配達人~奇跡を届ける少年~

禎祥

文字の大きさ
上 下
47 / 64
三通目 親子の情

#10

しおりを挟む
「さて、大谷さん。長嶋慶太君、中にいますね?」

 今だけは好きなだけ泣かせてあげたい、という雰囲気になっていた僕は、その声で我に返る。
 そうだ。慶太君を探しに来たのだった。
 おじさんに声をかけられたお姉さんは、力なく頷いた。

 ふらり、と立ち上がったお姉さんに案内された室内には、無邪気にすやすやと眠る慶太君がいた。
 

 その後やってきたお巡りさんが二人、心配になるくらい元気のないお姉さんを支えて連れて行った。瑛太君とのお別れを悲しむ間もなかった。
 僕と慶太君は、おじさんを迎えに来たという若いお兄さんに車に乗せられて家に帰った。慶太君は慶太君の家に。僕は僕の家にだ。

 道中、こんな非現実なこと、報告書に何て書けばいいんだとかおじさんが呻いていたから、たまたま見つけたってことにすれば良いんじゃない? と言ったら睨まれた。ちょっと怖い。

 
「ただいま……」
「お帰り、香月。そちらの方は?」

 家に入ると、お父さんが出迎えてくれた。お父さんだ! 帰ってきたんだ!

「お帰り! お父さん!!」

 思わず飛びついてぎゅっと抱きつくと、それまで少し疲れたような顔していたお父さんがびっくりした顔になって、それから嬉しそうに微笑んでくれた。

「香月、今、お父さんって……ただいま」

 嬉しそうに抱き返してくれるから、僕も嬉しい。恥ずかしがっていないで、もっと早くに呼んであげたら良かったな。

「今日はどこで何をして遊んできたんだい? そっちの人は新しいお友達?」
「ううん、違うよ」

 あ、忘れてた。
 僕を送ってくれたおじさんが、何故だかついてきていたのだった。

「西山と申します。今回は香月君には捜査協力をしていただきまして」

 警察手帳をカパッと開いて見せながらおじさんが言う。
 捜査協力? おじさんにはついてきてもらっただけだよ?

「か~つ~き~?」

 どういうことかな? とお父さんが言う。笑顔なのに怖い。

「だ、だって、お父さんすぐ帰ってくるって言ったのに。朝起きてもいなかったから。だから……」
「香月君が、慶太君を探し出してくれたんです」

 お父さんに気圧されたのか、おじさんが若干引きながら助け舟を出してくれる。
 僕がパパとママの家に行った所から順を追って、僕がお父さんを返してって言ったことまで。
 黙って話を聞いていたお父さんは、ふぅ、とため息を吐いた。

「西山さん、でしたか。今回の件、香月が関わったということは伏せていただけませんか?」
「それは……いやしかし、香月君が瑛太君を見つけたということは既に多くの捜査員の知るところです。確かに、具体的にどうやって見つけたかと聞かれると説明に困る案件ではありますが……」

 おじさんは、僕の存在を隠すのは無理だとはっきり言った。

「だからですよ。香月が疑われたり、気味悪がられたりして欲しくないんです。この子は、これまでそういう苦労をしてきたので……」

 僕を心配しているらしいお父さんの言葉を、凄く嬉しく思う。
 お父さんだってきっと瑛太君の事で疑われていて嫌な思いをしたはずなのに、自分の事よりも僕の事を気にしてくれている。

 それでも、僕が瑛太君を見つけたということはもう隠せないというおじさん。
 しばらくお父さんと言い争っていて、最終的にはおじさんが折れた。
 結局、僕が「偶然慶太君があのマンションに知らないお姉さんと入るところを見かけた」ものとして処理してくれるらしい。
 僕が見つけたっていう点は隠せないから、せめてどうやって見つけたかを隠すというお父さんの案をおじさんが了承したのだ。しかも、あくまで報告書上でのことで、僕が関わったことは公表はしないと約束してくれた。


「さて、香月。そこに座りなさい」

 おじさんが帰っていった後、お父さんに居間の椅子に座るよう促された。
 おじさんと話し合っていた時と同じ、ピリピリした空気だ。な、何か怒ってる……?

「俺が何で怒っているかわかる?」

 あ、やっぱり怒ってるんだ。
 プルプルと横に首を振ると、デコピンされた。

「慶太君を探しに行ったことだよ。何で警察に任せなかった?」
「だ、だって、お父さん、朝には帰ってくるって言ったのに、帰ってこなかったから……」
「もし、慶太君を攫ったのが、凶悪な殺人鬼だったらどうする? 俺は、香月が事件に関わったってさっき聞いて、凄く心配した」
「……ごめんなさい……」

 助けようと頑張ったのに、怒られてしまった。
 嫌われたら、どうしよう?
 溜息を吐いてお父さんが立ち上がるので、ビクッとしてしまった。

 そんな僕に近づくと、お父さんが抱き寄せてくれた。

「でも、俺のために頑張ってくれたんだな。ありがとう。香月が無事に帰ってきてくれて良かった」

 さっきまで怒っていたとは思えない、いつもの優しいお父さんで。
 僕は安心して結局泣いてしまった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...