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第六章 俺様、東方に行く
6、物事には限度というものがあるだろうが!
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「美味いっ! 何だこれ?!」
口に含んだ途端チェーザーレが叫ぶ。こいつ普段は無口なくせに、要さんの料理を食べた時だけは大声出すな。
呆れつつ俺も口に含む。その瞬間、じゅわっと肉汁とたれの味が口の中に広がり、後から山椒のピリリとした風味が口の中で弾ける。ヤバい、美味い。尻尾がブンブン動くのが自分でもわかる。俺は犬じゃないのにこんな尻尾振るとか恥ずかしい、と思いつつ止められない。
「ふふっ。口に合ったみたいで良かったです。これは山椒の佃煮を作る際に出た煮汁で猪肉を炒めて、野菜と佃煮と一緒にパンで挟んでみました」
「私もお手伝いしましたの。どうですかリージェ様?」
『うむ、美味い。いくらでも入るな』
「嬉しいですわ! まだまだたくさんありますの! どんどん召しあがてくださいませ」
そう言ってルシアちゃんがドサドサと俺の前の皿に佃煮サンドを積み上げる。
あのな、確かにいくらでも入るとは言ったが、物事には限度というものがあるだろうが!
固パンは日保ちもするが腹持ちも良い。俺の体躯だと2個で十分事足りる。
表面は固いが中はたれを吸って柔らかくとてもうまかった。が、日本人としてはやっぱり米が欲しいな。
「お米が欲しくなりますねぇ」
「米? 何だそれは?」
俺の気持ちを代弁したかのように要さんがポツリと言う。小さな声だったにも関わらず聞き取ったバルトヴィーノが食べ物かと聞いている。
「えっと、小麦粉があるなら原料となる麦もありますよね? それと似た形状の穀物です」
「う~ん、麦に似ていて麦とは違うものねぇ」
「聞いた事がないですね……」
どうやら誰も聞いた事が無いらしい。
リンゴとミントの他に米も探すリストに入ったのは言うまでもない。
食事が終わるといよいよ村に入る。
門扉は閉ざされたままだったが、近づくうちに蹄の音に気付いた村人が開けてくれた。
「あんた達、この村に何の用だ?」
「私たちはオーリエンの首都へと向かう途中なのです。物資の補給をさせていただければと」
出てきたのは、竹槍で武装した村民。遠目では気づかなかったけれど、塀も門扉も少し覗いて見える村内の建物も竹で作られているようだった。
着ている服はアイヌ系の民族衣装にも似ている。不思議な模様に染め抜かれた服だ。
アルベルトが身分証と勅書を見せると、ベルナルド先生の髪色に目を細めながらも中へ通してくれた。
「金髪に民族衣装って違和感半端ないな」
「ダメだよ、楓。ここは日本じゃないんだから」
要さんが慌てて1号を隠すが、見つからずに済んだようだ。1号はどっからどうみてもモンスターだからな。
門衛の青年は、クドクドと注意事項を伝えてくる。
「それから、その竜。従魔のようだが、決して目を離すなよ」
「この子は誰かを意味もなく襲ったりしませんわ」
あまりの話の長さにうんざりしかけた頃、急に話の矛先が俺に変わる。
ムッとした様子でルシアちゃんが反論すると、いやそれもそうだがそうじゃないんだ、と青年は声を潜める。
「実はな、今ちょっと面倒な奴が領内視察として来ていてな」
「面倒な奴、ですか。領内の視察ということはこの辺りの権力者なのでしょうか?」
エミーリオの問いかけにシッ、と青年は慌てて口に手を当てる。
大っぴらに言うと不敬罪で処刑されることもあるから名前も言えない、という言葉がエミーリオの質問を肯定していた。
青年が言葉を濁しながら言った内容をベルナルド先生が補足しながらまとめると、竜はこの国でも聖竜を始め神聖視されていて、同時に権力の象徴でもあるそうだ。女神の使者たる竜に認められた俺SUGEEEEってやつだな。
なもんだから竜を捕まえて献上したいって奴は山ほどいるらしい。で、今ここに来ている権力者はどちらかというと出世や名誉より富を望むようで。証拠がないが女子供を拉致して奴隷商に売っているという噂まであるらしい。
そんな奴が俺を連れた見目麗しいルシアちゃんを見たらどうなるか、推して知るべし。
『ふむ、教えてくれて感謝する。俺様とルシアは馬車内に籠り姿を隠すよう気を付けよう』
「セントゥロと違う文化の村を探索するのが楽しみでしたのに、残念ですわ」
「大変失礼をしました! まさか本物の聖竜様とは。いや、こちらこそ、歓迎できず申し訳ありません。女神の加護を」
青年は俺が念話を送った事に目を見開いて驚き、旅の安全を祈ってくれた。
最初はちょっと感じが悪いと感じたが、聞かれたらまずいだろうに情報や忠告をくれたりして親切だった。
ついでにとアルベルトがこの村で薬草や果物などを調達できる店はあるかと聞いている。
「この通りを暫く進むと左側に青色の旗が出ている店がある。この村で買物ができるのはその雑貨店だけだ。食料品はそこで足りなければ隣が食堂だから、融通してもらえないか聞いてみると良い。ただ、小さな村だ。買占めはやめてくれ」
わかりやすく教えてくれた青年に再び礼を言うとその店に向かう。
「これは、二店舗を覗いて早々に出立したほうが良さそうですね」
「ああ。二手に分かれてさっさと離れよう」
エミーリオの言葉にアルベルトが同意し、テキパキと分担を指示すると店の前に馬車をつけた。
口に含んだ途端チェーザーレが叫ぶ。こいつ普段は無口なくせに、要さんの料理を食べた時だけは大声出すな。
呆れつつ俺も口に含む。その瞬間、じゅわっと肉汁とたれの味が口の中に広がり、後から山椒のピリリとした風味が口の中で弾ける。ヤバい、美味い。尻尾がブンブン動くのが自分でもわかる。俺は犬じゃないのにこんな尻尾振るとか恥ずかしい、と思いつつ止められない。
「ふふっ。口に合ったみたいで良かったです。これは山椒の佃煮を作る際に出た煮汁で猪肉を炒めて、野菜と佃煮と一緒にパンで挟んでみました」
「私もお手伝いしましたの。どうですかリージェ様?」
『うむ、美味い。いくらでも入るな』
「嬉しいですわ! まだまだたくさんありますの! どんどん召しあがてくださいませ」
そう言ってルシアちゃんがドサドサと俺の前の皿に佃煮サンドを積み上げる。
あのな、確かにいくらでも入るとは言ったが、物事には限度というものがあるだろうが!
固パンは日保ちもするが腹持ちも良い。俺の体躯だと2個で十分事足りる。
表面は固いが中はたれを吸って柔らかくとてもうまかった。が、日本人としてはやっぱり米が欲しいな。
「お米が欲しくなりますねぇ」
「米? 何だそれは?」
俺の気持ちを代弁したかのように要さんがポツリと言う。小さな声だったにも関わらず聞き取ったバルトヴィーノが食べ物かと聞いている。
「えっと、小麦粉があるなら原料となる麦もありますよね? それと似た形状の穀物です」
「う~ん、麦に似ていて麦とは違うものねぇ」
「聞いた事がないですね……」
どうやら誰も聞いた事が無いらしい。
リンゴとミントの他に米も探すリストに入ったのは言うまでもない。
食事が終わるといよいよ村に入る。
門扉は閉ざされたままだったが、近づくうちに蹄の音に気付いた村人が開けてくれた。
「あんた達、この村に何の用だ?」
「私たちはオーリエンの首都へと向かう途中なのです。物資の補給をさせていただければと」
出てきたのは、竹槍で武装した村民。遠目では気づかなかったけれど、塀も門扉も少し覗いて見える村内の建物も竹で作られているようだった。
着ている服はアイヌ系の民族衣装にも似ている。不思議な模様に染め抜かれた服だ。
アルベルトが身分証と勅書を見せると、ベルナルド先生の髪色に目を細めながらも中へ通してくれた。
「金髪に民族衣装って違和感半端ないな」
「ダメだよ、楓。ここは日本じゃないんだから」
要さんが慌てて1号を隠すが、見つからずに済んだようだ。1号はどっからどうみてもモンスターだからな。
門衛の青年は、クドクドと注意事項を伝えてくる。
「それから、その竜。従魔のようだが、決して目を離すなよ」
「この子は誰かを意味もなく襲ったりしませんわ」
あまりの話の長さにうんざりしかけた頃、急に話の矛先が俺に変わる。
ムッとした様子でルシアちゃんが反論すると、いやそれもそうだがそうじゃないんだ、と青年は声を潜める。
「実はな、今ちょっと面倒な奴が領内視察として来ていてな」
「面倒な奴、ですか。領内の視察ということはこの辺りの権力者なのでしょうか?」
エミーリオの問いかけにシッ、と青年は慌てて口に手を当てる。
大っぴらに言うと不敬罪で処刑されることもあるから名前も言えない、という言葉がエミーリオの質問を肯定していた。
青年が言葉を濁しながら言った内容をベルナルド先生が補足しながらまとめると、竜はこの国でも聖竜を始め神聖視されていて、同時に権力の象徴でもあるそうだ。女神の使者たる竜に認められた俺SUGEEEEってやつだな。
なもんだから竜を捕まえて献上したいって奴は山ほどいるらしい。で、今ここに来ている権力者はどちらかというと出世や名誉より富を望むようで。証拠がないが女子供を拉致して奴隷商に売っているという噂まであるらしい。
そんな奴が俺を連れた見目麗しいルシアちゃんを見たらどうなるか、推して知るべし。
『ふむ、教えてくれて感謝する。俺様とルシアは馬車内に籠り姿を隠すよう気を付けよう』
「セントゥロと違う文化の村を探索するのが楽しみでしたのに、残念ですわ」
「大変失礼をしました! まさか本物の聖竜様とは。いや、こちらこそ、歓迎できず申し訳ありません。女神の加護を」
青年は俺が念話を送った事に目を見開いて驚き、旅の安全を祈ってくれた。
最初はちょっと感じが悪いと感じたが、聞かれたらまずいだろうに情報や忠告をくれたりして親切だった。
ついでにとアルベルトがこの村で薬草や果物などを調達できる店はあるかと聞いている。
「この通りを暫く進むと左側に青色の旗が出ている店がある。この村で買物ができるのはその雑貨店だけだ。食料品はそこで足りなければ隣が食堂だから、融通してもらえないか聞いてみると良い。ただ、小さな村だ。買占めはやめてくれ」
わかりやすく教えてくれた青年に再び礼を言うとその店に向かう。
「これは、二店舗を覗いて早々に出立したほうが良さそうですね」
「ああ。二手に分かれてさっさと離れよう」
エミーリオの言葉にアルベルトが同意し、テキパキと分担を指示すると店の前に馬車をつけた。
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