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第六章 俺様、東方に行く

(閑話)きのこの休日

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 よっす! 俺だよ! 皆のアイドル、7号ことチビきのこだよ!
 何の因果か異世界で王城勤めをする事になった訳なんだけど。俺の仕事はスキルを活かして各個体を通しての通信。もっと具体的に言うとリージェやルシアちゃん、いや主にルシアちゃんが今どこでどうしているかを報告するのが俺の仕事。
 日本と違ってあんな小さい(と言っても俺のサイズからすると皆巨人なんだが)子供が親許を離れて旅をしなきゃいけない。それも交通事故なんか比じゃないほどの命の危険が隣り合わせの旅だ。過度の心配性になってしまうのも仕方ないってもんだ。

 7歳の洗礼式で昔でいうところの奉公に出すのがこの世界の通例らしいんだが、一般的な子供は大抵商会とか騎士団とか、街中でいつでも会える環境がほとんどなんだそうだ。家から通う子だっているらしい。
 そんな中でこの国王の娘が派遣されることになったのは、なんと世界でも凶悪なダンジョンの最下層にある神殿。
 何でそんなところに神殿を作ったって? 違うんだよ。元々神殿があった場所にダンジョンができたんだよ。
 なら神殿を別の場所に移せば良いって? とっくにやったんだと。それがこの国の正門近くにある教会本部。だが、聖女に力を与えられる奇跡は結局ダンジョン地下の神殿じゃないとダメだったんだとさ。それはこの世界の女神がその神殿におわしているからだろうって。全部受け売りだけどな!

 ここまでが今酒瓶片手にクダを巻いているおっさんもとい国王陛下から聞かされた情報。
 何だかんだで一番情報が集まるのは王城ここだからな。王城勤めになれたことは俺にとっても好都合だったわけだ。

「聞いておるのか? それでなぁ、ルシアちゃんがなぁ……」
「はいはい、おっさん。飲みすぎだぜ。明日の政務に影響して宰相に怒られても知らんぞ」

 と、まぁこのおっさんの晩酌に付き合って娘自慢を聞かされるのも仕事の一つ。腹が減らない食事不要な体だが飲めない訳じゃない。ここで出される酒はなかなか美味い。
 あとは、書庫に行って書庫番であるウェルナー君と世界地図を作成するのも仕事だな。なにしろ、この世界には正確な地図というものがない。森には凶悪なモンスターが出るし、ちまちま測量などしていられないのだそうだ。
 それでも冒険者達が長年の活躍の中で作り上げた物を買い取り編纂されたものがこの書庫にある。ここにある地図と俺の測量と記憶に照らし合わせてより正確な地図に作り変えているのだ。イエーイ! 俺の製図スキルが火を噴くぜ! 
 普通なら数百年単位でやる国家事業を、わずか数時間でこなすのだ。伊達に増殖していない。人海戦術なら任せておけ! ……まぁ、測量組の個体サイズが小さい上に途中でモンスターに喰われまくっているからあまり進んでいないんだけどさ。

「凄いです! 7号さん! この地図、歴史が変わりますよ!」
「大袈裟じゃね?」
「いいえ、この国境線の位置。各国が主張してきた歴史由来の国境線とだいぶズレているんです。それにこの遺跡! これは恐らくかつての聖女の……」

 興奮気味に神話か宗教書のような装丁の分厚い本を取り出し熱く語るウェルナー君。こうなると止まらないので俺は適当に相槌を打ちながらフェードアウト。
 彼もねぇ。俺をモンスター扱いしたりしないどころかキラキラと少年のような表情を向けてくれる良い子なんだけどねぇ。
 枯れたアラフォーおっさんには彼のような若者のエネルギーは時々辛いものがあるんよ。



 ってな訳で! 抜け出して来ちゃいました!
 いや、普段は王城に住み込みなんだよ。それで、リージェ達に動きがあった時とか王様から連絡を取りたい時とかに言って伝えてっていう感じで。
 暖かく適度にベッドを湿らせた部屋を提供されたのはきっと俺がきのこだからに違いない。寝床の準備を、と言って霧吹を持った来たメイドさんを大慌てで止めたら本気で理解できないって顔をされたっけ。

 なかなか快適なんだけどさ。空き時間にちょっと調べ物とか思って書庫に行くとウェルナー君に捕まるし! 部屋でくつろいでいてもウェルナー君が押しかけてくるし! なんなの?
 尊敬してくれるのはありがたいんだけどさ、四六時中質問攻めに遭ってみ? 24時間仕事ってことになるじゃん! 職場で寝食しているようなもんよ? それどんなブラック企業?

 だから息抜き大事! 絶対!
 ただ、街中は俺はモンスター扱いで倒されるか食材扱いで食べられるかのどっちかで。実は森の中を歩くより危険なんだよね。だって隠れる場所ほとんどないし。人いっぱいだし。


 そんな危険を犯してまでする息抜きって何なのってお思いだろうか?
 フッフッフッ。それはな。
 今日は! この家に! お邪魔したいと思います!
 え? 不法侵入? 大丈夫大丈夫。そんな法令こっちにはない。

「ふふふんふんふーふん♪」

 それに侵入したって別に金銭や食料を奪おうって訳じゃない。
 そんなもん盗ったって使い道ないし。

「ふーふふふふーん♪」

 俺はテレビで頻繁に流れていた懐かしのCMソングを口ずさみながら、あちこちのドアを開けて回る。

「アアー」

 三つ目のドアの向こうにようやく目当てのものを見つけた。
 ホギャホギャと可愛らしい声で泣く赤ん坊。鼻歌交じりにベビーベッドによじ登ると、赤ん坊がじっと俺を見つめているのがわかった。
 自然に俺の顔が緩む。はぁ、可愛い。天使や。だがこの子は……。

「ここもハズレか? いやしかし、可愛いなぁ。俺も早くルナとの間に子供欲しいなぁ」

 男の子でも良いが、女の子でも良い。女の子だったら絶対にルナ似だ。
 いもしない娘から嫁に行くと言われる想像をして泣きそうになった顔を隠すようにベビーベッドを降りようとして、突然赤ん坊に胴体を掴まれた。

「アウー(お前、きのこだろ)」
「うん? 確かに俺は見ての通りのきのこだが?」

 異世界言語の効果だろうか。赤ん坊の言葉が解る。
 いやいやいや、まさか。気のせいだろう?

「ダーッ!(そうじゃなくて、お前木下だろって言ってんだよ)」
「何だこの赤ん坊、口悪いな」

 気のせいじゃなかった。
 って、ちょっと待て。こいつ今俺の本名言ったか?!
 てことは、当たりだ! 俺の歌に反応しなかったから違うと思った。危ない危ない。

 俺が王城勤めになってからやってたのは、転生者を探すこと。せっかく情報が集まる場所に来たんだ。利用しない手はない。
 生まれてくる赤ん坊は全員教会で洗礼式をするのが義務なんだと。そこで名前と生年月日、親の名前と住所が記録される。つまり戸籍登録されるってわけだ。それを聞いた俺は自由時間の度に教会本部に行き、ここ半年で生れた赤ん坊の家を調べて回っていた。
 決して俺が赤ん坊好きの変態で赤ん坊を見るためだけに侵入していたわけではないよ?


「あうあー(俺は)」
「ああ、いやいや、ちょっと待て。当ててやろう」

 リージェの例を取って見ても、死んだ生徒達がこちらの世界で転生している可能性は高かった。
 死んだ生徒は全部で6名。うち一人はリージェで一人は日本に送った。残り4名。
 その中で、こういうクソ生意気な口の利き方をしていた奴は……

「お前、ヨシュアだろ!」
「ダー!(四谷だ! あのキモオタと同じ呼び方すんじゃねぇ!)」
「ぷぷー」
「あうー(笑うな!)」

 そうそう、四谷君。栗栖君を散々虐めてた奴。なんだけど、当の本人は何故かヨシュア君ヨシュア君って懐いていたからね。決め台詞叫んでヒーローごっこしていたとか言ってたけど。きっと四谷君の方はそんなつもりはなかったと思うよ? 

「あうあー(この状況を説明しろ! 教師だろ! 何で俺赤ん坊になってるんだよ!)」
「そんな言い方して―。本当はママのおっぱい吸えて嬉しいんだろー?」


 四谷君は今赤ちゃんでしゅからねー。ニヤニヤ。
 このくらいの意地悪は良いよね? だって、あんなバラバラ死体を見た後でこうして元気にしている君と再会できたんだから。
 と、にやけていたら目の座った四谷君に握りつぶされそうになった。赤ん坊って意外と掴む力強いんだよなぁ。


「さて。君の状況だけど。異世界召喚される際に召喚失敗してバラバラに裂けて死んだ。死体を確認したから間違いはない。で、こちらの世界に転生したわけだ」

 呆然としている四谷君。死んだと言われて受け入れがたいけど、その体が俺の言葉が真実だと証明してしまっている、そう感じているのだろうか。
 まぁ、これを夢だと思っても現実だと受け入れても、もう生前の四谷君に戻れないことに変わりはない。
暗い目をしてしまった四谷君に俺は本題を切り出す。これこそが俺がここに来た理由。


「君には選択肢がある。ここで、この家の子供として幸福に育つか。もう一度死んで日本で生まれ直すか。言っておくけど、もう一度高校生の四谷君で蘇るなんてことは絶対にない。何故なら。君の死体は既に日本に送還済みで葬儀まで済んでいるからだ」

 世の中はそんなに甘くないんだぜ。全て夢落ちでした、なんてそんな甘い現実あるわけないだろ。
 暫く黙って見守っていると、死んだと聞かされて光を失ってしまったかのような眼をしていたのが急に生気を取り戻した。


「あー(それなら、俺はこのままで良い)」

 四谷君はこっちで生きることを選んだ。
 そうだよな、元の姿生活に戻れる訳じゃないのにもう一回死ぬとか嫌だよな。

「だうー。あー(こっちの言葉はまだ良くわかんねぇけど、両親らしい人二人とも俺の事本当に大事にしてくれてるのはわかる。今度こそ、ちゃんと生きたい)」
「そうか」

 四谷君は世間一般で言うところの不良ってやつだ。
 でも俺は知っている。彼が外見通りの人間じゃなかったってことを。
 だいたい、栗栖君は四谷君といるとき楽しそうだったしね。

「じゃ、俺はもう行くよ。幸せにな」


 彼には彼だけの苦労や悩みがあったんだろう。今度こそ、彼が道を逸れることのない生き方を送れることを祈る。
 これで、見つかっていないのはあと女子が二名と男子が一名か。そもそも転生してくれているのだろうかね?
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