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番外編
閑話休題 出られない部屋きいちと葵編
しおりを挟むきいちと忽那は『相手に言ってない自分の秘密を言えるまで出られない部屋』に閉じ込められました。60分以内に実行してください。
「あ、こっちもきたね。」
「わーぉ、秘密いえばいいの?」
こちらはこちらでなんともおっとりとしたスタートを切った。隣のブースではやかましいくらいのやり取りがされているのだが、そんなこととはつゆ知らず。防音加工されたこの部屋には、マイペース二人から出されるなんとも穏やかな空気が流れていた。
「秘密、秘密っていったらなんかやらしいイメージあるんだけど、これってやっぱ思春期?」
「あー、あるよね。わかる、秘密って響きは俺もやらしく聞こえる。」
やはり二人もオメガといえど男ではあるので、そういった単語を聞くとすこしだけそわそわしてしまう。
「団地妻、秘密の昼下がり…とか」
「家庭教師と秘密の授業…とか?」
「そういえば益子と家庭教師プレイ…」
「ちょっとまってなんでそれを知って、っ」
思い出したかのようにきいちが口にすると、ぶわりと顔を赤らめる。あとからなんのことかな?とごまかせばいいものを、葵はいつまで立っても嘘がつけなかった。した。たしかに、燃え上がったわ。秘密の授業プレイ。
目は口ほどに物を言う。葵はきいちのニヤニヤ顔を正面から見ることができなかった。
「と、とにかくその話題はもう過去だし、きいちくんがしってるなら秘密でもなんでもないよね!!はい次行こう!!」
「えー、まあいいか、うーん…あ、僕お尻に蒙古斑がまだある。」
「なにその可愛い秘密、みせてみせて。」
「きゃーえっち!どうぞどうぞ。」
葵もきいちも、この特殊な空間にテンションが上がっているらしい。俊くんと家族と新庄先生しか知らない秘密だ。きいちはいそいそと葵に背を向けると、スキニーの前を緩め少しだけボクサーと一緒に後の生地を下げた。
「わ、ほんとだ!残ってる人いるんだねぇ。」
「ね、新庄先生もからかってくんの。俊くんはよく噛み付いてくるけどね。」
葵が失礼しまーすと言って生地をまくって見ると、確かに割れ目の少し上に微かに残っていた。きいちの白い尻に薄く出来たそれは、なんだかとても背徳的ですこしやらしい。
「へぇ、お尻に歯型ってやらしいね。あ、キスマーク。」
「おえ!?うそだっ、だってきのうはしてな、」
「んふふふっ、」
「葵さんのうそつきぃ!!年下からかっちゃいかんでしょーがっ!」
もー!!!ときいちが葵にじゃれつく。葵もなんだか楽しくなって、ごめんごめんと笑いながらきいちのスキニーを正してやった。小柄な葵はきいちよりも身長が低いのだが、ひょろっこいきいちが飛びついてきても全然受け止められる。
加減をわかっているというのもあるが、普段から大型犬のような益子を受け止めているから。が正しい。
「んー、じゃあ俺も秘密いわなきゃだよね、っと…なんかすごい音しなかった?」
「音…てか振動?地震かな?」
隣がなんだか騒がしい。よほどアクティブなお題でも出されたのだろうか。気にならないわけではないが、こっちもお題を完結させなければいけない。ちらりとモニターを見ると、二分の一達成となっていた。残りは葵のみだ。
「あ、ちょいまち。俊くんから連絡きた、…っ、ぶはっあっはははは!!!!!」
「え?なになに、っ…うける!あの二人事故チューって…さっきの振動それかな?」
「それだ!!」
何がどうしてそうなったのかはわからない。だけどあの男らしい二人がキスをしている絵面を考えるとちょっとばかし頂けない。いや面白いんだけど、面白いからこそなんかやだ。俊くんも後で消毒などと言っているし、恐らく葵の方にも同じような連絡がくるだろう。
黙ってたらわからないのに、なんとも律儀なことである。
「まあ僕らもちゅーしちゃってますしね?」
「したした。というか、あそこまでさらけ出しておいて今更秘密とは…うーん、なんだろ。」
「なんでもいいよぉ、僕が知らなければいいらしいし。」
「じゃあ、秘密ってか懺悔なんだけど。」
悠也には秘密にしてくれる?と葵さんはきいちに念を押す。そんなに重い事なのだろうかと聞く体制になると、少し照れくさそうに葵が言った。
「この間悠也が買ってきたドーナツを、どうしてもお腹すいちゃって勝手に食べちゃったんだよね…。」
「なにそれ可愛い!!そんなん怒らないでしょ!むしろ葵さんに買ってきたんじゃない?」
「え?でも一個しか入ってなかったよ?だから悪い子としたなぁって、あのあとドーナツ作って入れといた。」
「え?もしかしてこの間作りすぎちゃったからってもらったドーナツって、」
余ったのきいちくんにもあげちゃった。といって照れくさそうに頭をかく葵に、きいちは可愛いがすぎる!!!と叫んで悶絶した。むしろ大変美味しゅうございましたと直接お礼を言うと、嬉しそうに微笑む。
隣とは裏腹に、なんとも柔らかな空気である。秘密というのはこんなにも慎ましいものもあるのだなと、きいちはまたひとつ勉強した。
「あ、オッケーらしい。ドア空いたみたいだね。」
「そういえば益子はそのドーナツなんていってたの?」
「えー、と…」
葵はその時のことを思い出す。もきゅ、とリビングで食べてた益子が、ドーナツをみてしばらく固まった後、確かめるようにもう一口食べる。その後すぐに食べかけのドーナツ片手に皿を洗っていた葵に飛びついてきていったのだった。
「…これ、うまいから半分こしよって。」
それはもうキラキラした顔で、口端にドーナツをくっつけながら言うもんだから堪らない。それ、俺が作ったのと言いたかったのが正直なところだ。
「うは、僕ちょっとだけ益子が可愛いと思ったわ。」
「だよね、悠也ってたまに可愛いんだ。」
ガチャンと扉を開いて中から出ると、ちょうど
タイミングが重なったようで益子と俊くんも部屋から出てきた。
噂の悠也くんこと益子は、死んだような目に葵を映すと、ふらふらと駆け寄ってきたかとおもうと大きく両手を広げた。
「ゆう、」
「ああああ葵ぃぃー!!!」
「ぅぶっ!!」
うわあぶな。慌ててきいちが益子を避けると、こちらも入室前よりも酷くやつれた顔の俊くんがそっと腰を抱き寄せる。後ろでは葵のンー!!!!という慌てた声が聞こえるので、おそらく口直しをされているのだろう。しばらくしてバッチンと乾いた音の後、益子が床に転がるうめき声が聞こえた。
「おやぁ、俊くんもおつかれ?」
「キスしていいか。」
「即効かよぉ。」
俊くんが影になってくれてるのでバレなさそうである。仕方ないなぁと軽く背伸びをして、甘く唇に吸い付くと、やっと呼吸ができるといったホッとした表情になった。
あまりの変わりように笑う。益子の唇はそんなに嫌だったのか。
「えーと、盛り上がってるところ申し訳ないんだけど…」
はっとした顔で俊くんの影から顔を出す。なんとも言えないが照れくさそうにしている佐藤を完全に放置してしまっていたようだ。
佐藤から簡単な感想を聞かれて、きいちも葵も愉しかったと答えたのだが、益子と俊くんは声を揃えて人による、と言っていた。
「なるほど、違う意見が聞けるのはいいね。ありがとう!別室で見てたけど、きいちくんのブースが一番穏やかだったねぇ。」
言外にあまり暴れるなよと釘を差された益子と俊くんは、ムスッとした顔をしていた。
そして、今回の謝礼として出たのはそれぞれの行動を撮った動画のデータと、このシュミレーションゲームとのタイアップされた映画のチケットだった。
ちなみに、家に帰ってからなんの気無しに益子と二人でDVDをみたらしいが、葵の可愛すぎる秘密がバレてたいそう盛り上がったとか。
一方俊くんはというと、こちらもきいちと共にDVDをみていたのだが、俊くんの照れた理由をしったきいちが可愛い!!と大喜びをし、こちらもこちらでなかなかに濃厚は一時を過ごしたという。
その後のモニターを経た例のゲームは大いに話題となり、映画の放映期間のみの設置予定だったものを、期間を延長した挙げ句、最終的に会社が運営するテーマパークにアトラクションとして席を置くことになった。
四人の高校生が協力したモニター動画は大変参考になったようで、また彼らにと言う話題もでたのだが、担当の佐藤が連絡先を聞き忘れたとのことで頓挫した。
世の中うまくいかないもんである。
しかしそれがきっかけかは不明だが、商店街のくじ引きに度々出されるようになったモニター用のゲーム会社の体験チケットは、後にある意味一等よりレアと言われてしばらくの間、それもきいちたちが気付かないうちにニュースで取りざたされるほど話題になるのであった。
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