【北の果てのキトゥルセン】 ~辺境の王子に転生したので、まったり暮らそうと思ったのに、どんどん国が大きくなっていく件について~

次元謄一

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第39話 【千夜の騎士団】

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大陸北部ファベラ城。

城内は兵士のほとんどが倒れ、旗は燃えて、壁は壊され、

城に仕えていた者は逃げ惑っていた。

「だから言ったろ? 最初に魔剣を渡さないからだ」

「化物め」

目の前にいるのは金色の甲冑を着けた親衛隊4人と魔剣使いの将軍。

最後の生存者だ。

「何だよ、忠告はしたじゃん。奇襲しなかっただけでもいいでしょ」

親衛隊が一斉に槍でクガの身体を刺した。

「うっ」

槍が抜かれた拍子にクガは地面に倒れた。

「……何回やったって同じだって」

めんどくさそうにクガは立ち上がる。傷口は既に塞がっていた。

「お前たち、下がっていろ」

将軍は魔剣を抜いた。

「お、やっと登場?」

クガは屈託のない笑顔を見せた。

「魔人だからといい気になるなよ」

将軍の魔剣から耳障りな甲高い音が鳴り始めた。

やがてその音は一定範囲を細かい振動で粉砕する。

石畳が、柱が、草木が、そしてクガの身体が。

クガは皮膚がめくれ、耳や目から大量の血を流し倒れた。

「これが魔剣シェイクルーパの力よ。いくら身体が再生すると言っても、

脳が破壊されればさすがに動くまい」

将軍は笑いながらも、一気に体力を使ったようで片膝を付いて荒い息だ。

クガはむくっと起き上がった。

「なるほど、音の振動で攻撃するのか。僕じゃなかったら危なかったかもね。

あれ、でも一回使っただけでそんな感じ? あんま才能なかったんだね」

将軍は悔しそうな目でクガを見る。

「……いつかお前たちには災厄が降りかかる……

ファベラの民の呪いはお前の家系を1000年に渡って不幸にするだろう」

その時、将軍の目の前に黒い影が現れた。

通常の影よりも濃い、異次元に繋がっているかのような深い闇だった。

その中から女の頭が飛び出た。

「もういい? そういう類の言葉、何十回と聞いてきたけど、

私らピンピンしてるし、効力なんてないから聞くだけ時間の無駄なんだよね」

将軍は咄嗟に魔剣を動かそうとしたが、影が全身にまとわりつき、動くに動けない。

「く、何だこれは? お前も魔人か」

闇からぬるりと出た女もまたクガと同じく黒衣を羽織っていた。

「自分の思い通りにならないから悪態ついてるだけなのよね。

悔しいからこうなってほしいっていうおっさんの願望。

武人なら武人らしく何も語らず死になさいよ、情けない」

女は喋りながら手をかざす。

向かってきた四人の親衛隊は地面から飛び出た影の槍で身体を貫かれあっという間に絶命した。

「まあまあ、そう言ってやるな、ザヤネ。聞いてやるのも仕事の内だよ」

「貴様ら……舐めてるのか?」

「え、ああ……舐めてないよ。うーん、何ていうのかな。

強いて言えば何とも思ってないのかな」

将軍は唖然とした。

「そう言う事で。私らももう帰りたいからさ。

せっかくだからこの地方の料理も食べたいし。ばいばい」

影が将軍の喉を切り裂いた。

ザヤネは魔剣シェイクルーパを拾い、自分の影に投げ入れた。

「クガといると楽でいいわ、能力の分からない魔剣使いと戦う時はあんた最高ね」

「一応さ、痛いんだよ、これでも」

「嘘つき。寝てる時腕斬られても起きなかったじゃん」

「そうだっけ?」

ザヤネは思いっきり伸びをした。

「任務完了っと。さー帰ろ帰ろ」

「まだだよ、ザヤネ。王逃がしたでしょ? 追わないと」

「う、忘れてた。……なんかさ、私100人兵士いたら、

100人全員殺さないと気が済まないって言うか、気持ち悪いんだよね」

「それで逃げた兵追ってたら本命はとっくに脱出していたと」

「病気かな」

「病気だね。几帳面すぎる病だ。

宿屋行ったら持ち物机に綺麗に並べるもんね、ザヤネ。店かと思ったよ。

一人だったら任務遂行できないでしょ」

「失礼な! あんたは兵100人も一遍に相手出来ないでしょ!」

「そういうことを言ってんじゃないよ。

まずは最優先の目標を片付けましょうって話」

「最優先は魔剣回収じゃん」

「王族の抹殺も言われたでしょ? そーやって屁理屈ばっかりで反省しないから、

怒られてばっかりなんだよ」

「むかつく」

「なに? 自分の思い通りにならないから悪態ついてんの?」

「あーーー、まじむかつく。もう影入れてやんない」

「子供か! ザヤネはほんと末っ子気質だな。弟と喋ってるみたいだ」

「……あんたの弟いくつだっけ?」

「13歳」

「なにそれむかつく。私たちより7コ下じゃん。一緒だっての?」

「全部じゃないけどね。大体何言ってくるか予想がつくよ」

「……クガさあ、女の子には優しくしないとモテないよ? 

あんた冷静なのはいいけどズバズバと言い過ぎなのよ。特に私に対して」

「ザヤネみたいな性格の人はおだてると非常識な人間になる確率高いんだよ。

将来周りから煙たがられるような人間にならないために、

自尊心とプライドを削ってあげてるの。正直疲れるから感謝してほしいくらい」

「あー! もう! なにそれ? 一生口きかない!」

ザヤネは自分の足元に影を出して沈み始めた。クガもその影にぴょんと入る。

「ちょっと、何勝手に入ってるのよ!」

「あ、喋った」

「まじ殺したい、こいつ。こま切れ肉にしてやろうか!」

「やったじゃん、前に。無駄だったでしょ?」

「ぐぬぬ!」

影は大声で喧嘩する二人の頭を出したまま、地面を滑るように移動した。



隣国に続く街道を十数騎の馬が駆けている。

「何なんだ、あれは…… 僅か二人の賊に我が軍が、我が城が……。

わしは夢を見ているのか?」

ファベラ国王の顔は青ざめている。

「国王様! 止まって下さい! 前に何かいます!」

道を塞ぐように羽の生えた獣と二人の影が見える。

「あれは……竜鳥! 我らの城を襲った奴です!」

兵の一人が叫んだ。

「奴らがここにいるということは……将軍は負けたのか……?」

一行は絶望感に打ちひしがれた。

騎列に影が伸びる。

「何だ、これ」

一人の兵が呟いた時、無数の槍が襲った。


国王の息が止まる直前、目の前に二人の足が近づいてきた。

「あれ、まだ生きてるよ。可哀相に」

「ちっ、動いてるのは難しいの!」

「ファベラの王。あなたは生かす価値なしと判断されました」

「な、なな何様の、の、つつもりだ……」

「我々は聖ジオン教国の使いです。よく聞かされてないけど、

ウチと揉めたんでしょ? こっちも仕事なんで、恨みっこなしね」

「!!! お前らが……【千夜の騎士団】か……」

クガは国王の胸にナイフを刺し、息の根を止めた。

「キトゥルセンの王子の方が優秀だね」

「異教徒に肩入れしてるのバレたら大変だよ?」

「まだ肩入れってレベルじゃないよ」

「まだって……」

ザヤネは王の首を落とし、影に投げ入れた。

「これでこの国は聖ジオン教になる、と」

「そんなうまくいくかな?」

「ここらの筆頭貴族に金ばら撒いてるらしいわよ、法王」

「ふーん、やりそうなこった。あのブタダヌキ」

「さー帰ろう。帰りはリューグね。流石に疲れたわ」

「リューグ、ザヤネ乗せると張り切るんだよな」

「フフフ、私の魅惑的なボディが密着するからかしら」

「え? ぺったんこなのに何言ってんの?」

ザヤネはクガの首を落とした。

「……あんたなんか一生結婚出来ないでひもじく死んじゃえ!」

「ちょっと~、あ、まじか~。行っちゃったよ……」

立ち上がったクガは、傾き始めた太陽に向かって飛んでいくリューグを

成す統べなく見つめながら、溜息をついた。
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