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第三章
第150話 ギバの館にて
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ギバの夫人たちは常日頃から、金属と鎖と透けた薄布で作られた、
踊り子のような露出の多い服を着させられる。
その日ナナミアは館の広場を、
胸も尻も局部しか隠れないような卑猥な衣装を着させられ、
大勢の男たちの前を歩かされた。
下品な視線を隠そうともしない男どもに寒気がしたが、
ナナミアはそれに感情を動かすほどの余裕はなかった。
館に入り階段を上がって2階へ進む。
広場を見渡せるテラスにギバとナナミア含む9人の夫人たちが並ぶ。
下の広場にはギバの率いる軍がほぼ全員集結していた。
ギバが何やら演説をしている。
何を言っているのかは分からない。
まるで水中にいるかのように音が聞き取りづらい。
現実味がなかった。
夢の中にいるような感覚だ。
ナナミアは心ここにあらずといった具合で、
ただ前方をぼんやりと眺めていた。
あの日、ギバの要求を呑んだ日、自分は死んだのだ。
そして感情を捨てた人形に生まれ変わった。
他の夫人と同じように、ただ要求に従うだけの日々。
首輪をつけられた犬に等しかった。
何も言わず、何も感じず。
慣れてしまえば楽だった。
他の夫人たちの話を聞くに、
皆どこかの王族や名家などの娘だった。
ナナミアはそれを聞いて合点がいった。
皆若い娘だが、ギバにとってそれは単なる副産物的な楽しみに過ぎず、
一番は人質としての利用価値にある。
脅迫と牽制。
この方法で金を強請り、迂闊に攻められない状況を作っている。
さらにここへきてラドー元将軍、ナルガセ元将軍が合流し、
新たに兵も1000人以上集まった。
ギバは着々と勢力を拡大している。
「ナナミア、来い」
ギバに呼ばれて壇上に登る。
広場の兵たちが湧いた。
よく聞いていなかったが、
多分新しい妻の紹介をしているのだろう。
「おい、せっかくお披露目してるんだ、笑えよ」
そう言ってギバはナナミアの丸出しの尻を掴んだ。
大勢に見られている羞恥心が少しだけ蘇ったが、
すぐにナナミアはその感情を殺した。
第三夫人も呼ばれた。
前に出ると兵士に拘束される。
「な、なにをするのですか、ギバ様!」
突然のことで第三夫人は慌てていた。
彼女に館での作法や仕事を教えて貰った記憶が蘇る。
「ソニアよ。バレてないとでも思っていたか?
これはなんだ?」
ギバは数枚の紙きれをニヤつきながら振る。
ソニアは驚いた顔をした後、明らかに動揺した。
「そ、それは……」
「半年も前から外部と連絡を取っていたな?
内容は脱出の手筈と……俺の暗殺だよな?」
わざとらしく大声で、ギバは部下たちに聞こえるように話す。
「救出部隊も暗殺部隊も来なくて不安だったんじゃないかと思ってよ、
ほら……俺は優しいだろ? お前のためにここに連れてきてやったぞ」
ギバが指を差した方を見ると、
部下たちが槍の先端に刺さった頭を高く掲げた。
切断された二十ほどの頭部は、見たことのない兜を付けていた。
「ああ! ……オクトル……」
ソニアは膝から崩れ落ちた。
「お前はロシテの貴族出身だったな。
心配するな。 あの中に弟がいるんだろ?
会えてよかったじゃないか」
部下たちはギバの笑えない冗談に大笑いしている。
「中々骨のある男だったぞ。
ほら話したことあるだろ、あの拷問。
手足を徐々に短く切っていくやつ。
あいつは根元まで切っても口を割らなかった。
もっともこの手紙があるから素性は知っていたけどな。
正直やる必要はなかったが暇だったもんで。許せ」
泣きじゃくるソニアにギバは意地悪く笑う。
「さて、知っているだろ?
不貞を働いた妻は追放される」
「……申し訳ありません! ギバ様、
どうかお許しください! それだけは……!」
「お前の腰つきは最高なだけに惜しい。
新入りのナナミアに期待しよう。
……連れていけ!!」
泣きわめくソニアは男達の待つ広場に連れていかれた。
大歓声の中、男達はソニアを持ち上げ、後方へ送っていった。
ギバがナナミアの横に来た。
「ソニアがどこに行くか分かるか?」
殺したはずの心が、水面に石を投げた時の波紋のように、揺れる。
「……いいえ」
ナナミアの肩に腕をかけたギバの手は、
何の遠慮もなしに乳房を掴んでいる。
「じゃあなんで毎日お前たちにこんな格好をさせて、
荒くれ兵士の前に出すか分かるか?」
ナナミアは微動だにしない。
「……いいえ」
「奴らの欲望を掌握するためさ。
皆、高貴な娘だ。
欲しくない男はいない。
忠実でいれば、たまにこうやっておこぼれに預れるからな」
耳元でギバは面白そうに話す。
「絶対に殺すなと命令してある。
ソニアはこの先何十日、何百日も部下たちのおもちゃにされる。
ナナミア、そうなりたいか?」
「……いいえ」
声がかすれた。涙も出てきた。
「俺を失望させるなよ。そして健康な子を産め。
……どうした? 俺が怖いのか?」
「いいえ、怖くありません」
「そうか、ならいい。俺を愛しているか?」
「あ、愛して……います……」
「そうかそうか。顎が震えるほど愛しているのか。
膝が震えるほど愛しているのか。
俺は幸せ者だ。今晩が楽しみでしょうがない」
笑いながらギバは去っていった。
ナナミアは足の力が抜け、その場に座り込む。
奥底に沈めていた感情を、力尽くで引き揚げられた。
何もかも通用しない、あの男には。
涙が止まらなかった。
人の心を操って遊ぶギバに、ナナミアは改めて恐怖した。
踊り子のような露出の多い服を着させられる。
その日ナナミアは館の広場を、
胸も尻も局部しか隠れないような卑猥な衣装を着させられ、
大勢の男たちの前を歩かされた。
下品な視線を隠そうともしない男どもに寒気がしたが、
ナナミアはそれに感情を動かすほどの余裕はなかった。
館に入り階段を上がって2階へ進む。
広場を見渡せるテラスにギバとナナミア含む9人の夫人たちが並ぶ。
下の広場にはギバの率いる軍がほぼ全員集結していた。
ギバが何やら演説をしている。
何を言っているのかは分からない。
まるで水中にいるかのように音が聞き取りづらい。
現実味がなかった。
夢の中にいるような感覚だ。
ナナミアは心ここにあらずといった具合で、
ただ前方をぼんやりと眺めていた。
あの日、ギバの要求を呑んだ日、自分は死んだのだ。
そして感情を捨てた人形に生まれ変わった。
他の夫人と同じように、ただ要求に従うだけの日々。
首輪をつけられた犬に等しかった。
何も言わず、何も感じず。
慣れてしまえば楽だった。
他の夫人たちの話を聞くに、
皆どこかの王族や名家などの娘だった。
ナナミアはそれを聞いて合点がいった。
皆若い娘だが、ギバにとってそれは単なる副産物的な楽しみに過ぎず、
一番は人質としての利用価値にある。
脅迫と牽制。
この方法で金を強請り、迂闊に攻められない状況を作っている。
さらにここへきてラドー元将軍、ナルガセ元将軍が合流し、
新たに兵も1000人以上集まった。
ギバは着々と勢力を拡大している。
「ナナミア、来い」
ギバに呼ばれて壇上に登る。
広場の兵たちが湧いた。
よく聞いていなかったが、
多分新しい妻の紹介をしているのだろう。
「おい、せっかくお披露目してるんだ、笑えよ」
そう言ってギバはナナミアの丸出しの尻を掴んだ。
大勢に見られている羞恥心が少しだけ蘇ったが、
すぐにナナミアはその感情を殺した。
第三夫人も呼ばれた。
前に出ると兵士に拘束される。
「な、なにをするのですか、ギバ様!」
突然のことで第三夫人は慌てていた。
彼女に館での作法や仕事を教えて貰った記憶が蘇る。
「ソニアよ。バレてないとでも思っていたか?
これはなんだ?」
ギバは数枚の紙きれをニヤつきながら振る。
ソニアは驚いた顔をした後、明らかに動揺した。
「そ、それは……」
「半年も前から外部と連絡を取っていたな?
内容は脱出の手筈と……俺の暗殺だよな?」
わざとらしく大声で、ギバは部下たちに聞こえるように話す。
「救出部隊も暗殺部隊も来なくて不安だったんじゃないかと思ってよ、
ほら……俺は優しいだろ? お前のためにここに連れてきてやったぞ」
ギバが指を差した方を見ると、
部下たちが槍の先端に刺さった頭を高く掲げた。
切断された二十ほどの頭部は、見たことのない兜を付けていた。
「ああ! ……オクトル……」
ソニアは膝から崩れ落ちた。
「お前はロシテの貴族出身だったな。
心配するな。 あの中に弟がいるんだろ?
会えてよかったじゃないか」
部下たちはギバの笑えない冗談に大笑いしている。
「中々骨のある男だったぞ。
ほら話したことあるだろ、あの拷問。
手足を徐々に短く切っていくやつ。
あいつは根元まで切っても口を割らなかった。
もっともこの手紙があるから素性は知っていたけどな。
正直やる必要はなかったが暇だったもんで。許せ」
泣きじゃくるソニアにギバは意地悪く笑う。
「さて、知っているだろ?
不貞を働いた妻は追放される」
「……申し訳ありません! ギバ様、
どうかお許しください! それだけは……!」
「お前の腰つきは最高なだけに惜しい。
新入りのナナミアに期待しよう。
……連れていけ!!」
泣きわめくソニアは男達の待つ広場に連れていかれた。
大歓声の中、男達はソニアを持ち上げ、後方へ送っていった。
ギバがナナミアの横に来た。
「ソニアがどこに行くか分かるか?」
殺したはずの心が、水面に石を投げた時の波紋のように、揺れる。
「……いいえ」
ナナミアの肩に腕をかけたギバの手は、
何の遠慮もなしに乳房を掴んでいる。
「じゃあなんで毎日お前たちにこんな格好をさせて、
荒くれ兵士の前に出すか分かるか?」
ナナミアは微動だにしない。
「……いいえ」
「奴らの欲望を掌握するためさ。
皆、高貴な娘だ。
欲しくない男はいない。
忠実でいれば、たまにこうやっておこぼれに預れるからな」
耳元でギバは面白そうに話す。
「絶対に殺すなと命令してある。
ソニアはこの先何十日、何百日も部下たちのおもちゃにされる。
ナナミア、そうなりたいか?」
「……いいえ」
声がかすれた。涙も出てきた。
「俺を失望させるなよ。そして健康な子を産め。
……どうした? 俺が怖いのか?」
「いいえ、怖くありません」
「そうか、ならいい。俺を愛しているか?」
「あ、愛して……います……」
「そうかそうか。顎が震えるほど愛しているのか。
膝が震えるほど愛しているのか。
俺は幸せ者だ。今晩が楽しみでしょうがない」
笑いながらギバは去っていった。
ナナミアは足の力が抜け、その場に座り込む。
奥底に沈めていた感情を、力尽くで引き揚げられた。
何もかも通用しない、あの男には。
涙が止まらなかった。
人の心を操って遊ぶギバに、ナナミアは改めて恐怖した。
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