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四章 椿蓮
百二十六話 メグリと継承者
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魂だけ宙に浮いているような、そんな感覚だ。
暗い視界の隅にはオレンジ色の光がぽつぽつと揺らめいている。
───あれ、私は
視界が上下に揺れている。手足の感覚はないが、段々と聴覚と視覚がはっきりしてきた。
───どうしてここに…
「起きた?」
「…ぇ」
前から声がする。メグリはじっとしたまま目線を動かすと、誰かの後頭部が見えた。どうやらその人の背中におぶさっているようだ。
「…よかった。…っあなたが、死んでたら、元も子もないから」
「どういう…」
「傷は痛む?」
「いえ」
「感覚を麻痺させてるからね…、だから分からないと思うけど、あなた、下半身はもう殆どないのよ」
「うそ…」
「もう少ししたらあなたは、…私も、死ぬ」
女性らしき声は、苦しそうに呻くような声でそう言う。彼女は誰なんだろうか。
「あなたは──?」
「私はエルメス。…もう時間が無い」
エルメスは急に立ち止まった。
「前にあるものが、何かは分かる?」
「あれは…」
四角く切り出された岩にはめ込まれているのは、剣だった。長い刀身が松明の光を反射している。
「王の、剣ですか」
エルメスと名乗った女性は頷く。そして一歩進み出た。
「頼みがあるの」
エルメスはメグリを降ろし、しゃがんで向かい合った。背には王の剣がある。
「…それを、継承して」
「私が、ですか…?」
「ええ」
「どうして…」
「王の剣の回復能力…それがあなたにどういう効果を与えるかは、あなたがよく知ってるはず」
「それは、その…」
「お願い。このままじゃ…何も出来ずに死んでいくだけ、なの」「このために、私はあなたをここに…連れてきた」
エルメスの身体は暗がりでも分かるほど傷だらけだった。そして決意をした目をしていた。
「あなたはどうなるんですか」
「勿論、死ぬよ。…でも、あなたは継承しなきゃいけない」「仲間を、守りたいんでしょ? …まだ戦わなければいけないんでしょ?」
「…」
「時間がないの。あなたは、生きる理由があるはずでしょ…?」
エルメスがそう言った時、エルメスの背後の天井が大きな音を立てて崩れた。粉塵に触手の影が映る。
「早くっ!」
「…っ!!」
メグリは腕を上げ、右手で王の剣に触れた。その瞬間下半身は治癒し始め、あっという間に脚が地面に着いた。
腰にフードを巻き付け、地面を踏み込んだ。触手の入ってきた穴を登り、上へ飛び出す。
メグリの後ろ姿を見送りながら、エルメスはかすかに微笑んだ。
「…ごめんなさい。本当は…私達が悪いのに…」
市民を騙し、そして殺してきた。王国軍とは名ばかりの犯罪集団だ。そんなことは分かっていた。
だから最後くらい、民の為に尽くしたかった。
エルメスは台座にもたれかかり、穴から差し込む光を見つめた。
───ミスト様、あなたの……パラダイスでの幸福を、お祈り致します───。
エルメスはそう呟き目を閉じた。
暗い視界の隅にはオレンジ色の光がぽつぽつと揺らめいている。
───あれ、私は
視界が上下に揺れている。手足の感覚はないが、段々と聴覚と視覚がはっきりしてきた。
───どうしてここに…
「起きた?」
「…ぇ」
前から声がする。メグリはじっとしたまま目線を動かすと、誰かの後頭部が見えた。どうやらその人の背中におぶさっているようだ。
「…よかった。…っあなたが、死んでたら、元も子もないから」
「どういう…」
「傷は痛む?」
「いえ」
「感覚を麻痺させてるからね…、だから分からないと思うけど、あなた、下半身はもう殆どないのよ」
「うそ…」
「もう少ししたらあなたは、…私も、死ぬ」
女性らしき声は、苦しそうに呻くような声でそう言う。彼女は誰なんだろうか。
「あなたは──?」
「私はエルメス。…もう時間が無い」
エルメスは急に立ち止まった。
「前にあるものが、何かは分かる?」
「あれは…」
四角く切り出された岩にはめ込まれているのは、剣だった。長い刀身が松明の光を反射している。
「王の、剣ですか」
エルメスと名乗った女性は頷く。そして一歩進み出た。
「頼みがあるの」
エルメスはメグリを降ろし、しゃがんで向かい合った。背には王の剣がある。
「…それを、継承して」
「私が、ですか…?」
「ええ」
「どうして…」
「王の剣の回復能力…それがあなたにどういう効果を与えるかは、あなたがよく知ってるはず」
「それは、その…」
「お願い。このままじゃ…何も出来ずに死んでいくだけ、なの」「このために、私はあなたをここに…連れてきた」
エルメスの身体は暗がりでも分かるほど傷だらけだった。そして決意をした目をしていた。
「あなたはどうなるんですか」
「勿論、死ぬよ。…でも、あなたは継承しなきゃいけない」「仲間を、守りたいんでしょ? …まだ戦わなければいけないんでしょ?」
「…」
「時間がないの。あなたは、生きる理由があるはずでしょ…?」
エルメスがそう言った時、エルメスの背後の天井が大きな音を立てて崩れた。粉塵に触手の影が映る。
「早くっ!」
「…っ!!」
メグリは腕を上げ、右手で王の剣に触れた。その瞬間下半身は治癒し始め、あっという間に脚が地面に着いた。
腰にフードを巻き付け、地面を踏み込んだ。触手の入ってきた穴を登り、上へ飛び出す。
メグリの後ろ姿を見送りながら、エルメスはかすかに微笑んだ。
「…ごめんなさい。本当は…私達が悪いのに…」
市民を騙し、そして殺してきた。王国軍とは名ばかりの犯罪集団だ。そんなことは分かっていた。
だから最後くらい、民の為に尽くしたかった。
エルメスは台座にもたれかかり、穴から差し込む光を見つめた。
───ミスト様、あなたの……パラダイスでの幸福を、お祈り致します───。
エルメスはそう呟き目を閉じた。
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