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第2章
第87話 イース公国攻略編 ベリカ・ゼルニダ
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数週間前、イース公国から手紙が来た。
国と半島の未来について直に会って話がしたい、と。
本日、イースを統べるゼルニダ家が来訪する。
よって王都ノーストリリアは歓迎式典の準備で騒々しい。
目抜き通りには兵士が出て警備と交通規制、
空にはいつもの3倍の有翼人兵が行き交っている。
イース公国からの訪問団は近衛兵含め50名程度だった。
しかし、国境付近に1000人規模のイース軍が待機していると、
〝ラウラスの影〟の指令、ユーキンから報告が上がった。
こちらもミルコップ軍とネネル軍をイース国境付近に待機させた。
ネネル軍の指揮はルガクトが代理だ。ネネルは歓迎式典に出席する。
城の広場にて楽団による演奏が終わると、御前試合が始まる。
ネネルとキャディッシュの空中模擬戦、ルレとシボによる白毛竜の竜上試合、
そして最後はリンギオがカカラルに乗って現れ、派手に火を噴いた。
考えたのはラムレスだ。俺はなんもしなかった。
国家元首のギャイン・ゼルニダ含め、
訪問団の全員が歓迎式典を見て目が点になっていた。
夜。
王城の王の間で豪華な食事を食べながら会談が始まった。
他愛のない会話が続き、いよいよ本題へ。ここからが本番だ。
「オスカー殿。今、半島は危機に瀕している。
見えない魔の手が伸びようとしている。
私はね、今こそ半島が団結すべきだと思っています。
我が国と同盟を組み、共にザサウスニアに対抗しましょう!」
ギャインは丸い顔と丸い腹でよく笑いよく食べよく飲みよく喋る。
一見すると国家元首ながら気さくなおっさんといった雰囲気だが、
俺にはどうもそれが胡散臭かった。
本気ではないというか、そういう人間を演じているように見えた。
本性は多分、腹黒いやり手ビジネスマンだ。
やや上からものをいう性格を出さないように気を付けているように感じる。
だからあえてこちらから仕掛けてみよう。
「……我らが同盟を組んで利になることは?」
「……ええ、まずはザサウスニアがキトゥルセンをより攻めにくくなります。
さらに我が軍の兵士1500名が味方に付き、
同じ作戦に組み込むことも出来ますぞ。
そして我が国の貿易ルートでマルヴァジア共和国はじめ、
大陸中央部と取引出来る。いかがでしょうか?」
あくまで対等と言いたいのか。
正直同盟でもいいんだけど、このギャインという男、かなりの策士だ。
油断するといつの間にかこの国が喰われる恐れがある。
向こうには俺は15歳の子供に見えているからな。
それなりに仕掛けてくるはず。
でも、わざわざ国家元首がウチに来るという事は、
相当切羽詰まっているという事。
だからこちらも強気に出て牽制しよう。
思い通りにいかないという印象を植え付けておかないと、
調子に乗ってくるかもしれない。
「ダルク、ノストラ、ウルエスト、ケモズ……
この四か国を併合し、我が国はかつてないほど強大で強力になった。
現時点でもザサウスニアは攻めづらいはずだ。
実際そのような報告が密偵から上がってきている。
貴国の軍隊が味方に付くのは非常に魅力的だが、
ウチには魔人が2人、魔獣が1匹、そしてこの魔剣がある。
更には白毛竜の竜兵、有翼人の軍隊、獣人の軍隊も。
それぞれが貴国の兵1500人と同等、
もしくはそれ以上の働きをするだろう。
貿易の件はケモズ共和国の海岸線がある。
港をいくつか作る計画があるから、
大陸中央、果ては南部まで貿易ルートを伸ばす予定だ」
ギャインと取り巻き達の顔が変わる。
俺は続けた。
「はっきり言って悪いが、
イースと同盟を組んでもたいして変わりはないな。
まぁ、傘下に入るというのであれば断りはしないが」
ラムレスが小声で「オスカー様……」と慌てて諫めてきた。
「いいんだ、これも取引だよ。
向こうだって自分たちの希望が全部通るって思ってないんだから」
俺も小声で返す。
ギャインはまさかこんな子供に論破されるとは思ってなかった、
というような顔をしている。
確かに逆の立場なら俺も悔しいだろうさ。
でも俺のこの対応を引き出したのはあなたの言動だからね。
おあいこです。
結局、その後交渉は平行線のまま幕を閉じた。
後日、イースからはキトゥルセン王国に併合することを望む手紙が届いた。
それと同時に豪華な馬車も城に届いた。
中に乗っていたのは絶世の美女だった。
侍女の一人が言う。
「こちらにおわすはギャイン・ゼルニダ国家元首の長女にて、
イースの五真珠が一人、ベリカ・ゼルニダ様です。
どうぞ忠誠心の印として御妃としてお迎え下さい」
おいおい、聞いてないですけど。
あれか? 俺が好色だって噂が広まってるのか?
それを知ったうえで……なのか、ギャイン……いや、お父様。
なんて恥ずかしい噂が広まってるんだ……。
いやいやこの世界の王族では普通の事なんでしょ?
だってマイマにそう聞いたもん!
純白のドレスにティアラを付けたベリカ・ゼルニダが外に出た途端、
周囲の人間が全員息を呑んだ。そのくらいの美しさと華やかさがある。
俺も緊張するくらいだ。
「ベ、ベリカ殿。私がオスカー・キトゥルセンです。
工事中でお見苦しい所ではございますが、どうぞこちらへ。
中を案内して差し上げましょう」
ベリカは俺の話を聞くやポーチから紙とペンを出し
『こちらこそよろしくお願いします』と書いて見せてきた。
あれ? 喋れないのか?
国と半島の未来について直に会って話がしたい、と。
本日、イースを統べるゼルニダ家が来訪する。
よって王都ノーストリリアは歓迎式典の準備で騒々しい。
目抜き通りには兵士が出て警備と交通規制、
空にはいつもの3倍の有翼人兵が行き交っている。
イース公国からの訪問団は近衛兵含め50名程度だった。
しかし、国境付近に1000人規模のイース軍が待機していると、
〝ラウラスの影〟の指令、ユーキンから報告が上がった。
こちらもミルコップ軍とネネル軍をイース国境付近に待機させた。
ネネル軍の指揮はルガクトが代理だ。ネネルは歓迎式典に出席する。
城の広場にて楽団による演奏が終わると、御前試合が始まる。
ネネルとキャディッシュの空中模擬戦、ルレとシボによる白毛竜の竜上試合、
そして最後はリンギオがカカラルに乗って現れ、派手に火を噴いた。
考えたのはラムレスだ。俺はなんもしなかった。
国家元首のギャイン・ゼルニダ含め、
訪問団の全員が歓迎式典を見て目が点になっていた。
夜。
王城の王の間で豪華な食事を食べながら会談が始まった。
他愛のない会話が続き、いよいよ本題へ。ここからが本番だ。
「オスカー殿。今、半島は危機に瀕している。
見えない魔の手が伸びようとしている。
私はね、今こそ半島が団結すべきだと思っています。
我が国と同盟を組み、共にザサウスニアに対抗しましょう!」
ギャインは丸い顔と丸い腹でよく笑いよく食べよく飲みよく喋る。
一見すると国家元首ながら気さくなおっさんといった雰囲気だが、
俺にはどうもそれが胡散臭かった。
本気ではないというか、そういう人間を演じているように見えた。
本性は多分、腹黒いやり手ビジネスマンだ。
やや上からものをいう性格を出さないように気を付けているように感じる。
だからあえてこちらから仕掛けてみよう。
「……我らが同盟を組んで利になることは?」
「……ええ、まずはザサウスニアがキトゥルセンをより攻めにくくなります。
さらに我が軍の兵士1500名が味方に付き、
同じ作戦に組み込むことも出来ますぞ。
そして我が国の貿易ルートでマルヴァジア共和国はじめ、
大陸中央部と取引出来る。いかがでしょうか?」
あくまで対等と言いたいのか。
正直同盟でもいいんだけど、このギャインという男、かなりの策士だ。
油断するといつの間にかこの国が喰われる恐れがある。
向こうには俺は15歳の子供に見えているからな。
それなりに仕掛けてくるはず。
でも、わざわざ国家元首がウチに来るという事は、
相当切羽詰まっているという事。
だからこちらも強気に出て牽制しよう。
思い通りにいかないという印象を植え付けておかないと、
調子に乗ってくるかもしれない。
「ダルク、ノストラ、ウルエスト、ケモズ……
この四か国を併合し、我が国はかつてないほど強大で強力になった。
現時点でもザサウスニアは攻めづらいはずだ。
実際そのような報告が密偵から上がってきている。
貴国の軍隊が味方に付くのは非常に魅力的だが、
ウチには魔人が2人、魔獣が1匹、そしてこの魔剣がある。
更には白毛竜の竜兵、有翼人の軍隊、獣人の軍隊も。
それぞれが貴国の兵1500人と同等、
もしくはそれ以上の働きをするだろう。
貿易の件はケモズ共和国の海岸線がある。
港をいくつか作る計画があるから、
大陸中央、果ては南部まで貿易ルートを伸ばす予定だ」
ギャインと取り巻き達の顔が変わる。
俺は続けた。
「はっきり言って悪いが、
イースと同盟を組んでもたいして変わりはないな。
まぁ、傘下に入るというのであれば断りはしないが」
ラムレスが小声で「オスカー様……」と慌てて諫めてきた。
「いいんだ、これも取引だよ。
向こうだって自分たちの希望が全部通るって思ってないんだから」
俺も小声で返す。
ギャインはまさかこんな子供に論破されるとは思ってなかった、
というような顔をしている。
確かに逆の立場なら俺も悔しいだろうさ。
でも俺のこの対応を引き出したのはあなたの言動だからね。
おあいこです。
結局、その後交渉は平行線のまま幕を閉じた。
後日、イースからはキトゥルセン王国に併合することを望む手紙が届いた。
それと同時に豪華な馬車も城に届いた。
中に乗っていたのは絶世の美女だった。
侍女の一人が言う。
「こちらにおわすはギャイン・ゼルニダ国家元首の長女にて、
イースの五真珠が一人、ベリカ・ゼルニダ様です。
どうぞ忠誠心の印として御妃としてお迎え下さい」
おいおい、聞いてないですけど。
あれか? 俺が好色だって噂が広まってるのか?
それを知ったうえで……なのか、ギャイン……いや、お父様。
なんて恥ずかしい噂が広まってるんだ……。
いやいやこの世界の王族では普通の事なんでしょ?
だってマイマにそう聞いたもん!
純白のドレスにティアラを付けたベリカ・ゼルニダが外に出た途端、
周囲の人間が全員息を呑んだ。そのくらいの美しさと華やかさがある。
俺も緊張するくらいだ。
「ベ、ベリカ殿。私がオスカー・キトゥルセンです。
工事中でお見苦しい所ではございますが、どうぞこちらへ。
中を案内して差し上げましょう」
ベリカは俺の話を聞くやポーチから紙とペンを出し
『こちらこそよろしくお願いします』と書いて見せてきた。
あれ? 喋れないのか?
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