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第三章

63話 仲間

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 モコが死を覚悟して目を瞑った、その時、シーゲルの背中で小爆発が起こった。

「!?」

 小爆発の衝撃で、シーゲルが大勢を崩す。
 その隙を突いて、シンは透かさず立ち上がり、モコを引き離した。

「チィッ」

 シーゲルが振り返ると、そこには杖を向けたアリカが居た。

「私だって、シンのおかげで救われたんだから。死んでも足枷になんかならないわ」

 その身体は震えていたが、覚悟を決めた強い面持ちでシーゲルを睨みつけていた。

 すぐにその前に、モコを抱えたシンがワープで現れ、アリカ達を守るように立ち塞がる。

「神に刃向うとは、なんて愚かな子達なんだ。教育を間違えたか」
「ダーティプレイが過ぎたんだよ。神を務めるなら、神らしく正々堂々と戦っとけ」

 モコとアリカ以外のメンバーにも、シーゲルを見る目に不信感が見えていた。
 いくら絶対的な神として教え込まれていても、実際に会った神が、あまりにも卑劣な手を使っているところを目にしては、失望せざるを得ない。

「それくらいで鞍替えするなら、その程度。だが、人間達よ。神を裏切ってまで、そいつを守る価値が果たしてあるのかな。君達は彼がこの世界に堕とされる前に、どんなことをしてきたのか知らないだろう?」
「! その話は、こいつらには関係ない!」
「関係あるさ。知らずに、悪に加担するのは可哀そうだろう? 責めるなら、過去の自分を責めるんだね」

 止めようとしたシンだが、その言葉を返され、何も言えなくなった。
 シーゲルはメンバー達に向けて、話し始める。

「僕が何故、彼と仲違いしたのか教えよう。それは、この世界を導く方向性が違っていたからだ。
僕はこの世界の人々を大切にし、世界を良い方向へと導こうしていたのに対し、彼は効率を第一に、どんな犠牲も厭わないという方針で、世界の調整をしていた。
例えば、モンスターを操って一都市を壊滅させる、とかね。聞いたことある子もいるんじゃないか? 
今から三百年前。当時、人間種最大の王都だった街をたった一日で壊滅させたという出来事を。
あれは彼が、ただ街の防衛力確認を確認する為だけに引き起こしたものだ。不本意ながら、僕のせいにされているけどね。
防衛力の確認なんて被害を出さずに済ます方法はいくらでもあった。でも、彼はそっちの方が面白いからと、遊び半分で残虐な手段を取ったんだ」

 話を聴かされたメンバー達は、困惑した様子を見せる。

 行ったのは世界となる前のことだが、歴史として刻まれている為、この世界の人達にとっては実際に起こったことである。

 シンは肯定するかのように何も言わない。

「自分が同じ目に遭って、漸く反省したようだけど、それで被害に遭った人々が生き返る訳でもない。さぁ、これで分かっただろ? 君達が命を懸けて守るほどの奴じゃない。彼は、ただの悪逆非道な反逆者だ」
「違います!」

 声を上げたのはモコであった。
 モコはシーゲルに怯えながらも、気を強く持って言葉を続ける。

「確かに、シンさんは酷いことをしたかもしれません。でも、私や街の人達の命を救ってくれました。私達にとっては命の恩人です」
「じゃあ君達が被害者の立場だったら許せるかい?」
「う……」

 即座に切りかえされたモコは言葉を詰まらせる。
 だが、そこでアンジェラが代わりに言葉を返す。

「神様なら、そのくらいのことやるのも仕方ない。天災と同じで運が悪かったと諦めるよ。正直、大昔のことを言われても、いまいちピンと来ねえ。それよりも自分や仲間達を助けてくれたことの方が、あたしらにとってはずっと大きい。それにだ。話を聞くに、前の魔獣災害を引き起こしたのは、貴方ではないのか?」
「彼は神じゃないよ」
「同じさ。世界創造に関わったんなら」
「……」

 シンを神扱いするアンジェラ。
 先程の戦いを見ては、いくら否定されようとも、シンを同じ人間として見ることは出来なかった。

「あれで、あたしは仲間を失った。神様を恨んだりはしないが、どちらか選べと言うなら、あたしはシンの方につく」

 その言葉に、一同が頷く。
 絶対神に不信感を持っていた皆は、双方を天秤に掛け、シンの方を選んだ。

「見当外れだったようだな。お前に味方する奴は、ここにはいない」
「そうみたいだね。利己的な子達ばかりで残念だ」

 思惑が外れたシーゲルだが、悔しがる訳でもなく平然としいている。
 余裕すら見える、その様子が、シンは何処か引っかかった。
 そして、すぐにその理由に気付く。

「やられた!」

 シンは、すぐさまシステムウインドウを開く。

「もう気づいたか。流石は信也君。けど、戦闘対策はもう済んでいる。これでまたイーブンだ」

 シーゲルは神であるので、目に見える行動が全てではない。
 対話をしている裏で、密かにシステムの操作をしていたのだ。


 慌ててシステムウインドを操作しようとするシンに、シーゲルは攻撃を仕掛ける。
 目の前に現れたシーゲルの斬撃を、シンは紙一重で避ける。
 だが、続けざまにシーゲルの背後に魔法陣が現れ、エネルギー砲が発射された。

「くっ」

 シンは両手に二刀の剣を発現させ往なす。
 それだけに留まらず、シーゲルの怒涛の連撃が続く。

 シーゲルは先程の僅かな間に、トレースを復帰させただけでなく、改変して攻めへの適応も出来るように作り替えていた。
 それにより、相手の攻撃を待つことなく、自動で攻撃サポートがされるようになったのだ。

 シンは応戦しながら解除を行おうと試みるが、シーゲルの手数が格段に増えていた為、防戦に徹しても満足に操作することすら出来ない。

 それは他のメンバー達の目から見ても、明らかに苦戦していた。


 モコが声を大きくして訊く。

「シンさん! 何か手伝えることはありませんか!?」

 シンは応戦しながら答える。

「何かっ? いや、こんな状況じゃ、モコちゃん達には何も……そうか! ちょっと待ってろ」

 閃いたように声を上げたシンは、攻撃の対処に追われながらも、僅かな隙を突いてシステムウインドウの操作を行う。

「おかしな真似はさせない!」

 何やら、やろうとしていると勘付いたシーゲルは、それを妨害すべく攻撃の手を強める。
 だが、シンはすぐに操作を終え、システムウインドウを閉じた。

「ふっ、大したことはしていない」

 そしてメンバー達に向けて言う。

「みんなを一時的に茂と戦えるようにした。加勢、頼む」
「! 信也ぁ!」

 シンはメンバー達のパラメーターを二人と同様に、限界値まで上げたのである。
 それにより身体がシンと同質になり、シーゲルとの戦闘に耐えうるようになった為、戦闘への参加が可能になった。
 人手が増えれば、シーゲルの猛攻にも対応することが出来る。


 いきなり加勢を求められて、困惑するメンバー達。
 だが、その中でモコが逸早く覚悟を決めた。

「やります!」

 モコは鎌鼬の式神を召喚し、シーゲルへと向けて放った。

「よ、よし。あたしもやるぞ」

 モコの勇姿を見たアンジェラも、緊張した面持ちながら続けて飛び掛かる。
 アリカとミイ、ミリアも、その後に続いた。

「さぁ、これが最後のパーティ戦だ」

 メンバー達が加勢して、フルパーティでの戦闘が始まった。


 シンがメインでシーゲルの相手をして、他のメンバーが援護を行う形で戦闘が行われる。
 アンジェラ、ミイ、ミリアの前衛組は死角から攻撃を行い、アリカとモコの後衛組は遠距離から狙い撃つ。

 クラスの制限も取っ払った為、皆も全てのスキル魔法が使えるようになってはいたが、メンバー達は自分のクラス以外のスキル魔法の使い方は知らないので、これまで通り戦っていた。
 ただ、モコに限っては、耐久度が無限になったことから、支援の必要性がなくなった為、攻撃役として動いていた。
 攻撃には乏しいクラスであっても、今は攻撃力も最大値であるので、戦力としては全く劣っていない。

 シンとシーゲルは瞬間移動を駆使した目まぐるしい戦いを行っており、その間に入ることは非常に困難であるが、それでもメンバー達は必死で援護を行っている。
 命中率は高くなくても、援護としては十分な成果を出していた。

 手数で圧倒され、シーゲルは苦戦を強いられる。
 いくらトレースによる自動攻撃・自動防衛を備えていても、これだけの人数を相手にしては対応しきれなかった。

 危うい状況だが、メンバー達に耐久度がなくなった為、もう人質を取ることはできない。
 また、これまでの卑劣な手段から、シン達も警戒している為、時間を稼いで、裏でシステムから強化する方法も取れない。

 打つ手はなく、シーゲルは一方的に追い詰められていた。
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