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あれから数年が立ち、僕たちは高校生になった。


「まさかこんな感じになるとは。」

学区の関係で、悲しいことに中学校が別々になってしまった僕らは、地元の喫茶店で待ち合わせをしていた。
時の流れとは人を変えるらしい。何回か連絡は取り合ってはいたが、小学校の同窓会に参加しなかったせいか、5年ぶりに会った俊君は見事に変貌していた。


「なんていうか、なんていうか…」
「別にそんな変わったつもりなんかないんだけど。」


俊君、というより俊さんのほうがふさわしい容貌だった。
カロリと音を立てて、ストローで氷を弄ぶ。なんというか、昔から大人びた子ではあったのだけれど、まるで学生に見えなかった。

柔らかそうな猫毛は明るい茶髪に染められ、あどけなさを残したまま大人に近づくしなやかな筋肉は、夏の日差しの強さで薄着になったせいか、やたらと目につく。

「僕の知らないところで大人になっちゃったの…」
「ぐふっ…」
「うっそだろおい。」
「キャラ変わってんぞ…!」

やめなさいマジで。そう諭されるも、これは今年きっての自分的ビックニュースである。思わず自分の薄っぺらい体と見比べてしまった。


「おおおおお、大人の階段のぼっ」
「ののの、上ってねえから、階段未達だから!」

少し黙れ!と囁くような声ながら威圧してくるという離れ業を見せられ、そういえばまだ昼間だったと我に返る。
幸い周囲のマダム方はこちらの発言など気にも留めていないようだ。でも喫茶店のBGMよりも頭の中ではまだあの曲が流れている。


「久々に会ったら雰囲気変わっててつい…」
「俺もお前の変わり様にびっくりだけどな。」

どの口が人のことを言えるのかと、じとりと右耳に開けられたピアスを睨まれた。

「見た目は勉強しかしてませんみたいな真面目ちゃんのくせに、なんだそのギャップ。」
「釣りに行ったら針が引っ掛かったということにしてください。」
「さすがに無理があり過ぎる!」


ですよね。


「でも右側だけだし、髪で隠れるから。」
「俺だって開けてないのに」

右耳をしげしげと羨望のまなざしで見つめられ、なんだかむずむずしてしまう。
俊君が馬鹿を見るような目線以外を向けてくれたのがなんだか気恥ずかしく、同時にかゆくなった。

「文化祭に来ないかなと思って。」

本来の目的である話題をやっとこさ見つけだし、告白でもするかのような謎の高揚感を感じながらポロリと伝える。

「なんだその照れ方。行くけど。」

きゅう、と狭まった眉間はそのままに、珍妙なものを見るような顔で了承を得られた。

「はああ、緊張するよ、だって俊君だよ?」
「逆に怖いわ!」

何企んでやがると言わんばかりに警戒はされてしまったが、僕にはどうしても達成しなければならない事情があったのである。
それは、受験を控えた3年生を外し、2年生が中心になって文化祭を運営する。その実行委員の一人が何を隠そう僕なのだ。


「今年は校内関係者以外も積極的に招待できるんだ、開かれた校風をアピールしたいんだってさ。」
「なるほど、だから予算も多くもらっていると。」
「なのでこけられないということですね…。」

大人の事情に巻き込まれた生徒の運命である。
どこも新入生確保に必死ということだ。それでもである。

「生徒の自主性を伸ばせる校風です、とはよく言ったものだ。」
「まじそれでござる。」

本当にいいえて妙すぎて泣けてくる。

文化祭のチラシにまで力を注いだ為、プリントされた大人の事情をオブラートに包んだ文面が誇らしげに光沢を放つ。予算の消化とはいえ、たかが紙一枚にもったいないことだ。


愚痴8割、期待2割で誘ったためか、以外にも快く了承してもらえたことにホッとしたせいか、ずるりとテーブルに溶ければ、持ってきたチラシで紙ヒコーキを作った俊君がにやりと笑う。

「一つ条件がある。」
「え。」

紙ヒコーキの先端部分を僕の眉間に突き刺し、嫣然と微笑む俊君の姿に、頭の中でエマージェンシーコールが鳴り響いた。


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