上 下
14 / 273

悪魔は誰

しおりを挟む


やばい、どれくらいやばいかというと表現はできないが、ちょっと笑えない状況かもしれない。
マジをつかいたいけど、マジはさっき使ったから本当にこのヤバさを表現できない。
もっとまじめに国語をしておけばよかった。

きいちが先生に連れて行かれてから気付いたが、作戦と大きくかけ離れている。そもそも個別指導なんて今までなかったから、どのタイミングで救出に行くのがいいのか。

見計らった、というよりはクラスの全員から急かされるようにして後を追いかけた結果、到着した準備室には鍵がかかっていた。


さっき、こっそりと扉を引いてみたら締め切られていたので、中にいるのは間違いはない。

「きいちへいきかな…」

やけに静かな様子に、黙々と課題を出されて泣き顔でこなしているきいちの様子が思い浮かぶ。

連れてかれた時の哀愁と言ったら、まさにドナドナがふさわしい。いやああれを表現するなら出荷されていく家畜と同じような顔をしていた。不覚にも少し笑ってしまったことが悔しい。

「案外、なにもおこらんのかもな…」

これは、ある意味の予言だったのかもしれない。
寄りかかっていた背中が痛くなり、もぞりと背中を壁から話した時だった。

ガタンとなにかが倒れる大きな音がした後、間髪入れずに荒っぽく鍵を開ける音がする。切羽詰まっているような慌ただしい様子に思わず後ずさる。
中々鍵が開かなかったのか、ガタガタと大きく震えるようにして動く引き戸はホラー以外の何者でもない。
一体、何が起きたのか。

「な、なに」

ガチャンという大きな音に思わず目をつむった一瞬のすきをついて、何かが勢いよく俺にぶつかって飛び出していく。

「いって、え、えぇ?」
「とまれ!!おい!!」

一拍開けて怒りながら顔を出したのは六村先生だ。じゃあ、さっき飛び出していったのは、

「なんだ!いつからそこにいる!」
「きいち!」

先生の怒りの矛先が向いたことに構う暇なく、はじかれた様に後を追った。わけはわからないままだったが、そうしなきゃいけない感覚に従うしかなかった。


            


飛び出した瞬間、目の前にいた俊君に思い切りぶつかってしまった。怪我していないといいな、と思う。
パニックになりながらバタバタと大きな足音を立てて廊下を走ってきてしまった。目的地である校長室に行くということは頭から抜けていた。

校庭の隅にある給水場で、バシャバシャと顔を洗いながら、大きく深呼吸をする。

「教室戻って鞄とってこないと…」

先生、いないといいな。ぞわりと這い上がるようにして嫌悪感が忍び寄る。先生の大きな手が、口を覆ってきた光景がフラッシュバックする。
あの手は怖い。来ていたシャツのボタンは弾け飛び、数個を残して残りはなくなっていた。

「そのまえに俊君、俊君探しに行かないと。」

きっと探してくれているはずだ、まずは合流して、報告をしなくてはいけない。
驚くほど頭が落ち着いている、安易な作戦を立てたことの後悔はもちろんあったが、あのイベントが終わったから、とにかくあって落ち着こう。

口の中が異様に乾く。はじめて冷や汗というものがなんなのかを理解した。

 疾走したからか、靴の中に紛れ込んでしまった小石がチクチクと足裏に突き刺さる。いつもは気にしないのに、何故だか今日はその痛みがやけに響く。

「いた!」

水場からちょうどホワイエに移動したときだった。響いた俊君の声には、焦りと、責め立てるような色が含まれている。

「きいち!なんだってあんなことに、」
「俊君。」
「先生、顔を真っ赤にして怒り狂ってた。何があった?」
「はは、すごいや、ちょっと見てみたかったかも。」

俊君の視線がつむじに突き刺さるのを感じながら、必死で取り繕う。あの時先生が何をしたかなんて、言ったとしても理解はしないと思ったからだ。

「別に、男子同士の戯れでもあるやつだよ、」
「戯れならかまわないだろ!」
「うん、うん、」

頭では分かっているのに、順を追って説明することができない。見かねた俊君が、わかったと一言つぶやき、僕の手を引いて歩き出した。

「ど、どこ行くの」
「保健室。」
「僕どこも悪くないよ!」
「うるさい!」

有無を言わさない力でぐいぐいと引っ張られる。足がもつれそうになり、思わず背中に頭突きをすると、渋い顔をして歩調を合わせてくれた。
あのときと逆だ。俊君のことを思って怒ってた僕が、俊君に怒られる。

同じくらいの、小さい手が引っ張ってくれる。
体温が移動するように、冷たかった手があたたかみを帯びてきたことにホッとした。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

孕めないオメガでもいいですか?

月夜野レオン
BL
病院で子供を孕めない体といきなり診断された俺は、どうして良いのか判らず大好きな幼馴染の前から消える選択をした。不完全なオメガはお前に相応しくないから…… オメガバース作品です。

壁穴奴隷No.19 麻袋の男

猫丸
BL
壁穴奴隷シリーズ・第二弾、壁穴奴隷No.19の男の話。 麻袋で顔を隠して働いていた壁穴奴隷19番、レオが誘拐されてしまった。彼の正体は、実は新王国の第二王子。変態的な性癖を持つ王子を連れ去った犯人の目的は? シンプルにドS(攻)✕ドM(受※ちょっとビッチ気味)の組合せ。 前編・後編+後日談の全3話 SM系で鞭多めです。ハッピーエンド。 ※壁穴奴隷シリーズのNo.18で使えなかった特殊性癖を含む内容です。地雷のある方はキーワードを確認してからお読みください。 ※No.18の話と世界観(設定)は一緒で、一部にNo.18の登場人物がでてきますが、No.19からお読みいただいても問題ありません。

或る実験の記録

フロイライン
BL
謎の誘拐事件が多発する中、新人警官の吉岡直紀は、犯人グループの車を発見したが、自身も捕まり拉致されてしまう。

【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎

亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡ 「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。 そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格! 更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。 これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。 友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき…… 椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。 .₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇ ※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。 ※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。 楽しんで頂けると幸いです(^^) 今後ともどうぞ宜しくお願いします♪ ※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

処理中です...