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第一章
19話 ゲームセンター
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放課後。
学校を終えて寮に戻った優奈と麻衣は、部屋にランドセルだけ置いて、智香の部屋を訪れた。
「今日も学校楽しかったわね。この町に来てからもう五日目だけど、遊んでばっかな気がするわ。智香が不安になるって言ってたのが分かってきたかも」
「でも、勉強の量は少ないに越したことはないでしょ」
「まぁね」
喋りながら部屋に入った二人は、適当なところに腰を下ろした。
そこで優奈がテレビの下の棚にあるゲーム機を発見する。
「あれ? ゲーム機がある」
「あ、それ、昨日買ったんだ」
そのゲーム機は町専用のものだった。
外の世界ではゲーム機はメーカーや種類など様々あって、それに対応したソフトしか使えないが、このゲーム機はそれら全てを統一して使用できるようにしたものである。
故に無駄に本体を買う必要がないのだ。
企業争いや法律が適応されないこの町だからこそできることである。
とはいえ情報制限の必要性から、地上から取り入れたソフトはあまり多くなく、修正も加えていた。
「結構高かったと思うけど……」
「うん。どうしようか迷ったけど、奮発しちゃった」
町は物価が安いとは言えど、ゲーム機本体ともなればそれなりの値段がつけられていた。
ソフトの分も含めると、支給された小遣いの半分以上が減ることになる。
正に奮発してでの買い物であった。
そのゲーム機に麻衣も興味を持つ。
「いいなぁ。私も欲しい」
「二人ともゲームやるんだ?」
女の子がゲームをやるというイメージがあまりなかった優奈が尋ねた。
「ええ、暇な時によくスマホでやってたわ」
「私はうちに昔のゲーム機があったから」
優奈が子供だった頃は、女子で女子がゲームをやるというのは殆どなかったが、スマートフォンの普及で今の時代は女子でもゲームをやることが多くなっていた。
「へー、意外」
町にゲーム機を流通されたのは優奈自身である。
だが、それは女子でもゲームをやる奇特な子の為に充実させたものであったので、大多数の子達がやるというのは想定していなかった。
そこで麻衣が言う。
「なら、今日はみんなでゲームやらない? 操作するやつ二つしかないけど、代わりばんこでやればできるでしょ」
「あ、ごめん。ソフト、一人用のRPGしかない」
「あら、そうなの? 智香、RPG好きなんだ?」
「別に好きって訳じゃないけど、黙々とレベル上げしてると何も考えずに済むから」
「へ、へぇー」
麻衣と優奈は少し引き気味に、顔を引き攣らせる。
智香の言葉からは心の闇が垣間見えた。
「ごめんね。今度みんなでできるやつ買っておくから」
「そんな態々買わなくてもいいわよ。智香、もうそんなお金ないでしょ」
「でも、みんなでできた方が……」
遠慮されても智香は食い下がる。
多少の出費が増えても、一緒に遊べた方がいいと智香は思っていた。
それを見て、優奈が言う。
「じゃあさ、ゲームセンター行こうよ。あそこならかなり安く遊べるから」
昨日から商店街にはゲームセンターがオープンしていた。
一般的にゲームセンターはコストパフォーマンスが悪く、遊ぶとなるとそれなりにお金がかかる場所であるが、町ではそこのところも改善されている。
だが、麻衣は難色を示す。
「ゲームセンターってあんまりいいイメージないんだけど」
「そう? 確かに不良が行くようなイメージはあるけど」
「不良? 私は不良というより、頭のおかしい人が叫びながら台をバンバン叩いたり、変なおっさんが女児向けのゲームやったりしてる印象が強いわ」
「今は、そんなイメージなんだ……。でも、ここには女の子だけ、というかうちのクラスの子しかいないから、そういうのはいないよ」
「それもそうだったわね。じゃあ行ってみましょうか」
こうして三人はゲームセンターへ行くこととなった。
商店街のゲームセンター。
奥行きが広い二階建てのその建物には、様々なゲーム機が立ち並んでおり、店内は賑やかな音で満ちていた。
今のところ町では数少ない遊戯施設だった為か、女の子の姿もちらほらと見られる。
目の前に広がる賑やかで煌びやかな光景に智香は目を輝かせる。
「わぁ、実は私ちょっと興味あったんだ」
「楽しそうね。変な人いないなら良さそうなところかも」
店内の賑やかさに当てられて、二人のテンションは上がっていた。
「ねぇ、これやりましょうよ」
麻衣は入り口近くにあった駄菓子を掬うプライズゲームに駆け寄る。
「ショッピングモールとかで見かけても、勿体なくてできなかったのよね。ここの値段なら失敗しても、そんなに痛くないわ」
「いきなりお菓子なんだ……」
即行で飛びついた麻衣に、優奈と智香は少し呆れた様子を見せる。
「もしかして私のこと食いしん坊だと思ってる? ち、違うのよ。この町の食べ物は美味しいから好きだけど、今は別にお菓子が欲しいからとかじゃなくて、ゲームとして面白そうだから、やろうと思っただけで」
食いしん坊キャラに思われるのは心外だった麻衣は、必死に言い訳を始めた。
「いや、別にそんなこと思ってないから」
「嘘じゃないわよ。お菓子じゃなくて、他のUFOキャッチャーとかでもいいんだから」
「うんうん、分かってるから、どうぞ気にせずやりなよ」
「本当だからね」
食べ物が極上になった為、食いしん坊でなくても、ついつい食べ物の方へ向かってしまうのだった。
麻衣は否定しつつも財布から小銭を取り出し、投入口に入れる。
ゲームが始まり、クレーンのシャベルが動き始めた。
麻衣はレバー操作をして、中で周る駄菓子を掬う。
そして掬い上げた駄菓子を沢山駄菓子が乗っている台の上に落とした。
すると、スライドする板により排出口へと押し出される。
だがその時、丁度山のように乗っていた駄菓子の根本にフィットし、駄菓子山がそのまま押し出されることとなった。
排出口に大量の駄菓子が殺到する。
土砂崩れのように落ちてきた駄菓子で一杯になる取り出し口を見て、三人は唖然とする。
「……町のだから取り易いの?」
「設定は、そんな変わらないはずだけど……」
理不尽なものは修正してあるが、基本的な難易度は、ほぼそのままであった。
今回のは完全な運である。
「ビギナーズラックってやつかな? まぁ、運が良かったってことで」
「そ、そうね。やったー」
未だ信じられない麻衣はぎこちなく喜ぶ。
思いもよらず大当たりを出したが、幸先のいい出だしとなった。
量が多い為、三人は分けて袋に詰め、持ち運びながら店内を巡り始める。
「あっ、これやってもいい?」
智香は立ち並べられている筐体を指して言った。
女の子らしからぬ渋いチョイスに優奈は感心する。
「真っ先にビデオゲームを選ぶとは、なかなか通だね。じゃあ私と対戦しようよ。格ゲー、昔得意だったんだ」
筐体の中に昔やり込んでいたゲームがあった為、優奈は大人げなく対戦を申し込んだ。
「いいよ。私、戦うゲームあんまりやったことないから、お手柔らかにね」
――――
”YOU LOSE”
優奈のモニタ画面に大きな文字でそう表示される。
そして反対側に居た智香が喜ぶ。
「勝ったー」
何度か対戦したが、結果は智香の全勝であった。
「あれー? おかしーな。腕が鈍った? いや、腕は違うんだけれどもー……」
散々たる結果に優奈は首を傾げる。
何十年か振りではあったが、一時期は極めていたほどであったのにあまりにも下手になっていた。
それが腕が落ちていたのか、以前の身体とは使い勝手が違うせいなのか。
「このゲームはこれくらいにしよっか。優奈ちゃん、手加減してくれてありがとね」
「……」
智香は自覚なく優奈を煽る。
優奈が得意だったと自己申告していた為、連勝できたのは手加減してくれたのだと思っていた。
悪意ない煽りに優奈は言い返すこともできず、悔しくて心の中で地団駄を踏む。
得意だったゲームなだけに屈辱であった。
続いて麻衣が対戦を申し込む。
「智香、今度はこっちのパズルゲームで私と対戦しましょ」
「いいよ。勝ち抜き戦だね」
「私は手加減しないから真剣勝負よ」
「望むところだよ」
今度は智香と麻衣が対戦を始めた。
学校を終えて寮に戻った優奈と麻衣は、部屋にランドセルだけ置いて、智香の部屋を訪れた。
「今日も学校楽しかったわね。この町に来てからもう五日目だけど、遊んでばっかな気がするわ。智香が不安になるって言ってたのが分かってきたかも」
「でも、勉強の量は少ないに越したことはないでしょ」
「まぁね」
喋りながら部屋に入った二人は、適当なところに腰を下ろした。
そこで優奈がテレビの下の棚にあるゲーム機を発見する。
「あれ? ゲーム機がある」
「あ、それ、昨日買ったんだ」
そのゲーム機は町専用のものだった。
外の世界ではゲーム機はメーカーや種類など様々あって、それに対応したソフトしか使えないが、このゲーム機はそれら全てを統一して使用できるようにしたものである。
故に無駄に本体を買う必要がないのだ。
企業争いや法律が適応されないこの町だからこそできることである。
とはいえ情報制限の必要性から、地上から取り入れたソフトはあまり多くなく、修正も加えていた。
「結構高かったと思うけど……」
「うん。どうしようか迷ったけど、奮発しちゃった」
町は物価が安いとは言えど、ゲーム機本体ともなればそれなりの値段がつけられていた。
ソフトの分も含めると、支給された小遣いの半分以上が減ることになる。
正に奮発してでの買い物であった。
そのゲーム機に麻衣も興味を持つ。
「いいなぁ。私も欲しい」
「二人ともゲームやるんだ?」
女の子がゲームをやるというイメージがあまりなかった優奈が尋ねた。
「ええ、暇な時によくスマホでやってたわ」
「私はうちに昔のゲーム機があったから」
優奈が子供だった頃は、女子で女子がゲームをやるというのは殆どなかったが、スマートフォンの普及で今の時代は女子でもゲームをやることが多くなっていた。
「へー、意外」
町にゲーム機を流通されたのは優奈自身である。
だが、それは女子でもゲームをやる奇特な子の為に充実させたものであったので、大多数の子達がやるというのは想定していなかった。
そこで麻衣が言う。
「なら、今日はみんなでゲームやらない? 操作するやつ二つしかないけど、代わりばんこでやればできるでしょ」
「あ、ごめん。ソフト、一人用のRPGしかない」
「あら、そうなの? 智香、RPG好きなんだ?」
「別に好きって訳じゃないけど、黙々とレベル上げしてると何も考えずに済むから」
「へ、へぇー」
麻衣と優奈は少し引き気味に、顔を引き攣らせる。
智香の言葉からは心の闇が垣間見えた。
「ごめんね。今度みんなでできるやつ買っておくから」
「そんな態々買わなくてもいいわよ。智香、もうそんなお金ないでしょ」
「でも、みんなでできた方が……」
遠慮されても智香は食い下がる。
多少の出費が増えても、一緒に遊べた方がいいと智香は思っていた。
それを見て、優奈が言う。
「じゃあさ、ゲームセンター行こうよ。あそこならかなり安く遊べるから」
昨日から商店街にはゲームセンターがオープンしていた。
一般的にゲームセンターはコストパフォーマンスが悪く、遊ぶとなるとそれなりにお金がかかる場所であるが、町ではそこのところも改善されている。
だが、麻衣は難色を示す。
「ゲームセンターってあんまりいいイメージないんだけど」
「そう? 確かに不良が行くようなイメージはあるけど」
「不良? 私は不良というより、頭のおかしい人が叫びながら台をバンバン叩いたり、変なおっさんが女児向けのゲームやったりしてる印象が強いわ」
「今は、そんなイメージなんだ……。でも、ここには女の子だけ、というかうちのクラスの子しかいないから、そういうのはいないよ」
「それもそうだったわね。じゃあ行ってみましょうか」
こうして三人はゲームセンターへ行くこととなった。
商店街のゲームセンター。
奥行きが広い二階建てのその建物には、様々なゲーム機が立ち並んでおり、店内は賑やかな音で満ちていた。
今のところ町では数少ない遊戯施設だった為か、女の子の姿もちらほらと見られる。
目の前に広がる賑やかで煌びやかな光景に智香は目を輝かせる。
「わぁ、実は私ちょっと興味あったんだ」
「楽しそうね。変な人いないなら良さそうなところかも」
店内の賑やかさに当てられて、二人のテンションは上がっていた。
「ねぇ、これやりましょうよ」
麻衣は入り口近くにあった駄菓子を掬うプライズゲームに駆け寄る。
「ショッピングモールとかで見かけても、勿体なくてできなかったのよね。ここの値段なら失敗しても、そんなに痛くないわ」
「いきなりお菓子なんだ……」
即行で飛びついた麻衣に、優奈と智香は少し呆れた様子を見せる。
「もしかして私のこと食いしん坊だと思ってる? ち、違うのよ。この町の食べ物は美味しいから好きだけど、今は別にお菓子が欲しいからとかじゃなくて、ゲームとして面白そうだから、やろうと思っただけで」
食いしん坊キャラに思われるのは心外だった麻衣は、必死に言い訳を始めた。
「いや、別にそんなこと思ってないから」
「嘘じゃないわよ。お菓子じゃなくて、他のUFOキャッチャーとかでもいいんだから」
「うんうん、分かってるから、どうぞ気にせずやりなよ」
「本当だからね」
食べ物が極上になった為、食いしん坊でなくても、ついつい食べ物の方へ向かってしまうのだった。
麻衣は否定しつつも財布から小銭を取り出し、投入口に入れる。
ゲームが始まり、クレーンのシャベルが動き始めた。
麻衣はレバー操作をして、中で周る駄菓子を掬う。
そして掬い上げた駄菓子を沢山駄菓子が乗っている台の上に落とした。
すると、スライドする板により排出口へと押し出される。
だがその時、丁度山のように乗っていた駄菓子の根本にフィットし、駄菓子山がそのまま押し出されることとなった。
排出口に大量の駄菓子が殺到する。
土砂崩れのように落ちてきた駄菓子で一杯になる取り出し口を見て、三人は唖然とする。
「……町のだから取り易いの?」
「設定は、そんな変わらないはずだけど……」
理不尽なものは修正してあるが、基本的な難易度は、ほぼそのままであった。
今回のは完全な運である。
「ビギナーズラックってやつかな? まぁ、運が良かったってことで」
「そ、そうね。やったー」
未だ信じられない麻衣はぎこちなく喜ぶ。
思いもよらず大当たりを出したが、幸先のいい出だしとなった。
量が多い為、三人は分けて袋に詰め、持ち運びながら店内を巡り始める。
「あっ、これやってもいい?」
智香は立ち並べられている筐体を指して言った。
女の子らしからぬ渋いチョイスに優奈は感心する。
「真っ先にビデオゲームを選ぶとは、なかなか通だね。じゃあ私と対戦しようよ。格ゲー、昔得意だったんだ」
筐体の中に昔やり込んでいたゲームがあった為、優奈は大人げなく対戦を申し込んだ。
「いいよ。私、戦うゲームあんまりやったことないから、お手柔らかにね」
――――
”YOU LOSE”
優奈のモニタ画面に大きな文字でそう表示される。
そして反対側に居た智香が喜ぶ。
「勝ったー」
何度か対戦したが、結果は智香の全勝であった。
「あれー? おかしーな。腕が鈍った? いや、腕は違うんだけれどもー……」
散々たる結果に優奈は首を傾げる。
何十年か振りではあったが、一時期は極めていたほどであったのにあまりにも下手になっていた。
それが腕が落ちていたのか、以前の身体とは使い勝手が違うせいなのか。
「このゲームはこれくらいにしよっか。優奈ちゃん、手加減してくれてありがとね」
「……」
智香は自覚なく優奈を煽る。
優奈が得意だったと自己申告していた為、連勝できたのは手加減してくれたのだと思っていた。
悪意ない煽りに優奈は言い返すこともできず、悔しくて心の中で地団駄を踏む。
得意だったゲームなだけに屈辱であった。
続いて麻衣が対戦を申し込む。
「智香、今度はこっちのパズルゲームで私と対戦しましょ」
「いいよ。勝ち抜き戦だね」
「私は手加減しないから真剣勝負よ」
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