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最終章 大黒腐編

第304話 〝レンウィン構造体〟

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先行した機械蜂から映像が届いた。



空中投射ディスプレイに、



巨大な〝黒樹〟が写される。



ユウリナがゼニア大陸で、



通信ネットワークを構築してたおかげで、



問題なく交信できた。



〝黒樹〟の周囲の森の至る所で、



爆発や火の手が上がっている。



拡大すると大勢の兵が、



オークや魔物と戦っていた。



戦争は既に始まっている。



人間の兵士たちは皆一様に銀色の髪、



紫の瞳をしている。



軍は統制が取れているのかいないのか、



各自自由に戦っているようだった。



これがこっちの大陸の戦い方なのだろうか。



機械兵も相当混じっている。



モニターがいくつも新しく現れ、



その中の一つに見知った顔を見つけた。



リリーナ達だ。



目頭が熱くなる。



生きていたことはユウリナから聞いていたが、



彼らを率い、



先陣切って戦う勇ましい姿を実際に見ると、



感極まるものがあった。



流石だ、リリーナ。



「よし、俺たちも行くぞ! 



ネネル、準備はいいか!?」



「いつでもいいわ!」



既に肉眼でもゼニア大陸が見えていた。



『全ての有翼人兵はバルバレス軍、



ナザロ教僧兵団を地上に降ろせ!』



ネネルの号令に各部隊長たちの返事が届く。



物資を含めて地上までの運搬は、



3~4往復で完了する。



後は……タイミングの問題だ。













数日前、ゼニア大陸近海に到着すると、



ユウリナから通信が入った。



どう攻め込むのか、作戦会議だ。



マップ上では部隊を示す青い点がゆっくり動く。



ゼニア人の軍隊は、



各地下空間の入り口付近に分かれて待機している。



向こうには機械軍もいるらしい。



〝黒樹〟周辺は腐樹の森が広がっていて、



その中にはオークの集落が点在する。



腐樹の森の外側は不毛の大地だ。



『ユウリナ、ウルバッハ達はどこにいる?



本当にこっちに来ているのか?』



『ウルバッハ達ハまだ確認できテいない。



でも、いる場所は見当がついてル』



『どこだ?』



マップ上で〝黒樹〟のある場所がロックされた。



『レンウィン構造体の中ヨ』



『レン……なんだそりゃ?」



古代文明の何かか?



『レンウィン構造体……



ソマチットの分析を目的とした施設……



というか機械体』



『ソ、ソマ……?



次から次へと聞いたことない言葉が……』



画面の中でユウリナは少しだけ目を伏せた。



言うべきか迷っているような感じだ。



『ゴめんなさい、ちゃんと説明スルワ。



ソマチットとは、人類が誕生する以前かラ、



この星の至ル所に浮遊している、



極小機械生命群の事』



『極小の機械? 



どのくらいの大きさなんだ?』



機械蜂みたいなものだろうか?



『細胞よりモ小さいワ。



それがこの星の核から、



あらゆる生命体ノ体内まで、



至る所ニ生息している。



機械といっテも詳細は分からなイ。



生命とも説明できるあいマいなもノ』



『なんだよ、お前たちが作ったんだろ?



なのにわからないのか?』



『違うワ。さっきも言ったけど、



人類が誕生する以前から、ココにあったの』



『え?』



思わず間抜けな声が出てしまった。



ユウリナたちの文明ではないということか。



『すべての事象の中ニ存在する不可思議なもの。



水や火や雷、石の中にも生きていル。



ソシテこの時代では〝魔素〟と呼ばれている』



『あー、じゃあ魔素を科学的に言うと、



ソマチットな訳か』



よく分からないが強引に納得してみた。



『そうね。レンウィン構造体は、



コノ星中のソマチットを、



操作スルために作られた装置。



これがどういう事ダか分かる?



天候や火山や地震、海流ヲ操作し、



津波も起こせル、最強の兵器ということ。



それだけジャない、



人間の中にもソマチットは存在シテいる。



だから……』



『……操れもするし、命を奪うことも出来る』



なんてこった。



理解は出来なくても恐ろしさは分かった。



『そう。魔剣の能力、



魔人ノ能力を封じることも簡単』



『ウルバッハ達はそれを自分のものにしようと……』



『デモ彼らだけじゃ出来ない。



レンウィン構造体は、



統治AIアイリスしかアクセスできナイ』



統治AI……また新しいのが……



いや、これは事前に聞いていたな……。



『じゃあ手を組んだってことか』



『そういうことになるわネ。



本来はオークや腐樹を殲滅するために、



長い時間ヲかけて作られた装置ナノ。



けれど完成しても使われるコトもなく、



アイリスは信号を遮断。



一切コンタクトが取れナくなった。



だから私とポルデンシスは、



行かなけれバならない』



『なるほどな……。



そりゃウルバッハ達はそこにしかいないわな。



よし、行こうユウリナ。最後の戦いだ』



よく分からないけど全部ぶっ飛ばせってことだ。



『……オスカー、感謝スルワ。



これはあなたの戦いというより私の、



私たちの戦い。長い長い戦い。



巻き込んでしまって、



ごめんなサイ』



『謝るな、ユウリナ。



俺だってお前がいなきゃ、



何度も死んでいた。



こういうのは、お互い様だろ?』



ユウリナは画面に手をつけて、



こちらを泣きそうな顔で見ていた。



彼女のこんな表情は初めてだ。



『本当に……ごめんナさい……』















〝黒樹〟が肉眼で見える。



デカい。山とほぼ同じ大きさだ。



周りには腐樹の森。



「軌道は問題なし」



もう、この古代浮遊遺跡には誰も乗っていない。



兵団は全て地上に降りた。



後は俺たち10人ちょっとだけだ。



「オスカー早く!」



ネネルが腕を引いた。



「急げ王子!」



出入口からリンギオが顔を覗かせる。



「よし、行こう」



俺たちは空飛ぶ島から脱出した。



ネネルの背中から、



斜めに落ちてゆく浮遊遺跡を眺める。



やがて地面に到達した浮遊遺跡は、



轟音と大量の粉塵を巻き上げながら、



〝黒樹〟に衝突、



その巨体をなぎ倒した。

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