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第三章

第156話 リリーナvsリアム

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「新手だ!」



ハイガー旅団の兵が声を上げ、



敵味方の多くが扉の方を見ると、



緑色の鎧が大挙して謁見の間に雪崩れ込んできた。



その中央にいるのは眼帯をしたカサスの女王、リリーナだ。



『おい、オスカー、リアムはどこだ!』



『お前勝手に……まあいいや……



ちょっと待て……えー……いた、一番右端の柱の裏、天井近くだ。



乗っ取られるなよ?』



『そんなヘマはしない』



カサス軍は一糸乱れぬ隊列を組み、



近衛兵もハイガー旅団も容赦なく押し込む。



空中からハイガーの有翼人兵が斬り込むが、



全員頭上で空中停止し、その隙に矢で射られる。



「退け! 退けー!」



敵兵が下がると同時にリリーナは駆けだし、



魔剣メロウウォッチの能力を解放した。



リリーナの半径10mにいる敵味方全員が動きを止めた。



リリーナはカサス軍将軍のエイヴのみを動けるようにし、



柱に近づく。



「この時をどれだけ待ったか!!」



柱の裏側に回り、上を向くと梁の部分に腰を掛けたリアムを見つけた。



「見つけたぞリアム……」



リリーナは鬼の形相で心底嬉しそうに笑った。



「ぐ……カサスの……女王か……これは抜かった……



だが……」



リアムは苦しそうな表情のまま目を瞑る。



同時にエイブがよろけ、膝をついた。



ゆっくり立ち上がったエイブはリリーナの背後に歩み寄る。



「リリーナ!! 後ろだ!」







視界にルレの生体反応が表示される。



既に反応はない。先ほど送った機械蜂は間に合わなかったのか……。



くそっ……ルレを亡くすなんて……



また一人貴重な人間を失ってしまった。



保守機械を倒し、すぐに向かおうとしたところでリアムとリリーナが目に入った。



千里眼で見てみると、急にエイヴ将軍に魔素が発生したので、



それがどういう意味なのか、すぐに気が付いた。



エイヴはゆらりと剣を振り上げる。



「リリーナ!! 後ろだ!」



俺は駆けだし、小さな炎弾を一発だけ撃った。



放たれた火の玉はしかし、



魔剣メロウウォッチの能力圏に入ると空中で停止してしまった。



俺の声にリリーナは背後のエイヴに気付き、咄嗟に距離を取る。



俺たちが駆け寄るのにも気づき、その区画だけ能力を解除してくれた。



それと同時に止まっていた炎弾が動く。



炎弾は今まさに剣を振り上げたばかりのエイブの背中にヒットした。



炎を振り消そうともがくエイブの背後に近づき、俺は剣を叩き落とした。



すぐにリンギオとソーンが乗っ取られたエイブを拘束する。



リリーナはリアムだけ能力を解除した。



そして俺はリアム目掛けて火を放つ。



「……ぐああ!! ああああ!」



地面に落ちてきたリアムは黒装束と片方だけの翼を燃やし、



火を消そうとのた打ち回っている。



「……私の夫を殺した時はどんな気分だった?」



リリーナは静かに聞く。



しかしリアムはそれどころではない。



既に腕や顔は焼け爛れている。



この状態で誰かに乗り移らないということは、



意識を誰かの体に入れていても、



自分の身体が機能を停止してしまえば、



その意識も消滅してしまうということだろう。



俺が一番恐れていた、



意識だけがたくさんの体を乗り継いで何百年も生き続ける、



という可能性は無くなったわけだ。



まあ、それが出来れば大陸を統一している王にでもなってるか。



「……おい、シカトするなよ。



夫はお前に遊び殺された……。



今はどんな気分だ?」



リリーナの目には涙が溢れていた。



詳しいことは聞いていないが、相当な遺恨があるようだ。



「何とか言え!!」



リアムの燃える腕が、怒れるリリーナの魔剣によって宙を舞った。



「ッ!!! ああああ!!! ぐうううあああああ!!!!」



既に焼け爛れた顔は原形を留めていない。



「ライファ……仇は取ったぞ」



リリーナは魔剣をリアムの心臓に突き立てた。



「あ……が……」



メロウウォッチの能力なのか、



リアムの体から炎が消え、



赤黒く焼けた死体は急速にサラサラと崩れて灰になる。



やがて現れた白骨も粉となって消える。



骨粉の山から赤く光る石が一つ、ころんと転がった。

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