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第一章 俺様、ドラゴンになる

6、屋内の探索にでも行ってみるか

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 さて、ルシアちゃんを起こさないようにそっと屋内の探索にでも行ってみるか。
 幸い、ドアノブは回すタイプではなく下に押すタイプのだった。脚で開けて出る。
 ドアの外は廊下が左右に伸びている。すぐ右側は扉だ。左側に伸びる廊下の先に窓があり、そこから月の光だろうか、和かな光が入ってくるからそこまで視界に困らない。

 どっちから行くかな。取り敢えず、ドアを片っ端から開けていくか。
 俺はすぐ右手のドアを開けた。


「教会だ……」

 そこは、礼拝堂だった。奇しくも、俺が神殿のようだ、と感じたのは当たっていたのである。
 扉を出てすぐ右手に、地球での聖母像に似たヴェールを被った女性の像が置いてある。この像がこの世界の主神、ということだろうか。

 両壁には窓ガラスが三対合計六枚はめ込まれており、やはり視界には困らないだけの光量がある。ガラスはステンドグラス風ではなく、一枚の透明ガラスだ。昔、ステンドグラスはこのような大きな一枚ガラスを用意できないが故に細かな色ガラスをはめ込んだと聞いた事があるから、それだけ技術が発達している世界なのかもしれない。

 正面には大きな両開きの扉。地球で見たような天井絵や礼拝机、パイプオルガンといったものは見受けられず、シンプルな空間だ。埃臭さなどは一切なく、澄んだ空気にここが聖域であることを感じさせられる。

「この世界の神よ、暗黒破壊神たる俺様が挨拶に来たぞ。本来ならば貴様のほうから来るのが筋というものだろうに。まあ良い、俺様は優しいからな。何故俺様をこちらに呼んだか、何をさせたいのか説明する許可をくれてやろう」

 パタパタと像の前に行くが、勿論返事などあるわけがなく。

「ふん、所詮は像か」

 一応正面の扉も確認しておこう、と開けてみたら、どこまでも森が広がっていた。今は屋内探索の予定なのでそっと閉め踵を返す。っていうか鍵かけないとか不用心だな!

 再び来たドアを出て廊下へ。この礼拝堂以外はドアが全て左側、右側は壁になっている。明り取りの窓は正面だけだ。
 最初のドアはルシアちゃんの眠る寝室だからそのまま通り過ぎて二番目のドアを開ける。


 ドアの正面は小さい明り取り用の窓。窓の下と両壁には棚が備え付けられ、樽やら篭やら甕やらが多数置かれている。どうやらここは貯蔵庫らしい。ん? 貯蔵庫……? 嫌な予感。
 蓋のされた甕の中から何やらカサカサと蠢く音が。思い浮かぶのはあの黒い悪魔の姿。

 どうする? 蓋を開けて確かめる……? いやいや、よく考えろ、俺。アレが大量に詰まっていたらどうするんだ? そうでなくてももし顔に飛んで来たら?


 ゾワッ

 
 全身に悪寒が走る。無理無理無理。想像するだけでダメだわ。あああああ、あれはもはや生きる災害なのだ。触らぬ甕に障りなし。レベル上げはどうしたって? ふん、何とでも言え。

「今日は、この辺にしておいてやる!」

 そっと貯蔵庫を後にする。さ、次の部屋行こうっと。


 貯蔵庫の隣は食堂だった。部屋の真ん中で仕切られ、こちら側にテーブルと椅子。向こう側は床板が貼られておらず剥き出しの地面で、仕切りに接するように調理台と竈がある。仕切りはそれほど高くなく、調理の煙避けとしての機能はなさそうだ。
 調理台の更に奥、扉の正面は寝室と同じく外に出られる大きなガラス戸。室内を煌々と照らす三つの月が見えた。

「月が三つとは……道理で明るいはずだ」

 ああ、俺、本当に異世界にいるんだなぁ、としみじみ実感。
 この部屋には特に何もないようだ。次行こう。

 食堂の隣は洗い場のようだ。大きな木製のたらいに、昔話で見るような洗濯板がある。すぐに外に行けるようにか、ここもドアの正面が大きなガラス戸になっていて、ガラス戸に近い右側の壁に石を削ったような台があり水が張ってある。
 それ以外の壁は棚が備え付けてあり、綺麗に畳んだ白布のほか、篭が置いてある。ここも特に興味を惹かれるものは無かったな。

 その隣の部屋は日中入れられた風呂だ。既に見ているので飛ばす。
 さらにその奥。最後の扉だ。中は……トイレだ。しかも汲み取り式の。
 恐らく、汲み取った糞尿をすぐに外に出せるように、だろう。ここも奥の壁に扉が備え付けてあった。



 屋内の部屋はこれで全部か。
 わかったのは、ここが確かに異世界であること。それなりに技術が発展しているということ。そして、ルシアちゃんがここで一人で暮らしているってこと。寂しかったろうなぁ。周りに家もないし。


 一通り探索して疲れたし、もう一度寝るか。
 それにしても……貯蔵庫でカサカサいっていた甕……食事として当たり前のように持ってこられたアレ。恐怖の対象でしかないアレをニコニコと菜箸であっさりと掴んで見せていたルシアちゃん。
 まさか、ルシアちゃんの主食もアレとか言わないよな……? もしそうなら美少女なのに幻滅である。


 そんな恐ろしい想像を振り払うように首を振ると、俺はちゃっかりとルシアちゃんの布団に潜り込んで眠るのだった。
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