108 / 145
四章 椿蓮
百四話 ミスト
しおりを挟む
どこか、吹っ切れた気分だ。
言葉にして整理がついた。剣を振る事に突っかかりも何も無い。僕の腕に絡まるものはもう無い。
マルクの短剣を右手に、シリウスを左手に構えた。夕陽が雲に隠れ、眩しさも半減した。反対の空はもう紺色に染まっている。
ツバキは片足で身体を支えている。もう片方はちぎれ、右脇腹には氷の塊が残っている。右腕は関節の先に氷槍が突き刺さりだらりと下がっている。血まみれの顔の中らんらんと輝く瞳は相変わらずこちらを睨む。
「これで最後に…」
風を切る音が聞こえると同時に僕は剣を振り上げた。それに丁度当たり、ツバキの放った剣は弾かれた。
目で見えないなら、音で判断する。風を切る音の方向へ剣を突き出すと、鈍い衝撃と共に弾かれるユリウスが宙に舞う。
そうしながら徐々に距離を詰める。ユリウスの回復能力は低い。完全に回復する前にとどめをさす。
ツバキに近づくにつれ、雲に隠れていた夕陽が出てきた。そしてツバキを追い越した所で、剣を軸に後ろを振り向く。壁に背を向けた。
同時に振り返ったツバキは、強い夕陽の光に目を細めた。
ツバキの突き出した剣をマルクの剣で弾き、シリウスでツバキの喉元を──
「なっ…! あと少しなのに!」
喉元まで数センチ手前で剣は急に宙で動かなくなった。力を入れてもビクともしない。ツバキが手を動かしたので後ろに飛び退くと、飛んできた剣が脚を掠めた。
手元に剣を戻す。
「あいつも魔法使えたのかよ…」
今まで一切魔法を使っていなかったあいつが急に使い始めた。ユリウスの能力は魔力まで生成するのか。
大きく踏み込んで、ツバキの右脇腹から振り上げたが、それもあとすこしの所で固定される。
何度振ろうが突こうが、全て空中で止められる。剣はかすりさえしない。更にツバキの攻撃を避けるのも容易ではない。
片手のはずなのに、大きな損傷でろくに動けないはずなのに。
剣を止められた後、後退する際にバランスを崩して後ろに倒れかけた。そこに上からツバキの剣が振り下ろされる。
「やられるか…っ」
手を伸ばし、ツバキの手首を掴んだ。片手しかない状態でその手を捕まれ、ツバキの攻撃が止んだ。
一瞬、静寂が訪れる。
言葉にして整理がついた。剣を振る事に突っかかりも何も無い。僕の腕に絡まるものはもう無い。
マルクの短剣を右手に、シリウスを左手に構えた。夕陽が雲に隠れ、眩しさも半減した。反対の空はもう紺色に染まっている。
ツバキは片足で身体を支えている。もう片方はちぎれ、右脇腹には氷の塊が残っている。右腕は関節の先に氷槍が突き刺さりだらりと下がっている。血まみれの顔の中らんらんと輝く瞳は相変わらずこちらを睨む。
「これで最後に…」
風を切る音が聞こえると同時に僕は剣を振り上げた。それに丁度当たり、ツバキの放った剣は弾かれた。
目で見えないなら、音で判断する。風を切る音の方向へ剣を突き出すと、鈍い衝撃と共に弾かれるユリウスが宙に舞う。
そうしながら徐々に距離を詰める。ユリウスの回復能力は低い。完全に回復する前にとどめをさす。
ツバキに近づくにつれ、雲に隠れていた夕陽が出てきた。そしてツバキを追い越した所で、剣を軸に後ろを振り向く。壁に背を向けた。
同時に振り返ったツバキは、強い夕陽の光に目を細めた。
ツバキの突き出した剣をマルクの剣で弾き、シリウスでツバキの喉元を──
「なっ…! あと少しなのに!」
喉元まで数センチ手前で剣は急に宙で動かなくなった。力を入れてもビクともしない。ツバキが手を動かしたので後ろに飛び退くと、飛んできた剣が脚を掠めた。
手元に剣を戻す。
「あいつも魔法使えたのかよ…」
今まで一切魔法を使っていなかったあいつが急に使い始めた。ユリウスの能力は魔力まで生成するのか。
大きく踏み込んで、ツバキの右脇腹から振り上げたが、それもあとすこしの所で固定される。
何度振ろうが突こうが、全て空中で止められる。剣はかすりさえしない。更にツバキの攻撃を避けるのも容易ではない。
片手のはずなのに、大きな損傷でろくに動けないはずなのに。
剣を止められた後、後退する際にバランスを崩して後ろに倒れかけた。そこに上からツバキの剣が振り下ろされる。
「やられるか…っ」
手を伸ばし、ツバキの手首を掴んだ。片手しかない状態でその手を捕まれ、ツバキの攻撃が止んだ。
一瞬、静寂が訪れる。
0
お気に入りに追加
202
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
とある元令嬢の選択
こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。
女を肉便器にするのに飽きた男、若返って生意気な女達を落とす悦びを求める【R18】
m t
ファンタジー
どんなに良い女でも肉便器にするとオナホと変わらない。
その真実に気付いた俺は若返って、生意気な女達を食い散らす事にする
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる