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四章 椿蓮
百話 ミスト
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「もう、歩けますよね?」
いつもと同じ笑顔でメグリさんは私に声を掛けた。炎の渦は勢いが衰えている。内側の王は動かない。
「皆さんが来てます。1度退きましょう」
すっかり回復し立ち上がると、遠くに見覚えのある者達が見えた。こちらに向かっている。
「よかった…台座は見つかったのね」
と、そちらを向いた途端後ろにひやりとした冷気を感じた。咄嗟に振り向く──
そこで、王の位置に先程以上の氷塊が見えた。
「メグリさんっ!」
突如目の前に真っ青な炎の壁が現れ、冷気の代わりに風圧を伴う熱波が顔面に叩きつけられた。
身体が後方へ飛ぶ。
「あああっ!!」
メグリさんの悲鳴が同時に聞こえる。強い魔法はその分使用者への被害も大きい。ましてやメグリさんなら…!
「無理しないで!」
さっきの赤い炎であれだけのダメージを負ったのだ。その何倍もあるこの魔法は、使用者のメグリさんには危険すぎる。
それでもメグリさんはやめようとしない。止めることができないのか。
熱波に耐えながら、メグリさんの方へ手を伸ばす。私の魔力はもうほとんど無い上に、不安で上手く制御できない。
「早く…!!」
でも、手を伸ばす。命の恩人に。私の友達に。
指先がメグリさんの足に触れた。そこに残った魔力を全て捧げる。ゴトーの時と同じ、私の使える最大級の防御魔法で。
甲高い音が鼓膜を破るかという勢いで鳴り、防御魔法で守られてはいるものの熱が肌を焼く。メグリさんの左手から放たれている青の炎の威力は衰えず、やがて巨大な氷を圧倒し、王までも飲み込んだ。
「メグリさんっ!!」
メグリは炎が消えるとフラッと倒れかけたが、右足で踏ん張った。左手はさっきよりも酷く焼けており、肩まで痛々しい傷が広がっている。
メグリは顔を歪ませ、右手で血だらけの目を覆った。
「すぐに処置を…! ごめんなさい…」
瓦礫の影にいた魔王軍とイシマが駆け寄ってくる。私はメグリさんの前に座り込み、口の中で小さくもう一度「ごめんなさい」と言った。
「ツバキさんは…?」
焼けた口元を微かに動かしてメグリさんが言う。回復するのには多量の時間を用する。
「ツバキも来てたの?」
「うん…、私と」
更に聞こうとしたが、メグリさんの傷だらけの口元を見て思い留まる。
あとはミストの剣を回収するだけだ。
「もうすぐ…終わる」
風邪の流れに沿って顔を広間に向け、そう呟いた。
向こうで、城壁がドミノ倒しの如く崩壊するのが見えた。
いつもと同じ笑顔でメグリさんは私に声を掛けた。炎の渦は勢いが衰えている。内側の王は動かない。
「皆さんが来てます。1度退きましょう」
すっかり回復し立ち上がると、遠くに見覚えのある者達が見えた。こちらに向かっている。
「よかった…台座は見つかったのね」
と、そちらを向いた途端後ろにひやりとした冷気を感じた。咄嗟に振り向く──
そこで、王の位置に先程以上の氷塊が見えた。
「メグリさんっ!」
突如目の前に真っ青な炎の壁が現れ、冷気の代わりに風圧を伴う熱波が顔面に叩きつけられた。
身体が後方へ飛ぶ。
「あああっ!!」
メグリさんの悲鳴が同時に聞こえる。強い魔法はその分使用者への被害も大きい。ましてやメグリさんなら…!
「無理しないで!」
さっきの赤い炎であれだけのダメージを負ったのだ。その何倍もあるこの魔法は、使用者のメグリさんには危険すぎる。
それでもメグリさんはやめようとしない。止めることができないのか。
熱波に耐えながら、メグリさんの方へ手を伸ばす。私の魔力はもうほとんど無い上に、不安で上手く制御できない。
「早く…!!」
でも、手を伸ばす。命の恩人に。私の友達に。
指先がメグリさんの足に触れた。そこに残った魔力を全て捧げる。ゴトーの時と同じ、私の使える最大級の防御魔法で。
甲高い音が鼓膜を破るかという勢いで鳴り、防御魔法で守られてはいるものの熱が肌を焼く。メグリさんの左手から放たれている青の炎の威力は衰えず、やがて巨大な氷を圧倒し、王までも飲み込んだ。
「メグリさんっ!!」
メグリは炎が消えるとフラッと倒れかけたが、右足で踏ん張った。左手はさっきよりも酷く焼けており、肩まで痛々しい傷が広がっている。
メグリは顔を歪ませ、右手で血だらけの目を覆った。
「すぐに処置を…! ごめんなさい…」
瓦礫の影にいた魔王軍とイシマが駆け寄ってくる。私はメグリさんの前に座り込み、口の中で小さくもう一度「ごめんなさい」と言った。
「ツバキさんは…?」
焼けた口元を微かに動かしてメグリさんが言う。回復するのには多量の時間を用する。
「ツバキも来てたの?」
「うん…、私と」
更に聞こうとしたが、メグリさんの傷だらけの口元を見て思い留まる。
あとはミストの剣を回収するだけだ。
「もうすぐ…終わる」
風邪の流れに沿って顔を広間に向け、そう呟いた。
向こうで、城壁がドミノ倒しの如く崩壊するのが見えた。
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