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第四章 俺様、西方に行く

14、ちびきのこネットワーク恐るべし!

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「落ち着けよ。彼らはただ命令に従ってただけだ」
『暴虐な愚物を止めなかったのであれば同罪であろう』
「そうかもしれんがな……人間にはどうしようもない時ってのが多々あるんだよ。やり直しのチャンスをやれ。それができてこそいい男ってやつだ」

 納得はできないししたくもないが、更生の可能性があるものまで無差別に手をかけるのはあのおっさんと同じだと言われ、殺してやりたい欲求を無理矢理飲み込んだ。
 その間兵士達は平伏したまま、微動だにしない。

『ふん、命拾いしたな兵士ども。貴様らは女神がこの世界を救うために遣わした者を手にかけた、つまり、女神の慈悲に唾をかけたのだ。貴様達こそ黒の使徒だと断罪されるべきだと知れ』
「汚名を雪ぎたければ、民を大事にすることだ。お前達の着ている服は、装備品は、口に入る食料は民が作ったものだ。貴族ではない。民がいなければ金などあっても世の中は回らない。次にどっかの貴族が無体を働いているようなら全力で諫めろ。でなければお前達にも天罰が下る、と聖竜殿は言っている」
「ははぁーっ」

 俺の言葉をちびきのこが勝手に翻訳し、その言葉に兵士達は更に身を低くしている。
 これで彼女も浮かばれると良い。こっちの世界に召喚なんてされなければ、今日も明日も笑って生きていたはずなんだ。

 どうか安らかに、と両手を合わせる。
 ん? あれ、そういや何で俺こんな怒ってたんだ? 武谷さんとは特別仲良かったわけでもないのに。

 ふと、武谷さんに巻き付いている紐に気が付いた。
 外そうとしたらフリストに慌てて止められる。
 何でも、聖別したこの紐が結界となることで、死者がモンスター化して蘇るのを防いでいるらしい。腐敗していないのは結界の副作用か?


「そろそろ良いかしら?」

 首を傾げていると、またいつの間にかきのこの奥さんが立っていた。この人、本当に気配がない。
 再びこちらに来るのは6日後と言っていたから、てっきり回収した遺体を例の村まで持っていって安置するのかと思っていたのだが、ちびきのこが本体に連絡したようだ。
 頻繁に来ないのはきのこ本体であって、異世界旅行のスキル持ちの奥さんは随時来てくれるそうだ。

 フリストは奥さんを見た途端、涙を流しながら片膝をついて祈りのポーズを取っていた。
 女神様、と聞こえたけれど気のせいだろう。女神がきのこごときの奥さんなわけない。美人なのは確かだけどさ。

「じゃあルナ、よろしく」
「ええ。それとなく発見されやすい場所に連れて行くわ」

 ルナ、と呼ばれた奥さんは遺体を姫抱っこで受け取るとスゥッと消えていった。
 ルナさんを女神と勘違いしたことで、フリストからの崇拝がヤバい感じになった。明るくなったらとっととずらかろう。

 ちょっとしたトラブルは起きてしまったが、こうして俺達はここオチデンの目的をあっさりとクリアーした。


『それにしても、エミーリオは今回大人しかったな』

 正義感の強い男だ。真っ先に暴れ出すかと思っていた。

「他国の問題ですし。勇者様を手にかけたことは許し難いですが、聖竜様を差し置いて報復するわけにもいきませんし」

 実際自分が出しゃばるまでもなかったですし! と妙にキラキラした顔のエミーリオ。
 今、俺達はアッファーリの関所を抜け、街道を北東へと向かっている。
 来た時と同様商隊の馬車が抜き去っていく横を、ゆっくりのんびり歩く人達に紛れながら馬に揺られている。

「そうだ! フリスト司祭よりこれをお預かりしたのです」
『何だそれは?』

 エミーリオが胸元から取り出したのは羊皮紙を巻いたもの。
 これからノルドへ向かうこと、ノルドの勇者も死んでいるらしいことを伝えたところ、遺体を回収しやすいようノルドの司祭に向けて紹介状を書いてくれたそうだ。いつの間に。

『てっきりついてくるかと思っていたが』
「アハハッ。聖竜様、人には仕事や立場など簡単に捨てられないものがあるのですよ」
『貴様が言うな』

 何もかも捨てて追いかけてきたくせに!
 昨日からのしんみりとした雰囲気を吹き飛ばそうとでもするかのようにエミーリオがけらけらと笑う。ここは俺も乗っかっておこう。

 大声で笑う、というか俺の念話はエミーリオときのこにしか発信してないから傍目にはエミーリオが一人でゲラゲラ笑うのを見た周りの人達が少しずつ離れていく。
 まぁ、これで人目を気にせず話せるか?


「うん、うん? ほうほう」
『どうした?』

 ちびきのこが頷いたり、急に独り言が大きくなった。

「昨日の連中、さっそく腐った貴族体制を変えるべく動き出したってさ」

 何でも、不正の証拠を集め出してさらに上位の貴族へ陳情をしようとしているらしい。
 同時に昨夜聖竜の言葉とともに女神の降臨を見た、即ち女神様が味方についていると民衆を引き込もうとしているのだと。

「数はそれだけで力になります。アッファーリはこれから変わるでしょう」
「お前があの時彼らを許したからこそだ」

 確信したようなエミーリオに、ちびきのこがサムズアップして見せる。
 何でアッファーリの様子知ってるの? と聞いたら分体をあちこちに放ってきたらしい。
 ちびきのこネットワークおそるべし!
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