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第五章 大陸戦争編
第251話 十五回目の夢
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なんてことだ……。
僕は慌てて駆け寄った。
上半身を抱き抱えながら、
服をずり上げ脇腹を見ると、
鋭い傷が二本走っていた。
ぱっくり裂けているが、
内蔵までは届いていない。
だが溢れ出る血の量が多い。
僕と飛鳥の周りに全員が集まり、
守りを固めてくれた。
「見せて!」
博士が割り込んだ。
「飛鳥! だから……だからあんなに言ったのに……」
一ノ瀬も膝を折り、顔面蒼白だ。
一ノ瀬と飛鳥は地元から一緒の仲……。
「だから言ったのに」という言葉は、
やはりあの噂は本当だという事か。
ならば猶更……何という事態だ。
「感染したのかっ!」
秋人は集まってきた【ワーマー】に発砲しながら叫んだ。
「体液からしか感染しないわ。
傷周りに体液の付着は確認出来ないから、
多分大丈夫だとは思う。きっと爪が掠っただけだわ」
「昴……ゴメン……やられた……」
それは、痛みで涙を流しているのではなく、
悔しくて涙を流しているように思えた。
飛鳥が苦悶の表情で僕の手を握る。
体が熱い。
気が付けばギリギリと奥歯を噛みしめていた。
あの【人型キケイ】は絶対に許さない。
「喋るな……」
かぐやはゆっくりと銃口を飛鳥の頭に向けた。
万が一に備えてだ。
流石のかぐやも顔が青い。
飛鳥はかぐやを見つめながら小さく頷いた。
まただ、またこの光景……。
救急キットからガーゼを出し、
傷に押し当てている博士に「任せました」と言い、
僕は立ち上がった。
「ぐああ!」
〝ジュリエット4〟の狙撃手が、
首から血飛沫を上げて倒れた。
また一人がやられた。
「弾切れだ!」
「これで最後だ、使えっ!」
「こっちも切れた!」
「カバーしろ!」
音が消える。
また大事な人を守れなかった。
この喪失感……あの頃と同じ……。
頭の中でブチッと音がした。
何かが切れた。
体の奥底から何か熱いものが、
爆発するように湧き上がってくる。
怒りか?……違う。
もっとどす黒く、もっと深いもの。
憎悪に近い感情。
それは飛鳥を傷つけた【人型キケイ】に対するものなのか、
自分自身に対するものなのか。
「全員下がれ……」
近くにいたかぐやが僕を見た。
いつもと違う様子に戸惑いながら呟く。
「昴……?」
「……全員下がれっ!」
自分でも驚くような低く、怒りのこもった声が出た。
「お、おい昴……」
秋人が僕の肩に手をかけたが、
もう止まらない気がしたのか、
僕の気持ちを汲んでくれたのか、
強くは引き止めなかった。
「秋人、もしもの時は、後を頼む。
〝ロメオ1″を率いてくれ」
秋人は意志のこもった目で見返した。
三〇mほど先から、
全部で一二匹の【ワーマー】が向かってくる。
右足のホルスターからベレッタを抜き、
一番距離の近い順に引き金を絞っていく。
乾いた銃声が通りに響く。
頭がすごくクリアだ。
憎悪に近い怒りに呑まれる事なく、
その闘志を最大限に生かし、
尚且つこれまでにない冷静さを保つ事が出来た。
今までの戦いの疲れがいい具合に体を軽くし、
嫌な緊張感を取り除いてくれる。
全神経が研ぎ澄まされ、
全感覚が周囲を支配する。
どんな物音も聞き漏らさず、
どんな小さな動きも見逃さない。
奴は今、このビルの屋上にいる……。
〝視〟なくても分かった。
驚くほどリラックスしている……。
完璧にゾーンに入ったのだ。
五匹まで倒したとき、弾が切れた。
予備の弾倉はあと二つあるが、
変えている余裕はない。
僕は腰に差していた日本刀を手に取り、
向かってきた【ワーマー】を左にかわす。
そのまま首を切断した。
見ていないがゴッと首が落ちる音が聞こえた。
残り六体。
僕は【ワーマー】に向かって走りだした。
菌糸の生えた黒い腕が、顔に向かって伸びる。
柄を両手で持ち、下から上に振り上げてその腕を切断し、
そのまま見るに耐えないほど変形した顔に横一文字。
残り五体。
その体勢のまま、右に体を回転させ、
反動で近くにいた【ワーマー】の口から上を切断した。
残り四体。
左方向から二体が向かってくる。
手前の一体の振り下ろされた右手を、
頭を下げて躱し、
外側から思い切り刀を振り下ろして切断する。
同時に、真横からビンタのように迫った左手を刀で受け止め、
そのまま自分の力で腕を切り落とした間抜けな【ワーマー】は、
両腕を失った形になった。
僕は下から、そいつの顎目掛けて力一杯突き刺した。
刃先は顎から脳天までを破壊し、そいつの動きを止めた。
残り三体。
日本刀を引き抜き、
目の前で倒れた【ワーマー】の後から、
もう一体が飛び出してきた。
掴もうとする右手をかわし、
フェンシングの要領でその右腕の付け根を狙い刺す。
動きが鈍くなり、右手がだらりと垂れ下がった。
刀を逆手に持ちかえ、首を飛ばす。
残り二体。
残りは少し距離がある二体の【ワーマー】だ。
お互いが直線上に五mほどの間隔を空けて、
こちらに走ってくる。
刀を順手に持ち変え、僕も走り出した。
手前の一体に、身を捩りながらジャンプし、
がら空きの頭部に切っ先を突き立て、
走ってきたそのままの勢いに任せて、
着地と同時に体を回転、
回し斬りで残る一体の胴体を真っ二つにした。
最後の一体の頭に刀を突き刺し、
ビルの屋上を見た。
そこには【人型キケイ】が、
灰色の空を背景に僕を見下ろしていた。
睨みあいはしばらく続き、
やがて奴は飛び降りた。
着地と同時に地面にヒビが入り、粉塵が舞う。
奴はゆっくりと歩いてくる。
こいつだけは許さない。
必ず殺す。
目に力を入れ視界を朱色に変える。
すぐに襲ってきた頭痛を無視し、
【人型キケイ】に集中した。
ヤツが走り出す。
凄まじいスピードだが、僕には軌跡が見えた。
左腕で頭を狙ってくる気がした。
そう思った刹那、奴の左手が目前に迫る。
自分でも驚くほどゆっくり見えた。
僕は刀を両手で持ち、
身体を少し縮ませながら左に半回転し、
その一撃をかわした。
丁度、奴に背中を向ける形になったと同時に、
背負い投げの要領で刀を背中から一気に振り上げ、
左肩を切断した。
すべてが一瞬。
一秒の世界。
奴は甲高い叫び声を上げ、
切られた肩を抑えながら僕を睨んだ。
頭が割れるように痛い。
僕はゆっくりと刀を上げ、構えた。
【人型キケイ】は少しの間迷うような素振りを見せ、
やがて退いた。
僕を見る目は憎悪に満ちていた。
追いかける力は残っていなかった。
急に体が重くなり、視界がぼやける。
頭が揺れ、吐き気もする。
膝が震え、力が入らない。
地面が近づいて来る。
そのまま力なく倒れ込んだ。
遠くでヘリの羽音が聞こえる。
身体が動かず、意識が遠退いていく。
「昴!」
秋人が走ってくるのが見えた。
僕はそこで意識を失った。
僕は慌てて駆け寄った。
上半身を抱き抱えながら、
服をずり上げ脇腹を見ると、
鋭い傷が二本走っていた。
ぱっくり裂けているが、
内蔵までは届いていない。
だが溢れ出る血の量が多い。
僕と飛鳥の周りに全員が集まり、
守りを固めてくれた。
「見せて!」
博士が割り込んだ。
「飛鳥! だから……だからあんなに言ったのに……」
一ノ瀬も膝を折り、顔面蒼白だ。
一ノ瀬と飛鳥は地元から一緒の仲……。
「だから言ったのに」という言葉は、
やはりあの噂は本当だという事か。
ならば猶更……何という事態だ。
「感染したのかっ!」
秋人は集まってきた【ワーマー】に発砲しながら叫んだ。
「体液からしか感染しないわ。
傷周りに体液の付着は確認出来ないから、
多分大丈夫だとは思う。きっと爪が掠っただけだわ」
「昴……ゴメン……やられた……」
それは、痛みで涙を流しているのではなく、
悔しくて涙を流しているように思えた。
飛鳥が苦悶の表情で僕の手を握る。
体が熱い。
気が付けばギリギリと奥歯を噛みしめていた。
あの【人型キケイ】は絶対に許さない。
「喋るな……」
かぐやはゆっくりと銃口を飛鳥の頭に向けた。
万が一に備えてだ。
流石のかぐやも顔が青い。
飛鳥はかぐやを見つめながら小さく頷いた。
まただ、またこの光景……。
救急キットからガーゼを出し、
傷に押し当てている博士に「任せました」と言い、
僕は立ち上がった。
「ぐああ!」
〝ジュリエット4〟の狙撃手が、
首から血飛沫を上げて倒れた。
また一人がやられた。
「弾切れだ!」
「これで最後だ、使えっ!」
「こっちも切れた!」
「カバーしろ!」
音が消える。
また大事な人を守れなかった。
この喪失感……あの頃と同じ……。
頭の中でブチッと音がした。
何かが切れた。
体の奥底から何か熱いものが、
爆発するように湧き上がってくる。
怒りか?……違う。
もっとどす黒く、もっと深いもの。
憎悪に近い感情。
それは飛鳥を傷つけた【人型キケイ】に対するものなのか、
自分自身に対するものなのか。
「全員下がれ……」
近くにいたかぐやが僕を見た。
いつもと違う様子に戸惑いながら呟く。
「昴……?」
「……全員下がれっ!」
自分でも驚くような低く、怒りのこもった声が出た。
「お、おい昴……」
秋人が僕の肩に手をかけたが、
もう止まらない気がしたのか、
僕の気持ちを汲んでくれたのか、
強くは引き止めなかった。
「秋人、もしもの時は、後を頼む。
〝ロメオ1″を率いてくれ」
秋人は意志のこもった目で見返した。
三〇mほど先から、
全部で一二匹の【ワーマー】が向かってくる。
右足のホルスターからベレッタを抜き、
一番距離の近い順に引き金を絞っていく。
乾いた銃声が通りに響く。
頭がすごくクリアだ。
憎悪に近い怒りに呑まれる事なく、
その闘志を最大限に生かし、
尚且つこれまでにない冷静さを保つ事が出来た。
今までの戦いの疲れがいい具合に体を軽くし、
嫌な緊張感を取り除いてくれる。
全神経が研ぎ澄まされ、
全感覚が周囲を支配する。
どんな物音も聞き漏らさず、
どんな小さな動きも見逃さない。
奴は今、このビルの屋上にいる……。
〝視〟なくても分かった。
驚くほどリラックスしている……。
完璧にゾーンに入ったのだ。
五匹まで倒したとき、弾が切れた。
予備の弾倉はあと二つあるが、
変えている余裕はない。
僕は腰に差していた日本刀を手に取り、
向かってきた【ワーマー】を左にかわす。
そのまま首を切断した。
見ていないがゴッと首が落ちる音が聞こえた。
残り六体。
僕は【ワーマー】に向かって走りだした。
菌糸の生えた黒い腕が、顔に向かって伸びる。
柄を両手で持ち、下から上に振り上げてその腕を切断し、
そのまま見るに耐えないほど変形した顔に横一文字。
残り五体。
その体勢のまま、右に体を回転させ、
反動で近くにいた【ワーマー】の口から上を切断した。
残り四体。
左方向から二体が向かってくる。
手前の一体の振り下ろされた右手を、
頭を下げて躱し、
外側から思い切り刀を振り下ろして切断する。
同時に、真横からビンタのように迫った左手を刀で受け止め、
そのまま自分の力で腕を切り落とした間抜けな【ワーマー】は、
両腕を失った形になった。
僕は下から、そいつの顎目掛けて力一杯突き刺した。
刃先は顎から脳天までを破壊し、そいつの動きを止めた。
残り三体。
日本刀を引き抜き、
目の前で倒れた【ワーマー】の後から、
もう一体が飛び出してきた。
掴もうとする右手をかわし、
フェンシングの要領でその右腕の付け根を狙い刺す。
動きが鈍くなり、右手がだらりと垂れ下がった。
刀を逆手に持ちかえ、首を飛ばす。
残り二体。
残りは少し距離がある二体の【ワーマー】だ。
お互いが直線上に五mほどの間隔を空けて、
こちらに走ってくる。
刀を順手に持ち変え、僕も走り出した。
手前の一体に、身を捩りながらジャンプし、
がら空きの頭部に切っ先を突き立て、
走ってきたそのままの勢いに任せて、
着地と同時に体を回転、
回し斬りで残る一体の胴体を真っ二つにした。
最後の一体の頭に刀を突き刺し、
ビルの屋上を見た。
そこには【人型キケイ】が、
灰色の空を背景に僕を見下ろしていた。
睨みあいはしばらく続き、
やがて奴は飛び降りた。
着地と同時に地面にヒビが入り、粉塵が舞う。
奴はゆっくりと歩いてくる。
こいつだけは許さない。
必ず殺す。
目に力を入れ視界を朱色に変える。
すぐに襲ってきた頭痛を無視し、
【人型キケイ】に集中した。
ヤツが走り出す。
凄まじいスピードだが、僕には軌跡が見えた。
左腕で頭を狙ってくる気がした。
そう思った刹那、奴の左手が目前に迫る。
自分でも驚くほどゆっくり見えた。
僕は刀を両手で持ち、
身体を少し縮ませながら左に半回転し、
その一撃をかわした。
丁度、奴に背中を向ける形になったと同時に、
背負い投げの要領で刀を背中から一気に振り上げ、
左肩を切断した。
すべてが一瞬。
一秒の世界。
奴は甲高い叫び声を上げ、
切られた肩を抑えながら僕を睨んだ。
頭が割れるように痛い。
僕はゆっくりと刀を上げ、構えた。
【人型キケイ】は少しの間迷うような素振りを見せ、
やがて退いた。
僕を見る目は憎悪に満ちていた。
追いかける力は残っていなかった。
急に体が重くなり、視界がぼやける。
頭が揺れ、吐き気もする。
膝が震え、力が入らない。
地面が近づいて来る。
そのまま力なく倒れ込んだ。
遠くでヘリの羽音が聞こえる。
身体が動かず、意識が遠退いていく。
「昴!」
秋人が走ってくるのが見えた。
僕はそこで意識を失った。
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