幼馴染たちの冒険譚

あくありお

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エピローグ 日記と新たな始まり

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――国歴――の月――日

幼馴染と出かけたあの日の事は色々な意味で忘れられない一日になってしまった。
良い意味でも悪い意味でも。

この日記の最後の日付は一ヵ月前。

一ヵ月寝たきりの状態なら体があまり思うように動かないのも当然で、しばらくは無理は厳禁で行動範囲は寝台近くだけと言われてしまった。
それでも適度に体を動かすようにと家族に言われた、どうしよう……。

食器を持つ手もまだぷるぷるするのでお姉ちゃんのあーん攻撃はしばらく続きそう……

日記を書くのだけは許してもらったけどやっぱり腕や手が辛い。
けれど習慣になったこれは辞めたくないので意地でも続ける。

この日記帳が開けて本当によかった。

――――――――――



――国歴――の月――日

夢見が悪い。
幼馴染を庇う瞬間までの記憶がそのまま夢に出てきた。

夜中に目が覚めたので控えの侍女に気付かれてしまったけど……。

冷や汗が酷かったのでお水を飲んで着替えだけ済ませてもう一度寝台に入った。

家族にまだ話していない――あの事についていつ相談できるか悩んでい内に寝てしまったようでどうするかはまだ決められてない。

夢見が悪いのはこれも関係しているのかな……。

――――――――――




――国歴――の月――日

やっと寝台から開放された。

食事も普通に出来るようになって、ようやくお姉ちゃんのあーん攻撃も無くなった。

それなのになんでお姉ちゃん……そんなに残念そうな表情をしているの……?

説明が難しいあの事についてはいつ相談しよう。

――――――――――




――国歴――の月――日

イ本 中 や゛ しl ナこ しl

うんと゛う、、、しlや、、、


――――――――――




――国歴――の月――日

やっと字がまともに書けるよう……うぅ……

お姉ちゃん、張り切るのは良いけど病み上がりの妹には、もう少し手加減をして欲しかった。

食器すら持てない状態になって、再びお姉ちゃんのあーん攻撃が……

なんでそんなに嬉しそうなの、お姉ちゃん。

まさか、これが狙いじゃないよね。

――――――――――



――国歴――の月――日

どう相談すればいいのかまだ悩んでいる。

侍女もたまにこっちをみて心配している雰囲気を感じるけどこの事じゃないよね。

まだあの夢にうなされてるときがあるからたぶんそっちかもしれない。

あとは……あの時の夢に混じってたまに見るのが、真っ黒な何もないところで体がまったく動かせない夢。

暗くて寒いのに夢の終わりにはなんか暖かいのが二つ――お姉ちゃんと幼馴染の男の子みたいな感じがしてる。

――――――――――



――国歴――の月――日

お姉ちゃんの機嫌が物凄く悪い。

私を悲しそうな目で見てるしなんであんなに怒っているのかわからない。

お父さんとお母さんは心配しなくて良いと言ってるけど、私何かしたかな。

私が悪いなら謝らないと……

――――――――――



――国歴――の月――日

お父さんとお母さんから大事な話があるって執務室に呼ばれた。

部屋にはお姉ちゃんも居たのでなんかちょっと気まずい。

話の内容はあの日の出来事についてだった。

一瞬、胸が苦しくなったけど、私の事ではなかったので安心した。

あの日三人を襲った男の依頼者と組織をまとめてせん……せん?せん何て?

要約すると全員逮捕したし良くない組織もまとめて無くなったらしい。

でも、騎士団のほうでは難航してたって聞いたけど。

依頼人は逃げられない証拠と共に捕まったって事だったし、良くない組織ってのも私達三人に負けるくらいだからたいした事はなかったってお父さんはいままで見たことのない物凄くいい笑顔でそう言ってた。
なんか雰囲気はおかしい気がしたけど……。

お姉ちゃんはなんか悔しそうにしてた。

それにしてもやっぱりお父さんとお母さんはすごい。

――――――――――



――国歴――の月――日

事件の報告があった翌日、夕食後に再び執務室に呼ばれた、お姉ちゃんもお母さんも一緒に。

今回は、私の事だった。

悩んでいることがあったら相談してほしいと言われた。

私の意図は恐らく伝わったと思う――理解されているかはわからないけど。

自分が…あの事件の前の自分と今の自分が……別人みたいに感じているってなんて説明したら……。

前の私の記憶は全て持っているけど何か別人の記憶を持っているような感じ――他の人には理解できないと思う。

うまく言葉には出来なかったけど全てを聞いたお父さん、お母さん、お姉ちゃんは……

優しく抱きしめてくれた。

いまの私には言葉じゃなく、これだけで十分伝わった。

――――――――――










――国歴――の月――日

あの日の事件からちょうど2年。

こうして日記を書いている所為なのかたまに思い出すあの日の出来事。

今でも鮮明に覚えているあの時の事。

目覚めたとき、目の前に家族がいるのに感じた孤独感。

でもそれは私だけの話で、私を除く周りの人達は何も変わっていなくて……

だから、直ぐに私が何かに悩んでいるということに気付かれた。

そしてもう一つは繰り返し見る幼馴染を庇う夢。

あの夢は今でも時々見ることがあるけれど夢だと認識したら怖くなくなった。

――あの日から幼馴染にも会えてないからちょっとだけ寂しい。

会いたいな……。

――――――――――

「よし……」

昔お父さんが発掘してきたという遺物フォウラシータらしい黒い装丁のに書き込みを終えると、途中で思い浮かべていた絵が浮かび上がる。

この日記帳、初めは3つ上の兄が使っていたらしい。
けれど書く頻度と手間から私たちに、と誕生日に貰ったものだ。

頁は無限に増えるらしいし、日記を書いている時に思い浮かべた風景が浮かび上がるという日記を書く上で非常に便利な物だ。

何気ない日常を綴ったり、忘れたくない事を書いてたりすることもあるけど、貰ったその日からずっと書き続けているくらいには習慣になっている。

日記を書いてないのはあの日から目覚めるひと月ちょっとの間だけ。

体調の関係で書くことが難しかった日もあったけど……。


あとは私の感じていた異常について。

両親に打ち明けた後、先生や家族を交えて私に起きた感覚のズレ――難しい説明は省くとして――結論から言えば、傷を塞いだアニモと元々アニモの差が原因で生じたズレが原因、つまり『行使した術の副作用じゃないか』ということだった。

この事例の少ない術を二つ受けて生きているという体験は貴重な事例として一応記録には残すらしい。

私としてはこんな形でひっそりと私自信の記録が残ることに難色を示したが一応配慮はしてくれるらしい。



お兄ちゃんから貰ったこの日記帳のお陰で結果的に私は救われた。

日記を書き終え、閉じると薄っすらと光るのが見えた。
開くとき、閉じるとき毎回起きる現象なのでもう気にしなくなったが改めてみると不思議なものだ。

ふと思い出して日記帳を開き、あの日――目覚めた日の事を記した頁をめくる。
いま、私の中にはこの時の不安はない。

それだけを確かめて再び閉じると日記帳を机の中に仕舞い、部屋を出た。


――日が登ればまた新しい一日が始まる。
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