上 下
97 / 228
第六章 俺様、東方に行く

6、物事には限度というものがあるだろうが!

しおりを挟む
「美味いっ! 何だこれ?!」

 口に含んだ途端チェーザーレが叫ぶ。こいつ普段は無口なくせに、要さんの料理を食べた時だけは大声出すな。
 呆れつつ俺も口に含む。その瞬間、じゅわっと肉汁とたれの味が口の中に広がり、後から山椒のピリリとした風味が口の中で弾ける。ヤバい、美味い。尻尾がブンブン動くのが自分でもわかる。俺は犬じゃないのにこんな尻尾振るとか恥ずかしい、と思いつつ止められない。

「ふふっ。口に合ったみたいで良かったです。これは山椒の佃煮を作る際に出た煮汁で猪肉を炒めて、野菜と佃煮と一緒にパンで挟んでみました」
「私もお手伝いしましたの。どうですかリージェ様?」
『うむ、美味い。いくらでも入るな』
「嬉しいですわ! まだまだたくさんありますの! どんどん召しあがてくださいませ」

 そう言ってルシアちゃんがドサドサと俺の前の皿に佃煮サンドを積み上げる。
 あのな、確かにいくらでも入るとは言ったが、物事には限度というものがあるだろうが!
 固パンは日保ちもするが腹持ちも良い。俺の体躯だと2個で十分事足りる。
 表面は固いが中はたれを吸って柔らかくとてもうまかった。が、日本人としてはやっぱり米が欲しいな。

「お米が欲しくなりますねぇ」
「米? 何だそれは?」

 俺の気持ちを代弁したかのように要さんがポツリと言う。小さな声だったにも関わらず聞き取ったバルトヴィーノが食べ物かと聞いている。

「えっと、小麦粉があるなら原料となる麦もありますよね? それと似た形状の穀物です」
「う~ん、麦に似ていて麦とは違うものねぇ」
「聞いた事がないですね……」

 どうやら誰も聞いた事が無いらしい。
 リンゴとミントの他に米も探すリストに入ったのは言うまでもない。




 食事が終わるといよいよ村に入る。
 門扉は閉ざされたままだったが、近づくうちに蹄の音に気付いた村人が開けてくれた。

「あんた達、この村に何の用だ?」
「私たちはオーリエンの首都へと向かう途中なのです。物資の補給をさせていただければと」

 出てきたのは、竹槍で武装した村民。遠目では気づかなかったけれど、塀も門扉も少し覗いて見える村内の建物も竹で作られているようだった。
 着ている服はアイヌ系の民族衣装にも似ている。不思議な模様に染め抜かれた服だ。
 アルベルトが身分証と勅書を見せると、ベルナルド先生の髪色に目を細めながらも中へ通してくれた。

「金髪に民族衣装って違和感半端ないな」
「ダメだよ、楓。ここは日本じゃないんだから」

 要さんが慌てて1号を隠すが、見つからずに済んだようだ。1号はどっからどうみてもモンスターだからな。
 門衛の青年は、クドクドと注意事項を伝えてくる。

「それから、その竜。従魔のようだが、決して目を離すなよ」
「この子は誰かを意味もなく襲ったりしませんわ」

 あまりの話の長さにうんざりしかけた頃、急に話の矛先が俺に変わる。
 ムッとした様子でルシアちゃんが反論すると、いやそれもそうだがそうじゃないんだ、と青年は声を潜める。

「実はな、今ちょっと面倒な奴が領内視察として来ていてな」
「面倒な奴、ですか。領内の視察ということはこの辺りの権力者なのでしょうか?」

 エミーリオの問いかけにシッ、と青年は慌てて口に手を当てる。
 大っぴらに言うと不敬罪で処刑されることもあるから名前も言えない、という言葉がエミーリオの質問を肯定していた。

 青年が言葉を濁しながら言った内容をベルナルド先生が補足しながらまとめると、竜はこの国でも聖竜を始め神聖視されていて、同時に権力の象徴でもあるそうだ。女神の使者たる竜に認められた俺SUGEEEEってやつだな。
 なもんだから竜を捕まえて献上したいって奴は山ほどいるらしい。で、今ここに来ている権力者はどちらかというと出世や名誉より富を望むようで。証拠がないが女子供を拉致して奴隷商に売っているという噂まであるらしい。
 そんな奴が俺を連れた見目麗しいルシアちゃんを見たらどうなるか、推して知るべし。

『ふむ、教えてくれて感謝する。俺様とルシアは馬車内に籠り姿を隠すよう気を付けよう』
「セントゥロと違う文化の村を探索するのが楽しみでしたのに、残念ですわ」
「大変失礼をしました! まさか本物の聖竜様とは。いや、こちらこそ、歓迎できず申し訳ありません。女神の加護を」

 青年は俺が念話を送った事に目を見開いて驚き、旅の安全を祈ってくれた。
 最初はちょっと感じが悪いと感じたが、聞かれたらまずいだろうに情報や忠告をくれたりして親切だった。
 ついでにとアルベルトがこの村で薬草や果物などを調達できる店はあるかと聞いている。

「この通りを暫く進むと左側に青色の旗が出ている店がある。この村で買物ができるのはその雑貨店だけだ。食料品はそこで足りなければ隣が食堂だから、融通してもらえないか聞いてみると良い。ただ、小さな村だ。買占めはやめてくれ」

 わかりやすく教えてくれた青年に再び礼を言うとその店に向かう。

「これは、二店舗を覗いて早々に出立したほうが良さそうですね」
「ああ。二手に分かれてさっさと離れよう」

 エミーリオの言葉にアルベルトが同意し、テキパキと分担を指示すると店の前に馬車をつけた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生王女は異世界でも美味しい生活がしたい!~モブですがヒロインを排除します~

ちゃんこ
ファンタジー
乙女ゲームの世界に転生した⁉ 攻略対象である3人の王子は私の兄さまたちだ。 私は……名前も出てこないモブ王女だけど、兄さまたちを誑かすヒロインが嫌いなので色々回避したいと思います。 美味しいものをモグモグしながら(重要)兄さまたちも、お国の平和も、きっちりお守り致します。守ってみせます、守りたい、守れたらいいな。え~と……ひとりじゃ何もできない! 助けてMyファミリー、私の知識を形にして~! 【1章】飯テロ/スイーツテロ・局地戦争・飢饉回避 【2章】王国発展・vs.ヒロイン 【予定】全面戦争回避、婚約破棄、陰謀?、養い子の子育て、恋愛、ざまぁ、などなど。 ※〈私〉=〈わたし〉と読んで頂きたいと存じます。 ※恋愛相手とはまだ出会っていません(年の差) ブログ https://tenseioujo.blogspot.com/ Pinterest https://www.pinterest.jp/chankoroom/ ※作中のイラストは画像生成AIで作成したものです。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

異世界でのんびり暮らしてみることにしました

松石 愛弓
ファンタジー
アラサーの社畜OL 湊 瑠香(みなと るか)は、過労で倒れている時に、露店で買った怪しげな花に導かれ異世界に。忙しく辛かった過去を忘れ、異世界でのんびり楽しく暮らしてみることに。優しい人々や可愛い生物との出会い、不思議な植物、コメディ風に突っ込んだり突っ込まれたり。徐々にコメディ路線になっていく予定です。お話の展開など納得のいかないところがあるかもしれませんが、書くことが未熟者の作者ゆえ見逃していただけると助かります。他サイトにも投稿しています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

チートスキルを貰って転生したけどこんな状況は望んでない

カナデ
ファンタジー
大事故に巻き込まれ、死んだな、と思った時には真っ白な空間にいた佐藤乃蒼(のあ)、普通のOL27歳は、「これから異世界へ転生して貰いますーー!」と言われた。 一つだけ能力をくれるという言葉に、せっかくだから、と流行りの小説を思い出しつつ、どんなチート能力を貰おうか、とドキドキしながら考えていた。 そう、考えていただけで能力を決定したつもりは無かったのに、気づいた時には異世界で子供に転生しており、そうして両親は襲撃されただろう荷馬車の傍で、自分を守るかのように亡くなっていた。 ーーーこんなつもりじゃなかった。なんで、どうしてこんなことに!! その両親の死は、もしかしたら転生の時に考えていたことが原因かもしれなくてーーーー。 自分を転生させた神に何度も繰り返し問いかけても、嘆いても自分の状況は変わることはなく。 彼女が手にしたチート能力はーー中途半端な通販スキル。これからどう生きたらいいのだろう? ちょっと最初は暗めで、ちょっとシリアス風味(はあまりなくなります)な異世界転生のお話となります。 (R15 は残酷描写です。戦闘シーンはそれ程ありませんが流血、人の死がでますので苦手な方は自己責任でお願いします) どんどんのんびりほのぼのな感じになって行きます。(思い出したようにシリアスさんが出たり) チート能力?はありますが、無双ものではありませんので、ご了承ください。 今回はいつもとはちょっと違った風味の話となります。 ストックがいつもより多めにありますので、毎日更新予定です。 力尽きたらのんびり更新となりますが、お付き合いいただけたらうれしいです。 5/2 HOT女性12位になってました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性8位(午前9時)表紙入りしてました!ありがとうございます! 5/3 HOT女性4位(午後9時)まで上がりました!ありがとうございます<(_ _)> 5/4 HOT女性2位に起きたらなってました!!ありがとうございます!!頑張ります! 5/5 HOT女性1位に!(12時)寝ようと思ってみたら驚きました!ありがとうございます!!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...