配達人~奇跡を届ける少年~

禎祥

文字の大きさ
上 下
34 / 64
二通目 水没の町

#16

しおりを挟む
 夢を見た。
 僕が縮こまって泣いている。
 その僕を、パパとママが責め立てる。

「お前は化け物だ」
「何で私達からお前のような化け物が生まれたんだ」

 お前は人間じゃない。生きていてはいけない存在だ。
 そんな言葉が次々とパパとママから飛び出してくる。
 夢だからか、姿も朧気で、ただ黒い人影に洞のようなものが三つ空いただけのようにも見える。
 でも僕ははっきりと、それがパパとママだってわかるんだ。

「僕は、化け物」

 化け物。死んでしまえ。笑うな。幸せになれるはずがない。
 そんな言葉を言われるたびに、僕自身の姿がどんどん醜く歪んでいく。

「お前は、化け物じゃないよ。その力だって、誰かを幸せにするために神様がプレゼントしてくれたものだ」

 ふいに優しい声がして、ぎゅっと手を握られた。
 辺りが明るくなって、僕が僕に戻っていく。

「だから香月。もう自分を責めなくって良いんだ」

 いつの間にかパパとママは消えていて、優し気な男性が微笑んでいる。

「幸せになって良いんだ。香月が笑ってくれると、俺は嬉しい」
「誰?」
「もう一度言うよ、香月。俺の子供になって。俺と一緒に、幸せになって」

 そして思い出す。
 これはあの日、初めて要と会った時に病室で言われた言葉。
 そう言えば、あの時も要は僕の手を握ってくれていたっけ。

 心が温かくなるのを感じながら、僕は目を覚ました。




「あ、起きた。そろそろ起こそうと思ってたんだ」

 いつの間にか家に着いていて、居間のソファで寝かされていた。
 湯上りでさっぱりした様子の要が僕の頭を撫でていた。

「もうっ、寝てるところずっと頭撫でてるとか。子供扱いやめてくれる?」
「子供扱いも何も、子供じゃないか。早いとこお風呂入っておいで」

 最近要の距離が近い気がする。
 こういう、普通の親子っぽいやり取りはまだ慣れない。
 要に言われるままお風呂に入って泥を落として着替えると、要が早速お爺さんの家へ行こうと言ってくれた。




 シロの遺骨と首紐を包んだバンダナを持って、お爺さんを尋ねると、何だかバタバタしていた。
 知らない人が大勢来ていて、あちこちに連絡しているように見えた。

「ねぇ、何があったの?」
「あっ、香月君……? お父さんが……」

 慌ただしく動く大人達の中におばさんを見つけて声を掛けると、お爺さんが今朝息を引き取ったことを告げられた。
 僕達は、間に合わなかったのだ。

「香月、今は帰ろう。邪魔になってしまう」
「でも要! せっかく……」
「帰ろう」

 反論する僕の言葉を封じるように、要がいつもと違う厳しい声で言う。

「せっかく来てくださったのに、すいません。斎場の手配が付いたら連絡します」
「そうですか。では、こちらにお願いします」

 お爺さんの葬儀に参加してくれって言ってくれるおばさんに、要が連絡先を渡している。
 僕は呆然としたまま、要に連れられて家に帰ってきた。


 数日後、要に連れて行ってもらったお葬式で見たお爺さんは、一回り以上小さく見えた。
 とても穏やかな顔をしていて、聞こえてきた話では眠るように逝ったらしい。
 苦しくなかったのが良かった、という声も聞こえてきた。
 僕はというと。

「嫌だ。嫌だよぅ。まだ約束を果たしてない……また遊んでくれるって言ったじゃないかぁ!」

 周りの大人たちが皆お爺さんの死に納得しているようなのが許せなかった。
 シロをお爺さんに会わせるって決意が果たせない自分も許せなかった。

 お爺さんに縋り付いてボロボロ泣き喚く僕を、要が引き剥がす。
 そのまま、要に連れられて斎場を後にした。



「まだ、何も終わってないよ、香月」
「……へ?」

 泣きじゃくる僕にかけられた要の言葉に、思わず間抜けな声が出てしまった。

「シロを義夫さんに会わせるんだろう?」
「で、でも、お爺さんはもう……」
「香月の力は何だっけ?」
「僕の力……? …………あっ!」

 要が何を言いたいかやっとわかった。
 僕は何て間抜けなんだろう。

「幽霊の義夫さんはどこにいた? 斎場にいたかい?」
「……いなかった」

 幽霊のシロとお爺さんを会わせるのは、何も生きているうちでなくてもいい。
 むしろ、幽霊になったからこそ、シロの願いを本当の意味で叶えてあげられるかもしれない。
 お爺さんは、斎場にはいなかった。
 じゃあ、どこに行ったんだろう?

「まさか、成仏した?」
「それはないんじゃないか?」

 要によると、四十九日の間はまだお迎えが来ないというのが仏教の習わしらしい。
 そもそも、見晴らし台に毎日くるほどダム底の村に想いを馳せていたお爺さんがそう簡単に成仏するとは思えないって。

「探そう! お爺さんの幽霊を!」
「うん。俺には見ることはできないけど、手伝うよ」

 こうして、僕と要はお爺さんの幽霊探しを始めたのだった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません

abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。 後宮はいつでも女の戦いが絶えない。 安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。 「どうして、この人を愛していたのかしら?」 ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。 それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!? 「あの人に興味はありません。勝手になさい!」

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

【R18】もう一度セックスに溺れて

ちゅー
恋愛
-------------------------------------- 「んっ…くっ…♡前よりずっと…ふか、い…」 過分な潤滑液にヌラヌラと光る間口に亀頭が抵抗なく吸い込まれていく。久しぶりに男を受け入れる肉道は最初こそ僅かな狭さを示したものの、愛液にコーティングされ膨張した陰茎を容易く受け入れ、すぐに柔らかな圧力で応えた。 -------------------------------------- 結婚して五年目。互いにまだ若い夫婦は、愛情も、情熱も、熱欲も多分に持ち合わせているはずだった。仕事と家事に忙殺され、いつの間にかお互いが生活要員に成り果ててしまった二人の元へ”夫婦性活を豹変させる”と銘打たれた宝石が届く。

処理中です...