狼王の贄神子様

だいきち

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 恋愛には向いていないだろうし、何よりもこの体を好きになるような輩はいないだろうとも思っていた。だからだろうか、ウメノはいざ己がそう言った出来事に直面をすると、どういう身の振り方をしていいのかわからなくなってしまうのだ。
 決して流されたわけではない。断じて違うと思いたい。中庭の奥にある、ウメノが暮らしている小屋がある。研究机やら、標本。乾燥した薬草やら摘まれた本など。ウメノにとって居心地のいい部屋は、雰囲気もへったくれもないだろう。
 
「……」
 
 衣擦れの音がして、ウメノはじわりと額に汗を滲ませた。ルスフスの本気が知りたくて、つい煽ってしまったのだ。
 アモンは気を遣っているのだろう、気配は感じない。薄暗くて狭い自室のベットの上、ウメノは床に落とすように服を脱いだルスフスを前に、慌てて目をそらした。
 
「ウメノちゃん、その反応は流石に傷つくけど」
「ご、ごめん」
「人と変わらないと思うけど、俺の体気持ち悪い?」
「き、気持ち悪くない……」
 
 人よりも少しだけ温度の低い手が、ウメノの手を取った。ゆっくりと胸板へと運ばれると、心音を確かめるように押し付けられる。
 
「あんなに触診してくれたんだからさ、今更だろ」
「そ、そういう問題じゃ」
「ウメノ」
 
 促されるように名前を呼ばれて、ようやっと諦めた。下唇が不服げに突き出された顔を、ゆっくりとルスフスに向ける。
 やっぱり、この男はずるいのだ。人外は、たとえ人に擬態していたとしても雰囲気でわかる。作り物のように綺麗な体。きっと、脱皮をしたからなのだろう、ウメノが知っているルスフスの細かな傷は見当たらず、細身ながらしっかりと鍛えられた男の体は滑らかな石膏のようにも見えた。
 
「義眼、はめて」
「ルスフスの鱗を使ったから、今度こそ馴染むよ」

 間に合わせの義眼から、ルスフスが眠っている間に体に合うものを作っていた。ルスフスの体の一部は、あの平原に散らばっていた鱗。それを媒介にして仕上げたのだ。以前の紫よりも、より一層濃い色をしている。
 毛布の隙間から、ウメノがそっと手を伸ばした。空間魔法で取り出した義眼をはめてやると、瞼を閉じるようにして馴染ませる。ようやく収まりのいい場所を見つけたらしい。ルスフスの義眼が光をこぼすようにして体に馴染むと、きちんと揃った両目でウメノを写した。
 
「……似合ってる」
「中にウメノちゃんの魔力が入ってるのわかる、絶対に無くせないじゃんか」
 小さな手のひらに甘えるように頬を寄せる。ルスフスの姿に、ウメノは思わずくしゃっとした顔をした。これが計算のうちなら、やっぱりルスフスはずるい。
 
「俺の契約印、どこにできたか見てもいい?」
「ま、待って……僕だってまだ見つけられてないんだって」
「俺が探すから、いいよ」
「うわ、っ」
 大きな手のひらが頭を支えて、気がつけば背中をベットへとつけていた。天井を背負うようにしてウメノを見下ろすルスフスの、まっすぐな視線から逃げるようにうずくまる。
 
「大丈夫だから、ほんと。怯えなくていい」
「怯えてなんかない」
「じゃあ、触るよ。それとも、キスしながらの方が気が紛れる?」
「そ、そういうの聞くな」
 
 心臓が口から飛び出そうなのに、質問ばかりしないでほしい。違う、これがルスフスの気遣いだということはわかっていた。それでも、変に気丈に振る舞ってしまうウメノの癖はこんな時ですら抜けないのだ。
 こんなことで、面倒臭いと思われたくない。それでも、頑なな部分をどうほぐしていいのかがわからない。
 ルスフスのため息が聞こえた。ウメノの実はそれだけでこわばって、少しだけ泣きそうになった。
 
「わかった。じゃあこうする」
「う、っ」
 
 ルスフスの体がのしかかってきて、キツく抱きしめられる。肩口にルスフスの顔が埋まって、収まりのいい位置を見つけたかのように落ち着いた。動きづらくて身じろげば、そのままころんと横になった。
 
「ルスフス、何……」
「落ち着いてんの」
「お、落ち着いてんの……?」
 
 じゃあ、膝に当たるこれはなんなんだ。ルスフスの顔を肩口で受け止めたまま、ウメノは途方に暮れた。膝の辺りに熱源を感じる。これが、なんなのか知らないほどバカじゃない。
 つるりとしたものがウメノの足に絡まって、つい体を跳ねさせた。なんだと慌てて舌を見れば、ルスフスの黒紫の蛇の尾がご機嫌に絡みついていた。
 吐息がくすぐったい。恐る恐る編み込まれたルスフスの黒髪に手を通せば、カプリと肩口を甘く噛まれた。
 
「ぅわ、っ」
「んーー……」
 
 小さな牙を掠めるだけの、戯れにも似た行為。もしかしたら、甘えているのかもしれない。ウメノは無言で頭を抱き込んだ。
 
「う……」
「……甘やかすの上手だねえ」
「そんなこと、ない」
「ふうん」
 
 くつくつと楽しそうに喉を震わせる。そのまま、ルスフスはカプカプとウメノの肩口にはを掠めるようにして遊び始めた。時折、ぬるりとしたものを感じるので、舐めているのだと思う。くすぐったくて、胸板を手で押す。それでも、結局はルスフスの手が腰を引き寄せるから隙間は埋まってしまうのだ。
 
「いて、っ」
 
 先ほどよりも強く吸いつかれて、小さく肩を跳ねさせる。小さな水音と共に唇を離されて、思わず吸いつかれた首を手で押さえた。大きな手が、ウメノの細い腕を掴んで唇を寄せる。今度は目の前で腕に強く吸いつかれて、赤い痕をポチりと残された。
 
「あ……」
 
 ルスフスの紫が、怪しく光っている。これが、所有印だと理解すると、ブワリと顔を熱くした。
 
「る、るす、っん」
 
 あぐ、と小ぶりな喉仏を甘く噛まれる。腰を支えていた手がゆっくりとウメノのボトムスの中に入ってくると、下着越しに尻を柔らかく揉まれる。胸板を押し返しても、無駄だった。二股に分かれた舌がウメノの首筋を舐め上げて、半開きだった唇に入り込む。そのまま。ウメノの舌に絡みつくようにして深く口づけられて、ウメノの抗議は声にならなかった。
 
「ぅん、……っ、る、るふ、っ……」
「はあ……、薄い舌だねえ……」
「ふあ、ま、っ……んん、っ」
 
 上顎をベロリと舐められ、舌の根元をくすぐるように口付けられる。わずかな隙間も許さないというような深い口付けに、ウメノはルスフスの黒髪を弱々しく引っ張った。
 脳に酸素が回らない。気がつけば尻は外気にさらされて、直にシーツの感触が伝わってくる。
 どこでスイッチが入ったんだ。息苦しさと、足りない酸素で涙が滲む。蛇の尾がウメノの足に絡みつくように持ち上がり、不本意に足を開くような形になった。
 足の間にルスフスの腰が進められる。細い足で挟む形になった腰は引き締まっており、細くてもやはり男であることを認識させられる。
 絡め取られた舌が解放されて、新鮮な空気が肺に入ってくる。ウメノは肺を膨らますように呼吸をすると、ケホケホとむせた。
 
「っや、やっぱまって」
「待てするのはいいけど、待つ分だけ今みたいに好き勝手しちゃうかもよ」
「っ、バカ犬」
「おっと、そこは蛇なんじゃないの」
 
 ルスフスの割れた腹に、ウメノの小さな性器が触れた。慌てて小さな手で性器を隠そうとすれば、ルスフスの手が腰を撫で上げるようにして胸元を晒した。慎ましい胸の突起が晒される。あ、と思った頃にはもう手遅れだ。その先端は、ルスフスの長い舌によって見せつけられるように挟まれた。
 
「へ、蛇の舌、やだあ……っ」
「さっき散々遊んだでしょ。今更気持ち悪いなんていうなよ」
「気持ち悪いなんか言ってないっ」
「あらー、じゃあもっと気持ちよくしてやんなきゃ」
「ふぇえぇ……っ」
 
 牙を見せるように楽しそうに笑う。胸の先端に吸い付かれるだけでも恥ずかしいのに、視覚的に性感を煽られた体はわかりやすく反応を示す。
 ウメノの小ぶりな性器が、ルスフスの腹筋を押し上げる。自慰だってまともにしないのだ。それ以上のことが起こっている今、ウメノの心の許容量はもう一杯一杯であった。






 
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