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カストール編

105 *

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「ユミル……お前、恨むぜ。」
「なんでよ!? 十三の時からいなくなったから、うっわ! もう十三年ぶりだよエルマー!! 僕らもいい年になったなあ! あっはっは!」
「あああ……」

一人背中に暗雲を背負いうなだれる。そんなエルマーの横に腰掛けたユミルは、相変わらず快活に笑っては容赦なくエルマーの背を叩く。
赤髪を乱すように頭を抱えながら、番いのご機嫌取りはどうしようかと無い頭をひねる。そんなエルマーの顔を、ユミルはちろりと見つめる。
おそらく主様のことだろうなあ。と、ユミルはエルマーの唸る様子を前にそんなことを思う。
ユミルの前に現れた、恐ろしく容姿の整った青年。
エルマーの主様だろうその人は、もうひとりの隷属者とともに木の根元にしゃがみ込みながら、何かをしている。
まんまるな背中に、たしたしと忙しない尾っぽ。拙い言葉遣いから、見た目にそぐわぬ年齢なのかもしれない。

「なあエルマー、お前の主様ってあの人?獣人の。」
「ああ、そうだ。連れはレイガンだ。俺らはまあ、雇われ護衛みてえなもんかなあ。」
「ほーん、ちょっとだけ頭弱そうだけどめっちゃ美人だな。」
「頭弱そうとかいうなっつの。」

エルマーと二人肩を並べて、荷車の荷台に腰掛ける。その眼差しを一心に受けるナナシはというと、大きな巣穴に餌を持ち込もうとする蟻に熱視線を送っていた。

「なあ、枷切りされてるってことは自由を許されてるんだろ?なら今晩飲みに行かないか?」
「ああ、主の兄貴の嫁が体壊しててな。だから出れねんだわ。」
「えー、だってレイガンってやつだっているだろ?それともあの白い主にだめって言われんの?」
「俺が離れたくねえんだあ。」

荷車に肘をついてナナシを見つめる。エルマーの眼差しはそらされることもない。
そんな様子を前に、ユミルは少しだけ不満だった。
せっかくこうして会えたのに、なんでエルマーは頭の悪そうな美人といるのか。しかも、どうやらエルマーが望んで側にいるらしい。
つまらなさそうにフウンと相槌を打つユミルの機嫌すら、エルマーは気にもかけない。

ユミルはエルマーが好きだった。

エルマーが突然十三で姿を消すまで、ユミルはずっとエルマーに片思いをしていた。
眠っているエルマーに口付けたことだってある。本人には伝えていないが。

「なんか窮屈だなー、隷属者って。それになんでお前もレイガンも枷が縄?今の隷属者はもっと洒落たブレスレットとかつけてんべ。」
「俺らはこんくらいで丁度いいんだよ。はあ、もういいか?俺主のご機嫌とりしねえと。」

ユミルの言葉に、エルマーはくい、と片眉を上げる。どうやらこれ以上は話すつもりもないらしい。エルマーは、荷台から降りると、そのままナナシの元へと歩いて言ってしまった。
久しぶりに会ったのにもかかわらず、素っ気ない態度をとるエルマーに、ユミルはむすりとした。
配達もここで最後である。そろそろ戻らなくてはまずい。
少しだけ名残惜しいのは、昔の初恋が再熱したからに違いないだろう。

「話はいいのか?」
「おう、もう充分だあ。何してたんだ二人で。」

エルマーの足元では、ナナシがしゃがむようにして地べたへと目を落としていた。話しかけているのは、銀髪の男だ。
たしかレイガンとか言っていたか。
ユミルの聞こえないところで、三人だけの話をしている。せっかく久しぶりに幼なじみにあったというのにだ。

あーあ、つれないでやんの。

ユミルは心のなかで小さく呟く。硬派なエルマーが本気の恋愛なんてするわけないというのは、ユミルの想像という名の祈りであったのかもしれない。
孤児院の時から、年上の女の子に告白をされても相手にしない。かといって、男の子に告白をされても、それは同じだったのだが。
時を経て人は成長するものだ。そのエルマーの時の流れを知らないのが少しだけ嫌だ。

「あのね、ありみてたの。おっきいおかしいれようとしてたよう」
「へえ、小せえ穴にでけえのいれんなら慣らさねえと無理だぁな。」
「エルマー。」
「何がとは言ってねえ。」

そんなくだらないやり取りをする三人を見ながら、取り留めもないことを思っていたから、余計にユミルはびっくりした。

「える、だっこしてえ」
「もちろん。」

甘えるナナシの両腕が、エルマーへと伸ばされた。それに応えるように、華奢な体を抱き上げる。
ユミルが望んでいたエルマーの腕の中を、顔がいいだけのナナシが奪ってしまったのだ。その拙い口調すら、気を引くための演技なんではないだろうか。そう邪推してしまうほど、ナナシはユミルにとっての嫌なやつになってしまった。
男らしい手のひらが、ナナシの背中に添えられる。尾を揺らして甘える姿は、ユミルにとっての見せつけでしかない。
隣にレイガンという上等な男がいるのに、なんでよりにもよってエルマーなのだ。ユミルの拳が、嫉妬からキツく握りしめられた。
ユミルの知らないエルマーを、ナナシだけが知っている。先に出会ったのはユミルだったのにだ。

「ユミル、じゃあな。」
「おう、」

抱き上げられたナナシが、エルマーの肩口から顔を覗かせる。まあるいお目目は、キョトリと真っ直ぐにユミルを見つめていた。
子供のような、無垢な瞳。大人になったユミルが、忘れてしまった眼差しだ。
小さな手が、別れの挨拶をするように揺れた。なんだかそれが悔しくて、余計に馬鹿にされているような気にもなってくる。
結局、ユミルが手を返すことはなかった。ナナシは背を向けた小さな背中を見つめると、エルマーの広い背中に腕を回したままぽしょぽしょと呟いた。

「あのね、えるのことしってたひと……んとー……」
「ユミル?」
「ゆみ、ゆ、ゆみる……、ゆみるからちのにおいしたよう、でもちょっとこかっただけ。」
「土持ってんわけじゃねえんかな……あー、飲み誘われてたのいっときゃよかったかあ?」
「ああ、そういえばなんか言われてたな。行けばよかったんじゃないか?ナナシも連れて。」

レイガンの言葉に、エルマーが渋い顔をする。
ユミルと別れて宿に向かう途中、ナナシが露店で売られていた果実水に興味を示すので足を止めた。ご所望は桃らしい。
ナナシを抱くエルマーのインベントリから、レイガンが財布を引き抜いた。そのまま目当てのものと銅貨を交換する。ちゃっかり己の分まで買っているあたり、レイガンも強かな野郎である。

「連れてったってよお……」

備え付けのベンチに三人で腰を下ろした。
エルマーはというと、ナナシの顔色を窺うように横目で見やる。隣では、両手に持った果実水をちうちうと飲むナナシがいた。
なにもきこえません。といわんばかりに、無関心を装うナナシはしかし、大きなお耳だけをしっかりとエルマーの方に向けている。不自然さに、レイガンが溢れそうになった笑いを咳で誤魔化した。

「ゲホッ……」
「う?」
「すまん、何でもない……」
「あいつなあ……」


エルマーは、空を見上げていた。その様子は、物思いに耽っているようにも見える。どうやら、ユミルに対して思うところがあるらしい。
さりげなくを装って、身を寄せてくるナナシの腰を宥めるように撫でる。

「昔なじみってだけだ。だからそんな嫉妬する必要ねーって。な?」
「しっと?」
「……レイガン。」
「嫉妬とは、好きな相手が別の相手に取られそうになったときの、悔しいという感情の名称だ。ナナシがさっき、エルマーに抱きついてきたユミルを前に抱いた感情がそれだ。」
「はわあ……ナナシ、ゆみるにしっとしたのう……あう……」

レイガンの説明に、ナナシは頬の赤みを隠すように両手を添える。己の抱いた感情に名前があることを知って、途端に恥ずかしくなったのだ。
確かにナナシは、ユミルに抱きつかれるエルマーを目にして、どうしようもなくムッとした。
ナナシのエルマーなのに、ユミルに取られてしまうと思ったのだ。
あの時のソワソワした感情や、胸のモヤモヤ。そうか、これが嫉妬。ナナシの尾っぽが、エルマーの腰に巻き付くようにくっついた。

「ナナシのえるなのに、やだなあってなったよう。わがままかと、おもた。」
「どうしよう俺の嫁がこんなにも可愛い。勃起したわ。」
「わかったわかった。頼むからその足を組み直さないでくれよエルマー。」

エルマーの堂々たる変態発言にはもう慣れたらしい。レイガンは適当に相槌を打つ。
勃起を隠すように足を組んでいるエルマーと、無表情で切り抜けるレイガン。市井の御婦人方からしてみれば、上等で面もいい男二人が休憩をしているように見えるだろう。
大通り、腰を下ろすベンチの斜向かいでお茶を嗜む御婦人方が、二人を誘うように手を振っている。
それに気がついたナナシがむすりとして、さらにエルマーの腕にぎゅうっと抱きついた。

「だから勃つってえ!」
「やかましい!!」

苛立ちを含んだレイガンの鋭い声が、枝に止まっていた小鳥たちを急かすように飛び立たせた。

宿に戻るなり、ことの顛末をサジとアロンダートに報告した。やはりエルマーとしても、幼馴染でもあるユミルから血の匂いがしたという話は耳に残っていた。

「やっぱもっかい会うしかねえか……」

気乗りしないのだろう、気だるげな雰囲気のままエルマーは宣った。
ユミルについては、やはり満場一致で調べてみる必要があるという意見にまとまった。飲みに行こうと誘ってきたユミルの言葉に乗る形だ。しかし、一人で行くわけではない。
何かあったときに出れるようにと、サジも共についてくることになった。
サジの顔つきは完全に好奇心に満ち溢れていたが、サジの出番は対応しきれない何かが起こった時の保険のようなものだ。

ユミルの誘いに乗るぞ。という、段取りが組み上がってきた一方、形のいい唇をチョンと尖らせたナナシだけは、わかりやすく顔に不満を貼り付けていた。


昼間の出来ごとの腹いせは、他の仲間たちが寝静まった頃。ナナシによって密やかに行われていた。

「っ、…」

微かに水音が聞こえる宿の一室。大人二人がゆったりと寝れそうな大きなベットに腰を下ろしたエルマーは、その整った表情をわずかに歪めて空気を震わせていた。
エルマーの足の間で、見慣れた白銀の頭がゆるゆると揺れていた。
寝具を握り締める手の甲には、血管が浮かび上がり、理性がぎりぎりと悲鳴を上げている様を示していた。
赤い舌が、ぺしょぺしょと性器を刺激する。視覚的にも煽られてしまう行為こそが、ナナシからのお仕置きだった。

「ぁ、く……っ」

ひくんと内腿が震える。腰が無意識に揺れてしまうのをなんとか抑えている。
茂みに鼻先を埋めるように、ナナシがエルマーを追い詰める。口の周りをよだれでべたべたにしながら、たしたしと尾を揺らしながら遊ぶのだ。

「ナナシ、も……俺がさわりて……っ」
「やら」
「やら、って……」

ナナシの金色のお目々が、好奇心の混じった輝きでエルマーを見つめた。
たしんと音を立てて床を叩く白銀の尾が、ナナシのなけなしの雄の矜持を示しているようにも見えた。

「ぅ……ぁ、……」
「んぅ、ふ……っ」
「ぁ、ばか、ゃろ……っ」

濡れた唇が、エルマーの血管を辿るように性器に這わされる。視覚に煽られて、びきりと膨らむ性器を前にナナシは実に楽しそうであった。
エルマーは、上気した顔を隠すように額を手で覆う。
気持ちがいい。首筋まで赤く染めた様子は、しっかりとナナシの拙い奉仕に興奮を示していた。

ユミルと飲みに行くことで話がまとまったあと、エルマーはナナシに手を引かれるようにして寝室に連れ込まれた。
てっきりふて寝に付き合うのかと楽観的に考えていたのも束の間で、実際は想像を遥かに上回っていた。

ご機嫌斜めの可愛い番いに、「ナナシ、きょうはわるいこだから、えるにいじわるしてもいいんだよう」などと言われたのだ。
それだけならまだよかった。ただ可愛いなあで済むはずだったのだ。
しかし、「んー、んとー、ここ!ここをいまからいじめるですね?」などと下手くそな言葉攻めかどうかもわからないことを宣ったかと思うと、ご機嫌にエルマーの股ぐらに顔を埋めたのだ。
ぬめる熱を感じて、ようやく意味を理解した頃にはもう遅い。エルマーはお仕置きにやる気を見せたナナシによって、拙い奉仕を受ける羽目になったのだ。

「ん、なに……腹すかしてんの……」
「ンん、っ……ぅ、ん……ちゅ、ふ……」
「はぁ……、っ……くそ……すげ、いいよ……」
「ふぁ、っ……」


ナナシの柔らかな口の中は、エルマーの性器の形を覚えるかのように柔らかく包み込む。
傘の張った部分をパクンと咥え、ちぅちぅと吸う様子に煽られるように、エルマーは眉間にシワを寄せていた。
腰が震える。ぐう、と獣のように喉が鳴り、こめかみに血管が浮かぶ。
小さな頭を抑え、腰を押し付けたい衝動を必死で堪えている。
そんな切れそうな理性を必死でつくろうエルマーの姿を前に、ナナシはご機嫌に尾を揺らすのだ。

「ぁ、な、ナナシ……っ……」
「ん……える、かぁいい……」

袋の中に、精液が渦巻く感覚がする。持ち上がった袋によって、より性器は大きさを増している。
もうすぐエルマーは、ナナシの征服欲を満たすだろう。
だらしなく口元を濡らしたナナシが、金色の瞳をとろめかせて見つめてくる。
ナナシのまろい頬に、無骨なエルマーの手が添えられた。柔らかな唇を濡らす己の先走りを拭うと、ナナシの薄い舌がぺしょりと舐めた。
口端から侵入した皮膚の厚い親指が、ナナシの舌をこすりと摩擦した。熱のこもった瞳はナナシの性感をぶわりと膨らませ、豊かな尾はわかりやすくぴんと立ち上がった。

「きゅ、ぅ……ンっ……」
「ふは、……っ、も……イく‥…っ……」
「ンン、ん……んくっ……」
「っぁ、……は……」

びゅ、びゅ、びゅくんっ、と数度に分けて、ナナシの口の中に流し込まれた精液は、糖蜜のような魔力をナナシへと与えた。
エルマーの両手が、優しくナナシの両頬を包み込む。ナナシの鼻先を茂みで擽るように腰を押し付けるのだ。
口内で誰の雌かを教え込まれると、ナナシの喉はわかりやすく甘えたな声が漏れた。

口端から、エルマーの精液をとぷりと零す。んくんくと小さな喉仏を上下させるように飲み込むと、ナナシはゆっくりとエルマーの性器を開放した。


「んゅ、ふ……ぁー……」
「いいこ……ふは、」

熱に浮かされたナナシが、手のひらについた精液をぺしょりと舐める。
唇から開放された今でも、所有を示すようにナナシの手には性器が握られていた。
そんな可愛いことをされては、エルマーだって否やはない。細い体をひょいと抱き上げると、膝の上に乗せた。

「……抱きてえ」
「うんっ」

エルマーのおねだりの声色が功を奏してか、ナナシは尾をパタパタと揺らしながら擦り寄った。エルマーの唇をぺしょりと舐める。応えるように薄い舌に吸い付くと、エルマーはナナシの舌を絡め取った。

「ふ、んん……っ……」

小さな手は、エルマーのシャツを握り締めていた。味蕾を摩擦するような大人な口付けがはじまると、ナナシは何も考えられなくなる。
互いの熱い吐息が重なるだけでも鼓動が忙しないのに、エルマーのずるい手のひらが褒めるようにナナシの頭を撫でるのだ。
腹の子も、魔力を求めている。唾液が甘く感じて、体に浸透してくるようなエルマーの魔力が心地いい。
大きな手のひらが、チュニックの下に差し込まれる。背筋を撫でられたかと思うと、体勢を変えるようにゆっくりとベットへと寝かされた。甘えるように首筋へと唇を落とすエルマーの手は、あっという間にナナシのボトムスを脱がしてしまった。

「……は⁉︎」
「う?」

悪戯に手を差し込まれたナナシの下着は、尻の割れ目を晒すかのように後ろの布地が失われていた。思いもよらないナナシの大胆な下着に、思わず素っ頓狂な声を上げたのはエルマーだ。

「お、おま、おおお、お、おまえこれ……」
「んと、さじがくれたのう」

羞恥心も何もないと言わんばかりの態度だ。狼狽えるエルマーとは真逆で、ナナシは豊かな尾をパタパタと揺らしてご機嫌だった。普段の下着と違って、尾っぽへの締め付けがないのも気に入っていた。

「あのね、ぱんつね、しっぽでずれちゃうようっていったらね、サジがくれたんだよう」
「なるほど……ああ、たしかにそうだな……」
「ひぅ、ぁ……」

エルマーの手が、ナナシの尾の根本を握り締める。絞るように摩擦されると、太腿が震えるほど気持ちがいい。
ナナシの性器を包み込む小さな布が、隙間を作るように持ち上がる。
エルマーは、ナナシの首筋に顔を埋めながらサジに感謝をした。偶にはいいことをするじゃないかと。

「ひっさしぶりに感謝したわ」
「う?」
「なんもねえよ」

もにもにと尻の軟肉を堪能するように触れる。不思議そうな様子でエルマーを見上げるナナシの頬に口付けると、エルマーはご機嫌で頂きますを宣った。


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