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2本目 「同窓会」
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「○○中学校同窓会のご案内」
男はかれこれメールフォルダを5分以上眺めている。
遂に男は決断し、「返信」をクリックした。
そこは地元の居酒屋だった。
騒がしい店内には懐かしい顔が並んでいる。
久々に会った同級生達は、平たく言うと歳をとっていた。地元の役所に勤めた者、都会で働く者、結婚した者までいた。
皆一様に久々の面会に喜び、近況報告や思い出話に花を咲かせる。
男は席に着いてアルコールを口に含む。
他人の「今」を知ると、否応に自分の「今」と比べられる。誇れるものも守るものもない。ただ、重たい荷物を持ち、満員電車に揺られながら、知らず知らずのうちに積もり重なった見栄や虚勢を引きずりながら汚れた都会を笑顔の面をつけて生きる毎日だった。
込み上げてくる劣等感を飲み込むようにハイボールを流し込んだ。
どのくらい時間はたっただろうか。
久々に人と話し酒を飲んだからだろうか、大分酔いが回った。
少し夜風に当たるために外に出た。
秋の夜にしては生暖かい風が吹いていた。
そこには煙草を銜えた女がいた。
誰かわからなかった。少し悲しげな目で、静かに煙草を吸っていた。焦げ臭い煙と妙に甘ったるい香水が混じって夜風に吹かれ漂ってきた。
纏められた黒い髪をなびかせて振り向き女は僕の名前を呼んだ。
その女は中学時代あまり目立つ方ではない女で、ハッキリ言って印象が薄い。二人きりで並んで何も話さないのも気まづく思い、必死に言葉を探した。
「今どこで働いてんの?」
女は灰を落としながら答える。
「東京だよ。OLやってる。××君は?」
「俺も東京でリーマンやってる。上司には怒られるし、休みは少ないし、しょうもない毎日だよ。」
「私もそんなもんよ。」
「お互い大変だな。」
「私ね、作家になりたかったんだ。」
酒に当てられたのか、女が語り出す。
「中学時代から、文字を読むのが好きだった。書くのも。東京に出た時は『ここで物書きになるんだ!』って意気揚々としてたなー。」
「急にどうしたの?酔ってる?」
女は1冊の汚れた冊子を男に渡した。
「これ、中学の文集。将来の夢書いてあるの。皆の話きいて、これみたら…なんかやるせないなーって。ほら君のも書いてあるよ。」
この女もまた自分と同じであるのだと男は思った。
夢を抱き都会に出て、日常を生きる中でその色を失い、やがて夢を考えることも辞める。
薄汚れた冊子の中の自分は何を思うだろう。
懐かしく、どんなに願っても戻ることの無い日々に思いを馳せる。
乾いた頁を捲り、男は恐る恐るかつての自分が書いた将来の夢を探した。
男はかれこれメールフォルダを5分以上眺めている。
遂に男は決断し、「返信」をクリックした。
そこは地元の居酒屋だった。
騒がしい店内には懐かしい顔が並んでいる。
久々に会った同級生達は、平たく言うと歳をとっていた。地元の役所に勤めた者、都会で働く者、結婚した者までいた。
皆一様に久々の面会に喜び、近況報告や思い出話に花を咲かせる。
男は席に着いてアルコールを口に含む。
他人の「今」を知ると、否応に自分の「今」と比べられる。誇れるものも守るものもない。ただ、重たい荷物を持ち、満員電車に揺られながら、知らず知らずのうちに積もり重なった見栄や虚勢を引きずりながら汚れた都会を笑顔の面をつけて生きる毎日だった。
込み上げてくる劣等感を飲み込むようにハイボールを流し込んだ。
どのくらい時間はたっただろうか。
久々に人と話し酒を飲んだからだろうか、大分酔いが回った。
少し夜風に当たるために外に出た。
秋の夜にしては生暖かい風が吹いていた。
そこには煙草を銜えた女がいた。
誰かわからなかった。少し悲しげな目で、静かに煙草を吸っていた。焦げ臭い煙と妙に甘ったるい香水が混じって夜風に吹かれ漂ってきた。
纏められた黒い髪をなびかせて振り向き女は僕の名前を呼んだ。
その女は中学時代あまり目立つ方ではない女で、ハッキリ言って印象が薄い。二人きりで並んで何も話さないのも気まづく思い、必死に言葉を探した。
「今どこで働いてんの?」
女は灰を落としながら答える。
「東京だよ。OLやってる。××君は?」
「俺も東京でリーマンやってる。上司には怒られるし、休みは少ないし、しょうもない毎日だよ。」
「私もそんなもんよ。」
「お互い大変だな。」
「私ね、作家になりたかったんだ。」
酒に当てられたのか、女が語り出す。
「中学時代から、文字を読むのが好きだった。書くのも。東京に出た時は『ここで物書きになるんだ!』って意気揚々としてたなー。」
「急にどうしたの?酔ってる?」
女は1冊の汚れた冊子を男に渡した。
「これ、中学の文集。将来の夢書いてあるの。皆の話きいて、これみたら…なんかやるせないなーって。ほら君のも書いてあるよ。」
この女もまた自分と同じであるのだと男は思った。
夢を抱き都会に出て、日常を生きる中でその色を失い、やがて夢を考えることも辞める。
薄汚れた冊子の中の自分は何を思うだろう。
懐かしく、どんなに願っても戻ることの無い日々に思いを馳せる。
乾いた頁を捲り、男は恐る恐るかつての自分が書いた将来の夢を探した。
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