上 下
19 / 72
第一章

19話 救援

しおりを挟む
 シンはルシフェルの攻撃を躱し、躱しきれないものはスキルで往なす。

 現在、シンが身に着けている装備は、とてもじゃないがルシフェルと戦えるものではなかった。
 防御力が全然足りず、一撃で致命傷を負いかねない。

 攻撃手段を完全に把握しているから何とか避けられているが、一度でもミスをしたら終わりだった。
 また、攻撃力も足りていない為、倒せる見込みはなく、怯ませて動きを鈍らせることしかできない。
 青銅ゴーレムの時よりも厳しい戦いであった。

 ルシフェルがモコへ向け口からエネルギー弾を放つ。
 モコは思わず目を瞑るが、透かさずシンが間に入り、往なして明後日の方向へと飛ばした。
 即座に、その口へ指弾を一発二発三発と素早く打ち込んで、ルシフェルを怯ませる。

 その時、横からゴブリンが襲い掛かってきた。
 軽く躱し、避け際に回し蹴りで前方へと蹴り飛ばす。
 ルシフェルは飛んできたゴブリンを爪で切り裂き、咆哮を上げた。

(自分から引き付けると言い出したことだけど、もう後悔しそう……)

 先程までオルトライムが戦っていたので、ルシフェル以外のモンスターはいなかったのだが、時間が経つにつれ、少しずつ他のモンスターが姿を現してきていた。
 状況は悪くなる一方である。

 何か、いい手はないかとシンが考えていると、唐突に声がかかる。

「シン、お前何やってるんだ」

 半ば唖然とした表情のアンジェラが瓦礫から身体を起こしていた。

「おぉ、丁度いい。雑魚散らし、お願いできますか?」

 シンは応戦しながらアンジェラへ向け、回復と補助魔法を施す。

「……マジか。ってか、どんな状況だよ。お前、何であんなのと、やり合える。クレリックじゃなかったのか?」

 アンジェラは疑問をぶつけながらも、緊急性を理解して、すぐにモンスターへと斬りかかった。

「その話は長くなりそうなので終わった後にでも。今、モコちゃんが、あそこで瓦礫に挟まって動けないんで、ガウルさんが助けを呼びに行ってるんです。それまで何とかして時間を稼がないと」

 アンジェラは戦いながらモコの姿を確認する。
 他に姿は見えないが、崩れた時の状況から瓦礫に埋もれて動けないクランメンバーがいると思われた。

「死守しねえとな」


――――


 街の中央広場では、大きな荷物を抱えて走る人々の姿が多く見られた。
 防衛部隊の壊滅と凶悪モンスターの襲来を受けて、住民たちは慌てて逃げ出そうとしていた。

「誰か……誰か手を貸してくれ……!」

 人々が多急ぎで避難する中、ガウルは一人助けを求めて叫んでいた。
 懸命に呼びかけるが、皆逃げることに精一杯で誰も耳を貸そうとしない。
 偶に取り合ってくれる人がいても、ルシフェルのすぐ近くへ行く必要があると聞くと断られてしまう。

 ガウルは救援の人員を集めることが出来ていなかった。

「く……これではモコが……」

 自分の不甲斐なさに肩を震わせる。
 一刻も早く人員を集めて救援に行かなければ、モコとシンは殺されてしまう。
 或いは既に手遅れかもしれない。
 娘の死、シンの死
 絶望的な状況に嫌な考えが頭を過る。
 ガウルは必死でその想像を振り払う。

 その時、後ろから声をかけられる。

「ガウルさん! こんなところで何やっているんですか!? 北の入口に馬車が停まってますから、早く避難してくださいっ」

 声をかけてきたのは避難誘導を行っていたギルドの女性職員だった。
 女性職員の姿を見たガウルはすぐさま頼み込む。

「娘が瓦礫に挟まれて動けないんです。助けてください」
「! モコちゃんが? 場所は何処ですか? 今、動ける人員が殆どいませんが、何とか掛け合って集めてみます」

 職員の協力的な態度にガウルは表情を明るくさせる。

「本当ですか!? 場所は南通りの中間辺りです。今、シンがあのモンスターを引き付けてくれているので、出来るだけ早くお願いします」
「み、南通り、ですか……?」

 場所を聞いた職員は表情を曇らせる。
 二人がいる、この場所からも南通りに居るルシフェルの姿が見えていた。

「あそこへ向かわせるのは、ちょっと……難しいです。ほんとガウルさんには申し訳ないのですが」

 ガウルはギルド職員ならと期待していたが、反応は同じであった。

「そこを何とかっ。このままでは娘が」

 ギルド職員に断られたら後はないと思ったガウルは縋りつく。

「できれば私も助けてあげたいのですが、あのモンスターの近くへ応援を出すことは出来かねます。上も許可を下ろしてくれないと思いますし……。本当にごめんなさい」

 女性職員としても顔見知りの冒険者であるモコを助けたい気持ちはあったが、たった一人を助ける為に、被害が出る恐れが極めて高い場所へ仲間を送り込むことはできなかった。

「お願いしますっ。今この瞬間もシンが命を懸けて戦ってくれているんです。急がないと二人とも死んでしまう」

 ガウルが必死に頼み込むが、引き受けることが出来ない女性職員は表情を困らせるだけだった。

 そこに一人の男性が話しかけてくる。

「シンとはシン・リヴァーウェルのことかね?」
「神官様?」

 二人に声をかけてきたのは神官であった。

「は、はい。そうですが……」

 それを聞いた神官はギルド職員に向けて言う。

「彼のところへ救援を出してあげなさい」
「え、救援ですか……?」

 救援を出すよう言われ、女性職員は困惑する。

「彼は先日、上級クラスにクラスチェンジしたんですよ。一ヶ月ちょっと前まで何のクラスにもついていなかったにも拘らずに」
「一ヶ月で上級クラスに? そんなことが有り得るんですか?」
「有り得ないと思っていました。少なくとも彼以外でそのようなことをした人を私は知りません。どうやって、そこまで早く高みに上ることができたのか、クラスチェンジに来た時に色々訊いたのですがね。何も教えてくれませんでした」

 女性職員に並んで、シンがクラスチェンジしたことが初耳だったガウルも驚いて聞いていた。

「あの青年には何かがあります。こんなところで無意味に死なせていい人間ではありません」
「そ、そう言われましても……」

 神官も救援を出すよう言うが、女性職員は難色を示す。
 神官はこの街で一定の地位を持っているが、彼の頼みでも同僚を死地へ送ることはできなかった。

 そこで神官はルシフェルがいる方を見て、付け加えるようにして言う。

「それに先程から、あのモンスターがあそこから動いていないのは何故でしょうね」
「!」

 その言葉を聞いて、女性職員とガウルはハッとしてルシフェルの方を見る。
 ルシフェルは暴れている様子だが、位置は先程から殆ど変わっていなかった。
 それはシンがルシフェルの足止めをすることが出来ているという何よりの証拠であった。

「この街を放棄すると決めるのは早計でしょう。今なら、まだ間に合うかもしれません」

 ギルドは街を放棄する方向で進めていた。
 だが、そんなことはギルド職員も本意ではない。

「わ、分かりました。早急に応援を集めるよう上に掛け合ってきます。ガウルさん、お手数ですが同行お願いします」
「はい!」

 ギルド職員はガウルを連れ、大急ぎで走り去って行った。

 一人残った神官が呟く。

「これでよろしいでしょうか。シーゲル様」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

おっさんの異世界建国記

なつめ猫
ファンタジー
中年冒険者エイジは、10年間異世界で暮らしていたが、仲間に裏切られ怪我をしてしまい膝の故障により、パーティを追放されてしまう。さらに冒険者ギルドから任された辺境開拓も依頼内容とは違っていたのであった。現地で、何気なく保護した獣人の美少女と幼女から頼られたエイジは、村を作り発展させていく。

社畜の俺の部屋にダンジョンの入り口が現れた!? ダンジョン配信で稼ぐのでブラック企業は辞めさせていただきます

さかいおさむ
ファンタジー
ダンジョンが出現し【冒険者】という職業が出来た日本。 冒険者は探索だけではなく、【配信者】としてダンジョンでの冒険を配信するようになる。 底辺サラリーマンのアキラもダンジョン配信者の大ファンだ。 そんなある日、彼の部屋にダンジョンの入り口が現れた。  部屋にダンジョンの入り口が出来るという奇跡のおかげで、アキラも配信者になる。 ダンジョン配信オタクの美人がプロデューサーになり、アキラのダンジョン配信は人気が出てくる。 『アキラちゃんねる』は配信収益で一攫千金を狙う!

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

外れスキルは、レベル1!~異世界転生したのに、外れスキルでした!

武蔵野純平
ファンタジー
異世界転生したユウトは、十三歳になり成人の儀式を受け神様からスキルを授かった。 しかし、授かったスキルは『レベル1』という聞いたこともないスキルだった。 『ハズレスキルだ!』 同世代の仲間からバカにされるが、ユウトが冒険者として活動を始めると『レベル1』はとんでもないチートスキルだった。ユウトは仲間と一緒にダンジョンを探索し成り上がっていく。 そんなユウトたちに一人の少女た頼み事をする。『お父さんを助けて!』

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~

飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。 彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。 独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。 この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。 ※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

処理中です...