上 下
147 / 325
第三章

第140話 ノーストリリア城の刺客

しおりを挟む
夜。

ラムレスは飛び起きた。

ノーストリリア城に敵襲を告げる鐘が鳴っている。

「この音は……て、敵襲!?」

慌てて廊下に出たラムレスは、

薄暗い廊下で新しくメイドになったソーンの孫娘、

モカル・ジルチアゼムと会った。

モカルは背は小さいながらもソーン譲りの剣術を持っているので、

メイド兼要人の護衛の役も担っている。

真夜中にも関わらず、くるりと大きな瞳は全く眠そうではない。

しかし、肩までの長さの髪は多少寝癖が付いていた。

「ああ、モカル。きき、君はベリカ様の護衛を! 他の者は?」

「えっと……部屋にいます」

「ならば鍵をかけて部屋から出ないようにと言いなさい」

「は、はい」

慌てて戻ったモカルと入れ違いに護衛兵が報告に来た。

「ラムレス様、中庭にて護衛兵団とマーハント軍が敵部隊と交戦中!

敵勢力はおよそ200名。正規軍ではないようです。

傭兵団もしくは暗殺部隊かと……

それと、数名が城内に侵入したかもしれないと報告がありました」

「な! なに!!」




一階、工事中の廊下に口笛が響く。

「あーもう、なんて寒いところなのかしら。ねえマグローブ姉様?」

「そうねカトゥース。わざわざ私たちが来る必要があったのかしら?

戻ったらシキ姉に文句言わなくちゃ。うふふん」

「ちょっと姉様方待ってよー、オーカがまだよ。

ほらオーカ、その子はもう死んでるんだから遊べないのよ」

巨漢のオーカは血まみれの護衛兵を放り投げた。

「マカン姉、女いないの女」

「捕獲目標が女よ。でも殺しちゃだめなのよ」

「なんでぇー」

「もう、何度も説明したでしょ」

マカンはオーカの背中を押して歩く。

「やだーもうヒゲ生えてきちゃったー」

「あーカトゥース、青いー」

「やめてよマカンったら大声でぇー」

「うふふ、仲いいわねぇーあなた達」

マグローブは妹たちを見て微笑む。

たくましい脚、たくましい腕、そしてヒゲ。

末のオーカ以外ゴリゴリのお姉である4兄弟は、

敵地にも関わらず、世間話しながらノーストリリア城を進んでいく。




王の間でラムレスはギルとモルトと合流した。

二人は夜遅くまで仕事をしていて暖炉の前で仮眠していたらしい。

戦中の事務仕事は平時よりも格段に忙しい。

「他の者は?」

「一旦帰りました。

いやしかし、オスカー様の居ぬ間に……まんまとやられましたな」

酒臭いモルトはフラフラだった。足元にワインの瓶が転がっている。

「敵は一体どうやってここまで? 

建設中のコマザ城で交戦の報告は上がってなかったはず」

ギルは頭を捻っている。

その時、王の間の扉が勢いよく開いた。

「あーらおっさんが三人……ねえ、お腹の大きいメイドはどこかしら?」

長身のマグローブがにやつきながら入ってきた。

短刀と拳は血に濡れていた。





モカルは祖父ソーンから譲り受けた名剣ベルルッティを片手に、

ベリカの部屋に入った。

「ベリカ様、失礼します」

ランタンの光で照らされた部屋にベリカの姿はなく、

ベッドも戸棚も荒らされていた。

「遅かった……」

しかし、窓が開いていることに気が付いたモカルは、

そこから工事用の足場に飛び移り、外に出た。

すると一段下に大柄な男がベリカを肩に担いで降りていくのを発見した。

「待て!」

すぐにそこまで駆け下り、モカルはベルルッティを抜く。

その男、カトゥースはゆっくりと振り向き

「あら、小さなお嬢さん。こんばんわ」と満面の笑みを見せた。







マイヤーはその時浴場にいた。

湯の落ちる音で城の鐘は聞こえなかったようだ。

そこへいきなり巨漢の男が入ってきた。

「え! 誰!!」

体を洗っていたマイヤーはびっくりして固まってしまった。

「女……裸の女……」

呆けた顔でマイヤーを見ていた男は、

はっと気づくとひょいとマイヤーの身体を持ち上げて肩に担いだ。

「きゃあ!! ちょっといきなり何なのよ!!」

「お前持って帰る」

その時、湯船からロミとフミが勢いよく姿を現した。

「はい私の勝ちー」

「いいえ、ほぼ同時よ」

「あんた水中で変な顔して笑わしに来たでしょ、

卑怯ねー卑怯すぎて震えるわ」

「あんただって潜るのちょっと遅かった……」

「……ん? 誰? あんた」

筋骨隆々のロミ、フミ兄弟はオーカを見て首を捻る。






メイドのマイマ、メミカ、ヒナカの三人は、

メイド部屋から倉庫に身を移し、鍵をかけて籠城していた。

「あ……ほら聞いて下さい。私たちの部屋から音が……」

息を潜めてヒナカは人差し指を唇に当てた。

向かいの自分たちの部屋からは口笛と共に、

家具を派手に動かす音が聞こえてくる。

「やっぱり敵はお二人とお腹の赤ちゃんを狙ってるんですよ」

寝癖のついたヒナカはドアの前で二人に振り返る。

少しお腹が出てきたメミカは毛皮を着込んで不安そうな表情だった。

そしてもうかなりお腹の大きいマイマは静かに靴の紐を結びながら、

「メミカ、しっかりして。この子たちは私たちが守るのよ」と冷静だ。

その時、ドアノブがガチャガチャと鳴った。

三人は身構え部屋の奥へと移動する。

ヒナカが握る短刀の刃先は、小刻みに揺れていた。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

おまけ娘の異世界チート生活〜君がいるこの世界を愛し続ける〜

蓮条緋月
ファンタジー
ファンタジーオタクな芹原緋夜はある日異世界に召喚された。しかし緋夜と共に召喚された少女の方が聖女だと判明。自分は魔力なしスキルなしの一般人だった。訳の分からないうちに納屋のような場所で生活することに。しかも、変な噂のせいで食事も満足に与えてくれない。すれ違えば蔑みの眼差ししか向けられず、自分の護衛さんにも被害が及ぶ始末。気を紛らわすために魔力なしにも関わらず魔法を使えないかといろいろやっていたら次々といろんな属性に加えてスキルも使えるようになっていた。そして勝手に召喚して虐げる連中への怒りと護衛さんへの申し訳なさが頂点に達し国を飛び出した。  行き着いた国で出会ったのは最強と呼ばれるソロ冒険者だった。彼とパーティを組んだ後獣人やエルフも加わり賑やかに。しかも全員美形というおいしい設定付き。そんな人達に愛されながら緋夜は冒険者として仲間と覚醒したチートで無双するー! ※他サイトにて重複掲載しています

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

世界樹を巡る旅

ゴロヒロ
ファンタジー
偶然にも事故に巻き込まれたハルトはその事故で勇者として転生をする者たちと共に異世界に向かう事になった そこで会った女神から頼まれ世界樹の迷宮を攻略する事にするのだった カクヨムでも投稿してます

お妃さま誕生物語

すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。 小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。

処理中です...