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第三章
第105話 クロエとザヤネ
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早朝にコマザ村の中央キャンプにて団長級会議が開かれる。
一際豪華な俺のテントには各軍団長、隊長クラスが集まっていた。
ギバ軍だけはまだ到着していない。昼過ぎには着くと知らせがあった。
バルバレスがみんなを集める。
「クロエ殿が幽閉されているのはここ、ムルス大要塞。
現在我々がいるのはここだ。
間にはザサウスニア帝国の北方軍約2万が控えている」
集まった面々に同行してきたメイドのリーザ・ベリサリカが飲み物を配る。
戦地についてきたのは彼女一人だけだ。クロエと仲が良かったらしいので、
いてもたってもいられず自ら立候補したらしい。
ここでは俺の身の回りの世話をする。
「〝ラウラスの影〟の工作員、そしてユウリナ神の機械蜂によると、
ラドー軍指揮下には四貴族がいる。
タイラム家、ファシル家、ドーソン家、ダグ家、それぞれの軍が各2000人。
そしてラドー軍本隊に5000人、ムルス大要塞に7000人だそうだ」
分厚いな、とミルコップの声が聞こえた。
「まずはこのラドー軍を出来るだけ損害を出さずに攻略する。
クロエを強奪され、昨日は俺たちも襲われた」
語尾につい力が入る。俺はだいぶイラついていた。
「敵は早速魔戦力を狙ってきましたね」
キャディッシュは重武装だ。
「さすがに戦い慣れている」
ミルコップ軍の隊長、オルゲが鼻息荒く言った。
「こことムルス大要塞の間には平地が広がっている。
東の奥にドーソン家、中央にダグ家、
西にタイラム家、奥にファシル家が布陣している。
ラドー本軍はその奥だ」
バルバレスが地図に棒を指して説明する。
「【骸骨部隊】はタイラム家の野営地に潜入、指揮官クラスの暗殺だ。
ボサップ軍ネネル軍はファシル家を大周りで奇襲。
ミーズリー軍、ギバ軍、ベミー軍はダグ家。
ここは城が3つある。それも落としてくれ。
ダルハン軍、ミルコップ軍はドーソン家だ。
油断してるだろうからこちらも奇襲して一気に攻略してくれ。
で、俺とバルバレスは混乱してるタイラム家を素早く壊滅、
その後、ラドー本軍になだれ込む」
「速さが勝負の作戦ね」
ネネルはあごに手をやって呟いた。
「そうだ。キトゥルセン全軍が一つにならないと勝利はない。
みんなの実力を見せてくれ」
その時伝令兵が勢いよくテント内に駆け込んできた。
「失礼します!! ケモズとイースの港が襲撃されていると報告がありました」
「何!? 海を渡ってきたのか?」
「いえそれが……報告によるとケモズの港はイースが、
イースの港はケモズが攻撃しているようで」
「どういうことだ……」
クロエは目を覚ますと真っ暗な空間に漂っていた。
近くの空間が円型に空き、そこから女が逆さに顔を出した。
「あ、起きた」
「お前は……私をさらった奴!」
クロエは氷弾を飛ばしたが、女は姿を消し、別の場所に顔を出した。
今度は横向きだ。
「あーいいよ、そういうの。こっちは今のところあなたを傷つける気ないし」
「……お前がそれを決めるな!」
もう一度クロエは氷弾を飛ばしたが、女は姿を消した。
『無駄よ。ここは私の中。どんなにあがいても自力じゃ出れないわ』
暗闇に女の声だけがこだまする。
『私はザヤネ。【千夜の騎士団】って知ってる?
……あ、知らない? ま、傭兵ってとこね。私はそこの団員。
ねえ、ちょっとお話出来ない? そんな暴れても時間の無駄だって。
……もう、言うこと聞いてくれないとあなたのお仲間、
始末しなきゃいけなくなっちゃうわよ?』
クロエは氷を出すのをやめた。
全方位に氷弾をばら撒いていたので肩で息をしていた。
『そうそう、よく考えてね。私は魔人よ。
あなたも魔人なら恐ろしさもわかるでしょう?
私がキトゥルセン軍相手にこの能力を使ったらどうなると思うの?』
「……要件はなんだ?」
足元からザヤネが顔を出す。
「呑み込みが早くて助かるわ。
えーと、単刀直入に言うと……あなた【千夜の騎士団】に入らない?」
「なに? 寝返れと言ってるのか?」
「いや、そうじゃないわ。これは大きな声では言えないんだけど……」
ザヤネは内緒話をするみたいに声を落とした。
「私たちは正直ザサウスニアが勝とうがキトゥルセンが勝とうがどうでもいいわけ。
ラドーの奴からはあなたを拷問して、
ザサウスニアに引き込めって言われてるんだけど、
そんなもったいないことするわけないっての。
私あのラドーって奴嫌いなのよね。
えらそーに命令しやがって、私はあいつの部下じゃないっつーの!
……ってごめん、話がそれた。
えーとだから私たち【千夜の騎士団】って魔人の集まりなのよ。
魔人を理解できるのは魔人だけ。魔人同士が一番信用できると思わない?
あなたも人間に利用されたり、迫害された経験あるでしょう?」
クロエは無意識に拳を握った。
「あなたレベルの魔人なら私たちは大歓迎なんだけど……どうかな?
よかったら〝ギカク化〟の調整方法教えるけど」
「出来るのか!?」
クロエは驚いて目を見開いた。
うふふふとザヤネは悪戯猫のように笑った。
「やってみる?」
一際豪華な俺のテントには各軍団長、隊長クラスが集まっていた。
ギバ軍だけはまだ到着していない。昼過ぎには着くと知らせがあった。
バルバレスがみんなを集める。
「クロエ殿が幽閉されているのはここ、ムルス大要塞。
現在我々がいるのはここだ。
間にはザサウスニア帝国の北方軍約2万が控えている」
集まった面々に同行してきたメイドのリーザ・ベリサリカが飲み物を配る。
戦地についてきたのは彼女一人だけだ。クロエと仲が良かったらしいので、
いてもたってもいられず自ら立候補したらしい。
ここでは俺の身の回りの世話をする。
「〝ラウラスの影〟の工作員、そしてユウリナ神の機械蜂によると、
ラドー軍指揮下には四貴族がいる。
タイラム家、ファシル家、ドーソン家、ダグ家、それぞれの軍が各2000人。
そしてラドー軍本隊に5000人、ムルス大要塞に7000人だそうだ」
分厚いな、とミルコップの声が聞こえた。
「まずはこのラドー軍を出来るだけ損害を出さずに攻略する。
クロエを強奪され、昨日は俺たちも襲われた」
語尾につい力が入る。俺はだいぶイラついていた。
「敵は早速魔戦力を狙ってきましたね」
キャディッシュは重武装だ。
「さすがに戦い慣れている」
ミルコップ軍の隊長、オルゲが鼻息荒く言った。
「こことムルス大要塞の間には平地が広がっている。
東の奥にドーソン家、中央にダグ家、
西にタイラム家、奥にファシル家が布陣している。
ラドー本軍はその奥だ」
バルバレスが地図に棒を指して説明する。
「【骸骨部隊】はタイラム家の野営地に潜入、指揮官クラスの暗殺だ。
ボサップ軍ネネル軍はファシル家を大周りで奇襲。
ミーズリー軍、ギバ軍、ベミー軍はダグ家。
ここは城が3つある。それも落としてくれ。
ダルハン軍、ミルコップ軍はドーソン家だ。
油断してるだろうからこちらも奇襲して一気に攻略してくれ。
で、俺とバルバレスは混乱してるタイラム家を素早く壊滅、
その後、ラドー本軍になだれ込む」
「速さが勝負の作戦ね」
ネネルはあごに手をやって呟いた。
「そうだ。キトゥルセン全軍が一つにならないと勝利はない。
みんなの実力を見せてくれ」
その時伝令兵が勢いよくテント内に駆け込んできた。
「失礼します!! ケモズとイースの港が襲撃されていると報告がありました」
「何!? 海を渡ってきたのか?」
「いえそれが……報告によるとケモズの港はイースが、
イースの港はケモズが攻撃しているようで」
「どういうことだ……」
クロエは目を覚ますと真っ暗な空間に漂っていた。
近くの空間が円型に空き、そこから女が逆さに顔を出した。
「あ、起きた」
「お前は……私をさらった奴!」
クロエは氷弾を飛ばしたが、女は姿を消し、別の場所に顔を出した。
今度は横向きだ。
「あーいいよ、そういうの。こっちは今のところあなたを傷つける気ないし」
「……お前がそれを決めるな!」
もう一度クロエは氷弾を飛ばしたが、女は姿を消した。
『無駄よ。ここは私の中。どんなにあがいても自力じゃ出れないわ』
暗闇に女の声だけがこだまする。
『私はザヤネ。【千夜の騎士団】って知ってる?
……あ、知らない? ま、傭兵ってとこね。私はそこの団員。
ねえ、ちょっとお話出来ない? そんな暴れても時間の無駄だって。
……もう、言うこと聞いてくれないとあなたのお仲間、
始末しなきゃいけなくなっちゃうわよ?』
クロエは氷を出すのをやめた。
全方位に氷弾をばら撒いていたので肩で息をしていた。
『そうそう、よく考えてね。私は魔人よ。
あなたも魔人なら恐ろしさもわかるでしょう?
私がキトゥルセン軍相手にこの能力を使ったらどうなると思うの?』
「……要件はなんだ?」
足元からザヤネが顔を出す。
「呑み込みが早くて助かるわ。
えーと、単刀直入に言うと……あなた【千夜の騎士団】に入らない?」
「なに? 寝返れと言ってるのか?」
「いや、そうじゃないわ。これは大きな声では言えないんだけど……」
ザヤネは内緒話をするみたいに声を落とした。
「私たちは正直ザサウスニアが勝とうがキトゥルセンが勝とうがどうでもいいわけ。
ラドーの奴からはあなたを拷問して、
ザサウスニアに引き込めって言われてるんだけど、
そんなもったいないことするわけないっての。
私あのラドーって奴嫌いなのよね。
えらそーに命令しやがって、私はあいつの部下じゃないっつーの!
……ってごめん、話がそれた。
えーとだから私たち【千夜の騎士団】って魔人の集まりなのよ。
魔人を理解できるのは魔人だけ。魔人同士が一番信用できると思わない?
あなたも人間に利用されたり、迫害された経験あるでしょう?」
クロエは無意識に拳を握った。
「あなたレベルの魔人なら私たちは大歓迎なんだけど……どうかな?
よかったら〝ギカク化〟の調整方法教えるけど」
「出来るのか!?」
クロエは驚いて目を見開いた。
うふふふとザヤネは悪戯猫のように笑った。
「やってみる?」
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