瞳の奥には

瞳の奥には

林進が新人教育をしていた頃、社長は機械製図室にいた。

    「ありがとうございました社長。
林先輩を機械製図室から新人教育係に移動させていただいて本当に助かりました。

林先輩はいつも僕達後輩を無能呼ばわりして馬鹿にして自分の自慢ばかりで、本当に僕達は困っていました。機械製図室はみんな林先輩に気を遣って社員の
みんなもぎすぎすして居心地が悪いし、仕事もやりずらいし……。林先輩はみんなから嫌われていました。

機械製図室の南部長もほとほと困り果てていて
上司の南部長は林先輩にわざと難しい仕事を任せて
仕事のやり方を教えないという嫌がらせまでしていました。あの優しい南部長が……。

でも林先輩、何か変なんです。

南部長に
「林君きみはこんな仕事もできないのかね」
そう言われたのに。
普通なら自分は嫌われているのかと思いますよね？
それなのに林先輩は「わざと私を試しているんですね。私は優秀ですから頑張って出来るようにしてみせます」そんな事を言ってるんです。

あくまでも自分が誰よりも優れていると勘違いしてるんです。本当に南部長もこまっていましたよ」

伊勢島尾社長もこう話した。

「そうなんだよね。今日も自分は優秀なのに何で新人教育係にまわされるんだ。とか納得させるのに苦労したんだよ。

確かに資格は凄いものだけど他の社員もみんな勉強すれば必ず取れる資格なんだよ。ここに試験の申込書があるからみんなも資格を取るように。

私も林君にはほとほと困っていたんだよ。
納期に間に合わないから頑張ってくれと言ったら林君は「これは俺みたいな優秀な人間でも出来ません」そう言って会社を休むんだ、何度電話を掛けても電話に出るのはいつも奥さんで林君はいつも出ない。

いつも謝っているのは奥さんだよ。奥さんが気の毒で仕方ない。

本当は林君をクビにしたいくらいだけど社員はなかなかクビにできなくて申し訳ない。これで機械製図室は安泰だみんな頑張ってくれ」

林進はそんな話を社長がしている事も知らず、
新人教育係に抜擢された事をひたすら喜んで新人に
熱心に指導をしていた。

そして林進は


会社が終わると真っ直ぐに機械製図室に行った。

「関屋君～牛田君～君達はまだ機械製図室にいるのかね。私は優秀だからね。何て言っても大学を卒業しているからね」


そんな自慢をする為にわざわざ機械製図室に来たのか？と後輩は呆れた顔をしていた。

それどころか林進は次の瞬間驚くべき事を口にした。

「俺ミニ爆弾作れるんだぜ凄いだろう？家で作ってきちゃった」

そう言ったので、南部長は
「林君そんな爆弾なんて見せるもんじゃない‼️」
そう言って止めるのも聞かず

「見ててくださいよ。俺の手のひらに乗っているものに水を垂らしますね」


そう言うと林は、自分の手のひらに乗っている銀色の物に水を垂らした。

すると「ボン」と音がしてたしかにみに爆弾のようなものに思えた。


その場にいた社員は恐ろしい何かを見るような目で
林進の方をじっと見ていた。


その後林進は言った。

「凄いだろう俺は化学科を卒業している優秀な人間だからね。こんなの簡単だよ」
そう言ってみんなに自慢していた。

機械製図室の後輩や南部長は心底心の中で
「新人教育係に移ってくれて本当によかった
定年までずっとそっちにいてほしい」そう願っていた。


それから林進は
「今日は妻は友人のところにいるんだ。泊まりがけでね。これから飲みに行かないか？」

そう誘った林だったが後輩達は
「済みません用事がありまして」口々に理由を付けて
足早に林から離れた。

林本人は
「そうか～みんな用事があるなら仕方ないね」
そう言って会社を後にした。


それでも、林進は自分はみんなに好かれていると勘違いしていた。

そして、自分は優秀で優れていると本気で思っていた。

仕方なく会社帰りにお酒と摘まみをコンビニで買って自宅に帰って行った。


林進の家は早くに亡くなってしまった両親から譲り受けた古い一軒家だった。娘達三人はもう結婚して今は妻と二人で暮らしていた。

林進は自宅の玄関を開けた。

玄関を開けると林進は驚いた。家の中は泥棒にでも荒らされたのか？と思うくらいにぐちゃぐちゃにされていた。


「これは～いったい？うちに泥棒？まさか盗まれたものはまさか？」

林は社内の大切なでーたーを自宅のパソコンに保存していた。まさか？パソコンは無事なのか？
林は必死にパソコンを探した。

パソコンは無事だった。


林は警察に自分の携帯電話で事情を話した。

警察官はすぐ自宅を調べてくれた。

不思議な事に盗まれたものは何もなかった。
そして「猫のシール」が落ちていた。


警察官は言った。
「最近多いんですよ。ストレス発散みたいで一軒家を荒らして何も取らないと言う事件が～この猫の可愛いシールを置いて逃げているみたいなんです。目撃者がいないので犯人が捕まらないんですよ」

警察官はそう言ってパトロールを強化すると言っているように帰って行った。


「何だ、ただの悪戯か～」疲れていた林は簡単に片付けて部屋のスミでお酒と摘まみを食べてネムリニ就いた。

妻からの「もうあなたとはやっていかれない」
そんなラインにも気がつかずに……。

その他に……

林の着信履歴には声を変えた男か？女か？わからない笑い声が入っていた。

それが初めての身に覚えのない電話番号からだった。


妻と身に覚えのない着信履歴を林進が知るのは次の日の朝だった。