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見下ろす月夜

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 裏切られたと思った。
 そして、そんなことを思うほど、内心ではヨギリのことを意識していたのかと絶望した。
 柔らかな肉に頭を強く押し付けられた時、イチカはヨギリに強く当たっていたことを、今更ながらに後悔した。

「ぅ、うう……う……っ、よ、ぎり、ヨギリ……‼︎」

 肉の壁が開けて、顔を出したその場所は、真っ暗な森の中のようだった。月明かりもない、木々の間に闇を孕む黒い森。いつも、避けて通ってきた闇が、窮屈な岩屋戸を抜けた先に広がっていた。

「よぎ、り……よぎりたす、……助けてってば……‼︎」

 これなら、まだヨギリのいる暗闇の方が怖くはなかった。外気が冷たくて、暴れたことではだけた着物を戻そうにも何もできない。無理な姿勢がいつまで続くのかもわからなかった。
 腰から下を、向こう側に残したままだ。だから、ヨギリに引っ張ってもらうしかない。イチカはゴシリと涙を拭うと、震える唇を叱咤して問いかけた。

「き、聞こえるかヨギリ……。もし俺の声が聞こえたら、合図をくれ」

 その言葉からしばらくして、イチカの抜け出た壁に微かな振動を感じた。それが天啓のように思えて、暗闇に光明が刺したような気さえした。
 ヨギリの大きな手が腰に回る。もしかしたら、引っ張ってくれるのかもしれない。ヨギリはきっともう怒っていないんだと、表情に安堵を滲ませた時だった。

「あ、っ」

 かくんと肘の力が抜けて、イチカの長い髪が地べたを撫でる。 

「ぅ、う……っ……?」

 何が起きているのかわからなかった。下半身が肌寒くなったのは一瞬で、ついできたのはぬるりとした何かがイチカの尻に這わされる感覚だ。思わず力が入ってしまう。しかし、それも性器へと指を絡められれば意味もない。
 
「な……にし、て……っあ、っ」

 また、喉から上擦った声が出た。
 ヨギリの手が、イチカの尻肉を割開いたのだ。濡れた吐息が蕾を撫でて、ぞわりと背筋が痺れていく。やめろ。これは一体どう言うことだ。イチカは、子供のように足をばたつかせるしか方法はなかった。
 それでも。大きな手が掬い上げるように両足を掴み、抵抗を奪うように地べたから離す。おかげで上体は強制的に下げられ、再びイチカの黒髪が地べたを撫でた。

「ひ、ぁ……っや、やん……め……っ」

 弱々しい拳が、壁を叩いて抗議する。それがなんの意味もなさないことだけは確かなのにだ。
 ヨギリの舌が、イチカの蕾を開くように舐めている。知らない感覚に、先ほどからヒッ、ヒッ、と情けない呼吸しかできなかった。ヨギリが見えないから、次は何をされるかがわからない。
 なんの意味を持って、そんな辱めを受けなければいけないのか。イチカには理解ができなかった。

「ぁ、そ、そこもむ、な……っあっあ、あっだ、だめ、だ……、……め、っ……」

 外気は冷たいはずなのに、イチカの上半身はどんどんと色づいていた。胸の粒が立ち上がり、力の抜けた腕で必死に上半身を支える。ヨギリの手はいつの間にかイチカの性器に絡まり、ゆるゆると摩擦してくる。
 下半身に血流が集まり始め、ろくな抵抗もできない中の抗いがたい感覚が、イチカの脳を犯す。
 だらしなく開いた口から唾液が伝い、無意識に体は雄の本能を滲ませる。尻を舐られたまま、イチカは射精を求めるようにかくんと腰を揺らした。下手くそな腰使いで、ヨギリの手を女のそこに見立てるようにだ。

「ふ、ぅあ……よ、よぎ、りぃ……っ」

 気持ちいい。イチカはだらしなく唇を開いたまま、与えられる性感を身に馴染ませようと必死だった。
 ヨギリの犬歯が尻に歯を立て、滲む先走りを幹に塗りつけるように五指を動かす。蕾に指先が触れ、くすぐるように刺激される。ぼんやりとした頭の中、イチカの耳が微かな音を拾う。

「ぁ……?」

 暗闇を孕む森の隙間から、金色のお月様が二つ浮かび上がっている。
 木々は、風もないのにその枝の先をサワサワと時折揺らしていた。目を凝らそうと意識を向ければ、今度は大きな手のひらで薄い腹を覆われる。まるで、他のことを考えるなと言わんばかりにだ。
 
「ぁ、う……っ」

 肉厚な舌が蕾に差し込まれる。肉が、喜んで迎え入れるかのようにヨギリの下をしめつけてしまう。そんな端ないことをするつもりなんてなかったのに。内壁で形を理解した途端、イチカの細い体はのけぞった。唯一肩にかかっていた布地も抵抗を止めるかのように肌を滑り、艶かしい上半身が晒される。
 地べたにシミを作るのは、だらしなく開いた口から伝う唾液だ。胎内を舐られながら、イチカは何度も薄い腹を痙攣させた。勃ち上がってしまった性器は先ほどからシクシクと痛く、排泄感を伴っている。
 このままだと、ヨギリの目の前で射精してしまう。それが嫌で、イチカは再び抗議するように壁を叩いた。

「よ、ぎり……へ、返事、しっ、ぁ、あっ……⁉︎」

 思わず大きな声が出て、震える手で口を塞ぐ。腹の中に、舌よりも細く繊細な動きをする何かが差し込まれたのだ。は、は、と浅い呼吸を繰り返す。これは、きっと、ヨギリの指だ。
 
「ひ、ぃ、……っ‼︎」

 指先が一点を掠めて、背筋に電流が走るかのようだった。目の前がちかちかと光り輝き、イチカの意志の効かない何かが神経を犯す。あれだけ溜まっていた下腹部の張りは、徐々に治っていた。お腹に熱い飛沫を感じて、イチカの顔が一気に染め上がる。

「ぁ、ああぁ……お、俺、ぇ……っ……」

 ヨギリの指先が、腹に散らされた精液を知らしめるように触れてくる。腹の筋をなぞるかのような指使いに身をよじれば、再び中のしこりを刺激されて射精を促される。
 ヨギリの手に、何度放ってしまっただろう。長い髪から見える白い首筋には汗がつたい、上半身を赤く染め上げる。
 
「た、たす、け……っ……」

 もう嫌だ。無意味だとわかっていても、逃げたかった。これ以上の気持ちいいを受け止めきれる自信がない。何より、これ以上ヨギリに無様を晒したくはなかった。
 何かを引きずる音がして、イチカは顔をあげた。もしかしたら、助けが来たのかもしれないと思ったのだ。

「あ」

 目の前に、とても大きな鬼の顔があった。
 イチカがお月様だと思っていた金色を両の目に嵌め込んだ妖は、黒く大きな蜘蛛の体を震わせて、ニタリと笑った。

 
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