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最終章 大黒腐編

【エピローグ】

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王都ノーストリリアから、



南のコマザ城へと伸びる街道の脇に、



小高い丘がある。



以前は草木生い茂る平原だったが、



今は穀倉地帯となり、



丘の斜面は果樹園へと生まれ変わっている。



丘のてっぺんには十神教の教会がある。



その敷地内に今回新しく石像を作った。



ユウリナとカカラルの石像だ。



俺は見上げて晴れやかな気持ちになった。



【王の左手】キャディッシュ、アーシュ、



モカルも近くで同じように見上げ、



感慨深い表情だ。



「オスカー」



太陽の光を背に純白の翼が舞い降りた。



ネネルだ。



「早かったな」



翼を畳んだネネルは、



「久しぶり」とアーシュと抱き合う。



「うん、ジョルテシアから帰る時、



いい気流に乗れたの。



おかげでだいぶ早く帰れたわ」



「お姉さんは元気だった?」



「元気よ。オスカーによろしくだって」



それからネネルは、



途中で摘んできた花束を石造の前に置いた。



「……ユウリナはまだ生きてるのよね?」



「遥か過去で、違う時間軸で、



まだ戦っている」



子供達の声が聞こえる。



少し離れた所で、



教会の子供達とキャディッシュが戯れていた。



「……救えないのかな」



「俺たちではどうすることも出来ない。



でももしかすると……



また違う俺たちと一緒に戦うのかもしれないな」



ネネルは難しい顔をした。



「どういうこと?



わかんない。モカル分かる?」



「私も何回聞いてもわかんないです」



二人は同時に笑った。













数カ月前。



俺は気がついたら、



ユウリレリア大聖堂の地下にいた。



台の上に寝かされ、



身体は機械になっていた。



傍らにはアイレンがいた。



脳内チップにコピーされた俺の記憶を、



完璧な形で機械蜂のネットワークに転送、



その後、ユウリナの予備ボディに入れたという。



俺は機械人になっていた。



死ぬ直前までの記憶もしっかりある。



俺を機械人にしたのは、



ユウリナの指示だとアイレンは言った。



自分に変わって、この先の星を管理してほしいと。



ポルデンシスも既に了承済みの話だった。



話し合いの結果、



俺はこのウルティア大陸を任された。



ポルデンシスは向こうの、



ゼニア大陸を引き続き受け持つ。



ちなみにリリーナは、



あのままゼニア大陸に残ったらしい。



この前通信したら、



あっちに新カサス王国を築くんだと言っていた。



ポルデンシスと協力して、



向こうの人類を数年後には、



地下から地上に出してあげられるように、



態勢を整えると張り切っていた。











少ししてから馬の一団が到着した。



アイレンとベミー達だ。



二人も花束を持ってきていた。



「カカラルにもう一回乗りたかったなぁ」



とベミーは悲しそうな顔で石像を撫でている。



俺も同じ気持ちだよ。



ああ、機械の身体なのに涙が出そうだ。







教会が昼食を用意してくれた。



何種類ものピザが出てきた。



子供達も一緒に手伝ったらしい。



俺がピザ好きって国民にまで広まってるのかな。



食後の小休憩時、



アイレンと共に丘の展望台から景色を眺めていた。



遠くにノーストリリア城と街並みが小さく見える。



上空には数人の有翼人が飛んでいた。



よく晴れた青空に、



人々の生活の煙が細く伸びている。



「……母はどうして私を作ったのかな?」



唐突にアイレンは呟いた。



「ユウリナに聞かなかったのか?}



「うん。勉強ばっかりだったし……」



頭脳明晰だが精神面は年相応のようだ。



「人間に戻りたかったんじゃないかな。



それに、果てしない戦いの中で、



一時の安らぎを求めてたとか」



「私が安らぎなの?」



「未来への希望が心の平穏を作ることもある。



決められた物語の流れに、



新たな一石を投じることが出来ると考えていたのかも」



「そしたら〝時間の牢獄〟から抜け出せる……?」



「君がその可能性なのかもしれないよ」



アイレンは何かに気がついたようだった。



「ポルデンシスと話してたんだけど、



ユウリナを救うために、



時間退行の研究を始めることにしたんだ。



アイレンも手伝ってくれないか?」



アイレンは嬉しそうに



「やるに決まってるじゃない!」と返事した。





視界にポップアップ表示が現れた。



どうやらバルバレスたちが戻ってきたようだ。



2週間ほど前から、



彼らはミュンヘル王国で開かれてた、



会議に参加していた。



魔物やオークの残党はまだ大陸中にいる。



周辺国で情報を共有して、



完全に殲滅しようという取り決めがなされた。



こちらは機械蜂を量産中、



連邦内に限るが、時期が来たら討伐を開始する予定だ。



警戒すべきは魔物やオークだけではない。



ウルティア大陸南部は内戦状態に陥り、



いつこちらに火の粉が散ってくるか分からない。



大陸中央はナザロ教で一つにまとまり、



教祖のクガがブリムス共和国を建国した。



西部のミュンヘル王国とも連携して、



俺たち北部のキトゥルセン連邦との、



3国同盟を結んだ。



現状、この三国を脅かすほどの勢力はない。



けれど油断は禁物だ。



敵はいつも正面から来るとは限らない。



ちなみに東部のシャガルムは、



生き残った元帝国民たちの自治国家となった。



キトゥルセンとブリムス共和国が支援している。









別の日。



広い地下空間に培養槽がずらりと並ぶ。



その一つを俺は眺めていた。



中にいるのは呼吸器をつけ、



目を瞑って水に漂っている男。



「リンギオ……もう少しだ」



隣にはクロエが眠っている。



足はちゃんと二本ある。



左右にはルガクト、マーハントと、



かつて死んだ仲間たちが並んでいる。



脳内チップを入れていた者に限るが、



遺伝情報を復元し、



死ぬ直前までの記憶を移植してクローンを作ったのだ。



アイレンにそれが可能だと言われたときは、



興奮して体中から蒸気が出て、



口からレーザーを撃ちそうになった。



肉体は別物だが記憶を引き継げるなら、



クローンというかもうほぼ本人じゃないか、



と小躍りした。



あとひと月以内には、全員が目覚めるはずだ。















ノーストリリア城



窓の外には三つの月が輝いている。



「さあ、オスカー様。



機械人になったのですから、



夜も眠らず仕事ができますね」



「ラムレス、お前は鬼か」



山積みの書類が机に高く積まれている。



すごいや、床にキレイに並べたら、



ベッドになるくらいあるぞ。



この上で寝れるんじゃないか。



「今日中に全ての書類にサインしてもらいますぞ」



いや、ぷるるんじゃないよ。



下あごぷるるんじゃないよ。



ベリカやヒナカ達が笑っている。



その足元には、



大狼の子供たちがはしゃぎまわっている。



ネネルとアーシュとモカルが、



その白いもふもふ達に顔をうずめている。



俺だけ仕事かよ。



もう、サインだけする機械でも作ろうかな。



そしたら旅に出よう。



身分を隠して荷馬車でゆっくり大陸を見て回ろう。



水〇黄門みたいなことしよう。



内政は俺より向いてる人がたくさんいる。



仕事はリモートで出来るだろ。



そのぐらいしたっていいよな。



俺、王だし。



いや機械人になったんだから今や神だし。



一応世界救ったし。死んだけど。



「ネネル、俺が旅に出るって言ったら、



一緒に来る?」



えっ!と驚いたネネルは顔が赤くなった。



「ふ、二人きり……?」



小さな声で聞いてきた。



何を緊張しとんねん。



「それは分からん」



すっとネネルの目が細くなる。



何ですか、なんで手から電気出すんですか?



機械は電気に弱いんだからやめてくれよな。



暖炉の前のソファでは、



マイマ、メミカ、マイヤー、アーキャリーが、



それぞれの子供を抱いて談笑していた。



マイマとの娘ルーナ、メミカとの息子ディーノ、



マイヤーとの娘ベルナ、アーキャリーとの息子ラウイ。



子供の一人が床の一点を見つめている。



あれは誰だ? ルーナか? 大丈夫かな?



ていうか……



うーん、子供たち見てると旅に出る気が失せるな……。



いや、もう一体自分を作っちまえばいいか。



そんで一体は旅に出て、一体は城で生活して……。



意識だけ転送して行ったり来たり……



天才か、俺。



「何ぶつぶつ言ってるの?」



ネネルが覗き込んできた。



「何でもないよ。さあ仕事するか」



「変なの……まっ頑張ってね、国王様」













ノーストリリア城地下。



地上からの月光が、



明り取りの隙間から差し込み、



湿気で濡れた石の床が光っている。



そこをネズミが一匹横切った。



どこから入ってきたのか、



大きな蛾がふわふわと羽ばたいている。



その部屋の中央に、



刀身を鍛え直した、



魔剣フラレウムが石座に刺さっていた。



継ぎ目は折れた箇所が分からないほど、



綺麗に修復されていた。



見た目には変化はないが、



部屋の空気が変わる。



何かを感じ取ったのか、



ネズミが小さな鳴き声を上げて、



慌てて巣に帰っていった。



蛾も急に方向転換し、



部屋の明り取りの隙間から外に出ていった。



しんと静まりかえった空間がピンと張り詰める。



そして次の瞬間、刀身にボッと炎が宿った。



だが、それを見ていた者は誰もいなかった。









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感想 5

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みんなの感想(5件)

花雨
2021.08.14 花雨

作品登録しときますね(^^)これからゆっくり読ませてもらいます(^^)

解除
2020.02.20

「気軽に読んで」と作者さんは言ってるが、途中から風呂敷が広がりすぎて、どう収拾がつくのかわからなくなってる。正直、視点が広がりすぎて読むのが面倒になってしまった。

解除
伊予二名
2019.09.25 伊予二名

あれ?ハーレムモノだこれw ハーレムタグがあった方がいいのでは。

解除

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