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番外編
ホワイトデーとベイビーズブレス
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ホワイトデー。菓子業界の戦略、バレンタインのアンサーデー。ホワイトの名を関した爽やかで純血の愛を返す日。
一週間前から、きいちに何をあげようか迷った挙げ句、お返しの定番のいえばマシュマロ。とかサイトで拾い上げた情報に首を傾げ、結局決まらなくて忍に聞いた。
「なぁ、正親にホワイトデー何貰った。」
「ホワイトデー?あぁ、飯食いにつれてってもらったわ。」
「おい、それまさかこの間の焼き肉とか言わないよな?」
「うまかったなぁ、また連れてけって俊からも言って。」
「うそだろ…」
全く参考にならなかった。忍もたしかバレンタインにオヤジへチョコを渡してたはず。その後泊まりに行くって消えていったので物理的にも食われたんだろうが、それは俺も同じことをしたので人の事は言えない。ともすればオヤジに聞くしかないわけで。
「オヤジ、ホワイトデー何渡した。」
「忍に?薔薇の花束と一緒にマシュマロを渡したよ。定番らしいね、ホワイトデーの。」
「あいつ焼き肉がお返しだとおもってるぞ…」
「ええ?そうなの?それはそれで可愛いねぇ。」
だめだ。ド天然二人に聞こうと思うのがそもそもの間違いだ。結局なにも決められないまま街へ繰り出すことにした。
ホワイトデー、ホワイトデー。白、マシュマロ…はやっぱりないな。きいちはそもそも菓子をあんまくってるイメージないしな。フラペなら飲んでるけど…バレンタインのお返しをどうするかっていう悩みは贅沢な悩みだろう、好きなやつに返すんだからきちんとしたものを贈りたい。
俺と同じ番を持っててバレンタイン貰ってるやつ、と考えて益子が思いつき、すこし逡巡した後連絡を取るべく発信をした。
「…ん?」
「あ、俊くんどったの。」
「や、取り込み中か?」
「ん…、平気。ナニ、相談?」
何だ今の間。声はいつもより抑揚がついている気がする。なんでだかすこし楽しそうで、電話の奥は不自然になんの音もしない。
「お前、葵さんにホワイトデー何返した。」
「あー、…ホワイトデーね、うんうん。…、」
「ん?」
「あぁ、ごめん。ちょっと猫が…っ、」
ガサ、と大きな衣擦れのような音と共に益子の息を詰めるような声が途切れた。あまりにも不自然な様子に、眉間にシワが寄る。通話口の奥で、何かが小さく鳴いた気がしてハッとした。
「おいこら。邪魔したみたいで悪いが最中に電話出るな。」
「っ、はは!ごめんごめん、ちょっと興奮してた。」
「葵さん可哀想だろ。嫌われても知らねぇぞお前…」
「うんうん、だいじょ…え、うそうそ!泣かないでごめんね!!!」
「言わんこっちゃない…」
「俊くん俺挽回しなきゃいけねーからまた後でな!!!」
ブツッ、と一方的に通話が切れる。電話越しの光景がありありと目に浮かび、なんで他人のセックスに巻き込まれなきゃならんのだと頭が痛くなった。
アイツのことだ、ホワイトデーのお返しは俺とかいって襲いかかったに違いない。
結局ヒントすら貰えず、百貨店や花屋、アクセサリーショップに下着屋…は遠巻きに見つつ、ウィンドウショッピングを終え、途中文房具屋に寄ってからきいちがよく行くカフェに入った。
コーヒーを飲みながら、バレンタインのことを振り返る。あの日はたしか、きいちから誘ってくれたんだっけか。やりすぎてイベントでしかセックスしないみたいに勘違いをされて大いに慌てた。
いや、しかし可愛いかった。あいつの細腰を手で掴んでるときの光景が瞼の裏に蘇り、じくりと熱が灯りそうになる。真昼間からカフェで勃起など笑えない。慌てて別のことを考えて気持ちを落ち着かせた。
テーブルにはシンプルな便箋と封筒がある。
何を上げるか決まらなさすぎて、悩んだ挙げ句に思いついたのが手紙だった。
額でシャープペンのノック部分を押し付けてたっぷり蹟がつくくらい悩んでから、便箋にペンを走らせた。
俺の字を、読みやすくて綺麗と褒めてくれる番に人生初のラブレターを書くことにした。口にするよりも書くことの方が伝わるだろうと思ったのもある。
手作りチョコの感謝からはじまり、それが嬉しかったこと、これからも仲良くしていきたいこと、喧嘩はなるべくしたくないから、なにか隠すより何でも言ってほしいこと、後半は保護者のようなことばかり書いてしまったが、ホットコーヒーが冷めるまで悩みながら書いたことで、少しだけ達成感を感じた。
これに、花を添えて渡そう。薔薇はキザ過ぎて笑われるだろうし、あいつに似合いそうな花を選んで決めよう。
なんだかんだ、オヤジと同じ道をたどっている。親子で思考は似るのだろうか。忍は確かに薔薇が似合う。黙ってれば凛とした美人なのに、口よりも先に手が出るのが欠点だ。息子を止めるためとはいえ、瓶で殴られて気絶したことは忘れてない。
未だにあいつが瓶ビールだの、ワインだのを持つとオヤジと二人で固まる。なんもおこらないけど。
閑話休題、花だ花。
なんていう花だかはわからないけど、小さい花がぽつぽつくっついてる白いのが似合う。細い茎に、プリズムの光のように散らばるそれは、綺麗で可愛いきいちにぴったりだ。
花屋に向かい、お目当てのそれをみつけた。カスミソウというらしい。お婆さんが言うには、花言葉は無邪気、感謝。洋名はベイビーズブレスというらしい。控えめな花束だが、これを持って笑うきいちがみたい。
白い花束に、薄いグリーンの包み紙で包んでもらって青いリボンで根元を止めてもらった。
赤ちゃんくらいの大きさのそれを片手で抱きかかえて、隙間に手紙を差し込んだ。くん、と香ると、なかなかに愛嬌のある香りでぽかんとしてしまった。
「ふふ、独特な香りでしょう。花束にすると綺麗だけど、香りがねぇ。」
「……、まあ、確実に笑顔にはできそうです。」
独特な香りすぎてきいちは爆笑する気がする。香りの強い薔薇や、ラナンキュラス等大振りの花に混ぜるといい脇役になるらしいが、或る意味印象深いホワイトデーになりそうなのでこれはこれで良しとする。
きいちのから、晃さんと吉信さんがでかけて帰らないことは聞いていた。ホワイトデーだし、よろしくやるのだろうとのことだ。
そのままお婆さんにお礼を言って、きいちの家へまっすぐ向かうことにした。
(きいちsite)
玄関を開けたら花束持った番がTシャツにデニムというラフな格好で立っていた。
「え。」
「ちわ。」
ちわって!まじですごいぞ、何がすごいってとんでもないイケメンの僕の俊くんがまっしろな花束片手に立ってたんだぞ。タキシードとか来てたらどこぞの王子が来たとか思うよ。よかったよラフな格好で!てか目立つな、その状態でここまできたんか。さぞ町の人達の記憶に残ったことだろう。
「えっえっ、なにこれ!!」
「ホワイトデーのお返し。」
「まさかの花束!?え、なにこれ手紙まである!!!ひええ!!供給過多です!!」
「ぶふ、なんだそれ。お邪魔します。」
もさ、と押し付けられた綺麗な小さい花が可愛い。俊くんからそれを抱きかかえるようにして受け取ると、くん、と香りをかいだ。
「ふぁ!?!?!?」
「ぶ、っ…くくくくくく…」
「かめむしみたいなにおいする!!!!!」
「だははははっ!」
なんだこれ!!!めちゃくちゃくっさい!!可愛いのにくさい!!面白すぎて何度となく花の香りを確認してしまう。イメージしていた爽やかで芳醇な香りは見事に崩れ、何だったらトイレみたいな匂いすらする。
俊くんは僕の反応見てゲラゲラ笑うから、僕ももはや面白すぎて一緒になって爆笑してしまった。
綺麗で可愛い花束を挟んで、二人で大笑いしている。涙を拭った俊くんが、僕の写真をスマホで撮った。
「ちょ、僕絶対やばい顔してた!撮り直せ撮り直せ!」
「いや、かわいい。これが欲しかった。似合うなカスミソウ。匂い以外。」
「カスミソウ似合う?ふふ、嬉し…匂い以外。」
ぶはっ、とまた二人して吹き出して、なけなしの腹筋を震わした。
そんな面白すぎる綺麗な花束は家中探しても花瓶が丁度いいのが見つからなくて、結局子供の頃潮干狩りに使っていたブリキのバケツに水を張って部屋の窓側に活けた。地震きたら僕のベッドがビチャビチャになるやつ。でも、出窓を飾るように置かれたそれはとてもいい。オシャレってやつだ。
「これなに、ふふ、ラブレター?」
「人生初。俺の初めてをあげる。」
「またやらしいこと言う…読んでいい?」
「後にしてくれ…」
じわりと顔を赤くした俊くんが可愛い。目の前で読まれるのがよっぽど恥ずかしいのか、奪い取ろうとしてくるのをいなしつつ、丁寧に畳まれた便箋を開いた。
一週間前から、きいちに何をあげようか迷った挙げ句、お返しの定番のいえばマシュマロ。とかサイトで拾い上げた情報に首を傾げ、結局決まらなくて忍に聞いた。
「なぁ、正親にホワイトデー何貰った。」
「ホワイトデー?あぁ、飯食いにつれてってもらったわ。」
「おい、それまさかこの間の焼き肉とか言わないよな?」
「うまかったなぁ、また連れてけって俊からも言って。」
「うそだろ…」
全く参考にならなかった。忍もたしかバレンタインにオヤジへチョコを渡してたはず。その後泊まりに行くって消えていったので物理的にも食われたんだろうが、それは俺も同じことをしたので人の事は言えない。ともすればオヤジに聞くしかないわけで。
「オヤジ、ホワイトデー何渡した。」
「忍に?薔薇の花束と一緒にマシュマロを渡したよ。定番らしいね、ホワイトデーの。」
「あいつ焼き肉がお返しだとおもってるぞ…」
「ええ?そうなの?それはそれで可愛いねぇ。」
だめだ。ド天然二人に聞こうと思うのがそもそもの間違いだ。結局なにも決められないまま街へ繰り出すことにした。
ホワイトデー、ホワイトデー。白、マシュマロ…はやっぱりないな。きいちはそもそも菓子をあんまくってるイメージないしな。フラペなら飲んでるけど…バレンタインのお返しをどうするかっていう悩みは贅沢な悩みだろう、好きなやつに返すんだからきちんとしたものを贈りたい。
俺と同じ番を持っててバレンタイン貰ってるやつ、と考えて益子が思いつき、すこし逡巡した後連絡を取るべく発信をした。
「…ん?」
「あ、俊くんどったの。」
「や、取り込み中か?」
「ん…、平気。ナニ、相談?」
何だ今の間。声はいつもより抑揚がついている気がする。なんでだかすこし楽しそうで、電話の奥は不自然になんの音もしない。
「お前、葵さんにホワイトデー何返した。」
「あー、…ホワイトデーね、うんうん。…、」
「ん?」
「あぁ、ごめん。ちょっと猫が…っ、」
ガサ、と大きな衣擦れのような音と共に益子の息を詰めるような声が途切れた。あまりにも不自然な様子に、眉間にシワが寄る。通話口の奥で、何かが小さく鳴いた気がしてハッとした。
「おいこら。邪魔したみたいで悪いが最中に電話出るな。」
「っ、はは!ごめんごめん、ちょっと興奮してた。」
「葵さん可哀想だろ。嫌われても知らねぇぞお前…」
「うんうん、だいじょ…え、うそうそ!泣かないでごめんね!!!」
「言わんこっちゃない…」
「俊くん俺挽回しなきゃいけねーからまた後でな!!!」
ブツッ、と一方的に通話が切れる。電話越しの光景がありありと目に浮かび、なんで他人のセックスに巻き込まれなきゃならんのだと頭が痛くなった。
アイツのことだ、ホワイトデーのお返しは俺とかいって襲いかかったに違いない。
結局ヒントすら貰えず、百貨店や花屋、アクセサリーショップに下着屋…は遠巻きに見つつ、ウィンドウショッピングを終え、途中文房具屋に寄ってからきいちがよく行くカフェに入った。
コーヒーを飲みながら、バレンタインのことを振り返る。あの日はたしか、きいちから誘ってくれたんだっけか。やりすぎてイベントでしかセックスしないみたいに勘違いをされて大いに慌てた。
いや、しかし可愛いかった。あいつの細腰を手で掴んでるときの光景が瞼の裏に蘇り、じくりと熱が灯りそうになる。真昼間からカフェで勃起など笑えない。慌てて別のことを考えて気持ちを落ち着かせた。
テーブルにはシンプルな便箋と封筒がある。
何を上げるか決まらなさすぎて、悩んだ挙げ句に思いついたのが手紙だった。
額でシャープペンのノック部分を押し付けてたっぷり蹟がつくくらい悩んでから、便箋にペンを走らせた。
俺の字を、読みやすくて綺麗と褒めてくれる番に人生初のラブレターを書くことにした。口にするよりも書くことの方が伝わるだろうと思ったのもある。
手作りチョコの感謝からはじまり、それが嬉しかったこと、これからも仲良くしていきたいこと、喧嘩はなるべくしたくないから、なにか隠すより何でも言ってほしいこと、後半は保護者のようなことばかり書いてしまったが、ホットコーヒーが冷めるまで悩みながら書いたことで、少しだけ達成感を感じた。
これに、花を添えて渡そう。薔薇はキザ過ぎて笑われるだろうし、あいつに似合いそうな花を選んで決めよう。
なんだかんだ、オヤジと同じ道をたどっている。親子で思考は似るのだろうか。忍は確かに薔薇が似合う。黙ってれば凛とした美人なのに、口よりも先に手が出るのが欠点だ。息子を止めるためとはいえ、瓶で殴られて気絶したことは忘れてない。
未だにあいつが瓶ビールだの、ワインだのを持つとオヤジと二人で固まる。なんもおこらないけど。
閑話休題、花だ花。
なんていう花だかはわからないけど、小さい花がぽつぽつくっついてる白いのが似合う。細い茎に、プリズムの光のように散らばるそれは、綺麗で可愛いきいちにぴったりだ。
花屋に向かい、お目当てのそれをみつけた。カスミソウというらしい。お婆さんが言うには、花言葉は無邪気、感謝。洋名はベイビーズブレスというらしい。控えめな花束だが、これを持って笑うきいちがみたい。
白い花束に、薄いグリーンの包み紙で包んでもらって青いリボンで根元を止めてもらった。
赤ちゃんくらいの大きさのそれを片手で抱きかかえて、隙間に手紙を差し込んだ。くん、と香ると、なかなかに愛嬌のある香りでぽかんとしてしまった。
「ふふ、独特な香りでしょう。花束にすると綺麗だけど、香りがねぇ。」
「……、まあ、確実に笑顔にはできそうです。」
独特な香りすぎてきいちは爆笑する気がする。香りの強い薔薇や、ラナンキュラス等大振りの花に混ぜるといい脇役になるらしいが、或る意味印象深いホワイトデーになりそうなのでこれはこれで良しとする。
きいちのから、晃さんと吉信さんがでかけて帰らないことは聞いていた。ホワイトデーだし、よろしくやるのだろうとのことだ。
そのままお婆さんにお礼を言って、きいちの家へまっすぐ向かうことにした。
(きいちsite)
玄関を開けたら花束持った番がTシャツにデニムというラフな格好で立っていた。
「え。」
「ちわ。」
ちわって!まじですごいぞ、何がすごいってとんでもないイケメンの僕の俊くんがまっしろな花束片手に立ってたんだぞ。タキシードとか来てたらどこぞの王子が来たとか思うよ。よかったよラフな格好で!てか目立つな、その状態でここまできたんか。さぞ町の人達の記憶に残ったことだろう。
「えっえっ、なにこれ!!」
「ホワイトデーのお返し。」
「まさかの花束!?え、なにこれ手紙まである!!!ひええ!!供給過多です!!」
「ぶふ、なんだそれ。お邪魔します。」
もさ、と押し付けられた綺麗な小さい花が可愛い。俊くんからそれを抱きかかえるようにして受け取ると、くん、と香りをかいだ。
「ふぁ!?!?!?」
「ぶ、っ…くくくくくく…」
「かめむしみたいなにおいする!!!!!」
「だははははっ!」
なんだこれ!!!めちゃくちゃくっさい!!可愛いのにくさい!!面白すぎて何度となく花の香りを確認してしまう。イメージしていた爽やかで芳醇な香りは見事に崩れ、何だったらトイレみたいな匂いすらする。
俊くんは僕の反応見てゲラゲラ笑うから、僕ももはや面白すぎて一緒になって爆笑してしまった。
綺麗で可愛い花束を挟んで、二人で大笑いしている。涙を拭った俊くんが、僕の写真をスマホで撮った。
「ちょ、僕絶対やばい顔してた!撮り直せ撮り直せ!」
「いや、かわいい。これが欲しかった。似合うなカスミソウ。匂い以外。」
「カスミソウ似合う?ふふ、嬉し…匂い以外。」
ぶはっ、とまた二人して吹き出して、なけなしの腹筋を震わした。
そんな面白すぎる綺麗な花束は家中探しても花瓶が丁度いいのが見つからなくて、結局子供の頃潮干狩りに使っていたブリキのバケツに水を張って部屋の窓側に活けた。地震きたら僕のベッドがビチャビチャになるやつ。でも、出窓を飾るように置かれたそれはとてもいい。オシャレってやつだ。
「これなに、ふふ、ラブレター?」
「人生初。俺の初めてをあげる。」
「またやらしいこと言う…読んでいい?」
「後にしてくれ…」
じわりと顔を赤くした俊くんが可愛い。目の前で読まれるのがよっぽど恥ずかしいのか、奪い取ろうとしてくるのをいなしつつ、丁寧に畳まれた便箋を開いた。
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