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そういうんじゃない✴︎✴︎✴︎
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柔らかなシグムントの唇を喰む。時折唇の隙間から漏れ出るか細い声に、脳がくらくらと揺さぶられた。舌を摩擦しては唾液が弾け、微かな水音を立てる。
吐息の重なりが心地いいと感じるようになったのは、シグムントと口付けをするようになってからだ。
「ぃ、いぁ、……ふ、っ……」
「鼻で息しろ、……そう」
「ん、んぅ、ふ……っ」
静かな部屋には二人分の衣擦れの音と、イェネドの寝息が混ざっていた。
シグムントは、時折イェネドを気にするように意識を逸らす。それが気に食わなくて、イザルは唇を甘く喰み、シグムントの額に己の額を重ねた。
「不安は、とれたかよ」
「ぅ、うん」
「……本当に?」
「ぁ、い、いざ、る」
遠慮がちに漏れるシグムントの声は確かに、先程の泣きそうな色は見受けられなかった。
今はただ、緊張をしているのだろう。触れた薄い肩は微かに強張り、近い距離にいるイザルを意識しているようだった。
頬に口付け、尖り気味の耳を甘く喰む。犬歯で柔らかな軟骨に歯を立ててやれば、子犬のような声が口から漏れる。
「い、イェネドが、寝てる……っ」
「寝息立てて、ぐっすりな」
「ま、待て、っだ、だめっ、だ、っ」
首筋の薄い皮膚をイザルの唇がたどり、耳の付け根近くの柔らかな肉に痕を残す。シグムントの制止は、慌てたようにイザルの手へと向けられた。大きな手のひらが、勝手知ったる様子で服の裾から侵入してきたのだ。
「あ、っ!」
「静かにしろ」
「ふ、んん……っ」
無骨なイザルの手は、白くて柔らかなシグムントの素肌を確かめるように手を這わし、あっという間に胸の頂まで指先を運ぶ。深爪気味の指先が色素の薄い胸の粒を掠めるだけで、シグムントの体には電気が走り抜けていく。
イザルの黒く長いまつ毛の隙間から見えたのは、熱の籠る銀灰の瞳だ。シグムントの制止を望まない、強い光を宿す瞳。触れることを拒むなと言う理不尽な視線は、なぜだかシグムントをひどく安心させた。
「もう、お、おまえは……」
「あんだよ」
「……なんでも、ないよ」
細い指先が、イザルの耳へ長い前髪を避けるようにかける。気恥ずかしそうに目を伏せて、ゆっくりと顔を背けるシグムントの様子を前に、イザルの喉はぐるりとなった。
「ひ、んくっ……!」
「ん……」
乾燥気味の指先が、胸の粒を柔らかく摘み上げる。右胸の刺激に顎を逸らしたシグムントは、次いできた左胸への熱い滑りを纏う愛撫に悲鳴をあげた。
「ーーーーーっぁ、」
イザルの柔らかで少しカサついた唇が、立ち上がった胸の突起を挟み込む。甘く吸い付かれ、慣れない刺激に何度も飛び跳ねそうになる声を必死で抑える。指先から与えられる刺激もまた、だめだ。特別強く押さえ込まれているわけでもないのに、薄い腰に置かれた大きな手によって逃げ場を奪われていた。
イザルの唾液の水音と、シグムントのヘタクソな呼吸が聞こえてくる。
腹の奥がジクジクと疼き始めて、小振りな性器がはずかしく膨らんでいく。震える指先が、イザルの唇を遮るように運ばれる。
愛撫を中断させられたことを不服に思ったのか、イザルは瞳に不機嫌さを滲ませた。
「何」
「ち、乳はでぬ、から……っ」
「知ってる、気持ちくねえんか」
「……き、もち、……い……」
瞳がぼやけるほど涙を溜めるシグムントの姿に、イザルの瞳の熱が高まる。震える指先に、イザルの指が数秒絡まった。ベットがギシリと軋み、シグムントの瞼に口付けが落とされる。
「あんま泣くと、干からびちまうぞ」
べろりと這わされたイザルの舌が、シグムントの涙を舐めとった。濡れた頬をそのままに、近い距離が、もう一度ゼロになる。互いに顔を傾けるように再び重ねた口付けは、啄むようなものから濡れた熱を帯びていく。
イザルの手がシグムントの足を引き寄せると、己の腰を挟ませるように下半身同士を重ねる。熱を持ち、硬くなった布越しの性器同士が重なり合う。その淫猥な光景に、シグムントは熱い吐息を漏らした。
「ま、た……するのか」
「やりてえ」
「ゎ、わかった、……っ」
気恥ずかしそうに、シグムントが顔を背けた。イザルはシグムントを見下ろすと、着ていた服を床へ脱ぎ捨てた。晒された鍛え抜かれた体には、そこかしこに傷跡が散らされている。
わずかに濃くなったイザルの体の傷の一つに、シグムントが手を伸ばす。引き締まった腰を形作る筋肉が、指先の微かな刺激に反応を示すかのように引き締まった。
浮き上がった腹筋に走る血管の一筋を指先で辿ると、制すように手を握られた。
「収まんねえから、少し付き合え」
金属の擦れ合う音を立てながら、シグムントの目の前でベルトを引き抜く。見下ろした白い体はうまそうに染まり、イザルは唾液が分泌されるのを感じていた。痛いほどに生地を押し上げる前立てをくつろげ、下着を雑にずらすように性器を取り出す。先端はパツンと張り詰め、熱を放ちながらもプラムのようにみずみずしい。
シグムントの小さな手のひらで支えるには、随分と重そうだ。勃ちあがったイザルの性器を前に、細い喉はわずかに上下した。
「なんで、こんな、に、っ」
「握って」
「あ、あつ、っ」
シグムントの手が、恐る恐るイザルの性器を握り締める。手のひらの内側で脈を打ち、張り詰めた先端から先走りを滲ませる様子は、イザルがシグムントの体に性欲を感じた証拠でもあった。
乱れた長い髪の隙間から、イザルの様子を盗み見る。汗で濡れた黒髪と、上気した肌。荒い呼吸を誤魔化そうともせずにシグムントを見下ろす目つきに、思わずあえかな吐息を漏らした。
穿いていたボトムスを脱がされ、下着のみを残される。直に感じるシーツの感触が、やけに生々しい。
「っぅ……」
内股が震えた。じっとりと汗をかき、体が気持ち悪い。己の意思に逆らうように、シグムントの下着はじわじわと濡れていった。少しだけ、漏れてしまった。
上等な雄の獰猛さを向けられて、シグムントの性器から、熱が溢れでたのだ。膝を擦り合わせたくても、できない。少しでも身じろぐと、濡れた下着が性器に張り付き不快だった。
「き、気持ちい……のか」
「……そりゃ、触られればな」
「ふ、ふうん……」
シグムントの手にイザルの手が重なって、性器を握り込む。目の前で自慰を楽しむようなイザルの姿に、体の熱はじわりと広がっていく。重ねた手の隙間から先走りが溢れて、シグムントの手首を伝っていく。まるで、イザルを感じさせているかのような錯覚を覚えてしまう。その光景は、シグムントの雄としての矜持を満たす。
イザルの視線が、ゆっくりとシグムント下肢へと運ばれる。布を押し上げるように立ち上がったそこが濡れていることに気がつくと、イザルは意地悪な笑みを浮かべた。
「は、お前も勃ってんのか」
「だ、だって、イザルが、っ」
「人のせいにすんなよ」
「は、んん、っ……!」
先走りで濡れた手を解放される。イザルはシグムントの柔らかな太ももを鷲掴むと、肩に担ぎ上げるようにして内股に唇を滑らせた。
視線が絡み合い、イザルの犬歯がゆっくりと太ももの肉に埋まっていく。戯れのような甘噛みで、きっと痕すら残らない。イザルに釘付けになっていたせいだ。唐突な性器への刺激に、シグムントは情けない声を上げた。
「いゃだ、これ、っ」
「自分でできるようにならねえと」
「い、ぃざ、るがする、っ」
「お前ばっか楽してんじゃねえぞ」
イザルの手が、シグムントの性器を握りしめる。濡れた下着ごと摩擦されて仕舞えば、刺激に弱い体はあっという間に綻んでいく。無骨な指の隙間から見え隠れする布越しの先端は、言い訳などできないほどに濡れそぼっている。気がつけば、シグムントの腰はヘタクソに性感を追いかけていた。
イザルの手で浅ましくなっていく体を、シグムントは長髪で視界を遮るふりをして目に焼き付けてしまう。
意地悪な笑みを浮かべるイザルが、歯形のついた太腿から手を離す。シグムントの細い足を肩で押し上げるように覆い被さると、再び唇が胸元へと運ばれた。
制止も待たずに再び粒を口に含まれて、シグムントは全身の痺れを受け止めきれずに腰を震わせた。
「ひゃ、ンン……っ」
「ん、そのまま自分で動け」
「で、でき、ぁ……いっア、アッ」
「男なら本能でどうにかなんだろうが」
「ひぅ、ぁ、や、やだ、ぁあっ……」
布越しから溢れた精液が、シグムントの果てた証であった。
耳朶をくすぐるように囁かれるイザルの命令は、毒にも似ていた。このまま身を任せて仕舞えば、シグムントは己が泣いた理由ですら忘れられるとさえ思った。
部屋にはシグムントの嗚咽と、先ほどよりも粘度の高い水音が静かに聞こえていた。
気がつけば、イザルの手に頼らぬまま、情けない腰使いで性器を慰めていた。達したばかりの敏感なそこを直に握り込み、シグムントは拙い自慰をする。
イザルが手遊びした光景をなぞるかのような手の動きは、見ているだけで視界を楽しませる。濡れそぼった下着は使い物にはならないだろう。垂れた精液の一筋を追いかけるように、布生地はシグムントの尻の間に吸い込まれ、色を変えていく。
「ふー……」
「ひ、っン」
イザルの手のひらがシグムントの尻を鷲掴む。手の内側に吸い付くような柔らかさは魅力的だが、その小ささにいささかの不安を覚える。
(小せえ……いけんのかこれ)
親指で柔肉を引き寄せるように、シグムントの蕾を晒す。かろうじて尻で留まっていた下着を掴むと、許可も得ずに脱がしてしまう。
放られた下着を呆気に取られるように見送ったシグムントであったが、無骨な指先が己の蕾を撫でたことで、思わず足を振り上げた。見事な蹴りがイザルの頭に直撃した。
「ぶっ……!」
「す、すまんっ」
「っ……いい、楽にしてろ……。お前、尻はいじったことあんのか」
「だ、だすとこだろ」
「ねえってことか、わかった」
わかったと言われて、シグムントは何を、と問いかけようとした。しかし、イザルの言葉の続きはすぐにわかった。
「ひぅ、あっ!」
「ちっせ、くそ、まだ無理だな……」
「あっ……あ、ああっな、何し、っ」
「お前の精液だろう、びびるな」
滑りを纏った指先が蕾を摩擦する。ただ往復するだけではない。時折、中に刺激を送るように、強弱をつけて押されるのだ。
「っぁ、ふ……っ」
「挿れねえから、まだ」
イザルは付け加えるようにそう言うと、硬く張り詰めた性器の先端を蕾に擦り付けた。シグムントの両足は、一纏めにされて片腕で制される。柔肉を押し広げるようにイザルの性器が擦り付けられる光景は、シグムントには酷く刺激が強かった。
引き締まったイザルの腰がゆらめくたびに、シグムントの小ぶりな袋を持ち上げ、裏筋をなぞり、柔らかな太腿の肉の隙間から顔を出す。熱を帯びたイザルの表情からは色気が滲み、太い性器の根本を飾る茂みが押し付けられることで、シグムントの性感を高めていく。
「ぁ、あ、あ、っ」
「んだよ、そんな声……出すなって」
瞳に欲を滲ませたイザルが、艶然と微笑んだ。滲んだ汗が、下腹部に走る太い血管を伝う。体は上気し、触れ合った場所から互いの興奮が伝播していく。細い足を抱きしめるイザルの腕の筋肉が皮膚の下で蠢き、微かな圧迫感を感じたその瞬間。
「……あ、うぅ、っ!」
「っ、あ?」
華奢な体が、イザルの目の前でのけぞった。内股を震わし、ビクビクと背筋を痺れさせたシグムント自身も、何が起きたのか理解をしていないようだった。
荒い呼吸を繰り返し、白い胸が上下する。薄い腹は時折痙攣するようにひくんと動き、二度目の精液を腹に散らしていた。
その腹部に、イザルの節張った手のひらがそっと這わされた。無骨な手が射精後の性器をゆっくりと握りしめると、覆い被さりシグムントの唇を塞いだ。
「ン、ん、……っ、っぅ、うん、んっ……‼︎」
「ふ……」
イザルの舌がシグムントの悲鳴を飲み込んだ。片腕で容易く動きを封じられていた足は大きく開かされ、イザルの体が足の間を陣取った。
逃げ場を失ったシグムントの細い足が、シーツを乱す。まるで挿入を伴ったかのような腰使いに、慎ましい性器は激しく弄ばれた。
「ひぅ、ん、んぅ、うっうん、ふ、っう、うっ」
「は、ぁ……っは、っ」
「ひゃ、め、ふ……ぇひゃ、っっゃ、ァめ、っあ、っああ、んっ」
イザルから与えられる甘い唾液を嚥下しながら、シグムントは必死に性感を追いかけていた。身も蓋もなく、端ない声がひっきりなしに口から溢れる。頭がぼやけ、涙が汗と混じり流れていく。イザルの太い腕が檻のように体を捉えて逃さない。腰を打ち付けられた尻はただ痺れ、凝った鋭い熱が何度も性器を駆け巡る。
このまま摩擦を続けられたら、シグムントは大人としての尊厳を奪われることになるかもしれない。もうやめてと声を出したいのに、イザルの舌がそれを許さない。下腹部に溜まる、尿意にも似た性感に抗うことができない。シグムントは、口付けのわずかな隙をついて悲鳴を上げた。
「ひゃめ、へ……っも、もぅ、やだ、あ、あっでる、でるぅ……っ!」
「ほら、……っ、見せてみな」
「ぁあ、あっい、ぃっぐ、っ……! い、いざ、ぅっで、でぅ、あっ、ああっ」
一際強く性器を摩擦された瞬間、シグムントは決壊した。細い腕に力を込めて、イザルに縋りついたまま。性器から放たれる勢いのある潮が、びしゃびしゃとイザルの腹筋を温める。
放尿のような開放感はシグムントから思考を奪い、仰け反った体は水溜りの上にベシャリと崩れた。
「……くそ、シグムント、こっち向け。」
「ぁ、ふ…っ」
「悪いけど、俺も限界なんだわ。」
「ふ……ん、んぅっ……っ」
ベットが軋む。淫猥な光景を目の当たりにしたイザルの性器は、もうすでに限界であった。身を投げ出した華奢な体を跨ぐなり、張り詰めた性器を唇へ押し付ける。
虚ろなシグムントの頭に手を添えると、ゆっくりと太い性器を口へ含ませた。口の中は狭く、とろけるような熱を纏っていた。
「ふ、ぅぐ……ん、ん……っ」
「っ、は……あ……っ」
無理矢理の口淫をしている自覚は、イザルにもあった。シグムントが拒めば、止まってやるつもりでもあった。しかし、イザルの理性は再び焼き切れそうになっていた。
シグムントの小さな口に、太い己の性器が含まれている。銀灰の瞳に涙をこぼし、苦しげに開かされた口内では、薄い舌が逃げ場を求めるように幹を刺激する。子供のように嗚咽を漏らす様子が可愛くて、イザルは改めて己の加虐心を自覚した。
細い喉は、幾度となく上下している。舌の上に塗りつけられる苦い先走りを、必死で飲み下しているようだった。
後頭部に回されたイザルの手のひらが、優しくシグムントの髪を梳く。イザルの下生えが鼻先をくすぐるほど深く咥え込まされたが、感じいった表情を見て仕舞えば、シグムントが大きな抵抗を見せることもなかった。
あのかっこいいイザルが、自分のせいでこうなっているのかと思うだけで、矜持が満たされたのだ。
飲みきれない唾液が、口端から噴き出る。イザルの袋が細い顎にぶつかるほど咽頭を犯されて、シグムントの薄い腹はビクビクと震えた。
ガポガポと、聞いたことのない音がする。それがシグムントの口から出ている音だと気がつく頃には、イザルの性器はぐっと大きく膨らんだ。
「んぶ、っ……ぅ、うく、ん、んっ」
「っあー……っ、くそ、でる、っ」
「ん、んぐ、っう、う、う、うっ」
ぎゅぽ、と嫌な音がして、イザルの茂みがシグムントの鼻先に押し付けられる。細い喉が無理やり広げられたかのように歪に膨らみ、胃の腑へとイザルの濃い雄の香りが流し込まれる。
シグムントの銀灰の瞳は限界まで見開かれ、喉を容赦なく満たしていく精液の量の多さに、本気で死ぬかと思った。
「ぐぅ、えっ……っ‼︎ ゲホ、っう、ん、んぐ、ぅえ……っえっ」
「っ、シグムント、」
「は、ヒュ……っぇほ、っえっ、ん、ング、っ」
飲みきれなかった精液が食道を逆流して、シグムントは慌ててイザルの体を突き放した。口元を抑え身を起こす。かろうじてベットから顔を出すと、薄い腹を震わせてげえげえ吐いた。
どうやら無理をさせたらしい。イザルはようやく思考が戻ってくると、薄い背中に手を添えるようにして顔を覗き込む。
口元を白濁で汚したシグムントが、放心した顔で汚れた床を見つめていた。イザルはしくじったといわんばかりに顔を歪めると、枕カバーを引き抜いてシグムントの口元を拭ってやった。
「悪い……」
「ぃ、イザル、ぅ、ひっ……く、えっ……ぅぇ、……ぇん…っ 」
「ああ、俺が悪かった。シグムント、おいで」
「ぅえ、っ……えっえっ……ぃ、イザル、ぃざる……っ」
イザルの顔を見るや否や、シグムントはブワリと涙を溢れさせた。小さい子が親に縋り付くようにして、イザルの腕の中でわあわあと泣きじゃくる。
流石のイザルも、突き放すようなことはしなかった。やりすぎの自覚はしていたのだ。
小さな体を抱き抱えるように、シグムントの背中を何度も撫でる。鼻先を掠める匂いに気がついて下を向けば、シグムントの尻の下は先程とは違う色の水溜りを広げていた。
「シグ、シグムント。顔上げろ」
「ひゃ、ら……っ、ぃ、いゃ、あっ」
「黙れ、抵抗すんな。……キスがしてぇだけだから」
「ひぅ……っ、ン……っ」
嘔吐したばかりの口でも、イザルはかまわなかった。シグムントがただ可愛くて、優しくするつもりができなくて。泣き顔に煽られるままに、隙をついて唇を掠め取る。
抱き込んだ体は、多少の抵抗を見せた。イザルがシグムントの口内に舌を差し込んで、吐瀉物の残滓すら掠め取るように深く口付けたからだ。
「ふ……っ、ん、んぅ、……」
「っは……シグムント……悪かった」
唾液が互いの舌を繋ぎ、イザルはシグムントの額に己の額を重ね合わせた。許しを願うイザルの瞳はいつになくシグムントを熱い眼差しで絡めとる。
泣き腫らした顔なんて、目も当てられないだろうに。シグムントは、イザルが聞けば怒り出すようなことを思いながら、弱々しく頷いた。
「ぅ、ん……っ」
(くそ、かわいい。俺は、確かにこいつのことがそういう意味で好きなんだ)
イザルはようやく己の好きを自覚した。
拗らせすぎている。イザルは、どこまで許されるのかを無意識に試したのだ。
それなのにシグムントときたら、こんなにひどい目にあったというのにイザルを許した。
細い腕がイザルの背中に周り、縋り付く。その瞬間、初めて愛おしいという気持ちが輪郭を帯びた。
認めよう、確かに自分はクソガキだと。素直にシグムントが好きだと言ってやれたらいいのに、イザルにはそれができない。できるのは、熱い眼差しでシグムントを見つめながら、汚れた口元も厭わずにキスをしてやることくらいだ。
「シグムント、シグムント……っ」
「ん、ん、んぅ、あ、っ」
「お前に、入れてえ、……くそ、いつか犯す、絶対に……お前の初めては俺のもんだ」
「ぁ、わ、わかった、から、」
「くそ、足りねえ……舌よこせ、」
「ふ、んぁ……っ」
求めるようなイザルからの口付けが気持ちがよくて、シグムントはイザルの舌に身を任せた。
再び二人が沈んだベットはそこかしこが汚れている。イザルは己の性器をシグムントの尻の間に挟むようにして何度も揺さぶりながら、激しく舌を絡めあった。
今まで抱いた女ですら、これほどまでに欲求に流されることはなかった。イザルはこれが魔族の魅力なのかとも思ったが、背中に回された腕が一生己から離れないのなら、それでもいいかと思ってしまった。
獣のような交わりが本能からくるものだとしたら、イザルも大概にイカれている。そんなことを思いながら、今度こそシグムントが気絶するまで、イザルは激しく体温を求めたのであった。
吐息の重なりが心地いいと感じるようになったのは、シグムントと口付けをするようになってからだ。
「ぃ、いぁ、……ふ、っ……」
「鼻で息しろ、……そう」
「ん、んぅ、ふ……っ」
静かな部屋には二人分の衣擦れの音と、イェネドの寝息が混ざっていた。
シグムントは、時折イェネドを気にするように意識を逸らす。それが気に食わなくて、イザルは唇を甘く喰み、シグムントの額に己の額を重ねた。
「不安は、とれたかよ」
「ぅ、うん」
「……本当に?」
「ぁ、い、いざ、る」
遠慮がちに漏れるシグムントの声は確かに、先程の泣きそうな色は見受けられなかった。
今はただ、緊張をしているのだろう。触れた薄い肩は微かに強張り、近い距離にいるイザルを意識しているようだった。
頬に口付け、尖り気味の耳を甘く喰む。犬歯で柔らかな軟骨に歯を立ててやれば、子犬のような声が口から漏れる。
「い、イェネドが、寝てる……っ」
「寝息立てて、ぐっすりな」
「ま、待て、っだ、だめっ、だ、っ」
首筋の薄い皮膚をイザルの唇がたどり、耳の付け根近くの柔らかな肉に痕を残す。シグムントの制止は、慌てたようにイザルの手へと向けられた。大きな手のひらが、勝手知ったる様子で服の裾から侵入してきたのだ。
「あ、っ!」
「静かにしろ」
「ふ、んん……っ」
無骨なイザルの手は、白くて柔らかなシグムントの素肌を確かめるように手を這わし、あっという間に胸の頂まで指先を運ぶ。深爪気味の指先が色素の薄い胸の粒を掠めるだけで、シグムントの体には電気が走り抜けていく。
イザルの黒く長いまつ毛の隙間から見えたのは、熱の籠る銀灰の瞳だ。シグムントの制止を望まない、強い光を宿す瞳。触れることを拒むなと言う理不尽な視線は、なぜだかシグムントをひどく安心させた。
「もう、お、おまえは……」
「あんだよ」
「……なんでも、ないよ」
細い指先が、イザルの耳へ長い前髪を避けるようにかける。気恥ずかしそうに目を伏せて、ゆっくりと顔を背けるシグムントの様子を前に、イザルの喉はぐるりとなった。
「ひ、んくっ……!」
「ん……」
乾燥気味の指先が、胸の粒を柔らかく摘み上げる。右胸の刺激に顎を逸らしたシグムントは、次いできた左胸への熱い滑りを纏う愛撫に悲鳴をあげた。
「ーーーーーっぁ、」
イザルの柔らかで少しカサついた唇が、立ち上がった胸の突起を挟み込む。甘く吸い付かれ、慣れない刺激に何度も飛び跳ねそうになる声を必死で抑える。指先から与えられる刺激もまた、だめだ。特別強く押さえ込まれているわけでもないのに、薄い腰に置かれた大きな手によって逃げ場を奪われていた。
イザルの唾液の水音と、シグムントのヘタクソな呼吸が聞こえてくる。
腹の奥がジクジクと疼き始めて、小振りな性器がはずかしく膨らんでいく。震える指先が、イザルの唇を遮るように運ばれる。
愛撫を中断させられたことを不服に思ったのか、イザルは瞳に不機嫌さを滲ませた。
「何」
「ち、乳はでぬ、から……っ」
「知ってる、気持ちくねえんか」
「……き、もち、……い……」
瞳がぼやけるほど涙を溜めるシグムントの姿に、イザルの瞳の熱が高まる。震える指先に、イザルの指が数秒絡まった。ベットがギシリと軋み、シグムントの瞼に口付けが落とされる。
「あんま泣くと、干からびちまうぞ」
べろりと這わされたイザルの舌が、シグムントの涙を舐めとった。濡れた頬をそのままに、近い距離が、もう一度ゼロになる。互いに顔を傾けるように再び重ねた口付けは、啄むようなものから濡れた熱を帯びていく。
イザルの手がシグムントの足を引き寄せると、己の腰を挟ませるように下半身同士を重ねる。熱を持ち、硬くなった布越しの性器同士が重なり合う。その淫猥な光景に、シグムントは熱い吐息を漏らした。
「ま、た……するのか」
「やりてえ」
「ゎ、わかった、……っ」
気恥ずかしそうに、シグムントが顔を背けた。イザルはシグムントを見下ろすと、着ていた服を床へ脱ぎ捨てた。晒された鍛え抜かれた体には、そこかしこに傷跡が散らされている。
わずかに濃くなったイザルの体の傷の一つに、シグムントが手を伸ばす。引き締まった腰を形作る筋肉が、指先の微かな刺激に反応を示すかのように引き締まった。
浮き上がった腹筋に走る血管の一筋を指先で辿ると、制すように手を握られた。
「収まんねえから、少し付き合え」
金属の擦れ合う音を立てながら、シグムントの目の前でベルトを引き抜く。見下ろした白い体はうまそうに染まり、イザルは唾液が分泌されるのを感じていた。痛いほどに生地を押し上げる前立てをくつろげ、下着を雑にずらすように性器を取り出す。先端はパツンと張り詰め、熱を放ちながらもプラムのようにみずみずしい。
シグムントの小さな手のひらで支えるには、随分と重そうだ。勃ちあがったイザルの性器を前に、細い喉はわずかに上下した。
「なんで、こんな、に、っ」
「握って」
「あ、あつ、っ」
シグムントの手が、恐る恐るイザルの性器を握り締める。手のひらの内側で脈を打ち、張り詰めた先端から先走りを滲ませる様子は、イザルがシグムントの体に性欲を感じた証拠でもあった。
乱れた長い髪の隙間から、イザルの様子を盗み見る。汗で濡れた黒髪と、上気した肌。荒い呼吸を誤魔化そうともせずにシグムントを見下ろす目つきに、思わずあえかな吐息を漏らした。
穿いていたボトムスを脱がされ、下着のみを残される。直に感じるシーツの感触が、やけに生々しい。
「っぅ……」
内股が震えた。じっとりと汗をかき、体が気持ち悪い。己の意思に逆らうように、シグムントの下着はじわじわと濡れていった。少しだけ、漏れてしまった。
上等な雄の獰猛さを向けられて、シグムントの性器から、熱が溢れでたのだ。膝を擦り合わせたくても、できない。少しでも身じろぐと、濡れた下着が性器に張り付き不快だった。
「き、気持ちい……のか」
「……そりゃ、触られればな」
「ふ、ふうん……」
シグムントの手にイザルの手が重なって、性器を握り込む。目の前で自慰を楽しむようなイザルの姿に、体の熱はじわりと広がっていく。重ねた手の隙間から先走りが溢れて、シグムントの手首を伝っていく。まるで、イザルを感じさせているかのような錯覚を覚えてしまう。その光景は、シグムントの雄としての矜持を満たす。
イザルの視線が、ゆっくりとシグムント下肢へと運ばれる。布を押し上げるように立ち上がったそこが濡れていることに気がつくと、イザルは意地悪な笑みを浮かべた。
「は、お前も勃ってんのか」
「だ、だって、イザルが、っ」
「人のせいにすんなよ」
「は、んん、っ……!」
先走りで濡れた手を解放される。イザルはシグムントの柔らかな太ももを鷲掴むと、肩に担ぎ上げるようにして内股に唇を滑らせた。
視線が絡み合い、イザルの犬歯がゆっくりと太ももの肉に埋まっていく。戯れのような甘噛みで、きっと痕すら残らない。イザルに釘付けになっていたせいだ。唐突な性器への刺激に、シグムントは情けない声を上げた。
「いゃだ、これ、っ」
「自分でできるようにならねえと」
「い、ぃざ、るがする、っ」
「お前ばっか楽してんじゃねえぞ」
イザルの手が、シグムントの性器を握りしめる。濡れた下着ごと摩擦されて仕舞えば、刺激に弱い体はあっという間に綻んでいく。無骨な指の隙間から見え隠れする布越しの先端は、言い訳などできないほどに濡れそぼっている。気がつけば、シグムントの腰はヘタクソに性感を追いかけていた。
イザルの手で浅ましくなっていく体を、シグムントは長髪で視界を遮るふりをして目に焼き付けてしまう。
意地悪な笑みを浮かべるイザルが、歯形のついた太腿から手を離す。シグムントの細い足を肩で押し上げるように覆い被さると、再び唇が胸元へと運ばれた。
制止も待たずに再び粒を口に含まれて、シグムントは全身の痺れを受け止めきれずに腰を震わせた。
「ひゃ、ンン……っ」
「ん、そのまま自分で動け」
「で、でき、ぁ……いっア、アッ」
「男なら本能でどうにかなんだろうが」
「ひぅ、ぁ、や、やだ、ぁあっ……」
布越しから溢れた精液が、シグムントの果てた証であった。
耳朶をくすぐるように囁かれるイザルの命令は、毒にも似ていた。このまま身を任せて仕舞えば、シグムントは己が泣いた理由ですら忘れられるとさえ思った。
部屋にはシグムントの嗚咽と、先ほどよりも粘度の高い水音が静かに聞こえていた。
気がつけば、イザルの手に頼らぬまま、情けない腰使いで性器を慰めていた。達したばかりの敏感なそこを直に握り込み、シグムントは拙い自慰をする。
イザルが手遊びした光景をなぞるかのような手の動きは、見ているだけで視界を楽しませる。濡れそぼった下着は使い物にはならないだろう。垂れた精液の一筋を追いかけるように、布生地はシグムントの尻の間に吸い込まれ、色を変えていく。
「ふー……」
「ひ、っン」
イザルの手のひらがシグムントの尻を鷲掴む。手の内側に吸い付くような柔らかさは魅力的だが、その小ささにいささかの不安を覚える。
(小せえ……いけんのかこれ)
親指で柔肉を引き寄せるように、シグムントの蕾を晒す。かろうじて尻で留まっていた下着を掴むと、許可も得ずに脱がしてしまう。
放られた下着を呆気に取られるように見送ったシグムントであったが、無骨な指先が己の蕾を撫でたことで、思わず足を振り上げた。見事な蹴りがイザルの頭に直撃した。
「ぶっ……!」
「す、すまんっ」
「っ……いい、楽にしてろ……。お前、尻はいじったことあんのか」
「だ、だすとこだろ」
「ねえってことか、わかった」
わかったと言われて、シグムントは何を、と問いかけようとした。しかし、イザルの言葉の続きはすぐにわかった。
「ひぅ、あっ!」
「ちっせ、くそ、まだ無理だな……」
「あっ……あ、ああっな、何し、っ」
「お前の精液だろう、びびるな」
滑りを纏った指先が蕾を摩擦する。ただ往復するだけではない。時折、中に刺激を送るように、強弱をつけて押されるのだ。
「っぁ、ふ……っ」
「挿れねえから、まだ」
イザルは付け加えるようにそう言うと、硬く張り詰めた性器の先端を蕾に擦り付けた。シグムントの両足は、一纏めにされて片腕で制される。柔肉を押し広げるようにイザルの性器が擦り付けられる光景は、シグムントには酷く刺激が強かった。
引き締まったイザルの腰がゆらめくたびに、シグムントの小ぶりな袋を持ち上げ、裏筋をなぞり、柔らかな太腿の肉の隙間から顔を出す。熱を帯びたイザルの表情からは色気が滲み、太い性器の根本を飾る茂みが押し付けられることで、シグムントの性感を高めていく。
「ぁ、あ、あ、っ」
「んだよ、そんな声……出すなって」
瞳に欲を滲ませたイザルが、艶然と微笑んだ。滲んだ汗が、下腹部に走る太い血管を伝う。体は上気し、触れ合った場所から互いの興奮が伝播していく。細い足を抱きしめるイザルの腕の筋肉が皮膚の下で蠢き、微かな圧迫感を感じたその瞬間。
「……あ、うぅ、っ!」
「っ、あ?」
華奢な体が、イザルの目の前でのけぞった。内股を震わし、ビクビクと背筋を痺れさせたシグムント自身も、何が起きたのか理解をしていないようだった。
荒い呼吸を繰り返し、白い胸が上下する。薄い腹は時折痙攣するようにひくんと動き、二度目の精液を腹に散らしていた。
その腹部に、イザルの節張った手のひらがそっと這わされた。無骨な手が射精後の性器をゆっくりと握りしめると、覆い被さりシグムントの唇を塞いだ。
「ン、ん、……っ、っぅ、うん、んっ……‼︎」
「ふ……」
イザルの舌がシグムントの悲鳴を飲み込んだ。片腕で容易く動きを封じられていた足は大きく開かされ、イザルの体が足の間を陣取った。
逃げ場を失ったシグムントの細い足が、シーツを乱す。まるで挿入を伴ったかのような腰使いに、慎ましい性器は激しく弄ばれた。
「ひぅ、ん、んぅ、うっうん、ふ、っう、うっ」
「は、ぁ……っは、っ」
「ひゃ、め、ふ……ぇひゃ、っっゃ、ァめ、っあ、っああ、んっ」
イザルから与えられる甘い唾液を嚥下しながら、シグムントは必死に性感を追いかけていた。身も蓋もなく、端ない声がひっきりなしに口から溢れる。頭がぼやけ、涙が汗と混じり流れていく。イザルの太い腕が檻のように体を捉えて逃さない。腰を打ち付けられた尻はただ痺れ、凝った鋭い熱が何度も性器を駆け巡る。
このまま摩擦を続けられたら、シグムントは大人としての尊厳を奪われることになるかもしれない。もうやめてと声を出したいのに、イザルの舌がそれを許さない。下腹部に溜まる、尿意にも似た性感に抗うことができない。シグムントは、口付けのわずかな隙をついて悲鳴を上げた。
「ひゃめ、へ……っも、もぅ、やだ、あ、あっでる、でるぅ……っ!」
「ほら、……っ、見せてみな」
「ぁあ、あっい、ぃっぐ、っ……! い、いざ、ぅっで、でぅ、あっ、ああっ」
一際強く性器を摩擦された瞬間、シグムントは決壊した。細い腕に力を込めて、イザルに縋りついたまま。性器から放たれる勢いのある潮が、びしゃびしゃとイザルの腹筋を温める。
放尿のような開放感はシグムントから思考を奪い、仰け反った体は水溜りの上にベシャリと崩れた。
「……くそ、シグムント、こっち向け。」
「ぁ、ふ…っ」
「悪いけど、俺も限界なんだわ。」
「ふ……ん、んぅっ……っ」
ベットが軋む。淫猥な光景を目の当たりにしたイザルの性器は、もうすでに限界であった。身を投げ出した華奢な体を跨ぐなり、張り詰めた性器を唇へ押し付ける。
虚ろなシグムントの頭に手を添えると、ゆっくりと太い性器を口へ含ませた。口の中は狭く、とろけるような熱を纏っていた。
「ふ、ぅぐ……ん、ん……っ」
「っ、は……あ……っ」
無理矢理の口淫をしている自覚は、イザルにもあった。シグムントが拒めば、止まってやるつもりでもあった。しかし、イザルの理性は再び焼き切れそうになっていた。
シグムントの小さな口に、太い己の性器が含まれている。銀灰の瞳に涙をこぼし、苦しげに開かされた口内では、薄い舌が逃げ場を求めるように幹を刺激する。子供のように嗚咽を漏らす様子が可愛くて、イザルは改めて己の加虐心を自覚した。
細い喉は、幾度となく上下している。舌の上に塗りつけられる苦い先走りを、必死で飲み下しているようだった。
後頭部に回されたイザルの手のひらが、優しくシグムントの髪を梳く。イザルの下生えが鼻先をくすぐるほど深く咥え込まされたが、感じいった表情を見て仕舞えば、シグムントが大きな抵抗を見せることもなかった。
あのかっこいいイザルが、自分のせいでこうなっているのかと思うだけで、矜持が満たされたのだ。
飲みきれない唾液が、口端から噴き出る。イザルの袋が細い顎にぶつかるほど咽頭を犯されて、シグムントの薄い腹はビクビクと震えた。
ガポガポと、聞いたことのない音がする。それがシグムントの口から出ている音だと気がつく頃には、イザルの性器はぐっと大きく膨らんだ。
「んぶ、っ……ぅ、うく、ん、んっ」
「っあー……っ、くそ、でる、っ」
「ん、んぐ、っう、う、う、うっ」
ぎゅぽ、と嫌な音がして、イザルの茂みがシグムントの鼻先に押し付けられる。細い喉が無理やり広げられたかのように歪に膨らみ、胃の腑へとイザルの濃い雄の香りが流し込まれる。
シグムントの銀灰の瞳は限界まで見開かれ、喉を容赦なく満たしていく精液の量の多さに、本気で死ぬかと思った。
「ぐぅ、えっ……っ‼︎ ゲホ、っう、ん、んぐ、ぅえ……っえっ」
「っ、シグムント、」
「は、ヒュ……っぇほ、っえっ、ん、ング、っ」
飲みきれなかった精液が食道を逆流して、シグムントは慌ててイザルの体を突き放した。口元を抑え身を起こす。かろうじてベットから顔を出すと、薄い腹を震わせてげえげえ吐いた。
どうやら無理をさせたらしい。イザルはようやく思考が戻ってくると、薄い背中に手を添えるようにして顔を覗き込む。
口元を白濁で汚したシグムントが、放心した顔で汚れた床を見つめていた。イザルはしくじったといわんばかりに顔を歪めると、枕カバーを引き抜いてシグムントの口元を拭ってやった。
「悪い……」
「ぃ、イザル、ぅ、ひっ……く、えっ……ぅぇ、……ぇん…っ 」
「ああ、俺が悪かった。シグムント、おいで」
「ぅえ、っ……えっえっ……ぃ、イザル、ぃざる……っ」
イザルの顔を見るや否や、シグムントはブワリと涙を溢れさせた。小さい子が親に縋り付くようにして、イザルの腕の中でわあわあと泣きじゃくる。
流石のイザルも、突き放すようなことはしなかった。やりすぎの自覚はしていたのだ。
小さな体を抱き抱えるように、シグムントの背中を何度も撫でる。鼻先を掠める匂いに気がついて下を向けば、シグムントの尻の下は先程とは違う色の水溜りを広げていた。
「シグ、シグムント。顔上げろ」
「ひゃ、ら……っ、ぃ、いゃ、あっ」
「黙れ、抵抗すんな。……キスがしてぇだけだから」
「ひぅ……っ、ン……っ」
嘔吐したばかりの口でも、イザルはかまわなかった。シグムントがただ可愛くて、優しくするつもりができなくて。泣き顔に煽られるままに、隙をついて唇を掠め取る。
抱き込んだ体は、多少の抵抗を見せた。イザルがシグムントの口内に舌を差し込んで、吐瀉物の残滓すら掠め取るように深く口付けたからだ。
「ふ……っ、ん、んぅ、……」
「っは……シグムント……悪かった」
唾液が互いの舌を繋ぎ、イザルはシグムントの額に己の額を重ね合わせた。許しを願うイザルの瞳はいつになくシグムントを熱い眼差しで絡めとる。
泣き腫らした顔なんて、目も当てられないだろうに。シグムントは、イザルが聞けば怒り出すようなことを思いながら、弱々しく頷いた。
「ぅ、ん……っ」
(くそ、かわいい。俺は、確かにこいつのことがそういう意味で好きなんだ)
イザルはようやく己の好きを自覚した。
拗らせすぎている。イザルは、どこまで許されるのかを無意識に試したのだ。
それなのにシグムントときたら、こんなにひどい目にあったというのにイザルを許した。
細い腕がイザルの背中に周り、縋り付く。その瞬間、初めて愛おしいという気持ちが輪郭を帯びた。
認めよう、確かに自分はクソガキだと。素直にシグムントが好きだと言ってやれたらいいのに、イザルにはそれができない。できるのは、熱い眼差しでシグムントを見つめながら、汚れた口元も厭わずにキスをしてやることくらいだ。
「シグムント、シグムント……っ」
「ん、ん、んぅ、あ、っ」
「お前に、入れてえ、……くそ、いつか犯す、絶対に……お前の初めては俺のもんだ」
「ぁ、わ、わかった、から、」
「くそ、足りねえ……舌よこせ、」
「ふ、んぁ……っ」
求めるようなイザルからの口付けが気持ちがよくて、シグムントはイザルの舌に身を任せた。
再び二人が沈んだベットはそこかしこが汚れている。イザルは己の性器をシグムントの尻の間に挟むようにして何度も揺さぶりながら、激しく舌を絡めあった。
今まで抱いた女ですら、これほどまでに欲求に流されることはなかった。イザルはこれが魔族の魅力なのかとも思ったが、背中に回された腕が一生己から離れないのなら、それでもいいかと思ってしまった。
獣のような交わりが本能からくるものだとしたら、イザルも大概にイカれている。そんなことを思いながら、今度こそシグムントが気絶するまで、イザルは激しく体温を求めたのであった。
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