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第四章
第199話 八回目の夢と新しいメイド
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はめ込まれたガラス窓から西日が射しこみ、
部屋の中は照明を付けなくても明るい。
スカイマークタワー上層部のとある大部屋には、
保安局の訓練生約三〇名が、
オリーブドラブ色の制服姿で机に座っている。
皆一様に若く、年の頃は十五歳前後だ。
本日は現役隊員の講義だ。
灰色の絨毯が敷かれたこの部屋は、
元々は会議室に使われていたに違いない。
部屋の後部には透明のビニールで覆われた複合機が数台と、
脚立、掃除カートが置かれていた。
手前には三つのホワイトスクリーン。
その横の机には使っていない旧式プロジェクターが置かれていた。
「我々の目的は何か? 赤城!」
「はい。人類及び地球上の全ての生命を、
【ワーマー】の侵略から守ることです」
名前を呼ばれた最前列の男の子は勢いよく立ち上がり、
真っすぐ視線を動かさずに答えた。
「そうだ。およそ五年前、中国の昆明市に隕石が落ちた。
隕石だけでも多大な被害を被ったが、
本当の脅威は付着していた菌類にあった。
数日後、研究者、軍人、その近辺に住む者が感染、
身体中に黒い突起を生やし、自我を失い、
人であることを辞め、我々を襲い始めた。
それから三ヵ月と経たずして日本にも上陸、
国内はゾンビ映画も真っ青な惨状となった」
教壇に立っているのは吉岡智春三佐だ。
白髪のオールバックに端厳たる顔つき。
触れれば切れる刃物のような、静かなる狂気を孕んだ存在感。
鬼教官として私たちの世代でも有名である。
目の前の新兵はみな、視線を合わせないように必死だ。
部屋の隅でその様子を眺めていた私は、
昔を懐かしみ、小さく微笑んだ。
と同時に年取ったなぁ、と吉岡三佐を見て思った。
「【ワーマー】とはなんだ? 内田!」
「はい、我々とは異なる新生態系の動植物の呼称です」
「よろしい。初めの頃はゾンビやアンデッド等様々な呼び名だった。
しかし身体から虫が生えてるように見えることからワームマンと呼ばれ、
いつしかそれが【ワーマー】となり、やがて定着した。
【ワーマー】に噛まれると、たちまち体内に細菌が入り感染する。
感染後、身体は変形を始め、
二四時間以内には確実に【ワーマー】化する。
治療法はない。
意識がある内に頭を撃ち抜く事を勧める。佐々木!」
「はい」
窓側の二番目に座っていた女の子が立ち上がる。
長い髪を頭頂部で丸くまとめている。
「例えばだ、お前は感染した。
目の前に愛する男性がいる。どうする?」
「すぐに自分の頭を撃ち抜きます」
「ではお前のお腹に赤ん坊がいるとする。
それでも撃つか?」
「撃ちます」
「ではお前の親友が感染した。
お腹に赤ん坊がいる。撃つか?」
「撃ちます」
「ではお前の愛する男が感染した」
「撃ちます」
「私が感染した」
「……撃ちます」
純粋無垢な彼女の瞳が、
動揺で揺れているのを私は見逃さなかった。
酷な質問だと思う。まだ本当に理解は出来てないだろう。
「……それでいい」
吉岡三佐の口角が僅かに上がった。
「現在の世界人口はどのくらいだ? 二宮!」
「タワー内の人口は約一万二千人、
現時点で他に生存者は確認出来ていません」
佐々木と呼ばれた女の子の後ろに座っていた男の子が立ち上がり、答えた。
中世的な優しい表情の人物だった。
「その通り。〈昆明ディストラクション〉が起こってから、
今日まで我々はずっと孤独だ。
もしかすると世界のどこかには、
ここと同じく人間のコミュニティがあるかもしれん。
発見出来ればそれに越したことはない。
しかし、常に最悪を考えて行動する事こそが、生存の鍵である。
よってこのタワーこそが人類最後の砦なのだ。
……現在、敵は増え続け、人類はゆっくりと減少している。
これ以上敵を増やしてはならない。
死んでまで仲間に迷惑を掛けたいと思うか? 谷中!」
ショートカットの女の子が弾かれるように立ち上がった。
「思いません」
「ならどうする?」
谷中と呼ばれた女の子は少しの間固まったが、やがて口を開いた。
「……自らの肉体と頭脳を極限まで鍛え上げ、
己を兵器とし、一匹も残らず殲滅します」
訓練生時代復唱しまくった標語だ。
変わってないなぁと昔を懐かしむ。
「……いいだろう、その意気だ。
現場では強い覚悟があるかどうかで自分、そしてチームの未来が変わる。
チームの未来が変われば他チームの運命も変わる。
全チームの運命は保安局に影響し、
保安局の影響はタワー全体に波及する。タワーとは全人類だ」
吉岡三佐は言い終わると私に視線を寄こした。
「今日はお前達の先輩が来てくれた。
〝ロメオ1″狙撃手、玖須美飛鳥三曹だ」
こちらへ、と吉岡三佐が促し、
私はホワイトスクリーンの前に移動した。
「貴重な実戦の話等、好きなだけ質問しろ。時間は二〇分だ」
「任務中、恐怖を感じますか」
早速質問が飛んできた。
「感じる時もあるし、感じない時もあります」
「【ワーマー】は素早いですか」
「基本的には遅いけど【キケイ】には素早い個体もいます」
「任務中、最も大切な事は何ですか」
「仲間の信頼。互いを目の隅に入れておくことが大事です」
「一番遠くまで行ったのはどこまでですか」
「品川……行くべきではなかったですね」
「一番気を付けている事は何ですか」
「残弾数」
「隊長になるには具体的に何をすればいいですか」
「明確な決まりについて私も知りません。
尉官以上になれば小隊を任されますが、
第4チームには一等陸曹の隊長もいます。
希望を持つことはいい事ですが、
まずは配属された場所で精いっぱい自分の職務を遂行して下さい」
「タワーに帰って来れない日もあると聞きましたが、
その間どうやって過ごすのですか」
「あまりないけど、車の中とか、安全と思われる場所ですね。
出来れば早く帰りたいです」
「感染した仲間を撃ったことはありますか」
「私はありません」
「強くなるためにはどうしたらいいですか」
「ひたすらトレーニングを積むしかないですね。
あとはどんな状況でもいかに冷静でいられるか、だと思います」
それからしばらく質問は続いた。
ほとんどが実戦とはどういうものかという質問ばかりだった。
みな屈強な兵士を装って毅然とした態度を見せているが、
内面はやはり不安でいっぱいといった様子が滲み出ており、
それらはちょっとした所作や語尾の震えや、
私の言葉の反応などに顕著に表れた。
数年前の自分と同じだなと胸中で微笑んだのと同時に、
今まで私が体験してきた事を、
目の前に座って自分に羨望の眼差しを向けているこの子たちがするのか、
と考えると鳩尾が痛くなる。
「そこまで」
吉岡三佐の声が部屋の後方から飛んできた。
組んでいた腕を解き、
「貴重な意見が聞けたな。今言われた事を決して忘れるなよ」
と私の隣に移動した。
「ではなにか、最後に一言あれば」
目が合った吉岡三佐は僅かに笑っていた。
一人前として認められたと感じて少し気恥ずかしい。
「保安局は慢性的に人員が不足しています。
状況は悪くなる一方……。ただみんな信じてる。
この状況がいつか必ず打破されることを。
どうか勇敢に戦って下さい。
そして死なないで下さい。
自分を信じて。信じれば強くなれます。
大事な人を守れます。
一点の濁りも無く信じることが出来れば……
なにか変わると思います。
あなた方と一緒に戦える事を嬉しく思います」
まだ外に出た事のない、決意に満ちた一五歳の視線全てが、
私には痛かった。
保安局では毎日死人が出ている。
私はこの子たちに嘘をついた。
言うべきだったかもしれないが、
士気を下げてもいけない。
この部屋の人数が1年も経てば半分になります、
なんて誰が言えようか。
結局現実を話す勇気が持てなかったのだと、
私は落ちた気持ちを悟られないよう笑顔を作り、その部屋を後にした。
早朝、外は雪が降っている。
俺はベッドから起きてソファに移動した。
城は静かだ。まだ眠っている。
冷めたミルクティーを魔剣の力で温めなおし、
たっぷりの砂糖を入れて一口飲んだ。
今回の夢はまた人物が変わっていた。
飛鳥と呼ばれる女の子狙撃手だ。
多分、時系列はバラバラじゃなく、真っ直ぐだ。
今までの夢全てが繋がっている。そう、映画みたいに。
内容に意味はあるのか、それともたまたまなのか……。
ゆっくり考えようと思ったが、
ベッドがもぞもぞと動き、思考が途切れた。
「オスカー様……?」
「ああ、こっちだ。ラヴィも飲む?」
新しいメイドのラヴィ・イクタリカは夜着を着てこちらに来た。
ラヴィはケモズ領のホーンヒル学園の元教師だ。
学園長の娘らしく、ウテル王からの推薦状と共に城にやってきた。
牛人族だからなのか、もう、その、凄いぷるんぷるん……
いや、止めておこう。2日前、ジョルテシアで犠牲が出たばかりだ。
ラヴィはミルクティーを飲みながらソファに沈み込んだ。
「こんな美味しいもの、初めて頂きました」
「そうか。眠いならまだ寝てていいぞ」
ギャインの死は痛い。
外交大臣としてたくさんの国との交渉を一手に任せていた。
補佐役の2人も優秀だった。
父の訃報を聞いて、娘のベリカは部屋から出てこなくなってしまった。
今日は何とか慰めてやりたい。
ルガクトは一命を取り留めたようだった。
今は最南端の街、スラヴェシで治療を受けている。
裏切ったジョルテシアの宰相、ザンとカフカス議長は、
【千夜の騎士団】のクガとハイガーと共に逃亡。
乱入したゴッサリアも退いたようだ。
カフカスはネネルの恩師だったようで、
そうとう凹んでいるようだったが、
全軍を呼び寄せジョルテシアで迎撃態勢を整えている。
ネネルと脳内チップ経由で通信したが、
毅然とした態度で「心配しないで」と言われた。
大丈夫そうで安心したが、どのみち状況が状況だ。
俺が直接行って哀悼の意を示し、同盟交渉をするしかないな。
部屋の中は照明を付けなくても明るい。
スカイマークタワー上層部のとある大部屋には、
保安局の訓練生約三〇名が、
オリーブドラブ色の制服姿で机に座っている。
皆一様に若く、年の頃は十五歳前後だ。
本日は現役隊員の講義だ。
灰色の絨毯が敷かれたこの部屋は、
元々は会議室に使われていたに違いない。
部屋の後部には透明のビニールで覆われた複合機が数台と、
脚立、掃除カートが置かれていた。
手前には三つのホワイトスクリーン。
その横の机には使っていない旧式プロジェクターが置かれていた。
「我々の目的は何か? 赤城!」
「はい。人類及び地球上の全ての生命を、
【ワーマー】の侵略から守ることです」
名前を呼ばれた最前列の男の子は勢いよく立ち上がり、
真っすぐ視線を動かさずに答えた。
「そうだ。およそ五年前、中国の昆明市に隕石が落ちた。
隕石だけでも多大な被害を被ったが、
本当の脅威は付着していた菌類にあった。
数日後、研究者、軍人、その近辺に住む者が感染、
身体中に黒い突起を生やし、自我を失い、
人であることを辞め、我々を襲い始めた。
それから三ヵ月と経たずして日本にも上陸、
国内はゾンビ映画も真っ青な惨状となった」
教壇に立っているのは吉岡智春三佐だ。
白髪のオールバックに端厳たる顔つき。
触れれば切れる刃物のような、静かなる狂気を孕んだ存在感。
鬼教官として私たちの世代でも有名である。
目の前の新兵はみな、視線を合わせないように必死だ。
部屋の隅でその様子を眺めていた私は、
昔を懐かしみ、小さく微笑んだ。
と同時に年取ったなぁ、と吉岡三佐を見て思った。
「【ワーマー】とはなんだ? 内田!」
「はい、我々とは異なる新生態系の動植物の呼称です」
「よろしい。初めの頃はゾンビやアンデッド等様々な呼び名だった。
しかし身体から虫が生えてるように見えることからワームマンと呼ばれ、
いつしかそれが【ワーマー】となり、やがて定着した。
【ワーマー】に噛まれると、たちまち体内に細菌が入り感染する。
感染後、身体は変形を始め、
二四時間以内には確実に【ワーマー】化する。
治療法はない。
意識がある内に頭を撃ち抜く事を勧める。佐々木!」
「はい」
窓側の二番目に座っていた女の子が立ち上がる。
長い髪を頭頂部で丸くまとめている。
「例えばだ、お前は感染した。
目の前に愛する男性がいる。どうする?」
「すぐに自分の頭を撃ち抜きます」
「ではお前のお腹に赤ん坊がいるとする。
それでも撃つか?」
「撃ちます」
「ではお前の親友が感染した。
お腹に赤ん坊がいる。撃つか?」
「撃ちます」
「ではお前の愛する男が感染した」
「撃ちます」
「私が感染した」
「……撃ちます」
純粋無垢な彼女の瞳が、
動揺で揺れているのを私は見逃さなかった。
酷な質問だと思う。まだ本当に理解は出来てないだろう。
「……それでいい」
吉岡三佐の口角が僅かに上がった。
「現在の世界人口はどのくらいだ? 二宮!」
「タワー内の人口は約一万二千人、
現時点で他に生存者は確認出来ていません」
佐々木と呼ばれた女の子の後ろに座っていた男の子が立ち上がり、答えた。
中世的な優しい表情の人物だった。
「その通り。〈昆明ディストラクション〉が起こってから、
今日まで我々はずっと孤独だ。
もしかすると世界のどこかには、
ここと同じく人間のコミュニティがあるかもしれん。
発見出来ればそれに越したことはない。
しかし、常に最悪を考えて行動する事こそが、生存の鍵である。
よってこのタワーこそが人類最後の砦なのだ。
……現在、敵は増え続け、人類はゆっくりと減少している。
これ以上敵を増やしてはならない。
死んでまで仲間に迷惑を掛けたいと思うか? 谷中!」
ショートカットの女の子が弾かれるように立ち上がった。
「思いません」
「ならどうする?」
谷中と呼ばれた女の子は少しの間固まったが、やがて口を開いた。
「……自らの肉体と頭脳を極限まで鍛え上げ、
己を兵器とし、一匹も残らず殲滅します」
訓練生時代復唱しまくった標語だ。
変わってないなぁと昔を懐かしむ。
「……いいだろう、その意気だ。
現場では強い覚悟があるかどうかで自分、そしてチームの未来が変わる。
チームの未来が変われば他チームの運命も変わる。
全チームの運命は保安局に影響し、
保安局の影響はタワー全体に波及する。タワーとは全人類だ」
吉岡三佐は言い終わると私に視線を寄こした。
「今日はお前達の先輩が来てくれた。
〝ロメオ1″狙撃手、玖須美飛鳥三曹だ」
こちらへ、と吉岡三佐が促し、
私はホワイトスクリーンの前に移動した。
「貴重な実戦の話等、好きなだけ質問しろ。時間は二〇分だ」
「任務中、恐怖を感じますか」
早速質問が飛んできた。
「感じる時もあるし、感じない時もあります」
「【ワーマー】は素早いですか」
「基本的には遅いけど【キケイ】には素早い個体もいます」
「任務中、最も大切な事は何ですか」
「仲間の信頼。互いを目の隅に入れておくことが大事です」
「一番遠くまで行ったのはどこまでですか」
「品川……行くべきではなかったですね」
「一番気を付けている事は何ですか」
「残弾数」
「隊長になるには具体的に何をすればいいですか」
「明確な決まりについて私も知りません。
尉官以上になれば小隊を任されますが、
第4チームには一等陸曹の隊長もいます。
希望を持つことはいい事ですが、
まずは配属された場所で精いっぱい自分の職務を遂行して下さい」
「タワーに帰って来れない日もあると聞きましたが、
その間どうやって過ごすのですか」
「あまりないけど、車の中とか、安全と思われる場所ですね。
出来れば早く帰りたいです」
「感染した仲間を撃ったことはありますか」
「私はありません」
「強くなるためにはどうしたらいいですか」
「ひたすらトレーニングを積むしかないですね。
あとはどんな状況でもいかに冷静でいられるか、だと思います」
それからしばらく質問は続いた。
ほとんどが実戦とはどういうものかという質問ばかりだった。
みな屈強な兵士を装って毅然とした態度を見せているが、
内面はやはり不安でいっぱいといった様子が滲み出ており、
それらはちょっとした所作や語尾の震えや、
私の言葉の反応などに顕著に表れた。
数年前の自分と同じだなと胸中で微笑んだのと同時に、
今まで私が体験してきた事を、
目の前に座って自分に羨望の眼差しを向けているこの子たちがするのか、
と考えると鳩尾が痛くなる。
「そこまで」
吉岡三佐の声が部屋の後方から飛んできた。
組んでいた腕を解き、
「貴重な意見が聞けたな。今言われた事を決して忘れるなよ」
と私の隣に移動した。
「ではなにか、最後に一言あれば」
目が合った吉岡三佐は僅かに笑っていた。
一人前として認められたと感じて少し気恥ずかしい。
「保安局は慢性的に人員が不足しています。
状況は悪くなる一方……。ただみんな信じてる。
この状況がいつか必ず打破されることを。
どうか勇敢に戦って下さい。
そして死なないで下さい。
自分を信じて。信じれば強くなれます。
大事な人を守れます。
一点の濁りも無く信じることが出来れば……
なにか変わると思います。
あなた方と一緒に戦える事を嬉しく思います」
まだ外に出た事のない、決意に満ちた一五歳の視線全てが、
私には痛かった。
保安局では毎日死人が出ている。
私はこの子たちに嘘をついた。
言うべきだったかもしれないが、
士気を下げてもいけない。
この部屋の人数が1年も経てば半分になります、
なんて誰が言えようか。
結局現実を話す勇気が持てなかったのだと、
私は落ちた気持ちを悟られないよう笑顔を作り、その部屋を後にした。
早朝、外は雪が降っている。
俺はベッドから起きてソファに移動した。
城は静かだ。まだ眠っている。
冷めたミルクティーを魔剣の力で温めなおし、
たっぷりの砂糖を入れて一口飲んだ。
今回の夢はまた人物が変わっていた。
飛鳥と呼ばれる女の子狙撃手だ。
多分、時系列はバラバラじゃなく、真っ直ぐだ。
今までの夢全てが繋がっている。そう、映画みたいに。
内容に意味はあるのか、それともたまたまなのか……。
ゆっくり考えようと思ったが、
ベッドがもぞもぞと動き、思考が途切れた。
「オスカー様……?」
「ああ、こっちだ。ラヴィも飲む?」
新しいメイドのラヴィ・イクタリカは夜着を着てこちらに来た。
ラヴィはケモズ領のホーンヒル学園の元教師だ。
学園長の娘らしく、ウテル王からの推薦状と共に城にやってきた。
牛人族だからなのか、もう、その、凄いぷるんぷるん……
いや、止めておこう。2日前、ジョルテシアで犠牲が出たばかりだ。
ラヴィはミルクティーを飲みながらソファに沈み込んだ。
「こんな美味しいもの、初めて頂きました」
「そうか。眠いならまだ寝てていいぞ」
ギャインの死は痛い。
外交大臣としてたくさんの国との交渉を一手に任せていた。
補佐役の2人も優秀だった。
父の訃報を聞いて、娘のベリカは部屋から出てこなくなってしまった。
今日は何とか慰めてやりたい。
ルガクトは一命を取り留めたようだった。
今は最南端の街、スラヴェシで治療を受けている。
裏切ったジョルテシアの宰相、ザンとカフカス議長は、
【千夜の騎士団】のクガとハイガーと共に逃亡。
乱入したゴッサリアも退いたようだ。
カフカスはネネルの恩師だったようで、
そうとう凹んでいるようだったが、
全軍を呼び寄せジョルテシアで迎撃態勢を整えている。
ネネルと脳内チップ経由で通信したが、
毅然とした態度で「心配しないで」と言われた。
大丈夫そうで安心したが、どのみち状況が状況だ。
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