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後日談
69話 盗賊団
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ペスカド村近郊にある山の麓。
マオはいつものように、料理に使う山菜を取り来ていた。
慣れた手つきで山菜を摘んでは、片腕にかけている籠に入れていく。
しかし、その顔は浮かない表情であった。
気に掛かっていたのは、ライルのことである。
突然、故郷に戻ると言って出て行き、もう一ヶ月以上経つ。
(もう帰ってこないのかな……)
故郷に戻ること以外、何も言わずに行ってしまったので、また村に戻ってくることすら分からなかった。
ライルは自分のことを殆どは成さなかった為、村人達は彼が冒険者だったこと以外は知らない。
故郷の場所も分からなかった。
この十年、同じ屋根の下で暮らしていたライルは、マオにとって家族も同然だった。
それなのに、何も言わずに消えてしまったことはショックであった。
内心、落ち込みながら山菜取りを続けていると、少し離れたところに人影を見つける。
「んん?」
マオが目を凝らして見てみる。
そこには何人もの人達が集まっている様子であった。
「あんなところで何やってるんだろ……」
気になったマオは、そこへと向かうことにした。
この付近には村以外に人里はない。
だからマオは、そこに居る人達は当然、村人の誰かだと信じて疑いもしなかった。
山の中腹。
そこでは盗賊団が野営をしていた。
まだ日中であるにも拘わらず、みんな酒を飲んだくれている。
男の一人が樽から自分のコップに酒を注いでいると、途中で出が悪くなった。
樽を揺らし、残量が少ないことに気付く。
「ボス、酒がもう残り少ないです」
「んあ? もう、ねぇのか。まだ沢山残ってると思ってたんだがな。まぁ夜にはペスカド村から頂くから、切れても少しの辛抱だ」
ほろ酔いで答えるのは盗賊団のボス、カズオである。
髪が薄くて小太りの、何処にでもいそうなオヤジの姿をしているが、この盗賊団を一人で取りまとめている、やり手であった。
「ありますかね。前の村は酒どころか、ほんと何にもなかったですし」
「なかったら近場で買うしかねえな。まぁ物品はあくまで副収入だ。奴隷さえ多く確保できれば、売っ払った金で酒はいくらでも買える。沢山、捕まえれた奴にはボーナス出してやるから、お前らも頑張れよ」
「お、マジっすか」
盗賊達が沸き上がる。
その後方の木の裏で、マオは驚愕の表情を浮かべていた。
(奴隷って、私達を!? どどどどうしよう……)
山賊や盗賊の類が、この世にいることは、マオも知っていた。
だが、辺境の地にあるペスカド村で、そのような輩が現れることなど、まずなく、至って平和な日々を送っていた為、自分には生涯縁のないことだと思っていた。
(えーっと、えーっと……兎に角、みんなに知らせないといけないよね)
マオは一先ず、村へ戻らなくてはと思い、足を踏み出そうとした。
だが、動揺していたせいか、腕にかけていた山菜の入った籠を落とす。
どさっという鈍い音と共に、山菜がその場に散らばった。
音は大きくなかったが、運悪くカズオの視界に散らばる山菜が映ってしまう。
「あ? 何だ? そこで何かやってるのか?」
マオは身体を硬直させ、息を止めた。
何も返事が返ってこないことを不審に思ったカズオは部下に命令する。
「おい、お前ちょっと見て来い」
「へい」
命令を受けた部下は、ふらついた足取りで、マオが隠れる木の方へと歩き出す。
このまま隠れていては、見つかってしまうことは避けられない。
マオは意を決して走り出す。
木から飛び出したその姿が、盗賊達の目にハッキリと映った。
「!! 誰だあの女は。……まさか村の奴か!? お前ら捕まえろ!」
部下達が一斉に、マオを追うべく走り出した。
――――
マオは必至に山の斜面をかけ下りる。
「ひっ、ひっ……」
転んでしまえば大惨事だが、慎重に下りてるような余裕はない。
すぐ後ろにはマオを捕えようと、大勢の盗賊が追いかけて来ていた。
「おら、止まれや!」
逃げるマオに、盗賊がナイフなどの飛び道具を投げつけた。
斜面を走りながらである為、狙いがつけ辛く、殆どが外れる。
しかし、そのうちの一本がマオの背中に直撃した。
「いつっ」
マオは強い痛みを受けるが、堪えて必死に逃げ続ける。
止まれば捕まってしまう。
捕まってしまったら奴隷にされるだけでなく、この危機を村人達に伝えられなくなる。
絶対に止まる訳にはいかなかった。
だが、マオが下る先の斜面は、ずっとは続いてはいなかった。
地面が途切れていることに気付いたマオは、慌てて止まる。
そこは崖となっていて、下には海が見えていた。
「へへ、やっと止まりやがったな」
足を止めた僅かの間に盗賊達がマオに追いついてしまう。
周りを取り囲まれ、追い詰められる。
「……」
「悪いようにはしねえから、大人しく来いや」
手を差し伸べる盗賊だが、言葉とは裏腹に、ニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべている。
碌なことにならないのは明白であった。
(お母さん、ライル……)
マオは目をギュッと瞑り、崖から飛び降りた。
マオはいつものように、料理に使う山菜を取り来ていた。
慣れた手つきで山菜を摘んでは、片腕にかけている籠に入れていく。
しかし、その顔は浮かない表情であった。
気に掛かっていたのは、ライルのことである。
突然、故郷に戻ると言って出て行き、もう一ヶ月以上経つ。
(もう帰ってこないのかな……)
故郷に戻ること以外、何も言わずに行ってしまったので、また村に戻ってくることすら分からなかった。
ライルは自分のことを殆どは成さなかった為、村人達は彼が冒険者だったこと以外は知らない。
故郷の場所も分からなかった。
この十年、同じ屋根の下で暮らしていたライルは、マオにとって家族も同然だった。
それなのに、何も言わずに消えてしまったことはショックであった。
内心、落ち込みながら山菜取りを続けていると、少し離れたところに人影を見つける。
「んん?」
マオが目を凝らして見てみる。
そこには何人もの人達が集まっている様子であった。
「あんなところで何やってるんだろ……」
気になったマオは、そこへと向かうことにした。
この付近には村以外に人里はない。
だからマオは、そこに居る人達は当然、村人の誰かだと信じて疑いもしなかった。
山の中腹。
そこでは盗賊団が野営をしていた。
まだ日中であるにも拘わらず、みんな酒を飲んだくれている。
男の一人が樽から自分のコップに酒を注いでいると、途中で出が悪くなった。
樽を揺らし、残量が少ないことに気付く。
「ボス、酒がもう残り少ないです」
「んあ? もう、ねぇのか。まだ沢山残ってると思ってたんだがな。まぁ夜にはペスカド村から頂くから、切れても少しの辛抱だ」
ほろ酔いで答えるのは盗賊団のボス、カズオである。
髪が薄くて小太りの、何処にでもいそうなオヤジの姿をしているが、この盗賊団を一人で取りまとめている、やり手であった。
「ありますかね。前の村は酒どころか、ほんと何にもなかったですし」
「なかったら近場で買うしかねえな。まぁ物品はあくまで副収入だ。奴隷さえ多く確保できれば、売っ払った金で酒はいくらでも買える。沢山、捕まえれた奴にはボーナス出してやるから、お前らも頑張れよ」
「お、マジっすか」
盗賊達が沸き上がる。
その後方の木の裏で、マオは驚愕の表情を浮かべていた。
(奴隷って、私達を!? どどどどうしよう……)
山賊や盗賊の類が、この世にいることは、マオも知っていた。
だが、辺境の地にあるペスカド村で、そのような輩が現れることなど、まずなく、至って平和な日々を送っていた為、自分には生涯縁のないことだと思っていた。
(えーっと、えーっと……兎に角、みんなに知らせないといけないよね)
マオは一先ず、村へ戻らなくてはと思い、足を踏み出そうとした。
だが、動揺していたせいか、腕にかけていた山菜の入った籠を落とす。
どさっという鈍い音と共に、山菜がその場に散らばった。
音は大きくなかったが、運悪くカズオの視界に散らばる山菜が映ってしまう。
「あ? 何だ? そこで何かやってるのか?」
マオは身体を硬直させ、息を止めた。
何も返事が返ってこないことを不審に思ったカズオは部下に命令する。
「おい、お前ちょっと見て来い」
「へい」
命令を受けた部下は、ふらついた足取りで、マオが隠れる木の方へと歩き出す。
このまま隠れていては、見つかってしまうことは避けられない。
マオは意を決して走り出す。
木から飛び出したその姿が、盗賊達の目にハッキリと映った。
「!! 誰だあの女は。……まさか村の奴か!? お前ら捕まえろ!」
部下達が一斉に、マオを追うべく走り出した。
――――
マオは必至に山の斜面をかけ下りる。
「ひっ、ひっ……」
転んでしまえば大惨事だが、慎重に下りてるような余裕はない。
すぐ後ろにはマオを捕えようと、大勢の盗賊が追いかけて来ていた。
「おら、止まれや!」
逃げるマオに、盗賊がナイフなどの飛び道具を投げつけた。
斜面を走りながらである為、狙いがつけ辛く、殆どが外れる。
しかし、そのうちの一本がマオの背中に直撃した。
「いつっ」
マオは強い痛みを受けるが、堪えて必死に逃げ続ける。
止まれば捕まってしまう。
捕まってしまったら奴隷にされるだけでなく、この危機を村人達に伝えられなくなる。
絶対に止まる訳にはいかなかった。
だが、マオが下る先の斜面は、ずっとは続いてはいなかった。
地面が途切れていることに気付いたマオは、慌てて止まる。
そこは崖となっていて、下には海が見えていた。
「へへ、やっと止まりやがったな」
足を止めた僅かの間に盗賊達がマオに追いついてしまう。
周りを取り囲まれ、追い詰められる。
「……」
「悪いようにはしねえから、大人しく来いや」
手を差し伸べる盗賊だが、言葉とは裏腹に、ニヤニヤとした厭らしい笑みを浮かべている。
碌なことにならないのは明白であった。
(お母さん、ライル……)
マオは目をギュッと瞑り、崖から飛び降りた。
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