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2章
泣き虫かよ
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※流血表情注意
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥
ふにゃぁあん!!という甘くて可愛らしい産声を上げて、ついに俺たちの子供が誕生した。
先生の明るすぎる生誕を知らしめる声が室内に響き渡る。とんでもなく長い陣痛を乗り越え、出産を終えたきいちは酷くぐったりとしており、よほど辛かったのか目の周りがすこしだけ内出血をしていた。
こんな、こんなボロボロになって産んでくれたのか。俺のために、この子の為に長い間ずっと。
俺の嫁が、こんなにもかっこいい。最高だ。
俺にできないことをやってのける、最高で最強にかっこかわいい俺だけの番。
「おめでとう、パパになったんだからしっかりしないと!」
「あ゛あ…うう、くそ…ちっちぇー‥」
新庄先生は、俺の手からきいちに見せてやれとおくるみに包まれた産まれたてでフニャフニャの息子を抱かせてくれた。事前に抱き方を練習していたおかげで問題なく抱くことができたが、なんとも軽くて柔らかい。にゃあにゃあ泣く息子をとにかくきいちに見せてやりたくて、床に膝をついて傍らに寄り添うようにして見せてやる。
あやすように子を宥めながら、きいちを見上げる。ぐったりとしながら、ぽろりと涙を瞬きとともに零した姿が神々しく見え、一生離してやらないと決意した。
「きいち、おい…きいち?」
背後でテキパキと動いている先生や看護師を尻目に、なんだかきいちの目の焦点が合わず、ひどくゆっくりとした呼吸を繰り返していた。
何かのアラームがなって、弾かれたように新庄先生が振り向いた。
「っ、看護師!赤ちゃん受け取って新生児室いけ!俊くんはどいて、念の為輸血同意書もってこい!早く!」
「せ、先生?」
「俊くんごめんね外出てて。」
突然変わった状況に分けがわからないまま分娩室から追い出される。唯一わかったのは、あのアラームが血圧が低下したまずい状態なのと、輸血という只ならない言葉だった。追い出される直前、目端に映ったのは夥しい量の出血が分娩台を濡らし、床に滴っている様子だった。
スライドドアから看護師に押されて外に出される。目の前のベンチでは産声を聞いていたのか、晃さんも忍も涙目で見上げてくる。俺はそんな期待に満ちた目で見つめられながら、未だ把握できないでいた。
「産まれたんだろ、聞こえてた…っ、よかったなぁ!」
「き、きいちが…」
「え、」
まるではしゃぐように忍が背中をバシバシと叩く。顔色の悪い俺の言葉に、晃さんが目を見開いて固まった。
「き、きいちが…血が、すごくて…」
「ま、待ってくれよ…ちょっと、ちょっと待って。」
水を買ってきたのだろう、正親と吉信さんも只ならない様子に二人して固まる。忍はまさかと下手くそな笑みを浮かべながら、大丈夫なんだろ?な?と言ってくる。そんなこと、大丈夫じゃないと困る。
口元を抑えてしゃがみこんだ晃さんに吉信さんが駆け寄る。狼狽えながらなんとかベンチに座らせると、まるでタイミングを見計らったかのようにスライドドアが開く。
姿を表した新庄先生は、白衣の袖を血で濡らしながら切羽詰まった表情でバインダーを晃さんに差し出した。
「赤ちゃんを産んだあとの出血のせいで、血が足りない。幸いきいちの血は検診のときに取ってある。今言えることは輸血をしないと生命の危機に関わってくる。同意書、書いてくれるよね。」
「か、書く…っ!」
その言葉に弾かれたように顔を上げた晃さんは、奪うように同意書をむしり取った。震える手で書き終えると、新庄先生がそれを受け取って踵を返し分娩室へと戻っていく。
晃さんは頭を抱えて座り込み、吉信さんも正親も、忍も何が起きたかわからない、ただ残された張り詰めた空気だけがやけに鮮明に肌で感じ取れる。
生命の危機って、なんだ。
ただでさえ貧血気味なのに、アラームがなる部屋で、真っ白な顔色でうつろな目のきいちを思い出す。
産まれたんだぞ、やりきって終わりなんて駄目だろ。
まだ、お前赤ちゃん抱いてねえんだぞ、おい、おい。
「許さねえからな!!!!」
「し、俊!」
「俺と子供ほっぽらかしにしたら、許さねぇからなきいち!!!」
分娩室のスライドドアを殴る。俺は何も出来ない。輸血同意書だって、あいつの為に書いてやれないクソガキだ。俺よりしっかりしてるなら、しっかり子供を抱いて、また変な笑い声で笑ってくれ。
「いやだ、いやだ!!死んだら絶対に恨む、しっかり息して、大声で笑え!!泣け!!俺らをおいてくんじゃねえ、たのむ…きいち!!ぜってえ目ぇ覚ませ!!!おい!!!」
ガンガン叩いてた腕を取り上げられ、正親に抱えられるようにして止められる。無様に泣いてやるから、また笑え、頼む、頼む。
ピッピッピ、という規則正しい電子音がする。
なんだか聞いたことあるな、これ。なんだっけ…
まるで底なし沼にいたかのような泥のような睡魔はゆっくりと引いていき、すう…と呼吸をすると徐々に意識も鮮明になってくる。
お腹、すいたな。
喉も乾いた。
めちゃくちゃ頭が痛い。
自分が一眠りしてから、どうなったのかわからなくてゆっくりとまぶたを開いた。あれからどれくらい立ったのか、横目でベッドサイドの日付を見ると、もうすぐ夜の21時を回ろうとしていた。
「……、」
投げ出していた手を、そのまま動かしてみる。産後は嘘みたいに動かなかったのに、指先までしっかりと血液が巡っているのか段違いに動きが良くなっていた。
そうだ、産まれたんだ。お腹に触れるとあのときのような膨らみはない。すこしだけ体を動かそうとして、足に力を入れようとしてたところで扉が開いた。
「あ…?」
「あ、起きた。よく頑張ったねぇきいちくん、体調は?」
肩から聴診器をかけた新庄先生は、まだ薄ぼんやりとしている僕の頭を撫でると、あのあと何が起きたのかを教えてくれた。
いわく、産後の弛緩出血が酷くて輸血をしたこと。あと三十分輸血が遅かったら生命の危機だったんだよといわれても、いまいちピンときていなかった。ええ、うそでしょ僕死にかけてたの?それはやだなぁ。
眉間にシワを寄せながら、うへぇとゲンナリした顔になっていると、顔色も戻ってよかったねと笑われた。
「赤ちゃん、どこですか…」
「新生児検査終わってるから、連れてこようか。今は俊くんと晃さんが一緒にいる。」
「会いたい…っ、」
「はいはい、ベッド起こすから自分で起き上がらないでねぇ。」
そう言うと簡単にベッドにくっついていたリモコンを操作されて起き上がらせる。すごい、なんだかアトラクションみたいである。目を擦ろうとして目元に触れると湿布のようなものが貼ってあった。なんだコレと剥がそうとすると、力み過ぎて内出血してるから剥がさないほうがいいよと言われた。
「まじかよ…すごい?」
「うんうん、なんだか見た目はワイルドな感じかなー。じゃ、ちょっとまっててね。」
「はあい…」
陣痛始まったのが13時位で、産まれたのいつだ。だめだ、全然思い出せない。なんか言ってた気がするんだよなぁ、うーん。指折り数えるも、自分がどれだけねこけてたのかもいまいちわからない。
諦めてぼけっとしていると、勢いよく扉が開いた音にビクリと体を跳ね上げた。扉の前には赤ちゃんを抱いたオカンと、何故か右手を包帯で固定している俊くんが目を見開いて立っていた。
「…きいち…。」
「あ、お、おは…」
「ーーーっ!!!!!うっ…!!!」
「あ、ちょ、まっ、うわあ!!!」
僕がゆるゆると手を上げると、ぶわりと涙を溢れさせて物凄い勢いで駆け寄ってきたままがばりと抱きしめられた。突撃がすぎる、と思いながら大きな体を宥めるようになでなでと背中を擦る。
さすが赤ちゃんを抱いていたオカンは駆け寄らなかったけど、こっちはこっちで鼻水と涙で偉いことになりながらずかずかと近づいてくる。何なんだふたりとも、というか俊くんはその手どうしたの。
ぐすぐすと今まで見たことないくらいに大きな体を震わして大泣きしている俊くんに、ちょっと苦しいんですけどと引き剥がすこともできず、心配かけたんだなと反省した。
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ふにゃぁあん!!という甘くて可愛らしい産声を上げて、ついに俺たちの子供が誕生した。
先生の明るすぎる生誕を知らしめる声が室内に響き渡る。とんでもなく長い陣痛を乗り越え、出産を終えたきいちは酷くぐったりとしており、よほど辛かったのか目の周りがすこしだけ内出血をしていた。
こんな、こんなボロボロになって産んでくれたのか。俺のために、この子の為に長い間ずっと。
俺の嫁が、こんなにもかっこいい。最高だ。
俺にできないことをやってのける、最高で最強にかっこかわいい俺だけの番。
「おめでとう、パパになったんだからしっかりしないと!」
「あ゛あ…うう、くそ…ちっちぇー‥」
新庄先生は、俺の手からきいちに見せてやれとおくるみに包まれた産まれたてでフニャフニャの息子を抱かせてくれた。事前に抱き方を練習していたおかげで問題なく抱くことができたが、なんとも軽くて柔らかい。にゃあにゃあ泣く息子をとにかくきいちに見せてやりたくて、床に膝をついて傍らに寄り添うようにして見せてやる。
あやすように子を宥めながら、きいちを見上げる。ぐったりとしながら、ぽろりと涙を瞬きとともに零した姿が神々しく見え、一生離してやらないと決意した。
「きいち、おい…きいち?」
背後でテキパキと動いている先生や看護師を尻目に、なんだかきいちの目の焦点が合わず、ひどくゆっくりとした呼吸を繰り返していた。
何かのアラームがなって、弾かれたように新庄先生が振り向いた。
「っ、看護師!赤ちゃん受け取って新生児室いけ!俊くんはどいて、念の為輸血同意書もってこい!早く!」
「せ、先生?」
「俊くんごめんね外出てて。」
突然変わった状況に分けがわからないまま分娩室から追い出される。唯一わかったのは、あのアラームが血圧が低下したまずい状態なのと、輸血という只ならない言葉だった。追い出される直前、目端に映ったのは夥しい量の出血が分娩台を濡らし、床に滴っている様子だった。
スライドドアから看護師に押されて外に出される。目の前のベンチでは産声を聞いていたのか、晃さんも忍も涙目で見上げてくる。俺はそんな期待に満ちた目で見つめられながら、未だ把握できないでいた。
「産まれたんだろ、聞こえてた…っ、よかったなぁ!」
「き、きいちが…」
「え、」
まるではしゃぐように忍が背中をバシバシと叩く。顔色の悪い俺の言葉に、晃さんが目を見開いて固まった。
「き、きいちが…血が、すごくて…」
「ま、待ってくれよ…ちょっと、ちょっと待って。」
水を買ってきたのだろう、正親と吉信さんも只ならない様子に二人して固まる。忍はまさかと下手くそな笑みを浮かべながら、大丈夫なんだろ?な?と言ってくる。そんなこと、大丈夫じゃないと困る。
口元を抑えてしゃがみこんだ晃さんに吉信さんが駆け寄る。狼狽えながらなんとかベンチに座らせると、まるでタイミングを見計らったかのようにスライドドアが開く。
姿を表した新庄先生は、白衣の袖を血で濡らしながら切羽詰まった表情でバインダーを晃さんに差し出した。
「赤ちゃんを産んだあとの出血のせいで、血が足りない。幸いきいちの血は検診のときに取ってある。今言えることは輸血をしないと生命の危機に関わってくる。同意書、書いてくれるよね。」
「か、書く…っ!」
その言葉に弾かれたように顔を上げた晃さんは、奪うように同意書をむしり取った。震える手で書き終えると、新庄先生がそれを受け取って踵を返し分娩室へと戻っていく。
晃さんは頭を抱えて座り込み、吉信さんも正親も、忍も何が起きたかわからない、ただ残された張り詰めた空気だけがやけに鮮明に肌で感じ取れる。
生命の危機って、なんだ。
ただでさえ貧血気味なのに、アラームがなる部屋で、真っ白な顔色でうつろな目のきいちを思い出す。
産まれたんだぞ、やりきって終わりなんて駄目だろ。
まだ、お前赤ちゃん抱いてねえんだぞ、おい、おい。
「許さねえからな!!!!」
「し、俊!」
「俺と子供ほっぽらかしにしたら、許さねぇからなきいち!!!」
分娩室のスライドドアを殴る。俺は何も出来ない。輸血同意書だって、あいつの為に書いてやれないクソガキだ。俺よりしっかりしてるなら、しっかり子供を抱いて、また変な笑い声で笑ってくれ。
「いやだ、いやだ!!死んだら絶対に恨む、しっかり息して、大声で笑え!!泣け!!俺らをおいてくんじゃねえ、たのむ…きいち!!ぜってえ目ぇ覚ませ!!!おい!!!」
ガンガン叩いてた腕を取り上げられ、正親に抱えられるようにして止められる。無様に泣いてやるから、また笑え、頼む、頼む。
ピッピッピ、という規則正しい電子音がする。
なんだか聞いたことあるな、これ。なんだっけ…
まるで底なし沼にいたかのような泥のような睡魔はゆっくりと引いていき、すう…と呼吸をすると徐々に意識も鮮明になってくる。
お腹、すいたな。
喉も乾いた。
めちゃくちゃ頭が痛い。
自分が一眠りしてから、どうなったのかわからなくてゆっくりとまぶたを開いた。あれからどれくらい立ったのか、横目でベッドサイドの日付を見ると、もうすぐ夜の21時を回ろうとしていた。
「……、」
投げ出していた手を、そのまま動かしてみる。産後は嘘みたいに動かなかったのに、指先までしっかりと血液が巡っているのか段違いに動きが良くなっていた。
そうだ、産まれたんだ。お腹に触れるとあのときのような膨らみはない。すこしだけ体を動かそうとして、足に力を入れようとしてたところで扉が開いた。
「あ…?」
「あ、起きた。よく頑張ったねぇきいちくん、体調は?」
肩から聴診器をかけた新庄先生は、まだ薄ぼんやりとしている僕の頭を撫でると、あのあと何が起きたのかを教えてくれた。
いわく、産後の弛緩出血が酷くて輸血をしたこと。あと三十分輸血が遅かったら生命の危機だったんだよといわれても、いまいちピンときていなかった。ええ、うそでしょ僕死にかけてたの?それはやだなぁ。
眉間にシワを寄せながら、うへぇとゲンナリした顔になっていると、顔色も戻ってよかったねと笑われた。
「赤ちゃん、どこですか…」
「新生児検査終わってるから、連れてこようか。今は俊くんと晃さんが一緒にいる。」
「会いたい…っ、」
「はいはい、ベッド起こすから自分で起き上がらないでねぇ。」
そう言うと簡単にベッドにくっついていたリモコンを操作されて起き上がらせる。すごい、なんだかアトラクションみたいである。目を擦ろうとして目元に触れると湿布のようなものが貼ってあった。なんだコレと剥がそうとすると、力み過ぎて内出血してるから剥がさないほうがいいよと言われた。
「まじかよ…すごい?」
「うんうん、なんだか見た目はワイルドな感じかなー。じゃ、ちょっとまっててね。」
「はあい…」
陣痛始まったのが13時位で、産まれたのいつだ。だめだ、全然思い出せない。なんか言ってた気がするんだよなぁ、うーん。指折り数えるも、自分がどれだけねこけてたのかもいまいちわからない。
諦めてぼけっとしていると、勢いよく扉が開いた音にビクリと体を跳ね上げた。扉の前には赤ちゃんを抱いたオカンと、何故か右手を包帯で固定している俊くんが目を見開いて立っていた。
「…きいち…。」
「あ、お、おは…」
「ーーーっ!!!!!うっ…!!!」
「あ、ちょ、まっ、うわあ!!!」
僕がゆるゆると手を上げると、ぶわりと涙を溢れさせて物凄い勢いで駆け寄ってきたままがばりと抱きしめられた。突撃がすぎる、と思いながら大きな体を宥めるようになでなでと背中を擦る。
さすが赤ちゃんを抱いていたオカンは駆け寄らなかったけど、こっちはこっちで鼻水と涙で偉いことになりながらずかずかと近づいてくる。何なんだふたりとも、というか俊くんはその手どうしたの。
ぐすぐすと今まで見たことないくらいに大きな体を震わして大泣きしている俊くんに、ちょっと苦しいんですけどと引き剥がすこともできず、心配かけたんだなと反省した。
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