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馬鹿にゆるふわ **

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 睡蓮の嫋やかな手のひらが、目元まで覆った羽根に触れる。クルルと勝手に喉が鳴り、羽根混じりの黒髪が一房睡蓮の頬を滑べる。
 それを撫で付けるようにして、琥珀の髪に指を通した睡蓮が、優しくその顔を引き寄せた。脚鱗が浮き、黒く染まった鉤爪を持つ手のひらがぴくりと跳ね、琥珀は睡蓮から目が離せなくなった。睡蓮の赤い瞳には、恐ろしい顔つきになった己が映っているというのに、己の腕の中の雌はうっとりとした表情のまま、たった一本の腕で琥珀を抱き寄せる。

「かわいい、」
「…そうかい。」

 埋めた首元から、睡蓮の甘やかな香りがする。一歩間違えれば噛み付いてしまいそうな衝動の中、捕食される側であるはずの睡蓮は、その羽根に顔を埋めて擦り寄るのだ。

「興奮しちまった、ったく、ダセェなあ…」
「嬉しい、」
「ああ、お前はそういう奴だったな。」

 喉が甘えた声を鳴らす。勝手に辞めてくれと思うが、睡蓮がそれを聞くたびに嬉しそうにするのだ。琥珀は、睡蓮の太腿に己の昂りを押し付けると、あぐ、と睡蓮の首元を甘噛みする。

「お預けはしまいにしてくれや、わかってんだろうが。」
「あう…、」
「一度目みてえに手荒にはしねえよ、…しねえ。」
「今の間、なにい?」
「じ、自己暗示…」

 こんなにかっこいいのに、そんな情けないことを言う。睡蓮はそれが面白くて、小さく吹き出した。

「好きに食べて、お腹に種付けして、そんで、家族になって、」
「やめろ、あんま煽るようなこと言うと、また本能が前に出ちまう。」
「どうせなら、羽だしたっていいんだよう?」
「あー、もう。」

 琥珀の大きな猛禽の鉤爪が、がしりと睡蓮の細腰を鷲掴む。ぐっと引き寄せられ、枕から頭が離れると、睡蓮の柔らかな尻に挟むかのようにして、脈打つ性器を挟み込む。

「ぁっ、」
「主導権はこっちだ。燥ぐ余裕なんかなくしてやるからな。」
「ぅ、あま、まって、」
「待たねえ。」

 ひくんと蕾が勝手に収縮して、睡蓮は腹の奥が準備を始めたことを理解した。奥がじくじくと熱くなって、睡蓮の奥底の本能が顔を出す。口の中に唾液が溜まって、吐息が熱を持つ。押し当てられた先端が悪戯に擦り付けられると、もう駄目だった。

「んぁ、あ、あっう、ぅそ、おっ!」
「っ、あ?」
「ひぅ、っう、ぅあ、っ」

 びくびくと体を震わした睡蓮に、琥珀は己の下腹部に熱い飛沫を感じた。目線を向ければ、とろりとした白濁が割れた腹の隙間を辿るかのようにして垂れていた。身を震わしながら、は、は、と短い呼気を繰り返す睡蓮は、訳がわからぬと言った具合に、纏まらずに茹だった思考をぼやけさせながら、くたりと身を投げ出していた。
 
「まだ、挿れてねえってのに。」
「こ、琥珀…僕、僕、っ」
「いいぞ、好きに感じてな。」
 
 くつりと笑った琥珀が、その先端を捩じ込むように睡蓮の蕾を押し開く。呼吸すら整わぬうちから、腹に響くような圧迫感に身を逸らすと、かふりと吐息を吐き出した。
 
「ぁ、あぅ、うっ…う、うー…っ!」
「くそ、せめえ…っ、く、」
「ぁ、あぐ…っ、あ、あ、あ、っ…!」
 
 わかる、琥珀が睡蓮の肉を広げながら入ってくる感覚が、全身に広がっていく。二度目なはずなのに、睡蓮は尻がバカになってしまったんじゃないかと思うくらい、痺れが強く、そして火傷をしてしまいそうな熱に内側を溶かされ、苦しいはずなのに、体が喜んでいるのがわかる。
 時折、腰をひいて抜き差しをしながらも、推し進める時は先ほどよりも深いところを広げるように腰をゆらめかす琥珀は、蕩ける内壁からの性器への刺激に、吐息を震わす。ぎらついた瞳は今にも睡蓮の喉元に食い付きそうなくらい獰猛なのに、脚鱗の浮いた鉤爪は酷く優しい手つきで頬を撫でるのだ。
 
「か、わいい…なあ、くそ…」
「ん、んく、っ…ふ、ぅ…っ…」
「薄い腹で、んとに…お前は、」
「は、ぁ…っ…」
 
 つるりとした鋭い爪で、柔らかな唇を撫でる。睡蓮がそこに吸い付くと、琥珀はまるで小さな命を愛でるかのように、柔らかく微笑む。睡蓮の赤い舌が、ペショリとその爪を舐める。琥珀の喉仏が上下して、中に収めた性器がブワリと膨らんだ。
 
「ひ、んっ…!んぁ、あっ!あ、あぁ、あっ!」
「ーーーーーっ、」
 
 ギュルリと袋の中で作り上げられた精液が、吐精感となって琥珀の思考を犯す。甲高い声をあげて、開かせた足を勢いよく跳ね上げた睡蓮の腹を押さえつけると、琥珀は勢いよく腰を打ちつけた。
 
「ぎゅ、っ…う、うぁ、あ、あぁ、あーーーっ!!」
「っ、ん、もっと、」
「ふ、ぅあ、あっい、ぃゃら、あ、やァ、ゆ、ゆぅひて、え、ぇえ、っ」
「こ、こ…っ、な、もっと…ひら、いて、」
「し、んじゃ、う、うっ、ぅう、やぁ、あーー…っ」
「死なねえ、から。」
「ぁ、あぐっ、う、うぁ、あ、あぁ、あっ、あ、っン、」
 
 だめだ、全然大丈夫なんかじゃない。睡蓮は、琥珀によって大きく足を開かされたまま、打ちつけられるかのようにバツバツと前立腺を押しつぶされ、目の前を何度も明滅させながら身を悶えさせる。琥珀の鉤爪が睡蓮の白い肌を傷つける。そんな僅かな痛みも気にかける暇などなく、睡蓮は髪を乱して喘いだ。
 過ぎた快感は、暴力にも似ている。先端のぱつんと張った部分が、幾度となく前後不覚になってしまう部分を掘削するのだ。気がつけば薄い腹は琥珀の性器でぽこんと膨らみ、だらしなく開いた足の間からは、ジョロジョロとはしたなく漏らしていた。
 
「れ、ひゃぅ、あ、あぁい、いぐ、あ、あぁあやだぁあっ!!」
「も、出てんぞ…あ、すげ…っ」
「ごぇ、な、さぃ、いぅ、い、いっちゃ、あ、ぁあ、ア…っ」
 
 ぶしゅ、と吹き出したと思えば、ダラダラとだらしない射精を繰り返す。先端を揉み込むように、パカりと口を開けた睡蓮の小さなお部屋に先端をねじ込んだ琥珀は、全身をめぐる血が沸騰してしまいそうになるほどの強い性感に、腰を震わして精液を叩き付ける。
 
「ひっぁ、は…っ…ぁ、あ、」
「あー…、」
 
 ひくん、と震える睡蓮の腹が収縮すると、琥珀の下生えがぴたりとつくほどまでに挿入された奥の器官が、その熱い精液を喉を鳴らして飲み込んでいく。舐めしゃぶるかのようなその肉の蠕動を、唾液を垂らしてうっとりと堪能する琥珀は、その鉤爪を生やした手をゆっくりと人のものに変えると、濡れた掌で睡蓮の腹を覆うように手を添える。
 
「睡蓮、まだ寝るな、」
「ン…ふぁ、っ」
 ずろりとわずかに性器を引き抜かれ、前屈みになった琥珀が赤らんだ唇に唇を重ねる。熱い舌が薄い唇を割り開き、歯列をなぞり深く口付けると、震える舌がそれに応える。
 
「ふ…ぅ、っ…」
「まだしまいじゃねえぞ、きばんな。」
「っ…ひぅ…」
「泣き顔かぁいいな…ほら、おいで。」
 
 抱き潰すように激しく翻弄してくるくせに、琥珀は睡蓮を愛おしそうに引き寄せる。琥珀が睡蓮を抱えたまま胡座をかくと、自重によってずぶりと挿入が深くなり、結合部から精液がゴポリと溢れた。
 
「こ、ぁ…、く…っ」
「ここ、トントンされるの気持ちいなあ。ほら、どこが好きだか言ってみな。」
「ふぁ、お、ぉぐ…す、き…っ」
「やぁらし。」
 
 赤い舌を見せながら、快感に蕩けきった顔で睡蓮が言う。快楽に従順で、いやらしくて、薄い腹で健気に琥珀を気持ち良くしてくれる可愛らしい睡蓮。漏らすほど下半身を馬鹿にされても怒らずに、琥珀が性器を膨らませてもっととねだると、心底幸せそうに顔を蕩させる目の前の雌に、琥珀は己の羽の内側に番いを囲う喜びを教わった。
 
「もう、離せそうにねえやな…」
「ぅ、う?」
「なんでもね、鳴いてろ。」

 きゅうんと情けない声がして、かわいい。琥珀は二度目の種を睡蓮の腹に残した後、腕の中の華奢な体がその身の主導権を完全に明け渡しても尚離れ難くて、結局日が登り切るまで貪ってしまった。一組しかない布団の巣の上で、けっして睡蓮を離そうとはしなかった。
 影法師によって運ばれる食事も、琥珀が口に含んだものを睡蓮に口移しで与え、腹が満たされれば再び交ぐわい、眠くなれば眠る。その間、睡蓮は琥珀の性器を抜くことは叶わず、己の尊厳を失うほどに重い愛を受け止め続けた数日間、いつの間にか締め切った部屋の匂いは、二人の精液と汗の匂いに満たされていた。
 互いの体を舐め、同じ匂いを纏い、狭い布団の中を汚しながら体温を分け合うことの麻薬的な幸福感に、睡蓮は何度もダメだと思った。
 けれども、そのたびに琥珀に口に中を舐められ、精の味を覚えさせられては、お前は可愛い、いい子だ、俺の愛しい白玉などと愛でられ続け、ついには本物の獣に成り下がってしまったかもしれぬと頭までゆるふわにして、睡蓮はようやっと、天狗の愛はやばいと言っていた天嘉の言葉の意味を理解したのであった。
 
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