃんの時は支配者が死んだら首輪が簡単に外れた。ただし、その後襲ってきたが。
 わからないことも多すぎるし、情報収集も兼ねて潜入しようとした俺に目ざとく気づいた1号に引き留められた。

「どこに行くんだ?」
『あの豚伯爵の所だ』
「リージェ、そのままの姿だと目立つよ」

 幻惑の魔法とでも言うのだろうか、別の姿に錯覚させる魔法をベルナルド先生がかけてくれた。
 驚くエミーリオ達の話だと、どうやら小鳥に見えているらしい。

「ちょっと! そんな便利な魔法があるなら俺普通に街中歩けたんじゃないの!?」
「あ」
「リージェ、俺も連れて行け! 体が小さい分小回りも利くし、大人の判断ができる奴は必要だろ」

 大人、か? という考えが表情に出てしまっていたようで、ちょっと! とまた怒られた。
 きぃきぃ煩い1号を連れていくのは嫌だと思ったのだが、一人で行くなと他のメンバーにも説得されては仕方ない。因みにルシアちゃんとベルナルド先生が勇者の解放を試み、エミーリオは皆の世話、他のメンバーは見張りという役割でどちらにしろ1号しか手が空く奴がいなかった。
 俺は1号を背中に乗せるとドナートから豚伯爵の屋敷の位置を教えてもらい再びハレタへと舞い戻った。
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