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三章 メグリ

六十九話 メグリ

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「終わったのか」

「ええ、結構回復早かったわよ」

ツバキは台所に立ち、クルトと共に夕飯の支度をしていた。

「あいつ固めのもの食えるかな?」

「え? どうかしら…問題は無さそうだけど」

「一応控えとくか」

右手に持っていた四角の肉を下に下ろす。

「じゃあ行くか」

「ええ」

報告書を書きに、古城に行った者達が講堂に集まる予定だった。
いつも大量に人の集まる講堂には数十人程度しかいなく、ペンが机に当たる音が広い空間に響いていた。

「ーーーーという事で、発生した鉱石の柱によって当分はなんとかなりそうです」

一通りの報告をし終えると皆から安堵のため息が出た。メグリも緊張が解かれた様に椅子に背を預けた。

「人間側にも売るとしたら、大変そうだけど頑張って貰わないとね」

そう言って正面に座る、黒の髪を後ろで結んだ女の子に声をかける。
人間世界での取引など、魔物が直接関われない仕事を請け負う役職の人で、急遽この報告会に呼ばれたのだった。

彼女、メグリと同じくらいの年に見えるが…こんな重要なポストに付いてるんだな。あいつとは大違いだ。

「もちろんです。最近はあまりお仕事出来てなかったので…頑張ります!」

「うん。ありがとう」
「それと古城の調査は進んでる? あそこ隠し部屋もいくつかありそうだけど」

「ええその事ですが…、仰る通り、現在見つかってるだけでも4部屋です。一つ目は魔王様達が入られた資料庫、そして残りの3つのうち2つは同様の資料庫、もう1つは武器庫でした」

「武器庫…、使えそう?」

「錆の激しいものもありまして、いざ使うとなると点検が必要かと」

「そっか…、引き続き頼むわね」

「了解致しました」

調査隊のリーダーである丸眼鏡をかけた男が言った。服についた泥から忙しさが伺える。

「じゃあこれで報告会は終わり。それぞれ一段落したら一週間程度休暇取ってね。一段落してなくても大変だったら遠慮なく、ね」

各自が資料をまとめて席を立ち、それ似合わせてツバキも椅子を引いた。
俺何もしてないけど休んでいいのかな…?

基本は調査隊の護衛など、敵対する者が現れそうな任務に付いていく仕事をしていたが、財政難からか最近はしていなかった。


「ちょっといいかな?」

考えながら席を立つと、後ろから声を掛けられた。振り返ると、さっきの黒髪の女の子だった。

「何?」

「鉱石の柱を作った方について少し話を伺いたいのだけど、大丈夫?」

「それって秘密事項じゃ?」

「ここに集まった一部の人には知らされてるんだよ。一人の女の子が作ったって。それで、みんなで行くのもなんだからって、私が代表で」

「俺は構わないけど、会うかどうかは彼女次第だぞ」

「ありがと。私はユメ。よろしくね」

2人でメグリ達のいる家へ向かう。
彼女によると、鉱石の純度や密度は魔力がどの程度使われたかで変わるらしく、メグリの現在の身体の麻痺度でそれがあらかた分かるらしい。

「まあ、でも単にあんな物を作る魔術師さんを見てみたいってのもあるんだよね」

「期待に添えるといいがな」

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